第34話 ワフト空域の賭け

前回のあらすじ
イデオ・ノバを操るギジェは、メバルルと連絡を取り裏切りと見せ掛けた。
コスモはそのギジェの行動を信じて、メバルルの重機動メカに挟み撃ちを掛けこれを叩いた。
ロウ
「はい、間もなくドバ総司令自らが発進致す所で御座います」
「はい、流星による被害もイデの力を手に入れれば……」
バッフ・クラン兵
「バイラル・ジンだと? 知らなかったな……」
 〃
「どこで建造してたんだ?」
 〃
「あれだけじゃないって話だぞ」
ハンニバル
「一時間前の軍事ニュースと言ったな」
バッフ・クラン兵
「はい」
ハンニバル
「ふふっ……こりゃ出世のチャンスだぞ。あの大軍団が来る前に巨神を倒してみろ、貴族になれるぞ」
「いつまでニュースを見ている? ロゴ・ダウの異星人の船の追跡は、今はどうなっておるのか?」
バッフ・クラン兵
「部署に就け!」
 〃
「大丈夫であります、キャッチし続けております!」
ハンニバル
「追い掛けろ!」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
カーシャ
「一体、どういう事なのかしら? エネルギーが増えたり減ったり……」
ギジェ
「こういう物ではなかったのか、イデのゲージは?」
コスモ
「ああ、最近のパワー・アップの後はよくこうなるけど……」
ギジェ
「パワー・アップのし過ぎか?」
カーシャ
「パワー・アップのし過ぎ……?」
シェリル
「ルウ、おいたはいけないわ。……ルウ!」
カーシャ
「シェリル、ルウなんか構ってないでゲージの事を調べて?」
シェリル
「どうしたの?」
コスモ
「イデオンのゲージが不安定過ぎる」
ギジェ
「どうなのだ?」
カーシャ
「いい加減に、コントロールする方法見付からないの?」
ジョリバ
「すまんな……」
コスモ
「そうなんだよ。可能性があるから第六文明人はこれを造ったんだろ?」
シェリル
「私の責任だわ、未だにそれが分からないのは……」
カララ
「イデオンとソロ・シップは、コントロール出来なくなったと考えた方がいいのでは?」
カーシャ
「何故?」
ジョリバ
「どういう事だ?」
カララ
「もし、イデが善き者と悪しき者を判断する事が出来るとするならば、イデに物を考える力がある訳です」
シェリル
「そういう事になるわね……」
カララ
「しかも、その考えがエゴ……つまり、イデの自分勝手な考えによって決められるとしたら……」
シェリル
「あり得るわ」
コスモ
「じゃあ、バッフ・クランの伝説のイデの英雄っていうのは、何なんだ?」
カララ
「伝説は伝説です。英雄を見た人は一人も居ないのですから……」
カーシャ
「で、でも……何故? じゃあ何故、第六文明人はソロ・シップを造ったの?」
カララ
「では何故、第六文明人は滅びたのでしょう?」
ミラクリン
「デス・ドライブ、2分前。各艦、デス・ドライブ隊形に入れ」
フランクリン
「よし、デス・ドライブに入れ」
ミラクリン
「はっ!」
フランクリン
「マーシャル・フランクリンの名前に賭けて、ソロ・シップは必ず連れ戻すぞ」
ミラクリン
「デス・ドライブ、スタート!」
バッフ・クラン兵
「重力震は続いております。本船より、スイイ65、ハッパ35度、回りません」
ハンニバル
「うむ……この地点で亜空間飛行を取れば、ドウモウ・スターに近いか」
バッフ・クラン兵
「ロゴ・ダウの異星人の船を叩くのではないのですか?」
ハンニバル
「叩く! ドウモウ・スターを利用してな……」
バッフ・クラン兵
「ドウモウ・スター?」
ハンニバル
「不勉強だな、ドウモウ・スターも知らんのか?」
