第12話 白刃の敵中突破

前回のあらすじ
カララの姉ハルル・アジバは、その目で初めてイデオンを見た。
その驚きは、ハルルの部下グハバ・ゲバ以上であったかもしれない。
彼女こそ、イデなる未知の力を一番欲している女性であったからだ。
グハバ
「サンラ。このスパイ活動が成功したら、サビアの位は間違いないと思え」
「ジグ・マックの整備の時間を稼ぐ為もあるが、敵を動揺させて隙を作る事が第一だ」
サンラ
「了解であります」
グハバ
「対空監視は気を抜くな!」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
カララ
「おはよう」
ベス
「おはよう」
カララ
「コーヒーというものを点ててみました」
ベス
「出来るのか?」
カララ
「侍の娘の嗜みです。私だって色々と躾けられました」
「お口に合うかしらね」
ベス
「あぁ、どうも」
カララ
「……駄目でしょうか?」
ベス
「あぁいや、いい味です。少し濃くてやや甘過ぎるようですが……。美味しいです」
カララ
「私、姉に会おうかと思っています」
ベス
「姉? ハルルといったか?」
カララ
「この船を攻撃しないように頼んでみるつもりです」
ベス
「見逃してくれるような方かね」
カララ
「でも姉は、イデに興味のある人で……」
ハタリ
「コーヒー、まだあるかな?」
カララ
「ちょっと甘過ぎるけど、宜しい?」
ハタラ
「いい、いい」
ベス
「カララ。今の話な、しばし考えさせてくれ」
カララ
「急いでください」
ベス
「あぁ」
コスモ
「よう。フフッ……」
ベス
「早いな。コンピュータのキーの調整は済んだのか?」
コスモ
「粗方ね」
コスモ
「……逃げ出す口実に決まってる!」
ベス
「判断するのは俺だ。子供は黙ってろ!」
コスモ
「じゃあ、あんたは何だい。軍人の癖に女に甘過ぎると思うな。カララなんか当てにしちゃってさ」
ベス
「俺は女だから甘くしてるなんて事はない!」
コスモ
「いいか? あいつはバッフ・クランだ!」
ベス
「この野郎!」
コスモ
「うっ!」
ベス
「俺は軍人だ! お前みたいに感情だけで物事の判断はしない!」
コスモ
「ハッハッ……!」
ベス
「少しは口を慎め!」
コスモ
「だけどバッフ・クランはいけないよ! バッフ・クランの女は!」
「うっ! くそっ!」
「……ちゃんと見せてくれよな!」
ソロ星の軍人
「武器があっただけめっけもんよ。こんな星、水一つないじゃない」
ジョリバ
「ノーマル・エンジンのパワーだって、もっと上がる筈なんだ」
ベント
「じゃ、整備不良なんじゃないのか? お前の」
ジョリバ
「何だと? 俺は徹夜の連続でやってんだぞ!」
シェリル
「ジョリバ! 争ってる場合じゃないでしょ?」
ジョリバ
「はいはい!」
ベント
「ほら見ろ!」
ジョリバ
「……どいつもこいつも頭に来るぜ!」
デク
「んっ……ちっとも上手にならないんだな」
アーシュラ
「だってぇ」
デク
「箸使えないと、お利口さんにならないぞ」
アーシュラ
「もう! リン、ナイフとフォーク貸して!」
リン
「指の訓練に箸はいいのよ? みんな使っているんだから」
アーシュラ
「だってさ……」
リン
「もうすぐ使えるわ」
デク
「もうないの?」
リン
「もうないわ。少しだけど我慢ね」
デク
「何でだよ。まだあそこに沢山あるじゃないか」
リン
「もうあれだけしかないのよ」
デク
「何で?」
リン
「これからずっと食べ物の補給が出来なかったら、あれを少しずつ食べていかなければならないのよ」
サンラ
「ん、民間人も居るのか……」
民間人
