第33話 ワフト空域の賭け

前回のあらすじ
人々が次々と死んでいった。ソロ・シップに協力的な地球連合軍のレクラン、
ハルルの怒りを買ったバッフ・クランの指揮官ルクク・キル、その暗殺者クララ……
そして、イデオンのクルー・モエラもまた、宇宙の塵と消えていった。
イデなる力は、血の生贄を欲する化身と化したのだろうか。
カララ
「ベス……」
ラポー
「うぅっ、死んじまっちゃしょうがないのに……」
コスモ
「ラポー……あんた、モエラの事を……」
「ごめんよ」
ラポー
「コスモ……ねぇ、私達の運命、変えられないの? イデなんて物があるからって……」
コスモ
「変えられると思うから、みんな頑張って戦っているんじゃないか……」
バッフ・クラン兵
「ロゴ・ダウの異星人の船は速度を変えません」
ハンニバル
「よーし、このままの距離を保て」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
メバルル
「司令」
ハンニバル
「メバルル・クオウか」
メバルル
「良いのですか? このままでは、ロゴ・ダウの異星人は辺境の地へと逃げ失せてしまいます」
ハンニバル
「分かってはおる」
メバルル
「ドバ総司令の指示を待っていたら後手を踏みます。先軍の為にも、足止めの作戦を行った方が良いのではないでしょうか?」
「失敗した時は、私の勝手な行動と解釈していただいて構いません」
ハンニバル
「策はあるのか?」
メバルル
「以前ハンニバル様が教えてくださった、ワフト・エリアに誘い込みます」
ハンニバル
「ワフト・エリア?」
バッフ・クラン兵
「どうやって追い込むというんだ?」
 〃
「あの中は危険だ」
 〃
「飲み込まれたら、二度と出られないぞ」
ハンニバル
「黙れ!」
「面白いな……ワシは許可せんが、面白いな……」
メバルル
「はい!」
カーシャ
「私は反対よ! モエラの代わりにギジェをイデオンに乗せるなら、その分、私がやってみせるわ!」
シェリル
「気持ちは分かるけど、そう言い切って責任を持てて? カーシャ」
カーシャ
「シェリルさん……少しは昔のシェリルさんになったらどうなの? ギジェに騙されたりして!」
シェリル
「口が過ぎるわ、カーシャ。私達、騙し合いなんか……」
カーシャ
「私達? 私達っていうのが騙し合った結果なんでしょう!」
ハタリ
「しかし彼のパイロットとしての才能は、ソロ・シップにとってもイデオンにとっても必要だ。これはコスモの意見でもある」
カーシャ
「冗談じゃないわ!」
「コスモ……!」
コスモ
「言ったさ。そんな気がするんだ」
カーシャ
「でもね……!」
ハタリ
「イデは善き心によってより良く発動する。あのバッフ・クランの伝説が俺には気になる」
カーシャ
「でも、今私達が全力を尽くせば……!」
ハタリ
「ギジェが我々を裏切るつもりなら、とっくにやっているだろう?」
ギジェ
「チャンスはあったろうな」
ハタリ
「ベスも倒れた今は、一人でも人材が必要だ」
シェリル
「私からも頼みます。ギジェにより良く自分を示すチャンスを与えて頂戴」
ロッタ
「ハタリ、何?」
ハタリ
「すまんギジェ。かと言って俺には、貴方の全部を信じる程の度胸はない」
ギジェ
「うむ、信じられんのが当然だと思う」
コスモ
「本当は、そういうレベルじゃないんだけどな」
ハタリ
「この子は強い子だ。彼女を貴方の監視に付ける」
「俺達を裏切るような行動に出たら、彼女に撃たせる」
ロッタ
「あっ……」
ギジェ
「私も全力を尽くす」
ハタリ
「シェリル、カーシャ、いいな?」
シェリル
「ありがとう、ハタリ」
カーシャ
「ハタリ、一方的じゃなくて?」
ハタリ
「ギジェが裏切ったら、俺を裁いてくれてもいい」
カーシャ
「そういう事じゃ……」