バッフ・クラン兵
「三年前に一度調査されただけですから……」
ハンニバル
「キロット・ザン2艦はドウモウ・スターで待ち伏せさせろ。ガドモワ・ザンは敵に体当たり攻撃を掛ける」
バッフ・クラン兵
「はっ……体当たり?」
ハンニバル
「うむ」
ハタリ
「敵だ!」
ジョリバ
「方位計測!」
ハタリ
「イデオン、発進急げ! 7時の方角、3.6亜空間距離! 後門ミサイル開け!」
「時空震の振動を利用しているのか……!」
カララ
「時空震の利用?」
シェリル
「ソロ・シップのパワーを利用して、敵艦が吸い付いているの?」
カララ
「ドロワ・ザンとソロ・シップの時みたいに……」
ハタリ
「そうだ、こちらのパワーに乗ってくる。手強いぞ!」
カララ
「ご、ごめんなさい。起こしてしまった?」
ベス
「敵襲か?」
カララ
「小部隊ですから……」
ベス
「ハタリでは手に負えんのだろ?」
カララ
「い、いえ……」
「まだ熱があります」
べス
「何が聞きたいんだ?」
カララ
「敵艦が吸い付いてきます」
べス
「デス・アウトで逃げるしかない、が……」
カララ
「はっ……?」
ベス
「デス・アウトした同じポイントに敵艦も追ってくる。だが、その時はその時で考えるんだな」
カララ
「はい……」
ハンニバル
「ミサイルをぶち込め! 本艦がどうなっても構わん!」
ハタリ
「バリアのパワー、上がらんのか!」
カララ
「あぁっ……ハタリ、デス・アウトを……!」
ハタリ
「おう! デス・ドライブ・ブレーキ、イデオン各機固定のまま!」
ハンニバル
「逃がすな、亜空間飛行解除!」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
ハタリ
「惑星だ。ジョリバ、全天座標確認!」
ジョリバ
「やってる!」
カララ
「ベスは敵も追ってくると……」
ハタリ
「イデオン各機は、発進態勢のまま待機!」
ジョリバ
「どうする? 敵が追い付くようだ」
ハタリ
「この惑星を盾にするしかないな。低空で惑星に進入して、反対側に出たら脱出する」
ハンニバル
「上手くドウモウ・スターへ誘き出せた。先発隊、上手くキャッチしろよ……!」
コスモ
「監視を怠るな。どうも罠に嵌められたような気がする」
デク
「そんな……わっ!」
コスモ
「やっぱり……!」
シェリル
「あぁっ……!」
コスモ
「そら見ろ!」
ハタリ
「編隊が来るぞ! 総員、対空戦闘用意!」
コスモ
「敵に主導権を握られている。こっちのペースに巻き込む!」
デク
「ゲージが安定しないけど……」
コスモ
「このままでは一方的に叩かれる。各機、いいな?」
ギジェ
「了解!」
カーシャ
「行くわ!」
コスモ
「発進だ!」
デク
「わっ……!」
コスモ
「ど、洞窟か……?」
デク
「奥は真っ暗だよ?」
カーシャ
「あっ……!」
ギジェ
「ドウモウ……!」
テクノ
「ドウモウ?」
ギジェ
「この二、三年前に発見された星だ。前に、博物学者の公演を聞いた事がある」
コスモ
「ソロ・シップを援護する!」
デク
「あぁっ!」
ギジェ
「我々をこの星に誘い込んだ訳が分かった!」
カーシャ
「ギジェ、どうしたらいいの?」
コスモ
「空は敵機、地上にはドウモウ……袋の鼠って訳だな」
ギジェ
「ドウモウの影に!」
カーシャ
「キャーッ!」
「うっ、うぅっ……動きが取れない……!」
ベント
「ドッキング出来ないの?」
テクノ
「駄目だ、パワーが安定しない!」
ギジェ
「カーシャ、援護する! タイミングを見て脱出しろ!」
コスモ
「ギジェ、これじゃ敵の思う壺だ。どうする?」
ギジェ
