第29話 閃光の剣

前回のあらすじ
イデオンの新しい兵器、イデオン波動ガンが、異星人ダラム・ズバの艦隊を一瞬にして沈めた。
そして、地球連合軍に囚われたシェリルをイデオンは救出した。
ソロ・シップは地球からも見捨てられ、宇宙の孤児となってしまったのである。
ベス
「ミサイル・弾薬の積み込みが遅れている。食料の方はどうなっているのか」
ロッタ
「こちらロッタ、第26ドームからの積出は今終わりました」
ソロ星の軍人
「ミサイルに信管が付いたままなんだ。静かにな」
 〃
「おう」
アーシュラ
「ほら、早く乗って、ルウ」
ベス
「周りの警戒はしているんだろうな? ムーン・ランドの生き残りの連中が邪魔しに来るかもしれんぞ」
ハタリ
「やっているんだろ?」
ベス
「え、やってないのか?」
ハタリ
「やってる筈だ」
コスモ
「ベス」
ベス
「何だ?」
コスモ
「イデオ・デルタの整備は終わった。どこを手伝う?」
ベス
「例の大砲、イデオン・ガンの方へ回ってくれ」
コスモ
「了解」
ベス
「ムーン・ランドの連中に気を付けろ」
コスモ
「了解」
ジョリバ
「もう一度やるぞ」
ベント
「おう、やってくれ」
コスモ
「……何ですか?」
ジョリバ
「エネルギーの流れる方向を調べてるんだ」
コスモ
「グレン・キャノンそっくりじゃないですか」
「シェリルさん、イデの流れって、これと同じなんですか?」
シェリル
「こんな風に、勝手に弄りまわしていいのかしら……」
コスモ
「えっ……何ですって?」
シェリル
「このイデオン・ガンは、隠すようにソロ・シップにあったわ。これを間違った使い方をしたら、私達は不幸になるんじゃないかしら」
コスモ
「自信を持たなくちゃ!」
「シェリルさん、俺達は地球を捨てるんですよ? 自分に自信を持てなかったら生きられませんよ。そうでしょ?」
「だから、今みたいな事言わないでください。みんなが不安になります」
シェリル
「そうね……。ごめんなさいコスモ、気を付けるわ」
コスモ
「ちゃんとやってください。シェリルさんは、ソロ・シップにとって大切な人なんですから」
シェリル
「擽ったいわね」
ナレーション
その頃、バッフ・クランのルクク・キルの艦隊が、地球から数光年の空域で実体化した。
ダラム・ズバの誘導によるものである。
ルクク
「ダラム・ズバのカプセル回収を急げ」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
 〃
「第6ハッチ、ターゲットはキャッチ出来たのか?」
ルクク
「オーメ財団の飼い犬か……」
バッフ・クラン兵
「第6ハッチ、キャッチした!」
 〃
「ルクク・キル司令だ」
ダラム
「分かっているつもりだ、気にするな」
ルクク
「ま、いいだろう。貴公のお陰で寄り道をしないで済んだからな」
ダラム
「流石だな。では我々の、巨神との戦闘データを渡そう。待遇は保証してくれるんだろうな?」
ルクク
「保証する。見掛けによらず細かい男だな。」
ダラム
「これで生き残ってきたので、直せん。毎晩、酒は貰うぞ」
ルクク
「良かろう」
ハタリ
「間違いなく重力振だ。数は分からんのか?」
ソロ星の軍人
「7つか、8つか……」
ベス
「敵か? 味方か?」
ハタリ
「少なくとも、味方の識別信号は出してない」
ベス
「無線は?」
ソロ星の軍人
「駄目です」
ベス
「地球の動きは?」
ハタリ
「どこもここも応答なしだ。ムーン・ランドでさえ見捨てる連中だからな」
カララ