ジョリバ
「警報だ! 第二戦闘ライン上に重機動メカらしい。二機いるぞ!」
カーシャ
「(?)か……!」
シェリル
「宜しくね」
コスモ
「大丈夫じゃないの?」
デク
「わっ……」
ギジェ
「コスモ君、宜しく頼む」
コスモ
「メイン・エンジンのコントロール・チェックと対空監視だ」
ギジェ
「了解!」
デク
「コスモ、あんまギジェを信用し過ぎるよ。俺は嫌だな」
コスモ
「パイロットとしての腕は買えるんだ。もう少し心を広く持つんだな」
デク
「いつお坊さんみたいになっちゃったんだ?」
「よっと」
カーシャ
「今、ロッタが乗るわ。勝手な行動は取らないでね!」
ギジェ
「了解」
「君も不安だろうが私は嬉しい。このイデオンのゲージの輝きが巨神の中から見られるという事がな」
ベント
「その言葉を信じたいもんだ」
ギジェ
「ロッタさん、私の事で気に入らぬ事があれば、一発とは言わない……十発でも二十発でも撃ってくれていい」
ロッタ
「えぇ、そうさせてもらうわ」
ギジェ
「あぁ、手間を掛ける」
メバルル
「そろそろ接触するぞ。各員、戦闘態勢に入れ!」
コスモ
「キャッチした!」
デク
「了解! (?)に切り替える」
コスモ
「アディゴとかいう奴だな。ギジェ、後ろの重機動メカらしいのは分かるか?」
ギジェ
「質量、大きさ……分からん、全く新しいタイプだ」
コスモ
「よし、ドッキングして対決する。カーシャ!」
カーシャ
「了解! ギジェ、分かって?」
ギジェ
「ドッキング・フォーメーション、了解!」
ベント
「エネルギー・パワー正常、ドッキング準備OK! 分かるな?」
ギジェ
「ん……」
バッフ・クラン兵
「巨神です、間違いありません!」
メバルル
「よし、最初の作戦通り、ワフト・エリアに誘い込め!」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
デク
「30機……30機は居るよ!」
コスモ
「了解」
ギジェ
「あんな数……行けるのか?」
ベント
「分かるもんか! あんたが攻めてきた時だって、自信があって戦った事なんか一度もありゃしないんだ!」
ギジェ
「すまなかったな」
ベント
「来る!」
ギジェ
「アディゴめ、速い! しかし、この巨神のバリアは凄い。落ちなかった訳だ!」
コスモ
「ミサイル一斉発射だ!」
ギジェ
「おぉっ……!」
メバルル
「アディゴ隊め、無差別に攻撃しすぎる! もっと左から攻めさせろ!」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
メバルル
「ワフト・エリアに近付いているのだ。一気に押し込むぞ!」
デク
「右からも来るよ、コスモ!」
コスモ
「ギジェに撃たせろ!」
ギジェ
「くぅっ……!」
デク
「あぁっ……!」
コスモ
「何だ?」
ギジェ
「何という……!」
カーシャ
「つ、捕まった?」
デク
「わぁっ!」
コスモ
「くそぉっ……!」
デク
「イデオンが運ばれるよ!」
コスモ
「こ、こんな事でイデオンが落とせると思っているのか!」
ロッタ
「あぁっ!」
ベント
「ロッタ、目を離すな!」
ロッタ
「すみません!」
ギジェ
「大丈夫か!」
ロッタ
「え、えぇっ!」
ギジェ
「むっ、あれは……!」
「しまった、ワフト・エリアだ! こんな空域に居たのか……」
「ベントさん、コスモ君、カーシャさん、後退出来ないか? ワフト・エリアに入っては……」
ベント
「ワフト・エリアって何だ?」
ギジェ
「無数の鉱物生命体が居る空域だ。呑み込まれたら出られないぞ!」
メバルル
「巨神を呑み込める程のバンテを見付けろ!」
バッフ・クラン兵
「メバルル様、大丈夫ですか?」
メバルル
「急げばよい!」
ベント
「ギジェ、岩が動いた!」
