第10話 奇襲・バジン作戦

前回のあらすじ
亜空間を逃げるコスモ達のソロ・シップに、異星人バッフ・クランの攻撃は続いた。
彼等は戦艦を体当たりさせても、ソロ・シップを沈める覚悟であったのだ。
しかし、イデオンのパワーはそれをかわした。そしてソロ・シップは再び、見知らぬ宇宙空間へ飛び出していた。
ソロ星の軍人
「比重1.2、質量0.97、表面温度23度」
ベス
「大気はどうなんだ?」
ソロ星の軍人
「窒素98%、アルゴン0.7%、他に数種類の不活性体が殆どです」
ベス
「変わっているな。ソロ・シップの修理には使えそうだ。着陸スタンバイ」
ソロ星の軍人
「着陸スタンバイ」
ハタリ
「高度3万」
ベス
「植物の形をしている」
ジョリバ
「巨大植物か?」
ベス
「表面の構成物質は、珪素を主体とする混合物のようだな」
ハタリ
「高度0、着地しました」
「うおっ!」
ロッタ
「あっ……!」
カララ、カーシャ
「キャッ!」
デク
「な、何とか……!」
アーシュラ
「滑るな! デク……あっ!」
デク
「うわっ!」
ルゥ
「あ〜ん!」
ハタリ
「……着陸した」
ベス
「大気を確認しろ」
シェリル
「イデオンのゲージがまた点いて……」
ベス
「どういう事なのかな? こちらが手を下す前にジェットが働いた」
シェリル
「分からないの?」
ベス
「あぁ」
ハタリ
「飛行物体、接近! 速度700キロ! 戦闘機クラスの物体、3機!」
カララ
「バジン……!」
カーシャ
「知っているの?」
カララ
「思い出しました」
ベス
「え?」
シェリル
「こんな星まで、貴方達バッフ・クランの勢力圏なの?」
カララ
「違います。二年前、アバデデが初めて探検に来た星です。報告を聞いた覚えがあります」
ベス
「アバデデ……さっきまで我々を追っていたバッフ・クランの?」
カララ
「はい」
ベス
「まさか、罠に嵌められたのではないだろうな」
アバデデ
「ロゴ・ダウの異星人を撃ち漏らしたものの、生体発信機を取り付けてくれた事には感謝するぞ」
ギジェ
「はぁ。撃ち漏らした私に、勿体無いお言葉です」
アバデデ
「二年前だったな。私がこのガイラ聖域調査に加わっていたのは」
ギジェ
「あぁ……」
バッフ・クラン兵
「ハルル様から通信です」
アバデデ
「よし、メイン・スクリーンに繋げ」
側近の女
「アバデデ・グリマデ、ハルル様と言葉を交わす事を許す」
ハルル
「堅苦しい事は抜きだ」
側近の女
「はっ!」
ハルル
「アバデデ、久しぶりだな」
アバデデ
「ハルル様にありましては、お健やかで」
ハルル
「健やかである訳がない」
アバデデ
「しかし、カララ様が敵に囚われの身となっておりますれば、手段も限られて……」
ハルル
「グラム・ザンまで撃たれながら言える言葉か?」
「聞けば、妹の行動は身勝手故のもの。バッフ・クランの為ならば妹の犠牲も厭わぬ」
アバデデ
「は、はい」
ハルル
「異星人と戦闘を始めたのならば、徹底的に叩いて、我らの存在を知らしめるようにせねばならぬのだ」
「ドバ総司令も申しておられる。『我が子の犠牲も厭わぬ』と」
ギジェ
「アバデデ様の仰る通りだったか……」
ハルル
「ギジェ」
ギジェ
「はっ!」
ハルル
「宜しいな? ……宜しいな?」
ギジェ
「分かりました、ハルル様」
ハルル
「全く腑抜け共が揃いおって。合流次第、私のやり方を見せてやる」
アバデデ
「ハルル様が……?」
「……年増のじゃじゃ馬など、可愛くもない」
「ま、だからこそ『男であったならば』とドバ様に言わしめるのだが、かなり苛立っておられるな」
ダミド
「ハルル様のご到着を待って攻撃を?」
アバデデ