「泥遊びはしちゃいけないって言ってるでしょ?」
 〃
「遊ぶものないんだもん」
サンラ
「……こんな星から一生出られなくなるのかよ」
「参ったな、いつになったら飛べるんだ。エンジンが爆発するんじゃなかろうな?」
カララ
「あら、どっちが泣かしたの? お姉ちゃんなの? ルゥかな?」
「さぁいい子でしょ。泣かないのよ」
アーシュラ
「私嫌い」
カララ
「どうして?」
アーシュラ
「みんな優しくないんだもん。ロッタもリンも」
カララ
「そんな事ないわよ。みんな一生懸命やっているでしょ」
「みんな不安なのよね……」
グハバ
「どうだ、ダミド? その後の傷の具合は……」
ダミド
「はっ。しかし、失敗は死を以て詫びるべきでした」
グハバ
「ハルル様は感傷を好まぬ」
ダミド
「ですが、あのお方は女傑であられます」
グハバ
「フフッ、何が女傑か。あの方はご自分が感傷に溺れる方だから、人の感傷を好まんのだ」
ダミド
「はっ……?」
グハバ
「振られていなさる。ま、大失恋をなさってな。それで我々男共に八つ当たりをなさるという訳さ」
ダミド
「あのお方を振る男が、バッフ・クランに居られたのですか。誰なのです?」
グハバ
「そこまでは知らん。フフッ……」
ベント
「あっ、居た」
「おい、女! 」
カララ
「え? 何の用です?」
ベント
「立て!」
カララ
「立て……?」
アーシュラ
「お姉ちゃんをどうすんの?」
ソロ星の軍人
「こいつと遊んじゃいけないんだ」
カーシャ
「何の用なのです?」
ベント
「デマを飛ばしやがって!」
ソロ星の軍人
「白ばっくれるな!」
カララ
「分かりません」
ベント
「分からせてやるよ!」
カララ
「あっ……」
ベント
「アーシュラ。バイパー・ルゥの面倒を見てくれよ」
アーシュラ
「遊んでくれてんだよ! 何で連れてくの?」
カララ
「すぐ戻ってくるわ、アーシュラ」
ソロ星の軍人
「冗談言うな!」
カララ
「あっ……!」
アーシュラ
「返して、カララ姉ちゃんを!」
ソロ星の軍人
「行け!」
コスモ
「やっぱりカララだったのか」
ベント
「当たり前だろ」
コスモ
「いや、そうだな……」
ソロ星の軍人
「ソロ・シップは大丈夫だってさ」
 〃
「でもエンジンは動かない、水もないって……」
 〃
「異星人の女が、ソロ・シップは爆発するって言ったんだ」
 〃
「さあ、どうする!」
カララ
「私が何をしたというのです?」
シェリル
「ソロ・シップが危険だと言い触らして、私達を不安にさせたわ。敵の内部を乱れさせるのは戦術の初歩よね」
カララ
「それを私がやったと言うのですか?」
ベス
「みんなはそう言うが、俺はカララを信じる」
カララ
「ベス……」
ベス
「彼女は我々の為に、敵と交渉をしようとさえ言ってくれている人なんだ」
シェリル
「出来るものですか。既に失敗しているのよ」
カララ
「いえ、今の相手は私の姉です。交渉してみるだけの価値はあります!」
ジョリバ
「どうかな?」
「ん……?」
ソロ星の軍人
「わぁぁっ!」
バッフ・クラン兵
「サンラめ、やったな! 出てくるぞ!」
コスモ
「外を見張る!」
ベス
「ジョリバは機関室へ!」
ジョリバ
「おう!」
サンラ
「スパイだってよ!」
ソロ星の軍人
「何だって……うっ!」
 〃
「おい、どうした? 何があったんだ!」
「おい!」
「うわぁっ!」
ベス
「スパイが行ったぞ! 撃ってもいい、構わん! 脱出させるな!」
コスモ
「あれか!」
「よっ!」
「逃がすか!」
「あっ!」
ベス
「スパイを送り込んできたという事は、敵に出撃出来ない訳があると見た」
コスモ
