第31話 故郷は燃えて

前回のあらすじ
ダラム・ズバとルクク・キルの攻撃によって、イデオンは危機に陥った。
殊に、イデオンに乗り込んだルウとシェリルのダメージは大きかったが、イデオンの波動ガンはそのフリーザー・アタックさえ跳ね除けた。
そして、地上に降り立ったコスモとダラムの対決に終止符を打ったのは、ギジェ・ザラルであった。
ギジェは、自分の罪を償い切れないと、ただ泣くのだった。
テクノ
「駄目ですよ、話すのは」
シェリル
「でも、別に悪い事を相談しようっていうんじゃなくてよ?」
テクノ
「でもね、ギジェは乗組員になった訳じゃないんだ」
シェリル
「捕虜でもないわ」
ジョリバ
「おい、ソロ・シップが着陸するってよ」
シェリル
「え、本当?」
テクノ
「逃げるなよ」
ギジェ
「逃げられる訳がなかろう」
ジョリバ
「どこに降りるんだ?」
カララ
「もう10km程、北にある基地だそうです」
シェリル
「急にどういう事なの、ベス?」
ベス
「あぁ、突然の着陸許可なんだ」
シェリル
「グロリアを、もう一度使う……」
ベス
「そういう事態じゃなさそうだ」
シェリル
「え?」
ハタリ
「『責任者は艦を降りて来い』と言ってきている」
ベス
「名指しか?」
ハタリ
「うむ、ジョーダン・ベス一人だ」
コスモ
「妙だね……」
ベス
「気になるな……」
「よし、コスモ付き合え。子供なら一人ぐらい連れて行ってもよかろう」
コスモ
「ま、大人じゃないって事は認めるけど。行ってやるか」
ハタリ
「気を付けてな」
コスモ
「ご苦労さん」
「ん、何だよ?」
ヌーシャン
「ジョーダン・ベス一人を呼んだ。君はここで待て」
コスモ
「ベス……」
ベス
「ま、仕方がないな」
コスモ
「離せよ!」
ライス
「今まで一隻の艦でよく持ち堪えてくれたな。郷土の英雄として誇りに思う」
ベス
「はぁ、有り難うございます」
ヌーシャン
「後は我々が引き受ける。ソロ・シップとイデオンは地球連合軍に引き渡してもらう」
ベス
「ソロ・シップとイデオンは、我々でないと動かす事は出来ません!」
ヌーシャン
「ふふっ、ははっ……戯けた事を!」
ベス
「心外ですね」
ヌーシャン
「そうかな? まあいいだろう。ところでお前には軍属の父親が居たな?」
ライス
「お前だけ家族に会わせてやってもよい。そしてソロ・シップ引渡し後は、参謀本部への昇格も考えてあるんだ」
ベス
「そういう事だったんですか……」
コスモ
「どうだったの、ベス?」
ベス
「移民星にも行かずに地球に残ってる連中だ。やる事が狡いよ」
コスモ
「どういう事?」
「うっ、何だよ……?」
ベス
「地球流のやり方さ」
バッフ・クラン兵
「特に情報となるような物はありません」
ルクク
「それは?」
バッフ・クラン兵
「あぁ、ハルル様宛の私信のようです」
ルクク
「ほう、オーメ財団のとドバ家の関係が分かるかもしれん」
バッフ・クラン兵
「そんな事があるんでしょうか?」
ルクク
「口外するな。本国に戻るまで私が預かる」
バッフ・クラン兵
「はい」
ルクク
「アブゾノールはいつ着くのか?」
バッフ・クラン兵
「はい、後1時間程で……」
ルクク
「力を受けて流す戦法……ふふっ、今度こそ……」
カーシャ
「何で、ベス達から通信が入らないの? 地球連合軍に捕まって殺されているかも……!」
ハタリ
「光のポイント・シグナルはちゃんと聞こえてんだろ?」
カララ
「はい、ビルからは外に出ていないようです」
カーシャ
「ここはベスの故郷だって言ってたわ。カララ、貴方捨てられたのかもしれなくってよ」
カララ
「まさか」
シェリル
