第15話 イデオン奪回作戦

前回のあらすじ
コスモは、ブラジラーの基地司令カミューラ・ランバンに、母の面影を求めたのかもしれなかった。
しかし、バッフ・クランの空襲の中でカミューラ・ランバンは死んでいった。
コスモは、自分がただ戦うしかない事を思い知るのだった。
ソロ星の軍人
「ようし!」
 〃
「エネルギー・チューブの接続には、時間掛かるんだ!」
 〃
「貴様がやれ。俺は手一杯なんだ!」
 〃
「怒鳴る暇があったら手を動かしてくれ!」
 〃
「俺は忙しいんだ!」
 〃
「俺もだ!」
ソロ星の軍人
「食糧の積み込みは2分で終わる!」
 〃
「この変圧器は要らないとよ!」
ロッタ
「あぁっ! 卵の素が……」
カララ
「あっ! デク、アーシュラ、そっちも塞いで!」
デク
「しっしっ! 来るな、向こうだ向こうだ!」
ロッタ
「そらそら、お家に入って入って」
コスモ
「カララ! カララ・アジバ!」
カララ
「え? はい」
コスモ
「出港してからでいいんだけど、ブリッジの後ろの林に来てくれない?」
カララ
「私に……?」
コスモ
「話がある」
カララ
「はい」
「あっ……」
コスモ
「頼みます」
ベス
「キャリオカを係留しろ。全天監視を怠るな!」
ハタリ
「キャリオカ、固定!」
ベス
「ようし、ただちに2分間デス・ドライブを掛ける! 以後、短時間デス・ドライブを掛けて、バッフ・クランを振り切る!」
ハルル
「敵基地は戦力的にはどうなのか?」
バッフ・クラン兵
「はっ! ドク隊の働きで、3分の1以上の戦力はなくなっています」
ハルル
「残りは、ガタマン・ザンを呼んで叩かせろ」
ジルバル
「お手数を掛け、申し訳ありません」
ハルル
「敵の船は動き出したようだ。ドク、確実な作戦を聞こう」
ジルバル
「は、はい。巨人はパワーが上がってるとしか思えません。囮もしくは人質作戦を取ります」
ハルル
「可能性があると思えぬが?」
ジルバル
「御座います。敵の船の乗組員の中には、大地に帰りたがってる者も居る筈です。試したい作戦が御座います」
ジョリバ
「ベス、2分経ったぞ」
ベス
「よし、デス・ドライブ・ブレーキ!」
ハタリ
「デス・ドライブ・ブレーキ!」
ベス
「次のデス・ドライブは3時間後か」
ハタリ
「そうなるな……」
シェリル
「ベス」
ベス
「何だ?」
シェリル
「ちょっと……」
ベス
「ん?」
シェリル
「ブラジラーの資料を調べていたら、地球で『グロリア』ってコンピュータが完成したって」
ベス
「で?」
シェリル
「バッフ・クランを地球に呼び込みたくはないけど、地球に戻ってグロリアで……」
ハタリ
「ベス! ダボラスターって知ってるか?」
ベス
「二年前に移民調査船が入った星だが、どうした?」
ハタリ
「我々を受け入れてくれるってさ!」
ベス
「ん? ちょっと待ってくれ」
コスモ
「だからさ! 攻め込むって言ったって、バッフ・クランを全滅させる訳じゃないんだ」
「バッフ・クランの地球上の軍事施設だけを教えてくれれば……それを叩くだけで、何も……!」
カララ
「気持ちは分かりますけど、幾らなんでも、イデオンとソロ・シップだけでは無理でしょう」
コスモ
「無理かどうかを知る為には、軍事力を教えてもらわなければ……!」
カーシャ
「コスモ!」
コスモ
「こっちは大事な話をしてるんだ!」
カーシャ
「ベスの方も大事な話があるらしいわ!」
ベス
「地球をバッフ・クランに襲わせる訳にはいかない。地球にもダボラスターにも行けないという事だ」
シェリル
「バッフ・クランがしつこいのは、ここにイデがあるからなのよ? それを調べる為には、ダボラスターか地球に戻って……」
コスモ
「いや、地球に行かないでイデの事を研究してくれないかな。シェリルさん」
シェリル
「私にはコンピュータのような能力はないわ」
ソロ星の軍人
「キャリオカがあるんだ。ダボラスターまで行って……」
 〃
「結論を急ぐなよ」
 〃
「俺達が行って、人類が危機に陥るなんてな……」
 〃
「いや、むしろ地球に呼び込めば、バッフ・クランを叩けるんじゃないのか?」
 〃
「いや、逆にバッフ・クランが総力を挙げてきたらどうする?」
カララ
「はっ……!」
シェリル
