第28話 波導ガンの怒り

前回のあらすじ
月の基地ムーン・ランドのコンピュータ『グロリア』は、イデのエネルギーが無限の力を持つ事を示した。
しかし、その調査の協力者コルボックは死に、シェリルに深い傷を残した。
一方、重機動メカ『ガルボ・ジック』から脱出したギジェ・ザラルであったが、ダラム・ズバの救助を受ける事が出来ず、一人、月に取り残された。
ハタリ
「地球連合艦隊接近。全員、(?)で待機!」
ベス
「いよいよ、お出ですったな」
カーシャ
「歓迎会っていう雰囲気じゃなさそうね」
リミッター
「私は地球連合軍の総監、フレンダリー・リミッターである。現在を以てソロ・シップとイデオンを連合軍の管理下に置く。乗組員は全員退艦せよ」
カーシャ
「藪から棒に、何を言うの!」
コスモ
「理由を言え、理由を!」
ベス
「私はソロ・シップの責任者、ジョーダン・ベスだ。何故、我々が……」
リミッター
「軍の許可なくコンピュータ・グロリアを利用した上、異星人を呼び込んだ罪による」
「諸君は、ムーン・ランドのコンピュータ、グロリアを無断で使用した」
シェリル
「そんな……!」
ベス
「お言葉ですが、我々の救助信号を無視したそちらのお立場はどうなるんです?」
コスモ
「俺達は命を張ってバッフ・クランと戦ったんだ! イデのエネルギーの存在も漸く分かりかけてきたのに、何て事だ!」
リミッター
「主砲!」
連合軍兵士
「はっ! 1番砲塔、発射!」
シェリル
「キャーッ!」
リミッター
「諸君らと無駄な議論をしている暇はない。後5分以内に指示に従わない場合は、一斉砲撃を加える!」
シェリル
「こんな事をやっていたら、私達……」
ハタリ
「ベス」
ベス
「全く……」
ダラム
「まだ手元には、重機動メカ『ガルボ・ジック』と他に数機のズロウ・ジックが残っております」
「これらと我が旗艦ゲロワ・ザンによって、最後の攻撃を仕掛ける所であります」
ギンドロ
「頼むぞ。ドバ総司令も遂に軍の出動を命じた。今、我が財団が一足先に巨神を手に入れれば、こちらは優位に立てる」
ダラム
「はっ!」
ギンドロ
「……が、作戦が失敗すれば、財団はドバと手を組むしかない。悔しいがな」
ナレーション
その頃、バッフ・クラン本星の地球の一角、バッフ・クラン総軍司令基地から一つの艦隊が発進しつつあった。
ハルル
「成り上がりのルクク・キルに何が出来ますか……」
ドバ
「ハハッ、そう言うな。ズオウ大帝を信じる女は、あれはあれで使いようがある」
ハルル
「『ズオウ大帝の元に秩序ある平和を。凶暴な異星人にイデを扱わせれば、バッフ・クランに災いが及ぶ』……」
「先程の父上の演説、正に二枚舌の見本のようで」
ドバ
「それを言うな。さて、ギンドロ・ジンム公と会うか。財界の助けがなくてはズオウは倒せぬからな」
ハルル
「……お忙しい事……」
ベス
「後1分……」
ジョリバ
「ベス、いつでも応戦出来るぞ」
ハタリ
「シェリル! 何故出る?」
ベス
「シェリルが? シェリルがどうしたんだ?」
ハタリ
「小型艇で発進していく!」
ベス
「シェリル! 何の真似だ?」
シェリル
「グロリアを使ったのは私です。掛け合ってきます!」
ベス
「シェリル!」
「コスモ、シェリルが小型艇で出て行った! 止めてくれ!」
コスモ
「了解! ソル・アンバー、発進する!」
「シェリルさん、イデを研究するにはソロ・シップに居た方がいいだろう? 行ったら、捕まって戻れなくなる」
シェリル
「地球人同士の争いは、何としても避けなければならないのよ、コスモ。そうでないと私達……」
コスモ
「シェリルさん……一人地球に帰りたいんじゃないの?」
シェリル
「コスモ……今になって何を言うの? 今は仲間同士の諍いをなくす事が一番大切なのよ。その為には私が行って……」
コスモ
「じゃあ、何故一人で飛び出したんだ? 誰かと一緒に行ったって……」
「うっ……!」
リミッター
「内輪揉めをしているようだ。牽制しろ」
コスモ