ギジェ
「バンテだ!」
メバルル
「クローを放せ! ワフト・エリアから脱出するぞ!」
コスモ
「何故、パワーが上がらないんだ?」
「あぁっ……!」
ギジェ
「捕まった!」
カーシャ
「何?」
ロッタ
「バンテですって?」
デク
「何?」
メバルル
「ふふっ……ワフト・エリアに呑み込まれたエネルギー体が、生き延びた試しがない」
「よーし、巨神の始末はバンデがしてくれよう。ロゴ・ダウの船を攻撃する」
カララ
「あっ……ワフト・エリア、思い出しました。ワフト・エリアです、あれは」
シェリル
「ワフト・エリア? 何、それ?」
ハタリ
「敵襲キャッチ!」
シェリル
「え?」
ハタリ
「怯むな! 対空戦闘、各銃座任意に敵を撃て!」
シェリル
「イデオンは何をしているの?」
カララ
「例えイデオンでも、ワフト・エリアのバンデに捕まったのでは……」
シェリル
「何なの? その、ワフト・エリアのバンデって……」
リン
「ルウ、駄目よ……キャッ!」
カーシャ
「あぁっ、バリアが崩れていくわ!」
ギジェ
「ノーマル・エンジンのパワーがまだある!」
ベント
「脱出出来るか?」
ギジェ
「巨神のパワーをよく知らんから分からん!」
コスモ
「どっちに向かえば脱出出来るんだ」
デク
「コスモ、大変だ! バリアのパワーが下がっていく!」
カーシャ
「ギジェ、バリアのパワーを吸い取って増殖しているんじゃないの? この岩……」
コスモ
「増えてる?」
ギジェ
「まさか……!」
カーシャ
「駄目なの?」
ギジェ
「馬鹿な! イデの力はそんなに弱い筈はない。信じるのだ、イデオンの持つイデの力を!」
デク
「わっ! こ、これでお終いなの、コスモ?」
コスモ
「冗談言うな、これぐらいで……!」
ロッタ
「そ、そうよ、デク。男の子なら最後まで頑張りなさい……キャッ!」
ギジェ
「座ってる方がいい!」
ロッタ
「えぇっ……!」
コスモ
「ん、イデオン・ガンのパワーが上がっている……」
デク
「イデオン・ガンを持ってこなかったよ?」
ハタリ
「正面に出たぞ! 主砲撃て!」
シェリル、ジョリバ
「わぁっ!」
カーシャ
「イデオン・ソードよ! コスモ、回路を切り替えて!」
コスモ
「了解! ギジェ、ベント、回路チェック!」
ギジェ
「どれだ?」
ベント
「右下のレバー!」
コスモ
「ニューロ加速器作動!」
ギジェ
「バイオニック・コンデンサー、上がっている!」
カーシャ
「了解、イデの流速反転!」
ルウ
「ママーッ!」
シェリル
「イデのパワーが上がりだしたわ!」
コスモ
「よーし、行くぞ! イデオン・ソード!」
ギジェ
「凄い!」
ロッタ
「私達、助かるの?」
ギジェ
「助かります! これなら……。ロッタさん、ベントさん、このイデオンは凄い。明らかにイデの力の発現だ!」
デク
「モニターが点いた!」
ベント
「現在地点、確認! 脱出目標地点へ右30度、移動!」
コスモ
「了解!」
メバルル
「巨神だと? ワフト・エリアから脱出したのか……。巨神を叩く!」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
コスモ
「同じ戦法は無駄だ!」
「イデオン・ソード、行けぇっ!」
「ソードが効かない!」
ギジェ
「パワーが極端に減ってるぞ!」
ベント
「脱出の無理が祟ったな。見てくる。ここを頼む。ロッタ、目を離すな」
ロッタ
「えぇっ!」
カーシャ
「来た!」
ギジェ
「むっ!」
カーシャ
「ギジェ、勝手に撃たないで……キャッ!」
ロッタ
「そうよ、チーム・ワークがなければ戦いには勝てないわ。カーシャの言う通りにして!」
ギジェ
「わ、分かった!」
「おっ……!」
ロッタ
「あぁっ!」
カーシャ
「大丈夫、ロッタ? ギジェ、どうしたの?」
