第9話 燃える亜空間

前回のあらすじ
侍の名誉を賭けた決闘に、コスモはただ、無闇にナイフを振り回すだけだった。
しかし敵を目の前にして、コスモは歯向かっていく以外に成す術がなかった。
……が、その決闘もダミドの行動によって中断された。
カーシャ
「あの時、何故あの異星人を踏み潰さなかったの? 彼は異星人の中でも、それなりの位の人だったんでしょ?」
ベス
「相手が侍なら、侍の戦い方がある」
コスモ
「あいつは俺が倒すんだ。イデオンでなんか踏み潰させるもんか」
カーシャ
「下らない男のヒロイズムね。戦いは生きるか死ぬかでしょ」
「侍魂だか何だかしらないけど、そんなもの溝川に捨てて欲しいわね」
シェリル
「カーシャに賛成ね。私達は敵に情けを掛けるほど余裕はないわ」
ベス
「そりゃそうだが、俺達も助けてもらってるんだ」
ジョリバ
「となれば、ベスやコスモの気持ちは分かるな」
シェリル
「それじゃ敵から逃げられないわ」
コスモ
「逃がしてやるよ。敵を倒しゃいいんだろ」
ベス
「そんな気持ちだけで倒せる相手じゃない」
コスモ
「ベスさん……」
「蝶々だ」
「子供だと思って馬鹿にしてさ。くそっ!」
ベス
「おぉ……」
ジョリバ
「凄いな」
コスモ
「すぐ飛ぶよ」
シェリル
「凄いわね。でも、科学戦で何の役に立つかしらね」
コスモ
「決闘の事を知らないからそんな事を言うんだ。相手は侍なんだぞ」
ベス
「敵がカララを助ける事に拘っている。だから我々は、皆殺しにされないで済んでるんだぞ」
シェリル
「カララ? 『カララさん』じゃないの、ベス?」
コスモ
「いいじゃないの。カララは人畜無害なんだろ?」
ギジェ
「ん、ダミドだな? 入れよ」
ダミド
「屈辱こそ最高の薬と云う」
「酒も飲まんのか? 気にする事はない、ハルル様には俺が証明してやるよ」
「『ハルル様が四つに組んで丁度よい相手です』とな。さすれば、その異星人と戦った貴様の株も上がる」
ギジェ
「貴様……俺を笑いにきたのか?」
ダミド
「友人の俺が貴様を笑えるか。追い立ててやりたいのだ。ドバ総司令に認められた男を誰が粗末にするか」
バッフ・クラン兵
「ギジェ様、ダミド様。アバデデ様から伝言であります」
ギジェ
「ん?」
バッフ・クラン兵
「作戦会議を、ガタマン・ザンで行うとの事です」
ギジェ
「了解した」
「……私には同情はいらん!」
アバデデ
「そうだ。亜空間戦闘に持ち込んで、ガタマン・ザンとギラン・ドウで叩く」
「その為にグラム・ザンを囮として、これを沈める事もやむを得ないと思っている」
ダミド
「現在、ギジェが艦長の船です。その責任は……」
アバデデ
「私が取る」
ダミド
「せっかくハルル様がいらっしゃるというのに、そこまで……」
アバデデ
「分からん奴だな。ハルル様がいらっしゃるまで待ってみろ、我々は馬鹿者呼ばわりされるぞ?」
ギジェ
「やりましょう、アバデデ様」
ファード
「恐竜だ」
デク
「え?」
アーシュラ
「恐竜!」
リン
「ルゥ、貴方も見たいの?」
アーシュラ
「悪い恐竜だよ、あれ」
デク
「卵を食べた奴かどうか分からないよ」
リン
「本当に恐竜だわ」
「ロッタ、本物の恐竜が居るわ」
アーシュラ
「悪い奴なんだよ!」
デク
「何で暴れてんだろ?」
「あっ……あっちの方にも恐竜が!」
リン
「何匹も居るみたいね」
コスモ
「様子が変だと思わないかい、テクノさん?」
テクノ
「あぁ」
シェリル
「何が起こるのかしら?」
ベス
「かなり集まっているな」
カーシャ
「あっ……」
ベス
「全てのレーダー、注意。異常があったら報せろ!」
「ジョリバ、エンジン・チェックはどうだ?」
ジョリバ
「1、2分で始動出来る!」
ベス
「よし、M84方面へ座標を取れ。ここを脱出したら……」
ハタリ
「警報! 敵接近!」
ベス
