第18話 アジアンの裏切り

前回のあらすじ
麻疹に罹ったルゥを救おうとイデオンは重機動メカの攻撃を掻い潜り、ギジェのドッキング潰しを乗り越えた。
そしてソロ・シップは、パイパー・ルゥのワクチンを求めて猿人の惑星を後にした。
ナレーション
ギジェとの戦闘を潜り抜けたイデオンは、一週間余りの亜空間飛行の後に移民星アジアンに到着した。
リン
「こんなに苦しそうなのにずっと頑張ってるなんて、私達に『死んじゃいけない』って言ってるみたい」
管制官
「13番ゲートに着陸の後、待機せよ。入国チェックの為に係官が乗船する」
ベス
「了解」
ナレーション
しかしソロ・シップのクルーは、まだバッフ・クランの生体発信機の存在を知らなかった。
このメカニズムは、第六文明人の遺したものと信じていたのだ。
この生体発信機こそ、数十万光年の距離を飛び越えて相手をキャッチ出来る探知装置であった。
これがある限り、ソロ・シップはバッフ・クランの追跡を逃れる事は出来ない。
ハルル
「何? 準光速ミサイルを使う?」
ギジェ
「はい。許可して頂ければ……」
ハルル
「それに伴う危険を承知の上だろうな?」
ギジェ
「光の速度に近い状態で通常空間に再突入するのは、艦隊に非常な負担を掛けます。しかし……」
ハルル
「それだけではない。我がバッフ・クランの勢力圏を知られた時、同じ方法で仕返しも受ける」
ギジェ
「自信があります。目の前の異星人の星を全滅させれば、仕返しはありません」
ハルル
「成程。作戦は任せた」
ギジェ
「有難うございます!」
「ロゴ・ダウの異星人の追跡に移る。亜空間飛行に入れ!」
コボル
「私は、アジアン中央基地副司令コボルだ。この艦の責任者は誰だ?」
ベス
「私、ジョーダン・ベスであります。副司令官殿」
コボル
「この船は尽く軍の規律に合っておらんな」
ベス
「はい。第六文明人の遺跡で、バッフ・クランと名乗る異星人の……」
コボル
「ブラジラー基地からの命令書は?」
ベス
「はい」
コボル
「分かった。民間人で上陸を望む者は申し出ろ。偵察の上、上陸を許す」
シェリル
「副司令閣下。私、ソロ星で第六文明人の遺跡の発掘を手伝っていた、フォルモッサ・シェリルと申します」
コボル
「フォルモッサ博士か」
シェリル
「いいえ、娘です」
コボル
「ほう」
シェリル
「アジアンの大型コンピュータを使わせていただきたいのです。ここに資料のコピーがあります」
コボル
「コンピュータ・センターの方へ回れ」
シェリル
「有難うございます」
コスモ
「自分だけ上陸するのかい?」
シェリル
「分析結果が出たら届けるわ」
ベス
「シェリルめ……」
コボル
「申し出のあった物資の補給はすぐ始めるが、軍の者は出頭命令が来るまでここで待て」
ベス
「こ、このソロ・シップで……?」
コボル
「当たり前だ!」
コスモ
「……だから大きな星は嫌なんだ。偉ぶる大人ばっかりでさ……!」
ベス
「その代わり、偽の書類でも揃っていれば物が手に入る」
ギジェ
「何事だ?」
バッフ・クラン兵
「目的地の方位から接近する船があります」
ギジェ
「船の型を調べろ」
バッフ・クラン兵
「はっ! 距離0.03亜空間単位、2.5減で加速中。我が軍の船ではありません。第六文明人のようとも思えません」
ギジェ
「となると、ロゴ・ダウの異星人のものか」
「よし、敵にコースと速度を合わせろ」
アジアンの軍人
「船を止めろと言ってきています」
 〃
「亜空間でか?」
 〃
「軍艦らしいです」
バッフ・クラン兵
「敵の船は、加速度・コース共に変わりありません」