「ピンチはチャンスと兵法では云う。私がまず出る、続いてくれ!」
コスモ
「ギジェが囮になってくれるというのか? カーシャ、続け!」
ハタリ
「前方、ミサイル・ビームで脱出路を作る!」
カララ
「それはいけません!」
ハタリ
「何故……?」
カララ
「ドウモウは大人しい動物な筈です」
ハタリ
「しかし……」
カララ
「それに今は隠れ蓑になってるのでしょ?」
ベス
「カララ」
カララ
「ベス! 寝ていてください」
ベス
「どうなっているんだ?」
カララ
「すぐ脱出します」
シェリル
「今の事、本当なのカララ?」
カララ
「その筈です。それにイデに好かれる為には、無関係の生物を殺す事、避けた方がいいとは思いません? シェリルさん……」
シェリル
「そうね……イデがエゴであればあるほど……」
カララ
「ベス……」
「ベス……ベス!」
コスモ
「ギジェ、どうした? やられたのか?」
ギジェ
「一機ずつ叩いてる暇はない。ドウモウの下に引きずり込んで、一気に殲滅する!」
「しまった、囲まれた……!」
コスモ
「ギジェ、直進しろ! 前方の滝に隠れろ!」
ギジェ
「滝……?」
ベス
「我々だって……」
カララ
「ベス……」
ベス
「我々にだって……じ、自分の身を守る為に……考える力も……え、選ぶ権利もあるんだ……」
イデ
(夢の中)「幾千、幾万、幾億の意思の集合体たる我……我も、我が身を守る……守る、守る……」
ベス
(夢の中)「知恵の素、心の素は人だ! 人を殺してイデがあるものか……!」
イデ
(夢の中)「心の在りどころ足る、イデの場を守る権利がある……」
ベス
(夢の中)「何故、人同士の戦いを続けさせる?」
イデ
(夢の中)「私が聞きたい。何故、憎しみ合うのか……」
ベス
(夢の中)「憎しみ合ってはいない」
イデ
(夢の中)「成り行きを、何故に賢く切り抜けん?」
ベス
(夢の中)「成り行き……? それを作り、試しているのか……?」
イデ
(夢の中)「我々にそのような力はない。我々は我々という一つの物に過ぎん」
ベス
(夢の中)「共に苦しむ立場ならば、全力を尽くして善き道を探すべきだ」
イデ
(夢の中)「そのような力……」
ベス
(夢の中)「全力で示せ。そうすれば、意思の力は時空さえ超えられる筈だ」
(夢の中)「俺は貴様の一部じゃない……! 俺は俺だ……俺は俺そのものだ!」
カララ
「ベス……ベス……! しっかりして、ベス……!」
シェリル
「どう?」
カララ
「え?」
シェリル
「熱が引かないのね」
シェリル
「いえ、うなされてるようですけど……」
カララ
「ベス……!」
ベス
「カララ……恐ろしい夢を見た……」
カララ
「夢を……?」
ベス
「イデが、イデが……」
カララ
「イデ……?」
ベス
「イデは、自分を生き延びたがっている……」
カララ
「生き延びたがっている……」
ルウ
「イデ……!」
シェリル
「ルウ! ルウが話をした……!」
カララ
「ルウが?」
ルウ
「イデ……!」
バッフ・クラン兵
「宇宙船も3機の巨神メカも、見付かりません!」
ハンニバル
「探せ! 消えたポイントを探せばいい!」
バッフ・クラン兵
「自分に潜り込む訳ないんだ!」
テクノ
「この洞窟は……!」
ギジェ
「酷い高熱だ」
テクノ
「どうするね?」
ギジェ
「追っ手が来ない所を見ると、上手く撒いたらしいが……」
デク
「こんな事じゃ……あっ、何だろあれ……?」
カーシャ
「あっ、あれ……卵が割れるみたいに……!」
コスモ
「各機上昇しろ!」
カーシャ
「これ、卵じゃないの? ドウモウとかいう生き物の卵よ!」
デク
「卵?」
コスモ