「間違いないのか?」
ハタリ
「えぇ。いやに大きいけど、これは恐竜なんかじゃありません。敵です」
ベス
「対空戦闘用意!」
コスモ
「ンッ……お話し合いなんてやってるから、いつもバタバタで出撃だ」
「あぁ、忙しい」
「各砲座、配置報せろ!」
ギジェ
「各機、誘い込み作戦である! 無理をせずに、異星人を亜空間に引き摺り込めばよい!」
バッフ・クラン兵
「ハッチ開け!」
ギジェ
「各機発進!」
ハタリ
「機数が増えました!」
ベス
「何だと? どの位だ?」
ハタリ
「攪乱電波でよく分かりません」
ベス
「ええぃ、イデオンを発進させろ!」
コスモ
「敵の数が増えたってさ」
モエラ
「しょうがないんじゃない」
コスモ
「ベスはもう乗らないのか?」
モエラ
「俺の方がマシさ」
コスモ
「行くぞ!」
モエラ
「ノーマル・エンジン、圧力良好! 行けるぞ、コスモ!」
コスモ
「ちょ、ちょっと待ってくれ。バランスが……!」
モエラ
「メイン・コントロールは貴様の仕事だろう。ビビるな!」
コスモ
「了解、行くぞ!」
カーシャ
「コスモ、しっかりして!」
コスモ
「うわっ! パ、パワーが……!」
モエラ
「コスモッ!」
カーシャ
「馬鹿ッ!」
テクノ
「コスモ、イデオンには人が乗ってんだぞ! 殺す気か!」
コスモ
「モエラがパワーを上げすぎたんだ! 知るか!」
「これで文句あるか!」
「けど、今までこんな目に遭った事はないってのに……」
「イデオンのゲージは点かないのに、ノーマル・エンジンは動いてる……」
「ええい、一体このイデオンのエネルギー系はどうなってるんだ? 使えるからいいってもんだけどさ」
カーシャ
「2時の方向、敵機発見!」
コスモ
「了解! 各砲座、対空戦用意!」
ハタリ
「ミサイルが80%しかない? 何故ちゃんと積み込まなかったんだ?」
ソロ星の軍人
「カーシャって奴に任せる訳にいかんでしょ! コントロールの配線替えをやってたんすよ!」
ハタリ
「彼女だって少しは上手くなってる。補給だけやってりゃいいんだ!」
コスモ
「カーシャ、任せる。針路は2時の方位を取る」
カーシャ
「了解!」
「左舷ミサイル・ポッド、左の編隊に攻撃を!」
「コスモ、モエラ。3機に分かれて戦った方が……!」
モエラ
「そんな暇はなさそうだぜ。巨大な奴がもう1機居る!」
カーシャ
「えっ!」
コスモ
「母船だ!」
ハタリ
「3機程がソロ・シップの方角へ侵入した!」
コスモ
「おう!」
カーシャ
「機体を左に寄せて!」
コスモ
「ようし!」
「カーシャ、左にミサイルを集中しろ!」
「うっ?」
「ええい、みんな好きな事を言うから……!」
「連中め、ソロ・シップを狙ってんのか?」
ギジェ
「敵の動きは?」
バッフ・クラン兵
「まだ目立ってはいません」
ギジェ
「直撃は避ける。亜空間に誘き出せばよい」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
ギジェ
「カララ様、これが最後かと……もう一度、お目に掛かりたかった……」
カララ
「グラム・ザンが?」
ジョリバ
「ノーマル・エンジン、出動よし!」
ベス
「上昇後、急速脱出する!」
ハタリ
「了解!」
ベス
「イデオンを呼び戻せ!」
ギジェ
「各機、追い立てろ! 何としてでも亜空間へ追い込むのだ!」
子供たち
「うわぁぁっ!」
リン
「ルゥ、バイパー・ルゥ! 危ないわよ!」
「ルゥ!」
ルゥ
「あ〜ん!」
ソロ星の軍人
「こいつ、こいつ!」
「うぉっ!」
ギジェ
「ようし、いいぞ! 前に出て彼等を誘き出せ! グラム・ザンの調子が悪いように見せ掛けろ!」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
 〃
「60度回頭!」
 〃