ギジェ
「メイン・ビーム砲、発射用意。乗っ取るぞ!」
医者
「まぁ、このワクチンを打てば大丈夫。熱はすぐに治まります」
ロッタ
「でも、一週間も熱が続いたんですけど……」
医者
「体力がありますから大丈夫ですよ。後で各種ワクチンを届けさせよう」
カララ
「あの、他の子供達と会わせても宜しい?」
医者
「あぁ勿論」
アジアンの軍人
「光の速度に近いものが接近している。何だ、あれは?」
「うわぁぁっ!」
ベス
「コボル副司令! 何が起こったんです?」
コボル
「分からん。捜査中だ、ちょっと待て」
コスモ
「ベス」
ベス
「バッフ・クランを呼び込んだのかな……」
コスモ
「振り切った筈だよね。そりゃ、完全に確認したって訳じゃないけど、パイパー・ルゥの事もあったから……」
ベス
「どうです?」
コボル
「隕石じゃない。何かこう、ミサイルのようなものらしい。この位置の丁度反対側に、5・6発落ちた」
コスモ
「ベス、出撃態勢に入るけど……」
ベス
「うむ、頼む」
アジアンの軍人
「こちらコングラチュエーション! 緊急着陸の許可を! 異星人らしい船に攻撃を受けた!」
コボラ
「輸送船だぞ! 一番端のゲートに付けさせろ!」
アジアンの軍人
「はっ!」
ギジェ
「ん、居てくれたな? ジグ・マックを発進させる!」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
コボル
「何だ、あれは?」
コスモ
「バッフ・クランの重機動メカだ!」
ギジェ
「この星の異星人に告げる!」
「我らバッフ・クランは、イデオンと名乗る巨人メカとソロ・シップと呼ばれる宇宙船を引き渡してもらう為に立ち寄った!」
「もし、この二つのものを渡さねば、準光速ミサイルの第二波攻撃を仕掛ける!」
カララ
「ギジェ……!」
ギジェ
「その時は、この星の人々の90%が死ぬ事となる!」
コスモ
「ギジェって奴だ。よくも……!」
ベス
「コスモ、モエラ、カーシャ、出動準備! 基地司令の出方によっては、ここで戦わざるを得なくなる!」
ギジェ
「10分間だけ待つ! その間に回答がなければ、この星は全滅すると思え!」
アジアンの軍司令
「全滅だと? 気楽に言ってくれるな」
コボル
「第一戦闘態勢を発動します」
アジアンの軍司令
「よし!」
アジアンの軍人
「コボル副司令!」
コボル
「何か?」
アジアンの軍人
「先程の第六文明人の資料ですが、あれは事実です!」
コボル
「よし分かった! となると、ソロ・シップに謎のエネルギーがあるという話も信じられる……司令!」
アジアンの軍司令
「両方共叩くか。準光速ミサイルの防戦態勢を取り、前面の敵には残った全戦力をぶつける!」
「更に、ソロ・シップには陸戦隊を投入する!」
コボル
「フォルモッサ・シェリルは押さえておけ!」
アジアンの軍人
「はっ!」
コボル
「3機ばかりの攻撃ロボットに、このアジアンが叩けると思うのか! 異星人め!」
ギジェ
「後5分である! 回答を待つ!」
コスモ
「チッ!」
「ソル・アンバー、発進OK!」
モエラ
「ソル・バニア、いつでもいいぞ!」
カーシャ
「ソル・コンバー、発進OK!」
ベス
「ジョリバ、エンジンを始動しておけ! 各機はそのまま待機!」
アジアンの軍人
「飛行隊が仕掛けたら、我々はソロ・シップのブリッジを占領する!」
リン
「戦うつもりよ、バッフ・クランと……!」
ロッタ
「敵いっこないのに……」
アジアンの軍司令
「時間だ!」
ギジェ
「破壊しか知らんとは! 救いようのない愚か者達だ!」
コスモ