「少しくらい待ってもいいだろ。今、大事な話をしているんだ!」
シェリル
「コスモ、いいわね? 私が行って時間を稼ぐわ。その間に月から脱出の用意を!」
コスモ
「信じられるもんか」
リミッター
「貴方がグロリアを?」
シェリル
「はい」
リミッター
「貴方一人が罪を背負えば済むと考えたのですな?」
シェリル
「軍でイデを扱う事は、人類を滅びの道へと歩ませます」
リミッター
「純粋防衛なら、イデの力はバリアとして我々を守ってくれる。そうじゃないかね?」
シェリル
「何故、それを……?」
リミッター
「グロリアの本体は地球にある」
シェリル
「でも……イデのコントロール・システムは分かっていないんですよ?」
リミッター
「それは軍が調べる」
シェリル
「軍人には任せられないんです、イデの事は!」
リミッター
「我々は、異星人もそうだが、この二、三年続く謎の流星も防がねばならん」
「私だ。……何、異星人?」
ハタリ
「バッフ・クランだ! 第三戦闘ラインに入った!」
ベス
「各機、ただちに発進! 迎撃態勢に入らせろ!」
カーシャ
「了解!」
モエラ
「あっ、ベス、地球連合の艦隊も動き出したぞ!」
デク
「シェリルさんが乗ったままだよ、コスモ!」
コスモ
「そんなの関係ないよ!」
ベス
「リミッター総監! 敵の戦力はまだ分からないんだ。急ぎすぎるぞ!」
連合軍兵士
「敵機が向かってきます!」
リミッター
「迎撃機を発進させろ」
連合軍兵士
「はっ!」
 〃
「うぉっ……!」
シェリル
「あっ……!」
連合軍兵士
「巡洋艦がやられたのか!」
 〃
「巡洋艦が?」
「あぁっ!」
シェリル
「これがバッフ・クランとの戦いよ……!」
「コスモ、カーシャ、モエラ! 地球の軍人達に、本当の戦い方を教えてあげなさい!」
コスモ
「クソォーッ!」
「落ちろ!」
デク
「コスモ、左上空だ!」
コスモ
「カーシャ!」
カーシャ
「ボヤッとしないで! まだ後ろに2機居るわよ!」
連合軍兵士
「距離18、10時の方向に大型戦艦!」
リミッター
「主砲の一斉発射、用意!」
連合軍兵士
「お、おい、このムサッシの主砲なら大丈夫だろ?」
シェリル
「さぁ……期待出来ないけど……」
連合軍兵士
「そんな……」
シェリル
「大丈夫よ。そう思いましょう」
連合軍兵士
「あ、あぁ」
リミッター
「うぅっ……!」
連合軍兵士
「怯まず撃ち続けろ!」
 〃
「シェ、シェリルさん……!」
シェリル
「大丈夫、勝てますよ」
オーメ財団兵
「うぅっ!」
ダラム
「怯むな! 後一撃もあれば敵艦は沈む! 怯むな!」
コスモ
「頭痛メカだ! 正面に出るなよ!」
「カーシャ、モエラ、一気に叩く! ドッキング用意!」
カーシャ、モエラ
「了解!」
デク
「頭痛メカ、本当に大丈夫なの?」
コスモ
「横と後ろから攻撃すればいいんだ。行くぞ!」
「後ろか!」
カーシャ
「キャッ! コスモ、このままじゃ勝ち目はないわ!」
コスモ
「クソッ! これじゃ、作戦通りには……」
「そうだ……3、4日前、イデオン・ガンが見付かってたんだ」
ジョリバ
(回想)「本体が床に埋まってりゃ、エンジンの部品ぐらいに思うさ」
コスモ
(回想)「それが、大砲みたいになるのか?」
ベント
(回想)「あぁ、間違いないな。ほれ、イデオンの胸からミニ・ブラック・ホールみたいなの出たろ」
ジョリバ
(回想)「あれをエネルギー源にする武器らしい。ほら、ここの取っ手がイデオンの手に合うし、エネルギー・チューブもあるんだ」
コスモ
「……使ってみるか!」
「脱出するぞ! ソロ・シップへ戻る!」
「うっ……!」
「デク、見張りをしっかりやれ」
デク
「了解!」
コスモ
「ベス、イデオン・ガンを出してくれ。使ってみる!」
ベス
「イデオン・ガン? 使えるのか、ジョリバ?」
ジョリバ
「え? エネルギー・チューブのチェックを済ませただけで、テストはしてないぞ?」
ベス
「イデオンにテストさせろ!」
ジョリバ
「コスモ、エネルギー係数の限界が分かっていない。イデオンのエンジンをオーバー・ヒートさせるなよ!」