「個人的な恨みはもう捨てたつもりよ。けど、人質になってもらいます。立って」
ハタリ
「エンジン臨界!」
「すいませんね、カララさん」
ソロ星の軍人
「座標合わせ、ようし!」
シェリル
「こちらへ」
「ベスは追っ手を出すでしょうね。その時の為には、貴方は要るわ」
カララ
「どうかしら?」
シェリル
「何故?」
カララ
「ソロ・シップは、もう私を必要としなくなっています」
ソロ星の軍人
「ベス! キャリオカが発進したぞ!」
ベス
「何故発進させた?」
ソロ星の軍人
「勝手に出ちまったんだよ!」
ベス
「戻るように言え! 誰が乗ってる?」
ソロ星の軍人
「応答がないんだ」
ベス
「イデオ・デルタ、イデオ・バスタ、発進用意!」
カーシャ
「コスモ! どうして急にカララに纏わりついているの?」
コスモ
「恋をしてるんだよ!」
カーシャ
「本当の事、教えなさいよ!」
ハタリ
「ダボラスター、座標軸合わせ急げ!」
ソロ星の軍人
「はい!」
シェリル
「デス・ドライブに入る前に、ソロ・シップに挨拶を」
ハタリ
「そうですね」
「おい」
カララ
「意外と未練がましいのですね」
「でも、貴方にもそういう所があるのを知って嬉しく思います」
ジルバル
「敵の船から脱出した船がある。データは取れたか?」
バッフ・クラン兵
「はい、大した整備はしていないようです。我がジグ・マック1機でもやれましょう」
バルジル
「ん、油断すまい。全機で取り囲んで捕えよ! 急げ!」
ベス
「キャリオカに近付いているものがある! 映像にキャッチ出来ないのか?」
ソロ星の軍人
「遠過ぎて無理だ!」
ベス
「イデオン各機、発進を急げ!」
コスモ
「誰が逃げ出したんだよ?」
ベス
「シェリル、カララ、ハタリ達だ」
コスモ
「やっぱりね。仕掛け人は誰なのさ?」
ベス
「分からん」
コスモ
「カララじゃないの?」
ジルバル
「よし、脅しを掛けてから畳み込む!」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
ジルバル
「撃て!」
ハタリ
「うっ……!」
シェリル
「あっ! バ、バッフ・クラン……!」
「ハ、ハタリ、振り切れなくって?」
ハタリ
「各砲座! 狙い易い敵を撃ち落とせ!」
カララ
「ズロウ・ジックです!」
ソロ星の軍人
「接触したらしいぞ!」
ベス
「ソル・バニアも出せ!」
モエラ
「やっている! ソル・バニア発進する!」
コスモ
「キャリオカめ、バッフ・クランに捕まったのか」
カーシャ
「これでこちらの戦力を分散させられてしまったという訳よ。馬鹿な事してくれちゃって!」
ジルバル
「ブリッジは狙うな! 砲塔だけを潰せ!」
シェリル
「ハタリ、敵と通信は出来ないの?」
ハタリ
「何故なんだ?」
シェリル
「無駄かもしれないけど、カララの事を……」
ハタリ
「分かった。はい」
シェリル
「バッフ・クランの攻撃機に告げる! こちらはドバ総司令の娘、カララ・アジバを人質に取っている!」
カララ
「無駄な事を……」
シェリル
「動かないで!」
シェリル
「応答願います! こちらにはカララ・アジバが人質で居ます!」
バッフ・クラン兵
「ドク様、宜しいのですか? カララ様が人質では……」
ジルバル
「ハルル様が仰っている。通信回路が繋がっているんなら答えてやれ、『降伏しろ』とな」
ハタリ
「取り付かれたか!」
「うっ!」
シェリル
「はっ!」
ジルバル
「カララ様はお前達の好きにするがいい。我々は諸君らを人質に取る」
「ダボラスターが諸君らを受け入れてくれるなどという話、信じたのかな?」
シェリル
「ダボラスターの事は囮だったの?」
ハタリ
「シェリルさん……」
カララ
「はぁ……」
シェリル
「私達が、人質だなんて……」
ジルバル
「よし、ロゴ・ダウの異星人と巨人を交換するぞ。敵の母船に向かう」
コスモ
「ん、左2時、キャリオカか!」
「カーシャ、付いてこいよ!」
「カララめ、俺がさっきあんな事を言ったから逃げ出す気になったのか?」
「んっ……?」
バッフ・クラン兵
「巨人のメカが接近します!」
ジルバル
「よし、無線の回線を同調させろ!」
カーシャ
「テクノ、キャリオカはバッフ・クランに……!」
テクノ