「ええい、こちらから仕掛けて勝てると思っているのか? ソル・アンバー、発進!」
モエラ
「ソル・バニア、発進!」
カーシャ
「ソル・コンバー、発進!」
テクノ
「俺はグレン・キャノンの方に回る!」
カーシャ
「頼みます!」
コスモ
「そんな攻撃じゃ、バッフ・クランは倒せないんだ!」
「重機動メカに正面から掛かったって……!」
「よし、イデオ・デルタに変形するぞ!」
「重機動メカを落とすには、こうするんだ!」
カーシャ
「ソル・コンバー、チェンジ!」
コスモ
「こうしなければ、重機動メカは落とせない!」
アジアンの軍人
「お、おい、何だと思う?」
 〃
「演習じゃなさそうだな」
 〃
「うわぁぁっ!」
シェリル
「バッフ・クランが来た?」
アジアンの軍人
「ん、どこへ行く? フォルモッサ・シェリル!」
シェリル
「な、何です?」
アジアンの軍人
「君を、第一級軍事機密を漏らした罪で逮捕する!」
シェリル
「私を逮捕? 何を言ってるの? 私は第六文明人の遺跡の……」
アジアンの軍人
「それが機密なのだ! ソロ・シップとイデオンを含めて、全て我がアジアン軍の管理下にある!」
シェリル
「そんな……!」
カララ
「ソロ・シップに入るのか……」
ギジェ
「ええい、戦艦タイプから撃ち落とせ!」
「話し合いのチャンスを与えても無視をする! 何という凶暴な種族だ!」
シェリル
「あぁっ!」
アジアンの軍人
「今度は本当に当てるぞ!」
 〃
「うわぁぁっ!」
シェリル
「……簡単な相手じゃないのよ、これは……!」
バッフ・クラン兵
「ギジェ様、この星は仲間を巻き添えにして平気です!」
ギジェ
「こんな種族に巨人は渡せぬ! 力尽くで奪って……」
「来たぞ! 巨人メカの1機だ!」
カーシャ
「外れた! 市街地から誘き出さなきゃいけないっていうのに……!」
シェリル
「キャーッ!」
民間人
「あぁっ!」
 〃
「プラメット……!」
コスモ
「駄目だ、こんな街中じゃ攻撃出来ない!」
「おっ?」
カーシャ
「アジアン軍は、無差別攻撃をしている!」
モエラ
「本気かよ、奴等……!」
「う、後ろか!」
カーシャ
「モエラ!」
コスモ
「間違えるな、俺達は敵じゃないぞ!」
「うっ……!」
カーシャ
「あぁっ!」
「どうしてなの、こんな事!」
ベス
「アジアン軍が……?」
ジョリバ
「ベス、どういう事だ?」
ベス
「わ、分からん……」
アジアンの軍人
「手を上げろ!」
ベス
「何?」
アジアンの軍人
「ソロ・シップは預かる! お前達はこの船を降りてもらう!」
ベス
「何だと? 俺達に構っている暇はない筈だ! バッフ・クランの攻撃が……」
アジアンの軍人
「何を言うか! お前達もバッフ・クランと同じようなもんだろう!」
ジョリバ
「冗談じゃないよ!」
ベス
「何を勘違いして……」
アジアンの軍人
「抵抗するなら殺すぞ!」
ベス
「異星人対策の為に、我々を処分しようというのか……!」
シェリル
「カララ、どこへ行くの?」
カララ
「シェリル! 戦いをやめさせられないものかと思って……」
シェリル
「おやめなさい。ここの星の人は、貴方の理想主義なんか分かりはしません。この私でさえ異星人だと思っているわ!」
カララ
「え?」
シェリル
「ご覧なさい! ここの星の軍隊は、両方に攻撃をしているのよ!」
カララ
「何故? 何故なんです、シェリル!」
シェリル
「住む星が違えば、既に同じ地球人ではないのよ。ソロ・シップへ……みんなの居る所へ戻りましょう。カララ……」
カララ
「シェリル……」
コスモ
「行くぞ!」