「カーシャ……ベスはそんな人じゃなくってよ」
カララ
「そうですよ」
コスモ
「ベス、ポイント・シグナルの発信を止めるよ。そうすればソロ・シップが来てくれる」
ベス
「いや、待て。もう一度会って説得してみる」
マック
「ん、ベスがでありますか……?」
ライス
「そうだ、お前達の息子が軍に逆らっている!」
エルミ
「そんな、ベスに限ってそんな……!」
ライス
「私もそう思いたい」
エルミ
「ジョーダン家の家名を汚すような子に育てた覚えは御座いません!」
ライス
「しかしこのままでは、今までの名誉は全て取り消さねばならんのです」
エルミ
「そんな……ベスがそんな……」
マック
「ベスは、優秀な幹部候補生としてソロ星へ派遣され……」
ライス
「息子さんを説得してくれんか?」
マック
「居るのですか、ベスが……」
ライス
「軍命令に従うよう、説得してくれたまえ」
マック
「勿論であります、閣下」
ベス
「おい、出してくれ! 話があるんだ! もう一度……」
ヌーシャン
「静かにしろ、その前に会わせたい人間が居る」
ベス
「はっ、奴ら……!」
コスモ
「どうしたんだ、ベス?」
エルミ
「ベス! ベスや、聞こえるかい?」
「ベス……!」
マック
「ベス、居るんだろ? ベス!」
コスモ
「親父さんとお袋さんか?」
ベス
「これが連中の企みだったんだ」
マック
「聞こえているんだろ? ベス、お前は今、反逆罪で捕らえられているのは知っている」
ベス
「それは違います! 僕は正しい、間違っちゃいません!」
エルミ
「貴方、居ました! ベスが居ました!」
マック
「本当だな、ベス?」
ベス
「僕がジョーダン家の家名を傷付けるような事をするとお思いですか?」
エルミ
「そうだよ、そうだよね。ベス、お前がそんな事をする訳がない。ベス、こっちを向いておくれ。顔をお見せ」
ベス
「いえ、出来ません。」
マック
「向けられんのか? 私に顔を向けられんのか?」
ヌーシャン
「ドアを開けましょうか?」
ベス
「あっ……!」
「そんな事をしてみろ! 舌を噛み切ってでも死ぬぞ!」
マック
「しかし、今は軍の命令に従うのが正しい! ベス、ドアを開けろ!」
エルミ
「ベス、ベス! 駄目なのかい、もう一度顔を見せて話し合えば分かる筈よ!」
マック
「エルミ、もういい、行こう」
ベス
「……全く」
コスモ
「ベス、いいのか?」
ベス
「俺一人が肉親の情に負けてみろ。それは俺のエゴかもしれんのだ」
「そんな小さな事に囚われてイデの力が強くなって、あの両親まで焼き尽くす事になるとしたらどうなる?」
コスモ
「エゴは善き力ではないもんな……」
ベス
「だから今は家族を捨てる。お前だってそうだろう、コスモ」
コスモ
「その方が、両親を救う事になる」
ベス
「そう思いたいな」
コスモ
「2・30分したら、ポイント・シグナルを消そうか」
ベス
「そうだな」
ルクク
「各隊、先行のアディゴ隊が巨神を引き摺りだしたら、重機動メカ『アブゾノール』が敵を捕える」
「その上で間髪を入れず集中攻撃を掛ける!」
ハタリ
「敵影発見! 北側から侵入してくるぞ!」
ジョリバ
「ベスからの応答がないんだ。どうする?」
シェリル
「ハタリ、地球連合軍の動きに気を付けて。こんな時にソロ・シップを乗っ取りにくる事は考えられてよ」
ハタリ
「分かってる。全員、地上の動きにも気を付けてくれ!」
「ジョリバ! ソロ・シップ、ノーマル・エンジン始動!」
ジョリバ
「了解!」
カーシャ
「デク! デクにはミサイルを任せるわね!」
モエラ
「よーし、直ちにドッキングだ!」
カララ
「ベスとコスモのポイント・シグナルから、救助信号に変わりました」