「不味いな、人質を取られたのか」
カーシャ
「カララに脅かされて付いてった人達なんか、どうなってもいいんじゃなくて?」
ジルバル
「聞こえるか? ロゴ・ダウの異星人」
カーシャ
「ロゴ・ダウの異星人……?」
ジルバル
「お前達の仲間を捕えている。仲間を助けたければ、巨人のメカニズムを3機、我が方へ引き渡してもらおう」
「この条件を受け入れてくれれば、我が方は速やかに引き下がる!」
コスモ
「ん、冗談じゃない! シェリルやカララなんかと交換できるか!」
ジルバル
「10分間で結論を出す! しかし、その間にドッキングをして巨人になるようなら、お前達の仲間を潰していく!」
シェリル
「バッフ・クランって、よくよく惨忍な種族なのね!」
カララ
「お、脅しを掛けるというのは、こういう事でしょう?」
シェリル
「私は嫌よ、こんな事で殺されるのは……!」
カララ
「シェリル!」
シェリル
「ん、うぅっ……!」
デク
「イデオンが持ってかれちゃうの?」
ベス
「いや、そういう訳じゃない……」
デク
「じゃあ、やっつけちゃえよ!」
ベス
「いや、そうもいかんのだ。シェリルやカララが……」
ロッタ
「あら? あれは誰なんです?」
ソロ星の軍人
「イデオ・デルタから送られている映像だ」
ロッタ
「誰だか分からないんですか?」
ソロ星の軍人
「いや、分からん」
ロッタ
「カララさんじゃ……」
デク
「そんな事ないよ! カララはバッフ・クランじゃないか!」
「それに、カララがみんなを脅かしてソロ・シップを逃げ出したんだろ?」
ロッタ
「あぁ、そうなの……やっぱりね……」
カーシャ
「どういう事?」
コスモ
「向こうはこっちの言葉が分かる。こうやって直接話す以外しょうがないだろ」
カーシャ
「叩くだけよ!」
コスモ
「そうはいかん。シェリルさんには、ここで助けて貸しを作っておきたいんだ」
カーシャ
「貸し?」
コスモ
「あの人は、一番ソロ・シップから逃げ出したがってるんだ。ここで貸しを作ってイデの研究を急がせる」
モエラ
「どうするんだよ」
コスモ
「1機ずつ出て人質を貰う。その上でドッキングだ」
カーシャ
「出来るものですか!」
コスモ
「宇宙服を使ってやる方法がある」
「その上でドッキングすれば、イデオ・バスタからイデオ・デルタやイデオ・ノバのコックピットには行けるだろ?」
「時間がない。やるぞ!」
モエラ
「んっ……」
カーシャ
「危ない事ばっかりやるなんて……!」
ジルバル
「人質を見殺しにするか、巨人のメカニズムを渡すか……10秒前だ」
コスモ
「巨人メカをイデオンと言う! そちらに渡す!」
ジルバル
「何? 覚悟を決めたのか? 乗組員は降りろ。取りにいく」
コスモ
「いや、まず1機を変形させて出す。その代わり、船が掴んでる二人のどちらかを放せ!」
ジルバル
「そういう事か、小賢しい」
「よし、1機前へ出ろ! そしたら二人を放す!」
コスモ
「了解! 出すぞ!」
「移動した。パイロットと砲撃手は降りるが、見えるか?」
ジルバル
「望遠カメラでキャッチしている。こちらは二人の人質を放す。いいか? 1・2・3!」
「次は2機同時だ。こちらは船を放出するんだからな」
モエラ
「了解だ」
カーシャ
「モエラ!」
モエラ
「約束だ!」
ジルバル
「ギャラバ、前へ出ろ。巨人を受け取る」
ギャラバ
「了解!」
コスモ
「カーシャ、何をやってる? 早く変形させろ!」
カーシャ
「よくも平気でイデオンを敵に渡せるわね!」
コスモ
「変形させればいい。そして宇宙服を脱げ」
カーシャ
「え? 宇宙服を脱ぐ?」
テクノ
「そうか、乗組員が脱出したと思わせるのか」
コスモ
「あぁ。上手くいけば万歳ですがね」
「カーシャ、脱げよ」
カーシャ
「え? えぇ」
テクノ
「3機目だ。変形後、乗組員の脱出と同時にキャリオカを返してもらう!」
ジルバル
「了解した。急いでもらおう」
テクノ
「カウントはこっちで取る」
ジルバル
「了解」
テクノ
「10・9・8・7・6・5・4・3・2……出るぞ! 船を放せ!」
ジルバル
「ロゴ・ダウの船を放させろ!」
ソロ星の軍人
「本当に逃がしてくれるのか?」
ハタリ
「シェリルさんとカララさんを掴まえるぞ!」
テクノ