「だからって、カララの言う事を聞いて引き上げる相手じゃないだろう」
ベス
「その議論は終わっている筈だ」
カララ
「私はこの戦いを悲しいものだと思うのです。ハルル姉さんだって損害を受けるだけなのですから……」
ジョリバ
「制限時間内に戻らなければ、我々はこの星を脱出するぞ。いいな?」
ベス
「構わん。エンジン・ルームの修理を急いでくれ」
コスモ
「いいのかな」
ベス
「バッフ・クランを捨てるのか?」
「近付いたぞ」
ハルル
「グハバ、どうなのだ?」
グハバ
「はっ……異星人の船に潜り込ませたスパイは上手くいっているようです」
カララ
「じゃ、ここで待っていてくださいましね」
ベス
「カララ……」
カララ
「隠れて!」
ベス
「カララ!」
バッフ・クラン兵
「誰か! 官姓名を名乗れ!」
「止まれ!」
「カララ様!」
グハバ
「ん? カララ様?」
ハルル
「カララが! よくも、よくも抜け抜けと……!」
カララ
「お姉様。お元気そうね、相変わらず」
ハルル
「ふんっ!」
「お前の愚かな行動の為に、貴重な兵をどれだけ無駄にしたか分かっているのか!」
カララ
「バッフ・クランがいけないのです」
ハルル
「何!」
カララ
「仕掛けるから彼らも戦うのです」
デク
「ルゥ、泣くなよ」
コスモ
「俺はやっぱり行くぜ! ベスだけに任せておくって訳にはいかないんじゃないのか?」
ハタリ
「コスモ、お前に行かれたら船は無防備になる。エンジンの修理が終わるまでは……」
コスモ
「ベスが寝返りでもしたら……」
シェリル
「馬鹿言いなさい!」
コスモ
「ベスはカララに惚れてるんだ。分かるもんか」
デク
「行こうよコスモ」
コスモ
「ルゥを泣かすな!」
リン
「だって! 気晴らしさせる為には、歩いてやるのがいいのよ?」
コスモ
「敵をここに来させなけりゃいいんだろ? カーシャも連れてくぜ」
シェリル
「ソロ・シップを放っておく気?」
コスモ
「分かったろ? 発進する時のショックは大きいんだ。デクにはまだ無理だな」
デク
「すぐ慣れるよ」
コスモ
「どうかな?」
ハルル
「異星人がイデに関係がなければそれでよい」
「グハバ!」
グハバ
「はっ!」
ハルル
「カララを侮辱して構わぬ。嗤ってやれ!」
グハバ
「しかし、カララ様は……」
ハルル
「構わぬ! 異星人の肩を持つような女……」
カララ
「お姉様! こ、こんな兵共の居る……」
ハルル
「嗤ってやれ、グハバ。その上で牢に入れる」
グハバ
「はっ!」
カララ
「実の妹を……!」
ハルル
「言うな! バッフ・クランを売った女が!」
カララ
「あっ……姉さん!」
ハルル
「嗤え! 兵共よ、嗤ってやれ!」
「グハバ、嗤え! 嗤わぬか?」
グハバ
「はっ! ははっ……」
ハルル
「皆も嗤え、嗤うのだ!」
バッフ・クラン兵
「ははっ……」
ハルル
「ふふ、ははっ……!」
ベス
「ツァーッ!」
カララ
「ベス!」
ハルル
「異星人……!」
グハバ
「何ぃ! 撃て!」
ハルル
「うっ……!」
ベス
「ツァッ!」
バッフ・クラン兵
「うわっ!」
 〃
「うっ!」
カララ
「ベス!」
グハバ
「ハルル様、お下がりください!」
ハルル
「いや、待ってやれ」
グハバ
「はっ……?」
ハルル
「あの異星人の男、何をやるのか見たい」
カララ
「ベス。な、何故……」
ベス
「妹を辱めるにしては程がある!」
カララ
「ベス……」
グハバ
「侍に対しては侍の礼儀を通すのが、我らバッフ・クランのやり方だ。ワシが相手をしよう」
ベス
「女性をこんな風に嗤う侍が礼儀とはな!」
カララ
「ベス、グハバは使い手です」
ハルル