「それでは私の男が立たん」
ギジェ
「もう一度仕掛ける……?」
アバデデ
「グラム・ザンを沈められた責任は私にある。ドグ・マックで一人で出る」
ギジェ
「それは無謀過ぎます」
アバデデ
「お前は、ガイラ星域調査隊の壊滅の原因を知るまい」
ギジェ
「異星人との交戦と聞いておりますが」
アバデデ
「フフッ……異星人? 違うな。バジンの為だ」
ギジェ
「バジン?」
ベント
「コスモ。シェリルのメモだ」
コスモ
「『第六文明人のメカは、スイッチA1、B1、B2、C1……』Aパート、準備よし!」
カーシャ
「こっちもいいわ」
コスモ
「同一タイミングでレバーを引く。いいな?」
コスモ、ベス
「3・2・1……オン!」
コスモ
「くそっ! ただの飾りかよ!」
デク
「どう? 水の出かた」
ロッタ
「ありがとう。よく出るようになったわ」
デク
「こんなオンボロのバス・ユニットしかなかったのかな」
「ん? ……うっ!」
ロッタ
「リン! ルゥが上がるわよ」
リン
「はぁい!」
「デク、ご苦労さん」
デク
「なぁに……」
ロッタ
「はい、いいお風呂だったわね。アーシュラも入れちゃうわ、呼んで」
リン
「えぇ」
ロッタ
「デク、あんたも一緒に入りなさい。頭洗ったげる」
デク
「一人で洗えるよ!」
ハタリ
「第六文明人の言葉が分かりゃいいんです。そうすれば、ソロ・シップを完璧に動かせる筈なんですから」
シェリル
「えぇ、こちらだって出来る事はしているわ」
ハタリ
「頼みます」
シェリル
「どう、そっちは?」
ジョリバ
「文脈は掴めるようだが、専門用語ばかりで」
シェリル
「……何の御用?」
カララ
「捜しました。誰も教えてくれないので」
シェリル
「何か?」
カララ
「クズラウ式の翻訳機です。私達の世界で使われる150以上の言葉を解読する性能があります」
シェリル
「そんな物……」
ジョリバ
「いえシェリルさん、我々と方法が違うとすれば手掛りとなる筈だ。借りましょう」
シェリル
「そ、そうね。置いていってちょうだい」
カララ
「どうぞ」
ジョリバ
「カララさんは、翻訳機がなくていいんですか?」
カララ
「言葉は大体覚えました。不自由はしません」
ルローラ
「もういいでしょう?」
「ね、ネジピコの赤ちゃんのお土産忘れないでね。持ってないの私ぐらいなんだから。約束よ」
ロココ
「貴方が甘えさせているから、お別れの挨拶が出来ないのよ」
「男の子が産まれるという事が分かったんです。予定通りお帰りくださるんでしょうね?」
「貴方、ネジピコは買ってもいいと思っています。ご武運をお祈り致しております」
アバデデ
「……そうか、少し太ったんだな」
バッフ・クラン兵
「ドグ・マックの発進準備、出来ました」
アバデデ
「よし」
「整備は良好。流石だな、我がガタマン・ザンのメンバーは」
ダミド
「お一人で大丈夫なのかな」
ギジェ
「あの方はあれで強かな侍だ。バジンを利用した攻撃、見たいものだ。生体発信機の寿命もあるしな」
ソロ星の軍人
「衛星軌道上に宇宙船らしきものをキャッチした。警戒態勢に入れ!」
ベス
「この場所が分かるとは思えん。偶然だろう」
ソロ星の軍人
「しかし、この反応はバッフ・クランのメカと同じだ」
ベス
「ハタリを呼べ。奴の方が専門だ」
ソロ星の軍人
「全員、警戒態勢に入れ! 正体不明の飛行部隊キャッチ! 各員、対空戦闘シートに移れ!」
コスモ
「ええい、少しは落ち着いて整備をさせろってんだ!」
「あ? あれの間違いじゃないのか?」
「ソロ・シップ、本当に敵なんだろうね? 見間違えじゃないか? よく調べてくれ」
ベス