コスモ
「分かってる、気を付けるよ」
モエラ
「左から敵だ!」
カーシャ
「急いで!」
デク
「コスモ、後ろ!」
コスモ
「何っ!」
「撃てない?」
デク
「駄目だ、イデオンのゲージが上がらない」
「わっ! 頭が……」
コスモ
「よーし……!」
ベス
「リミッター総監! イデオンの戦いの邪魔をしないでください!」
リミッター
「何を言う! この程度の敵は、我が軍だけで叩ける! 貴様達は下がっていろ!」
ベス
「だ、駄目です! これでは、勝てる戦いも……!」
シェリル
「総監! これが地球連合軍のやり方なんですか?」
連合軍兵士
「こ、こらっ……!」
シェリル
「貴方がたにイデオンを任せられない事が、これで益々はっきりしました!」
リミッター
「その女を収監室へ閉じ込めておけ!」
連合軍兵士
「はっ!」
 〃
「さ、来るんだ!」
リミッター
「巡洋艦・雪風、魚雷を撒け!」
連合軍兵士
「雪風がやられました!」
リミッター
「このムサッシだけが残ったのか……!」
ダラム
「残る巨大戦艦は、ゲロワ・ザンが引き受ける! お前達ガルボ・ジックは巨神に攻撃を集中しろ!」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
ダラム
「よく引き付けろよ! 一撃で決めるぞ!」
連合軍兵士
「うわっ……!」
ダラム
「よし、接近しろ! トドメを刺せ!」
リミッター
「うわぁっ!」
シェリル
「あぁっ……!」
コスモ
「ムサッシを沈めたのか、バッフ・クラン!」
ダラム
「ガルボ・ジックを援護! 巨神のトドメを刺す!」
ベス
「敵の攻撃がイデオンに集中する! 急げ!」
コスモ
「エネルギーが上がりきらない!」
デク
「来た! また頭痛のメカだよ!」
コスモ
「やってみる!」
「あっ……!」
カーシャ
「あっ……!」
モエラ
「何っ……!」
ダラム
「あぁっ……!」
「今の兵器は一体……! 一体、何だ……!」
コスモ
「イデオン・ガンが開いた? しかも、エネルギーは少なかったのに……戦艦も、重機動メカも一瞬の内に……」
リミッター
「そうだ、よく狙えよ。どれもこれも、イデオンとソロ・シップのお陰だ! た、例え一撃と言えども、この恨み晴らさずにはおかぬ!」
「撃てぃ!」
コスモ
「あっ……!」
カーシャ
「えぇっ?」
デク
「ムサッシが!」
べス
「リミッター総監、我々は味方です! 我々は……!」
リミッター
「撃て! エネルギーの続く限り撃て!」
ハタリ
「ベス、応戦するぞ!」
ベス
「やめろ! 相手は味方だ、味方なんだ……撃ってはならん!」
リミッター
「あのイデオン、ただのロボットではない……呪いの、呪いの掛かった……わっ!」
デク
「あっ! コスモ、ムサッシの中にシェリルさんが居るんだよ! 早く助けないと……コスモ!」
コスモ
「シェリルさんを、助けるのか……?」
デク
「当たり前じゃないか! イデの事はシェリルさんが一番知ってるんだろ? ソロ・シップでは……」
シェリル
「あぁっ……!」
「コルボックの後を……あっ!」
「開けて! 開けて頂戴! 開けて! ……」
コスモ
「シェリルさんだ」
シェリル
「誰か開けてぇ!」
「あぁッ!」
コスモ
「シェリルさん!」
シェリル
「あっ、シェリルよ、フォルモッサ・シェリルです! 出して、火が近くまで来てるんです! 頼みます、出して! 出してください!」
「イデオン……!」
「コスモ……!」
コスモ
「上げてくれ!」
シェリル
「コスモ、何故私を……」
コスモ
「デクさ、デクに叱られたんだ、でね……。でも、本当の事を教えてよ」
シェリル
「一人だけで地球に帰りたいと思っていても、今日のような事を見せられるとソロ・シップに居るしかないって、そう思えるわ……」
「いけない?」
コスモ
「いや……」
ソロ星の軍人
「急いで、乗った乗った! ソロ・シップに行きたくない奴は乗らなくていいんだぞ!」
コスモ
「馬鹿ぁ!」