「大き過ぎるから分からなかったんだ。卵だ、間違いない」
ギジェ
「ドウモウの卵が孵る場所へ逃げ込んだという訳か」
コスモ
「面倒な所に入り込んじゃったな」
ギジェ
「どうしてだ?」
カーシャ
「そうね、イデっていうのが態々私を試す為に……」
ベント
「正面!」
カーシャ
「えっ!」
コスモ
「んっ……?」
デク
「見付かった!」
コスモ
「出るぞ! ここで戦う訳にはいかない!」
「いいな?」
カーシャ
「了解!」
テクノ
「了解!」
ギジェ
「了解!」
ベント
「了解!」
コスモ
「突っ切れーっ!」
「うぉぉっ!」
「駄目だ、洞窟から出なくちゃ……!」
「な、何だ……?」
ギジェ
「イデオンのゲージが……!」
カーシャ
「あぁっ……!」
「あっ! 勝手にドッキングしないでよ!」
ギジェ
「イデオンが自分の意思で動いたのか!」
ハンニバル
「なっ……これだけの攻撃でも……!」
「突き放せ! 巨神を突き放せ!」
「うっ……!」
「や、やった……やったのか?」
カーシャ
「まさか……」
ギジェ
「ああ……!」
コスモ
「援軍か?」
カーシャ
「どうするの、コスモ?」
コスモ
「これ以上この星を荒らしたくない。脱出する。いいな、ギジェ?」
ギジェ
「賛成だ!」
バッフ・クラン兵
「あの艦隊は、援軍ではありません!」
ハンニバル
「何?」
バッフ・クラン兵
「ロゴ・ダウの異星人の仲間では……」
ハンニバル
「信号が上がっておる。よし、ドバ総司令の来る前に巨神を倒さねばならんとなると……」
「赤旗……いや、白い旗だ。揚げろ、司令官に会う」
ハンニバル
「貴公と同じ戦力の我々が一瞬にしてやられた。それもこれも、貴公らの仲間が勝手に巨神を動かした為にだ!」
フランクリン
「イデは知力を一つの場に集積して、エネルギーに転化する働きを持つと分かっている」
ハンニバル
「だがイデにも自分を守る力があるという」
「我がバッフ・クランの地球には、二年前から流星が降っているのをご存知かな?」
フランクリン
「流星だと?」
ハンニバル
「知っているのか」
フランクリン
「い、いや……地球にも二年程前から流星が……ま、まさかな、ふふっ……」
ハンニバル
「それがイデの力によって行われているものとしたら?」
フランクリン
「そんな、そんな馬鹿な事……そんな力があるもんか……この世の中にある訳がないだろう!」
ハタリ
「やれやれ、やっぱりタイプの船だったのか」
シェリル
「この宇宙に棲む、全ての人々を敵にしてしまったようね……」
コスモ
「でも、イデオンがイデのパワーで動いたんなら……イデは俺達の味方になってくれたんだろ?」
ギジェ
「そうだな。もし、純粋防衛本能によってイデが動くというのなら……」
カーシャ
「それは、ドウモウの卵にあったと考える方が正しいわね。私達が卵を救おうとした気持ちとは別のものかもしれないわ」
コスモ
「その両方だと俺は思うけどな」
ベス
「俺も、コスモの考え方を受け入れてもいいと思う」
シェリル
「ベス……」
ベス
「イデは人知の集合によって発生するエネルギーだ」
ギジェ
「だから……?」
ハタリ
「俺達生きる者の考えが、イデに反映するって言いたいのか?」
ベス
「そうだ。善き心、悪しき心、それぞれそれなりのな。しかし、一つ大変な問題がある」
コスモ
「そりゃないぜ。俺達はただ生き延びたいだけなんだから」
ベス
「いや、そうであったとしても……我々は、コントロールする事を知らない巨大な力を持っているという事だ」
ナレーション
それは、あたかもソロ・シップが流星を生み出しているかのようでだった。
そしてそれは事実、ソロ・シッ