「あれは何でしょう?」
ベス
「ん?」
カララ
「地球上に、輝く物が一杯上がっています」
ベス
「ハタリ、分かるか?」
ハタリ
「ミサイル衛星だな。純光速ミサイルでも、防御出来る」
ベス
「何て事だ……地球はじっと隠れて、バッフ・クランと我々が行き過ぎるのを待っているんだ」
カララ
「でも、バッフ・クランは態勢を整えてきているのです。守るだけでは切り抜けられません」
ベス
「戦力を掴むんだ。そうしなければ、戦いようがない……。カララ、頼むぞ」
カララ
「はい」
ベス
「総員に告げる。敵が近付いている。資材の運び込み、急げ! パイロットは出撃出来るように用意しておけ!」
コスモ
「頼みます。カーシャの方、手伝ってきます」
ジョリバ
「おう」
アーシュラ
「あ、動いた!」
ファード
「あっ! アーシュラ、止めようよ!」
アーシュラ
「ルウ、怖い?」
「よーし、行け! イデオン発進だ!」
ファード
「怖い!」
アーシュラ
「イデオンに行くのよ!」
ファード
「運転席だ」
アーシュラ
「よーし、探検だ!」
「よしよし」
「綺麗ねぇ」
ジョリバ
「何だ、この輝きは……おい、気を付けろ!」
ベント
「何だ?」
ジョリバ
「エネルギーが高くなってる! 聞こえるだろう、音が!」
ベント
「シェリル、イデオン・ガンを見ろ。エネルギーが流れ込んでいる」
シェリル
「え? システムが分かったの?」
ベント
「いや、分かっちゃいない。いきなりエネルギーが上がって……」
シェリル
「チャンスよ。とにかく、エネルギーがどこから流れ込むのか、コスモ達と調べるチャンスよ」
コスモ
「カーシャ、このミサイルは全部運び込んだ」
カーシャ
「了解」
コスモ
「うっ!」
カーシャ
「コスモ!」
「何さ!」
コスモ
「やめろ! 敵はバッフ・クランじゃないんだ!」
カーシャ
「どこさ?」
連合軍兵士
「裏切り者! ムーン・ランドからは、螺一本も持っていかせないぞ!」
コスモ
「ムーン・ランドの生き残りなんだ!」
ソロ星の軍人
「俺達は異星人じゃない!」
コスモ
「やめろ!」
ソロ星の軍人
「わぁぁっ!」
コスモ
「仲間同士で戦ってる時じゃない! やめろ!」
連合軍兵士
「奴らにやられるぐらいなら、爆発させた方がいいぜ!」
シェリル
「あっ……何で?」
モエラ
「ムーン・ランドの連中が、補給はさせないって言うんだ!」
シェリル
「何て事を……せっかく、イデオン・ガンのエネルギーとイデオンとの関係を調べようというのに……」
「駄目よ! 地球人同士で戦ったりしていては、こんな事してたら、イデに滅ぼされるわ! やめなさい!」
ソロ星の軍人
「飛び出すな……わっ!」
シェリル
「あぁっ! やめて、こんな事やってちゃいけないわ! みんなやめないと……!」
「イデの力が放出されるのよ! それでみんな……!」
ソロ星の軍人
「わぁっ!」
シェリル
「やめてください!」
カーシャ
「止めないでよ!」
コスモ
「入ってきた奴だけでいい!」
シェリル
「やめてください! やめ……あっ!」
連合軍兵士
「死ねぇ!」
シェリル
「あっ……!」
「みんなにやめさせないと……!」
ギジェ
「今は無理だ、みんな逆上している。あんな無茶な事をして、無駄死にはいけない!」
「向こうの陰へ」
シェリル
「え、貴方……貴方は……! 誰なの!」
ギジェ
「ギジェだ。ギジェ・ザラル……すまん!」
シェリル
「うっ!」
ギジェ
「ここで死なれる訳にも、騒がれる訳にもゆかんのだ」
ダラム