「貴様のせいで、地球人同士が……!」
「カーシャ、パワーを上げろ! こいつを投げ飛ばしてやる!」
ギジェ
「ドラワのジグ・マックが捕まった! 準光速ミサイルの第二波はどうなっているか!」
バッフ・クラン兵
「はっ! あ、後1分20秒で到着します!」
ギジェ
「よし、脱出する! こんな星、全滅すればよい! 後で巨人の残骸を探し出す!」
「ドラワのジグ・マックを助ける! 巨人に一斉射撃!」
コスモ
「テクノ、正面のグレン・キャノンを撃ってくれ!」
カーシャ
「コスモ、もう一機の重機動メカが逃げていくわ!」
モエラ
「何? だ、第二波じゃないか! 準光速ミサイルの第二波が来るんじゃないのか!」
コスモ
「第二波……させるか!」
カーシャ
「あっ、左足が……!」
コスモ
「放っておけ!」
ギジェ
「巨人め……!」
コスモ
「デク、左後ろだ!」
バッフ・クラン兵
「ドラワのジグ・マックが!」
ギジェ
「やむを得ん、構うな! 準光速ミサイルの第二波が来る!」
コボル
「捉えたぞ! 衛星軌道上で撃破しろ!」
シェリル
「核爆発……?」
カララ
「いえ、準光速ミサイルとかいうもの……」
アジアンの軍人
「あぁ、アジアン軍の参謀本部が消えてゆく……!」
ベス
「内輪揉めなんかしているからだよ!」
ジョリバ
「ベ、ベス! ゲージ……!」
ベス
「んっ?」
ルゥ
「まんま、まんま……!」
ロッタ
「ルゥ!」
リン
「ルゥ! 大丈夫なの、ルゥ?」
ルゥ
「まんま、まんま……!」
ロッタ
「リン」
リン
「え? えぇ、重湯をすぐ作るわ!」
コスモ
「準光速ミサイルは幾つ来るんだ?」
カーシャ
「7発……いいえ、8・9……12発!」
モエラ
「12発? 全部当たったら、アジアン星は……」
コスモ
「全滅しちまう!」
「普通のミサイルじゃ間に合わない! どうする?」
カーシャ
「コスモ、左下のボタンを……!」
コスモ
「な、何?」
「何だ?」
カーシャ
「見て! お腹のシャッターが開いてるのよ!」
コスモ
「何?」
モエラ
「んっ……?」
コスモ
「ミサイルの照準が合っていく?」
「な、何だ?」
「あぁっ……!」
カーシャ
「一体何があったの、コスモ?」
コスモ
「ソロ・シップ……」
アジアンの軍人
「この船も異星人も、アジアンにとっては異星人なんだよ。だから両方共やっつけてやるつもりだったんだ」
「けどもういい。アジアンは廃墟になってしまったんだから……」
コスモ
「全滅じゃない。帰れば何とか暮らせるよ、あんた達はね」
カーシャ
「そうよ。でも私達はそうはいかないわ。どこへ行っても、アジアン星と同じに扱われる……」
ベス
「これからは、移民星に降りるのは考えなければならないな」
シェリル
「そうね。地球に降りる事もね」
ベス
「あぁ……」
コスモ
「残された手は二つに一つしかない。バッフ・クランを撒くか、叩くか」
カーシャ
「叩くしかないわ。今日のあのブラック・ホールみたいな武器があれば、私達は無敵じゃなくて?」
カララ
「でもイデオンの無限力とは、本当にあのブラック・ホールのような事をいうのでしょうか?」
「あれは災いの武器のように思えてなりません」
コスモ
「しかし、俺達が生き延びる為には必要な力だ」
「シェリルさん、第六文明人の言葉を早く分析してください。頼みます」
シェリル
「え? えぇ……」
ナレーション
ソロ・シップは、今一つの新しい力を手に入れつつあった。
しかし、それが本当にイデの力によって得られたものなのか、誰も知らない……。
ソロ・シップは再び放浪の旅に出るだけであった。