コスモ
「ギジェ!」
デク
「コ、コスモ、来るよ! ワフト・エリア!」
コスモ
「後がない! ドッキング・アウトして脱出する!」
デク
「わぁっ!」
ギジェ
「うぉぉっ!」
カーシャ
「キャーッ!」
メバルル
「ワフト・エリアへ放り込め!」
コスモ
「させるかーっ!」
バッフ・クラン兵
「おっ……!」
 〃
「バ、バンデが……!」
 〃
「我々も脱出しないと……!」
 〃
「うわぁぁーっ!」
メバルル
「余計な事をするからだ!」
「んっ……!」
ギジェ
「クッ……!」
「共にバッフ・クラン同士で戦うか!」
「んっ……俺は今、俺の腕で……チャンスかもしれん」
メバルル
「ん?」
ギジェ
「私はギジェ・ザラルだ。巨神メカの一部を奪い取った」
メバルル
「貴様……我々を裏切った筈……!」
ギジェ
「例えどんなに心を開いても異星人同士、所詮、信じ合う事は出来ぬ、そう気付いた! やはり俺はバッフ・クランだ!」
「んっ……?」
ロッタ
「ギジェ……!」
「あっ、あぁっ……!」
「はっ……!」
メバルル
「ギジェ、どうした?」
ギジェ
「ちょっとした邪魔が入ったが解決した」
メバルル
「よし、受け入れよう」
ギジェ
「了解!」
デク
「コスモ、あれはどういう事?」
コスモ
「分かるもんか」
デク
「ギジェが僕達を裏切ったんじゃない? コスモ!」
カーシャ
「だから私は反対したのよ!」
コスモ
「いや、挟み撃ちで倒す! 絶好のチャンスだ!」
ギジェ、ロッタ
「あっ……!」
ギジェ
「了解!」
ロッタ
「あっ、ギジェ……」
ベント
「だ、駄目だ……!」
メバルル
「ギジェめ、謀ったな! 小賢しい戦術を……!」
「ドバに認められ、捨てられたギジェ如きの言葉を信じた私が馬鹿だというのか!」
ギジェ
「カーシャさん、13ブロックのミサイルとキックで……!」
カーシャ
「分かってます!」
メバルル
「うわぁぁっ!」
「ギジェめ、売国奴が……!」
ハンニバル
「うら若い命をな……」
ハタリ
「ロッタ、どうなんだ?」
ロッタ
「私には分からないわ……」
カーシャ
「結果はどうあれ、状況から判断してギジェが逃げようとした事には間違いない筈でしょ?」
ベント
「俺もそう思わざるを得ないな。敵を倒す作戦だったら、俺達と打ち合わせする筈だしな」
シェリル
「ギジェ、どうなの?」
ギジェ
「どの道、疑われる身だ。弁解はしない」
カーシャ
「この人は、イデオンを持って逃げるつもりだったのよ!」
ハタリ
「コスモはどう思うんだ?」
コスモ
「俺は、結果で判断するしかないと思っている」
デク
「いい加減だよ、それじゃ! コスモはイデオンの責任者だろ? はっきりしなよ!」
ハタリ
「どうしようもないな」
コスモ
「スッキリさせようぜ」
ハタリ
「ん?」
コスモ
「コインでも投げて……」
ハタリ
「コイン?」
コスモ
「表が出たらギジェは味方、裏が出たら……」
カーシャ
「下らない事を……!」
コスモ
「じゃあ、ギジェを処罰するか?」
カーシャ
「あっ……」
ハタリ
「疑わしきは罰せずともあるが、俺達は凡人だ。どちらかにハッキリはさせたい」
コスモ
「ああ。裏が出たら、ギジェは裏切り者だ」
ギジェ
「いいだろう」
コスモ
「……表だ」
ギジェ
「あっ……」
シェリル
「ギジェ……」
カーシャ
「こんな事で……こんな事で、こんな大事な事を決めてしまうの? コスモ……コスモったら……!」
コスモ
「じゃあさ、カーシャはギジェが裏切り者だって言えるかい?」
「信じるよ、今日のギジェ・ザラルだけは」
ナレーション
ギジェは、その時考えていた。自分は本心からバッフ・クランの地球に戻ろうとしたのか。
それとも、あの行動は作戦だったのか……。今の自分には、分からないと……。