「ゲル結界を張る新型艦か」
ルクク
「たかが巨神一機、総力を上げて襲い掛かる事もあるまい」
ダラム
「うむ、そうであって欲しいな」
ルクク
「第一次戦闘団、発進!」
ソロ星の軍人
「亜空間転移波動キャッチ!」
カララ
「4隻です! 警報を出してください!」
ベス
「よし、全員に告げる! 戦闘配置に就け! バッフ・クランが来る!」
ベス
「バッフ・クランが来る! 仲間同士の戦いはやめて、異星人と対決しろ!」
ソロ星の軍人
「わぁっ!」
 〃
「ミサイルは船の中央に移すんだ!」
ギジェ
「イデのパワーか……」
カーシャ
「キャーッ!」
コスモ
「敵が来るんだぞ! 退けぇ!」
ハタリ
「来るぞ! ベス、イデオンを発進させろ!」
ベス
「ムーン・ランドの兵隊を退がらせろ! エンジン始動!」
ハタリ
「了解!」
カララ
「あれは……あれは、新型のアディゴ……遂に完成をしたのか」
「ベス、イデオンを早く発進させてください。小型の機動メカですが新型が来ます」
ベス
「何? 知っているのか?」
カララ
「はい、動きのよいメカです。荷粒子砲が凄いのです」
ベス
「荷粒子砲が凄い?」
カララ
「テストを見た事があるんです」
ベス
「分かった」
「コスモ、カーシャ、モエラ、急げ!」
ファード
「バッフ・クランだ!」
「あぁっ!」
アーシュラ
「まだイデオ・デルタ、動いてないよ! どうしたんだ、コスモ!」
コスモ
「敵は数が多いぞ!」
カーシャ
「らしいわね!」
モエラ
「イデオ・ノバ、出るぞ!」
「素早い奴らだ、このぉ!」
「1機目!」
「うわぁぁっ!」
ソロ星の軍人
「麦畑に直撃! バリアが破られてるぞ!」
ベス
「何? バリアが効いていないのか?」
「ハタリ!」
ハタリ
「そんな事はない! イデのパワーだって上がっているんだ!」
ベス
「えぇっ?」
「どういう事だ……?」
ロッタ
「ベス! 子供達が居ないの……知りません?」
カララ
「誰が?」
ロッタ
「ルウとアーシュラにファードの三人がずっと……」
カララ
「三人共?」
コスモ
「ベス、行くぞ!」
カーシャ
「あぁっ! 何て手の早い敵なの?」
コスモ
「落ちろ!」
「あぁっ……!」
「チェンジ、イデオ・デルタ!」
「好きにはさせない!」
モエラ
「あぁっ! コスモ、カーシャ、早くドッキングしてくれ!」
コスモ
「カーシャ、相手は手が早い。同時にドッキングする!」
カーシャ
「了解!」
コスモ
「このぉっ!」
「バリアが強くなっているのか? ビームが跳ね返されている……」
カーシャ
「私達にとっては助かる!」
コスモ
「モエラ、最大パワー!」
モエラ
「了解!」
コスモ
「よーし、行くぞ! ミサイル一斉発射!」
「よ、避けた……!」
カーシャ
「何て機動メカなの!」
モエラ
「今までの大きい奴と性能が違う……!」
コスモ
「ルウ……!」
「デク、モエラに操縦を任せろ! ミサイルを撃ち続けるんだ!」
モエラ
「どういう事だ、コスモ!」
コスモ
「ルウやアーシュラが潜り込んでいた!」
「駄目じゃないか、イデオンに勝手に乗り込んで……うっ!」
「椅子に座っていろ! そこは危ないぞ!」
アーシュラ
「うん!」
「もっと向こう行ってよ!」
ファード
「でも……」
コスモ
「しっかり抱いているんだぞ」
「何をやっている! モエラ、カーシャ、押されてるじゃないか!」
カーシャ
「相手が速いのよ!」
モエラ
「小さいから素早くて……!」
シェリル
「う、ぅぅっ……」
ギジェ