「ふん、決闘に応じなければ蜂の巣にしてやる。が勝てば、カルルをくれてやる」
ベス
「有難いと言わねばならんのかな? しかし、私は奴隷ではない!」
「あんたの指図は受けん!」
グハバ
「行くぞ、異星人!」
ベス
「とぁぁっ!」
グハバ
「やぁっ!」
カララ
「ベス……」
ハルル
「やるな、異星人め……」
デク
「ベスは居ないみたいだよ、コスモ。人陰ないもん」
コスモ
「バッフ・クランと接触しているんだな」
「カーシャはここで待っていてくれ。俺はもう少し先まで見てくる」
カララ
「イデオ・デルタが!」
ベス
「コスモめ!」
グハバ
「でぇいっ!」
「ハルル様をガタマン・ザンにお連れしろ! 応戦態勢を急げ!」
ベス
「待て! 逃げるのか!」
グハバ
「何を言う、貴様の仲間が銃を撃った! 決闘はやめだ! 構わん、撃て!」
カララ
「あぁっ……!」
ベス
「カララ、走れるか?」
カララ
「はい」
ベス
「コスモ! イデオンで敵を叩け!」
コスモ
「カーシャ、イデオ・ノヴァをリモコンで上昇させろ! ドッキングする!」
「イデオ・デルタ、90度ターン!」
ベス
「はっ……」
カララ
「ベス……」
ハルル
「グハバはジグ・マックで出られるか?」
バッフ・クラン兵
「はい。まだメインの粒子砲の整備が終わってはいませんが……」
ハルル
「構わぬ。ギル・バウとの連携プレイを取れる筈だ。やってみせるように伝えろ」
バッフ・クラン兵
「はい」
ハルル
「ズロウ・ジックはガタマン・ザンの直衛に残す」
グハバ
「ギル・バウがハーケン攻撃を仕掛けたら一気に突っ込む!」
コスモ
「またか!」
デク
「右からも来た!」
コスモ
「こいつ!」
デク
「うわぁぁっ!」
コスモ
「わぁぁっ!」
グハバ
「ジグ・マックのクロー・アタックを掛ける!」
コスモ
「正面か!」
「テクノ! グレン・キャノンが撃てないのか? 正面だ、正面!」
「カーシャ、ミサイル!」
デク
「うわっ!」
コスモ
「あぁぁっ!」
テクノ
「うわぁぁっ!」
コスモ
「行け!」
バッフ・クラン兵
「うわぁぁっ!」
グハバ
「クロー・アタックを休むな!」
コスモ
「テクノ、正面のグレン・キャノンを撃ってくれ!」
テクノ
「うわぁぁっ!」
コスモ
「こ、このイデオンのパワーだけで……!」
「くそっ、何か方法がある筈だ!」
「はっ……!」
バッフ・クラン兵
「あぁぁっ!」
ハルル
「迂闊な! ギル・バウ隊を巨人より離せ!」
コスモ
「あっ! スパークがなくなったぞ!」
「テクノ、撃ってくれ!」
テクノ
「あいつか!」
デク
「はぁ、はぁ……!」
コスモ
「デク、しっかりしろ!」
デク
「うん……!」
コスモ
「行けぇ!」
グハバ
「何だ、これは!」
「あぁっ……!」
コスモ
「見たか!」
ハルル
「後退する、援護射撃をしてやれ。グハバめ……!」
「もうよかろう。後でグハバを呼べ」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
ハルル
「しかし、あの斬り込んだ侍といい、あの巨人といい……侮れぬ異星人……」
「カララはあれでよいかもしれぬが、私は済まん……!」
ベス
「さぁ、戻ろうか」
カララ
「バッフ・クランには、もう戻れません」
ベス
「異星人同士だ。我々は異星人同士なんだ」
カララ
「それは分かっています。分かって……」
ベス
「……コスモ、大丈夫か!」
コスモ
「おう、デクも気が付いた! 足のハッチを開くからね!」
ベス
「すまない!」
ベス
「カララ……」
カララ
「はい」
ベス
「私のような異星人でいいのか?」
カララ
「ベ、ベスは……侍です……」