「待ってくれ、調査中だ。この星の生物と区別付けにくくてな」
コスモ
「当たり前でしょう。だからこっちだって、見付けられなくて済むんじゃないか」
ベス
「あぁ、そりゃそうだが。ちょっと待機してくれ」
コスモ
「……本当さ!」
「ロッタ……バンダ・ロッタはどこなの? 食事持ってきてよ、早く!」
ロッタ
「支度中よ、待って」
コスモ
「ったく!」
ソロ星の軍人
「何だ、こりゃ?」
アバデデ
「フフッ……我が生体発信機は確実なものだ。何万光年との距離を物ともせず、敵を知らしめてくれる」
ハタリ
「衛星軌道上のものは確かに宇宙船だけど、この星に居る限り正確な動きは掴めんな」
ベス
「そりゃ、ここは金属のボールの中に居るようなものだが」
「シェリルには会ってくれたか?」
カララ
「えぇ」
ハタリ
「あれ見てよ」
「異様なクラフトで飛んでるんですが、生物か敵の搭載機かなんて区別付きますか?」
ベス
「こっちも反物質エンジンは止めているんだ。敵も同じ条件だと思いたいな」
アバデデ
「何をしても探知されんという事は、攻撃する側にとって最大の利点だな」
「よし、作戦開始と行くか!」
「ん? 居たか」
「以前の調査隊はお前達に酷い目に遭わされたが、今度は利用させてもらうぞ」
「見付けたぞ、バジンの巣だ!」
「来たな」
「おっと、付いてきてもらわなくては困る」
「フフッ、これだけ手助けがいれば……」
ハタリ
「ちょっと来てくれ、ベス。妙な群れが接近してくるぞ。どう思う?」
ベス
「群れ?」
ハタリ
「正面スクリーンに拡大する」
「320か30居るな……」
「さっきカララさんの言っていた、バジンの大きさに近い」
ベス
「バッフ・クランではないな。これだけ戦闘機を搭載するとなると、かなりの宇宙船が必要だな」
カララ
「7、8隻は要るでしょうね」
ハタリ
「来ます!」
カララ
「バジンだけではない……!」
ベス
「先頭のあれは何だ?」
「イデオン、急速発進だ!」
コスモ
「了解!」
「パワー、どうしたの?」
ベント
「燃料の送り込みが引っ掛かっているんだ!」
コスモ
「各ミサイル砲座、各個に応戦してくれ!」
ソロ星の軍人
「うわっ!」
コスモ
「何だ? バジンの死体が……」
ベス
「何? ソロ・シップに攻撃を掛けている?」
コスモ
「こいつら、何故攻撃してくるんだ」
デク
「うわっ!」
ロッタ
「リン、子供達を奥へ!」
リン
「は、はい!」
ベス
「イデオンはどうした! ソロ・シップもエンジン全開急げ!」
「作業員は全員退避したのか?」
ソロ星の軍人
「閉めるぞ!」
 〃
「OK!」
 〃
「うわっ!」
アバデデ
「幾らでもバジンを撃ち落とすがいい。バジンを誘き寄せるだけだ」
「よし、行けるな」
「聞こえてくれよ、接触通信で」
「カララ様、聞こえましょうか? 私、アバデデであります」
ジョリバ
「何だ? この音は……!」
シェリル
「壁から伝わってくる。バッフ・クラン語?」
ハタリ
「駄目だ、バジンの攻撃中で音源は……」
カララ
「アバデデめ、『ソロ・シップの後ろに取り付いて私を待つ』だと?」
「既に私を捨てるような攻撃をしておいて、よくも抜け抜けと……!」
ベス
「カララ」
ハタリ
「分かったぜ、ベス」
ベス
「何?」
ハタリ
「バジンってのは、やられた仲間の仇討ち戦を仕掛けてんじゃないのか?」
ベス
「何だと? やっつけるほど、バジンは攻撃してくるってのか」
コスモ
「あっ! こ、こいつら……!」
カーシャ
「全部、撃ち落としてやる!」
コスモ
「ベントさん、メイン・エンジンが働かない事には、みんな死んじゃうぞ!」
ベント
「あと1分だ。辛抱しろ!」
アバデデ
「ん?」