「頭部対空ミサイル、集中攻撃を掛けろ!」
コスモ
「しめた、敵の宇宙船がよろけたぞ! 追撃する!」
「カーシャ、モエラ! 急上昇を掛ける!」
モエラ
「了解!」
カーシャ
「左10度!」
ベス
「敵が脱出するぞ!」
ハタリ
「追撃して、これを殲滅します!」
シェリル
「ベス」
ベス
「ん?」
シェリル
「今度は、変な侍精神は捨てて欲しいわね。あの敵を倒すチャンスと見たわ」
ベス
「分かってる」
「イデオンにも追撃をさせろ!」
バッフ・クラン兵
「デッカ・バウ収容後、第一戦速!」
ギジェ
「ポイント・ブスエピタで亜空間飛行に移る! 本船とドッキング・スタンバイ!」
「カララ様、これで……」
カララ
「逃げているグラム・ザンを追い掛けているのですか? ベス」
ベス
「カララ!」
シェリル
「何故、その女を出したのか?」
ソロ星の軍人
「敵の指揮官の戦い方を知っているからって、この人……。アドバイスがあるんですって」
カララ
「ギジェという男を見縊ってはいけません。何か考えています。深入りしすぎは危険です」
ベス
「しかし、あれは母船だろ?」
カララ
「そうです」
シェリル
「なら、あれを叩けば私達は助かる筈でしょ?」
カララ
「今すぐ叩く事が出来るのならね。でも、出来まして?」
ベス
「ハタリ!」
ハタリ
「ジョリバが苦戦しています。レーザー収束機が固定出来ないって……」
ベス
「イデオン、聞こえるか? 敵の足を止めろ!」
コスモ
「了解、了解! 気楽に言ってくれちゃってさ!」
ベス
「個人的な感想は聞いていない!」
コスモ
「カーシャ、真ん中の光が敵の船だ。狙えるか?」
カーシャ
「狙いは付けられるけど、もっと近付けなくて?」
コスモ
「パワーがおかしい。モエラ、どうなってんだ?」
カーシャ
「来たっ!」
コスモ
「うっ……!」
ハタリ
「ええい!」
コスモ
「避けきれんのか?」
「モエラ、ノーマル・エンジンの圧力上がんないぞ! これじゃ、追い付けるもんも追い付けなくなっちまう!」
「そら見ろ! 電磁気の共振でレーダーなんか全く役に立たないんだ! どうしてくれるんだよ、全く……!」
カーシャ
「コスモもコスモよ! もっと狙い易い位置に立ってくれれば、何とかなったわ!」
コスモ
「冗談じゃないよ! 戦闘機ってのは、まずパワーなんだ!」
カララ
「あぁっ、アバデデが来ているんだわ」
ベス
「アバデデ?」
カララ
「亜空間戦闘が得意な侍です。ギジェが援軍として頼んでいました。ソロ・シップを亜空間に誘い込むつもりなのでしょう」
シェリル
「どうなの、ベス?」
ベス
「亜空間センサー、どうだ?」
ソロ星の軍人
「亜空間チェックOKですが、妨害が入っています。よく分かりません」
ベス
「ノーマル・エンジンのパワーがこれ以上、上がらないとなると……」
「デス・ドライブを掛けて敵を撒くか?」
ハタリ
「いいでしょう」
ベス
「どうなんです? バッフ・クランの亜空間センサーは……」
カララ
「細かい事は知りませんが、とにかく自由に追い掛けられる筈です」
ベス
「かなりの力だな」
シェリル
「ベス、いい加減にしてちょうだい! 異星人の女の言う事を信じすぎるわ!」
カララ
「私は嘘は言っていないつもりです」
シェリル
「一番の大嘘は、『私は今まで一度も嘘を言ったこと事がありません』と言うのよ」
「それに、貴方は私達の判断を誤らせるような事を言っているのかもしれないでしょ」
カララ
「姑息な事を……」
シェリル
「えぇ、私は小さい女です。ベス、デス・ドライブを掛けて脱出しましょう」
ベス
「……イデオン回収。デス・ドライブを掛ける!」
アバデデ
「メイン・エンジン、スタンバイ!」
ギジェ
「亜空間飛行を掛けろ!」
アバデデ
「異星人の追撃に移る。亜空間飛行!」
ソロ星の軍人