「人質解放に感謝する!」
カーシャ
「イデオ・ノバに敵兵が乗り込もうとしている……」
コスモ
「よし、強制ドッキングだ」
カーシャ
「後は宜しくね」
コスモ
「命があったらまた会おう」
ジルバル
「どうした? リモート・コントロールで動いているのか」
バッフ・クラン兵
「いえ、電波は発信されていません」
 〃
「後ろの巨人メカが近付いてる!」
 〃
「ドッキングするんだろ?」
カーシャ
「ドッキングよ!」
コスモ
「よし!」
バッフ・クラン兵
「な、何だ? このゲージは……点いたぞ!」
コスモ
「イデオ・デルタのコックピットだ!」
バッフ・クラン兵
「巨人になったんなら都合がいいじゃないか」
 〃
「うわぁっ!」
コスモ
「この!」
モエラ
「動くな!」
コスモ
「カーシャ、コックピットを押さえた! ミサイルを開いてくれ! 行くぞ!」
カーシャ
「了解!」
ギャラバ
「巨人になった! 我々の手で巨人が動いたぞ!」
ジルバル
「ん? ギャラバのジグ・マックがやられた! 異星人め、我々を騙したのか!」
コスモ
「行くぞ! ソロ・シップ、援護を頼む!」
ジルバル
「ズロウ・ジック、集中砲火を浴びせろ! 我がジグ・マックは下から攻め込む!」
ベス
「ソロ・シップ接近する! 敵戦闘機を叩け!」
ジョリバ
「各機銃座、グレン・キャノン撃て!」
コスモ
「イデオンは重機動メカを狙う! カーシャ、戦闘機は頼む!」
「敵め、狙いが正確になってきた!」
「う、くっ……!」
ベント
「コスモ、これ以上直撃を食らうとやられる!」
コスモ
「何?」
ベント
「バリアが弱くなってるんだ!」
ジルバル
「巨人の動きが重くなっている! クロウ・アタックを掛ける!」
「荷粒子砲、撃て!」
コスモ
「下だ! 下から来たぞ!」
カーシャ
「キャーッ!」
ジルバル
「巨人の部品を抉り取ったら、後退するぞ!」
「退くぞ! 巨人め、何故倒れんのだ?」
「他の侍とは違う! 私はジグ・マックを知り尽くしているんだ!」
ベント
「コスモ、何とかしろ!」
コスモ
「分かっている!」
「逃がさん!」
ジルバル
「うぉぉっ!」
コスモ
「戦闘機は……!」
カララ
「バッフ・クランにも受け入れてもらえませんでした……」
ベス
「カララ……! き、君がみんなを脅して脱走したのか?」
カララ
「お仲間の中に、ソロ・シップを脱走したがる方なんて居ません。私がバッフ・クランに帰りたい一心で……」
カーシャ
「貴方はやっぱり、異星人の女なんだわ!」
ベス
「カーシャ、やめろ!」
カーシャ
「何で? カララのお陰で、私は死ぬ思いをしているのよ! コスモだってモエラだって、みんなそうでしょ!」
カララ
「どんな罰でも受けますから……カーシャ……」
ソロ星の軍人
「助かっただけでもいいじゃねぇか」
コスモ
「シェリルさん、入るぜ」
シェリル
「え? 駄目……」
コスモ
「どういう事なの?」
シェリル
「うっ……うぅっ……」
コスモ
「何があったんだ、シェリルさん? 本当にカララが脱走したのか?」
シェリル
「カララ一人で、あれだけの人を脅かせて? そんな事出来ないわ」
コスモ
「じゃあ、何であんな嘘を……」
シェリル
「ハタリだって他の人だって、ソロ・シップに必要な人達よ。それがみんなノコノコ戻ってきたらどうなって?」
「脱走組はやりにくくなるわ。それは、ソロ・シップ全体が上手くいかなくなる事……」
「だからなのよ、カララが犯人になる……」
コスモ
「そうか。カララなら、異星人だからってみんなが信じる……」
シェリル
「そうよ、そうしないと仲間割れが起こるわ」
「私だって、他の人が居なけりゃカララにこんな格好良い真似させない。私が脱走の張本人だって名乗ってやったのに……」
コスモ
「シェリルさん……あんた、そんなに……」
シェリル
「そうよ、嫌よ! 宇宙を逃げ回るのも嫌なら、カララに借りを作るなんて……カララに借りを作るなんて、死ぬ程嫌よ!」
コスモ
「ソロ・シップの全員がカララに借りを作っちまったな。全くさ……!」
シェリル
「悔しい……!」
ナレーション
それぞれ考え方の違う人を乗せた船、ソロ・シップ。
それらの人々を繋ぐのが異星人カララであるというのも、彼らにとって不幸である。