カララ
「無礼であろう!」
アバデデ
「カララ様! お迎えに参りました。お急ぎください」
カララ
「私を捨てようというのは、父の命令なのか? それとも、ハルル姉上の命令なのか?」
アバデデ
「はっ……?」
カララ
「答えなさい、アバデデ!」
アバデデ
「め、命令は受けておりませんが、それ故、私が直々お迎えをと決意致しました」
カララ
「私とてもう子供ではない。私を捨てよと誰が申したのか?」
アバデデ
「侍故の決断と承知致しております。お返事は致しかねます」
カララ
「ならば良い。父と姉に伝えてください、『私はそのようなバッフ・クランの生き方を捨てた』と」
アバデデ
「カララ様……!」
カララ
「私が戻れば、お前は出世しよう」
「しかしな、アバデデ。バッフ・クランの生き方が人の道の全てではないと私は信じていた。そして、そのような人々も居るのだ」
アバデデ
「カララ様!」
カララ
「お前の健気さには感謝しよう。が、これまでだ。私を愚かと罵って構わん!」
アバデデ
「カララ様!」
「ンッ……!」
シェリル
「あっ、バッフ・クランの仲間……!」
カララ
「下がりなさい! あの女を撃つのなら、私を撃ってからになさい!」
アバデデ
「カララ様、後悔なさいますぞ!」
シェリル
「……恩を売り付けたつもりでしょうが、感謝はしませんよ」
カララ
「その方が、貴方らしいでしょうね」
アバデデ
「親も親なら子も子か。高貴な人々というのは、あのようなものかな……。させたくないものだ」
「仕事を済ませて早く帰るだけだ」
ロッタ
「キャーッ!」
「この部屋を出るのよ! 空気がなくなるわ!」
ジョリバ
「ベス、ノーマル・エンジンOKだ! イデオンのゲージも上がってる筈だ!」
ベス
「何? はっ……!」
「ハタリ!」
ハタリ
「おう、発進する!」
ベス
「一般人は船の中央へ! 乗組員は機密作業を急げ!」
コスモ
「モエラ、パワーが上がっている筈だ! 行くぞ!」
モエラ
「あぁっ!」
アバデデ
「しかし、どういう事だ? あれだけバジンの攻撃を受けても飛行が出来るとは……」
コスモ
「こいつめ!」
「わっ!」
「テクノ、グレン・キャノンがやられたのか?」
「カーシャ、とにかく撃て! バジンは気にするな!」
カーシャ
「駄目よ、半分以上のミサイルが塞がっていて、撃ったら自爆するわ!」
アバデデ
「幾らなんでも、あと一息だろう。これが止めだ!」
コスモ
「またか!」
「そうか! よし、見てろ!」
「調子に乗って!」
「それっ!」
アバデデ
「子供騙しが何になるか!」
コスモ
「やはり、バジンの死体はバジンを呼ぶんだな。行くぞ!」
アバデデ
「何!」
「しまった!」
「あぁっ、バジンが!」
「こ、これがバジンの攻撃なのだ! 異星人の巨人とあの宇宙船は、何故大丈夫なのだ?」
「うぅっ……奴等には、イデの巨神の護りがあるというのか?」
「何故、こんな馬鹿な死に方を……あぁっ!」
ダミド
「ん、消えた!」
ギジェ
「アバデデ様のドグ・マックが……。な、何があったのだ、あの星に……」
ハタリ
「バジンは完全に排除しました。しかし、甲板が大分やられたようだな」
ベス
「敵艦の動きは?」
ハタリ
「今の所、変わった動きは……」
「あっ、亜空間へ転移したようです」
ベス
「諦めてくれたのかな?」
カララ
「アバデデ・グリマデか……忠義忠節だけの男、面白くもない」
シェリル
「バッフ・クランの翻訳機も駄目。また別の角度から調査するしかないわね」
「はぁっ……」
ナレーター
また、別の宇宙へ向かって飛び立つソロ・シップ。しかし、ギジェの追跡の手から逃れた訳ではなかった。