「コスモ、コックピットを離れていいのか?」
コスモ
「まさか。すぐ追い掛けてもこないだろう。パワーが上がんないんだ」
「モエラ! プロなんだろ?」
モエラ
「カービアンと違うんだよ。お前の方がこっちに詳しいんだろ? 俺に操縦をやらせろ!」
コスモ
「基礎学力はあんたの方が上なんだ。子供を当てにすんじゃないよ」
モエラ
「馬鹿野郎、俺はパイロットでも補欠だったんだ!」
コスモ
「自慢になるかね?」
ソロ星の軍人
「くそっ、こいつ……入れ!」
コスモ
「モエラが怒ってるよ!」
ソロ星の軍人
「ターボ・チャージのコントロール・コアが嵌んないんだ! もう少し待ってくれ!」
コスモ
「戦争中なんだよ?」
ソロ星の軍人
「分かってるよ!」
コスモ
「テクノさん、そっちのパワー上がってますか?」
テクノ
「メイン・エンジンの方じゃないのかな。60%のパワーしか出ない」
コスモ
「えぇ、今やってもらってます」
「まさか……」
「まさか、バッフ・クランなのか?」
「テクノさん、デス・ファイトを掛けます!」
テクノ
「本当かよ?」
「おい……!」
ソロ星の軍人
「グラム・ザン、亜空間に入りました」
アバデデ
「よし、ダミドのギラン・ドウを発進させる」
「作戦はアス・デル・トップの三段攻撃で叩く。アス!」
ダミド
「第一波で決まるぞ。ブリッジだけを狙う!」
「見えた!」
ハタリ
「後ろだ!」
ベス
「何? 前じゃないのか?」
シェリル
「イデオン、後方の防御に!」
カーシャ
「え、何?」
「あっ!」
コスモ
「当たったのか?」
「カーシャ、何をやってんだ!」
カーシャ
「敵が早いのよ!」
コスモ
「当たり前だろ! 相手だって遊んでるんじゃないんだ!」
アバデデ
「デル!」
シェリル
「何故、イデオンは発進出来ないの?」
ベス
「こう立て続けじゃ、バリアの外には出られんだろ!」
シェリル
「それを出るのが戦闘パイロットの仕事でしょ!」
ベス
「ハタリ、デス・ドライブ・ブレーキだ!」
ハタリ
「そうは上手く行きませんよ! エンジンが冷えてくれない!」
カララ
「アバデデの作戦だけではない。父のドバか姉のハルルの命令が出ている」
「異星人を滅ぼしイデの何たるかを知る為には、私なぞ殺してもよいという命令が出ている」
「でなければ、こうは攻撃はしない……」
「あっ……!」
「アバデデの船です!」
ベス
「デス・ファイトの得意な男だな?」
コスモ
「行くぞ! カーシャ、モエラ!」
カーシャ、モエラ
「了解!」
アバデデ
「トップ!」
コスモ
「うぅっ……!」
モエラ
「はっ……」
カーシャ
「あぁっ……」
ギジェ
「カララ様、おさらば!」
カララ
「ギジェなのか?」
コスモ
「させるか!」
ギジェ
「カララ……」
コスモ
「モエラ、エンジンが焼き切れてもいい! パワーを上げろ!」
ベス
「ぶつかるぞ!」
コスモ
「ぶつけるぞ!」
「やった……!」
カララ
「あぁっ……」
「グ、グラム・ザンが……」
ベス
「ん? デス・ドライブが……デス・ドライブが解けていく!」
「コスモ、大丈夫か?」
コスモ
「だ、大丈夫だ!」
シェリル
「どこへでも落ちればいいのよ! みんな、あの女のせいなんだわ!」
ベス
「全天宇宙図と照合して、現在地を調べろ!」
「ご苦労、コスモ! よくやってくれた!」
コスモ
「いや」
「どこなんです? デス・アウトした所……」
ベス
「分からん」
シェリル
「気楽に言ってくれるわね。一体どうするつもり?」
コスモ
「さあね。どうするつもりなんでしょうね」
「人に当り散らす暇があったら、自分のやれる事を考えたらどうなんです? シェリルさんだって大人なんでしょ」
ナレーション
見知らぬ宇宙を漂うソロ・シップの中で、仲間同士の諍いが続く。
彼らは、明日という日の事を考えないのだろうか。