シェリル
「救助信号に? ハタリ、助けには行けないの?」
ハタリ
「敵の戦力が分からん。イデオンだけで食い止めてくれればやりようもあるんだがな」
シェリル
「かなりの戦闘機の数じゃない?」
ジョリバ
「後ろからも来るぞ! 左舷、対空戦急げ!」
カララ
「もし捕われているのなら、助け出さないと……!」
シェリル
「カララ!」
「あぁっ!」
ハタリ
「こんな状態じゃ、ベスとコスモを助けになんか行けやしない。おい後方、ミサイル手薄だぞ!」
「うわっ!」
コスモ
「はっ……!」
ベス
「バッフ・クランか?」
コスモ
「あぁ!」
ベス
「あれだけやられても来るという事は……」
コスモ
「戦力が次々と補給されているんだな」
カララ
「イデの現れるのを見る為には、貴方はこの船に居なければなりません」
ギジェ
「クッ……」
カララ
「その為には、貴方はソロ・シップに必要な人だという事を示さなければなりません」
ギジェ
「それが許されるのなら、是非……!」
カララ
「他の人達は、上からの攻撃を防ぐので精一杯です。ベスとコスモを救出する為に船の外に出ます。手伝ってください」
ギジェ
「お手伝いします。……が、こんな私を信じて頂けるのですか、カララ様?」
カララ
「信じます、あの涙……」
ギジェ
「カララ様……」
カララ
「ここでは身分はありません。『様』はやめてください」
「さっ!」
ギジェ
「は、はい!」
エルミ
「あぁっ……あれが、ベス達が呼び込んだ異星人だというんですか?」
マック
「ジョーダン家を、ジョーダン家を目茶目茶にしおって……軍に優秀な成績で入ったというのに……」
「死んでくれ、軍人として名誉の死を選んでくれ!」
エルミ
「もう一度、説得してみましょうよ。ベスは私達の息子ですよ。きっと分かってくれますよ。親孝行な子だったじゃありませんか」
マック
「そ、そうだ……。いい子だった……いい子だった……!」
カララ
「ギジェ、大丈夫ですか?」
ギジェ
「こいつの性能が分かりませんが、やってみます」
ジョリバ
「何? カララとギジェが逃げ出した?」
ソロ星の軍人
「脱出したんだ。撃ち殺すぞ!」
シェリル
「駄目、撃ってはいけないわ! それよりソロ・シップを守る事の方が先の筈よ!」
「あぁっ!」
ギジェ
「あの建物の中……」
カララ
「はい」
ギジェ
「拳銃になさってください」
カララ
「はい」
ルクク
「アブゾノールが出るぞ、いいな? 作戦通り仕留める!」
モエラ
「右にも来た!」
カーシャ
「正面!」
モエラ
「はっ……!」
カーシャ
「あっ!」
「どうしたの? パワーが急激に減ってきたわ!」
モエラ
「カーシャ、出力を上げるんだ! イデオンのパワーはこんなもんじゃない筈だ! 上げろ!」
カーシャ
「そうなんだけど……!」
ルクク
「ふふっ……思った通りだ。巨神のエネルギーとて自ずからの出力には限りがある」
バッフ・クラン兵
「しかし、何故……?」
ルクク
「対巨神用の最終メカ、巨神がエネルギーを出せば出すだけエネルギーを吸収する。後は動きを止める他ない!」
シェリル
「イデオンが? 何故動けないの?」
ハタリ
「イデの力にも限界があるのか?」
カーシャ
「キャーッ!」
ハタリ
「うぅっ……!」
モエラ
「クソッ……!」
ルクク
「よし、アブゾノールは巨神を運べ!」
ハタリ
「あっ、イデオンが持っていかれる!」
シェリル
「カーシャ達に連絡取れないの?」
ハタリ
「だ、駄目だ。通信機も使用不能だ」
カララ
「掴まえました。右へ470m……いえ、これは250m位です」
カーシャ