「痛むか?」
シェリル
「ギジェ……ギジェ・ザラル……」
ギジェ
「また、生き恥を晒している……」
シェリル
「スパイが何故、私をソロ・シップの倉庫になんか……」
ギジェ
「知りたいのだ、イデの事を……」
シェリル
「殺すのなら、ひと思いに殺したらどう?」
ギジェ
「そうするつもりなら、とっくにやっている! 話し合いたい。大きな声を出さないで欲しい」
シェリル
「よくも……よくも、そんな事が言える……」
ギジェ
「貴方の仰る通りだ。私は余りにも失敗を重ね過ぎた」
「しかし、巨神……イデオンと戦えば戦うほど、私はイデオンの事、イデの事が知りたいのだ」
「その為に生き恥を晒そうが構わん。イデの何たるかを教えて欲しいのだ、フォルモッサ・シェリル……」
シェリル
「知ってどうなるんです?」
ギジェ
「どうなるものでもない。しかし、私は善き力の何たるかを……イデが示すのならそれが見たいのだ」
シェリル
「善き力の示す、善き力の示しを……」
ギジェ
「そうではないか。貴女がたが善き力なのか、バッフ・クランなのか……」
「いや、ひょっとすると共に悪しき者かもしれぬし、善き者かもしれん」
「それを私は知りたい」
コスモ
「こいつだってパワーが上がっているんだ! 舐めるな!」
ルクク
「ゲル結界を張る。これでお終いだ、ダラム」
ダラム
「流石……」
コスモ
「な、何だ?」
「うわーっ!」
ルクク
「見たか、ダラム。あのまま巨人を固定してドバ総司令の元に連れて行く」
ダラム
「流石、ルクク様のお手並み、見事……」
ルクク
「オーメ財団とやらの私設軍隊とは違うよ」
ダラム
「中のパイロットは?」
ルクク
「うむ、後1・2分で死ぬだろうよ」
「何だ、あの光の流れは……!」
ダラム
「し、知らん! あれは知らんぞ!」
ハタリ
「何の輝きだ?」
ベス
「イデオンから出ているのか?」
カララ
「あぁっ……」
ロッタ
「イデオンの輝き……?」
コスモ
「な、何だ……?」
「ルウ! パイパー・ルウ!」
カーシャ
「コ、コスモ、エネルギーが……腕から、腕から流れ出ているのよ!」
モエラ
「さ、左右の腕を振り回すんだ、コスモォ!」
コスモ
「うう、うぉぉっ……!」
カララ
「ベス、今のイデオンの輝きは……」
ベス
「分からん……何なんだ……?」
ハタリ
「確か、両方の手から伸びたように見えたが……またイデオンの新しい力なのか……?」
ルクク
「第一波攻撃隊を後退させよ。あの巨神に迂闊に近寄るな」
「嗤うがいい、ダラム・ズバ。見事破れたわ……」
ダラム
「いや、嗤えぬ……。あの巨神の戦い方、始めて見る輝きだ」
ルクク
「データにはなかった」
ダラム
「イデの発現、かもしれん……」
ルクク
「あれが……」
コスモ
「大丈夫かい、ルウ?」
「アーシュラ、ファード、しっかりしろ」
「パイパー・ルウ、お前達のお陰で俺達は助かったのかもしれない。ありがとう」
ベス
「ムーン・ランドに戻り、各メカを再チェックする! 総員、対空監視を続けろ!」
シェリル
「私だって、考えが変わるかもしれないわ……それでもいいのね?」
ギジェ
「構わん。生きるも死ぬも貴方に任せた。私は今や、捕虜以下なのだからな」
シェリル
「命を救ってくれた事にはお礼を言うわ。ありがとう」
ギジェ
「いや」
「……俺は、破廉恥な男かもしれん……」
ナレーション
イデの力の現れなのか、あのイデオンの腕からの輝きは……。
ソロ・シップにまた新たな人が加わった。それは一体、何を意味するのだろう。