「誰か、聞こえないの? イデオンのゲージは点いてるっていうのに……!」
モエラ
「デク、そっちから連絡してくれ! 音が聞こえないぞ!」
「おい、ノーマル・パワーも上がらんとはどういうこった?」
テクノ
「動けよ、動け……動いてくれ!」
シェリル
「こちらソロ・シップよ応答して! カーシャ、デク、モエラ!」
「あっ……!」
ハタリ
「ベスからの救助信号も消えちまったぞ!」
地球連合軍兵士
「誰か……うっ!」
カララ
「ギジェ、殺しては駄目です」
ギジェ
「急所は外してあります」
地球連合軍兵士
「……空軍は呼んでいるのか?」
 〃
「このまま、ソロ・シップとかを……ん?」
 〃
「何者かね、君達は?」
「うっ!」
 〃
「あっ!」
マック
「……親不孝者めが! もう親でもない、子でもない!」
エルミ
「もう一度考え直しておくれ、ベス!」
ヌーシャン
「話にならんな!」
カララ
「……ベスのご両親なのか?」
ヌーシャン
「ええい、防空壕へ移るぞ!」
カララ
「ベスのご両親は……」
ギジェ
「分かっております」
マック
「すまん事です、すまん事で……」
カララ
「お母様……」
地球連合軍兵士
「うぅっ!」
ギジェ
「早くここを逃げないと、空襲に遭います!」
エルミ
「あ、貴方……!」
マック
「何っ……?」
ギジェ
「お急ぎください!」
カララ
「貴方がたの良きようにきっと致します! ここはお逃げください!」
マック
「ベスの仲間か?」
エルミ
「なら、ベスを悪い所に巻き込まないでください!」
ギジェ
「ご無礼!」
マック
「うっ……!」
エルミ
「あっ、貴方……!」
ギジェ
「お下がりください! 下がりませんと、本当に撃ち殺します!」
エルミ
「ベスを悪い道へは誘わないでください!」
コスモ
「カララ!」
カララ
「ベス……!」
コスモ
「ギジェ! あんたが来てくれたのか」
ベス
「ギジェだと?」
カララ
「ええ。人手がなかったので、私の勝手な判断で来てもらいました」
ギジェ
「何人かの兵を倒してきた。急がないと……」
コスモ
「あんたを疑っていた事を、悪いと思うよ」
ギジェ
「いや、仕方ない事だ。私への憎しみを忘れてくれなどとは言わない」
ベス
「私もだ……が、来てくれて嬉しい」
ギジェ
「すまん」
ベス
「行くぞ、カララ!」
カララ
「はい!」
ギジェ
「私は、イデの力を見たい……それだけだ。が、カララ様が居なければ私も助けには来なかった」
コスモ
「そんなもんさ、人間なんてな!」
エルミ
「あっ……貴方、見ましたか?」
マック
「うむ……さ、兵隊が気付いた。巻き添えにならんように……」
エルミ
「ベスが……!」
カーシャ
「ゲージがパワー・アップを示しているわ!」
モエラ
「カ、カーシャ、動くぞ! まだイデオンは動く!」
カーシャ
「やってみる! いいわね、全ミサイル発射!」
ルクク
「何? 巨神のパワーがまた上がったと?」
カーシャ
「こんな事ぐらいで……!」
シェリル
「イデのパワーが上がってる! ハタリ、イデオンと共同作戦なら倒せるかもしれなくってよ!」
ルクク
「ええい、砲撃が足らんぞ! 巨神と船を接近させるな!」
カーシャ
「アァーッ!」
モエラ
「エネルギーが復活した!」
バッフ・クラン兵
「巨神から再びエネルギーが……ルクク様!」
ルクク
「構わぬ、ドンドン吸収させればいい! どうせ最後の足掻きに過ぎぬ!」
モエラ
「輝きが激しくなる……!」
ルクク
「何というエネルギーだ。メカの吸収能力を遥かに上回って……底知れぬ無限の力……」
エルミ
「私達は、悪い夢を見ているのかしら……?」
マック
「夢だ……これは、悪夢だよ……」