第35話 暗黒からの浮上

前回のあらすじ
巨大生物ドウモウの自衛本能が導いたのか、コスモ達の叫びが導いたのか、それは分からなかった。
イデオンのゲージが急速にパワー・アップして、バッフ・クランの追撃部隊を一気に殲滅した。
フランクリン
「知っているのか、あの星を……」
ハンニバル
「貴公らの地球のある僻地以外なら知らん所はないが、守るに良く攻めにくいナイト・スター……どうするかな?」
シェリル
「あっ……すみません、わざわざ……」
ギジェ
「いや、何です?」
シェリル
「あの電子顕微鏡の写真を見て」
ギジェ
「イデオ・ナイトの写真?」
シェリル
「えぇ」
ギジェ
「この輝く成分が分からないというのですか?」
シェリル
「どうぞ」
ギジェ
「ありがとう」
シェリル
「純度の高い粒子に馴染んでいるあの光る物が、イデオンやソロ・シップを造っている金属の秘密ね?」
ギジェ
「イデそのもの、という訳か……」
シェリル
「いえ、イデを封じ込めて更にそのエネルギーを外へ放射するシステムそのものじゃなくて?」
ギジェ
「考える……が、イデ・ナイトが破壊されてもパワーは下がらない……これはどう説明するのかね?」
シェリル
「一度イデオ・ナイトで集められた意思は、いつの間にか独り立ちする……というのはどう?」
ギジェ
「そうだ。コンピュータの自己開発システムさえあるのだから……」
シェリル
「という事は、イデはそれ以上に自己主張するという訳ね?」
ギジェ
「そういう事だ」
シェリル
「コントロールなんて不可能じゃない……?」
ギジェ
「あぁ……」
シェリル
「私達、イデに弄ばれているのかもしれない……」
ギジェ
「思いたくないな……」
ハンニバル
「この衛星の下だ。ここをXポイントとしてロゴ・ダウの異星人の船を誘い出し、純光速ミサイルを衛星に撃ち込む」
フランクリン
「ふんっ……幾らソロ・シップといえ一溜まりもあるまい」
ミラクリン
「しかし、ナイト・スターまで落下した歪みで大破してしまうのでは?」
フランクリン
「構わん。無限エネルギーといわれるものが存在するのなら、確かめる必要がある」
ハンニバル
「そういう事だ。巨神の誘き出しは私がやる……が、バッフ・クランの侍の死に花というものを見せてやる」
ロッタ
「すいません」
カララ
「オムツ、濡れています。取り替えます」
ロッタ
「頼みます」
「ほら、ちゃんと勉強しなくちゃいけないでしょ?」
デク
「ヘイヘイ!」
カララ
「はいはい、すぐ気持ちよくしてあげますからね」
ロッタ
「最近マメね、カララ……」
デク
「お母さんっぽいんだよな」
ロッタ
「デクはお勉強!」
バッフ・クラン兵
「こんなびっしりのスター・ダストで、本当に入り込めますか?」
ハンニバル
「出来るよ。近くで見れば隙間は幾らでもある」
バッフ・クラン兵
「正体不明の電波が出てます。ロゴ・ダウの異星人のものでしょう」
ハンニバル
「他に電波を出すものはない筈だ。仕掛けるぞ!」
カララ
「うぅっ……」
ベス
「敵機だ! 総員、戦闘配置!」
カララ
「ロッタ、子供達を船の中央へ!」
リン
「ルウを頼みます!」
カララ
「はい! ルウ……」
デク
「急げ!」
コスモ
「こんな星に居ても見付かるのか……!」
カーシャ
「どうしてなの、一体……」
コスモ
「イデオンが『おいでおいで』って言ってるんじゃないの?」
デク
「ま、待って……!」
ギジェ
「帰ってくる!」
シェリル
「ギジェ……」
ベント
「遅いぞ!」
ギジェ
「すまない。数は多いのか?」
ベント
「1機だと」
ギジェ
「1機?」
カーシャ
「最近のバッフ・クラの出方としては、おかしいと思わなくて?」
ギジェ
「確かにな。ドウモウ・スターの残存部隊なら、そんなものかもしれんが……」
ベント
「意外と甘いんだな。後から大舞台が出てくるんじゃないのか?」
ギジェ
「そうかな」
デク
「上下に縦に並んだら?」
コスモ
「どうしてそう思う、デク?」
デク
「その方が、後から来る敵を発見し易いと思うよ」
コスモ
「よく出来た」
デク
「へへっ、ちゃんと勉強してんだもん」
地球連合軍兵士
「ハンニバルとイデオンが接触!」
フランクリン
「純光速ミサイルの方はどうか?」
地球連合軍兵士
「コースに入りました!」
ミラクリン
「イデオンは誘いに乗るでしょうか?」
フランクリン
「ソロ・シップのクルー達は曲りなりにも勝ってきた。その事は自信に繋がり、絶対に負けないと思い始める」
ミラクリン
「はい。無限力なるものを手に入れれば、自分もそう考えるでしょう」
フランクリン
「うむ。敵のその自信を持ちすぎる所がこちらの付け目だ。自信を持ちすぎると心に隙が出来る」
「パッファ、発進用意! 追い込むぞ!」
ハンニバル
「ふふっ……そうだ、付いて来い!」
コスモ
「素早い奴め!」
カーシャ
「こんなに岩だらけじゃ、レーダーだって役に立たないじゃない!」
ギジェ
「気を付けた方がいい。誘き出し作戦かもしれないぞ!」
コスモ
「デク、周りに気を付けろ!」
デク
「う、うん……うわっ!」
コスモ
「んっ?」
「クソッ……!」
カーシャ、テクノ
「あぁっ……!」
カーシャ
「何て速いの?」
ギジェ
「一度戦っているお前の性能は、大体想像が付く!」
「奴め、どこへ行った?」
カーシャ
「自分から戦いを仕掛けておきながら、逃げ回るなんて……」
コスモ
「あまり深追いしない方がいいかもしれないぞ。どう思う?」
カーシャ
「これだけ馬鹿にされて、引き下がれっていうの?」
「あっ……キャーッ!」
「このぉっ!」
カララ
「ベス、数は……?」
ベス
「重機動メカが二機らしい」
シェリル
「コスモ達、ちょっと調子に乗りすぎていない?」
ベス
「あぁ、だろうな。かといって、このスター・ダストではレーダーは全く用をなさんし……」
ハタリ
「いや、レーダーがキャッチした。6時の方向、敵戦闘機キャッチした」
ベス
「対空戦闘用意! ソロ・シップ発進!」
ハタリ
「ま、待てよ、ベス……」
ベス
「何故……?」
ハタリ
「スカラベリィの戦闘機だよ、ありゃ……」
ベス
「スカラベリィ……!」
シェリル
「えぇっ……?」
ベス
「バッファか!」
シェリル
「バッファ……?」
ジョリバ
「派手な挨拶してくれるぜ!」
ベス
「地球人共……!」
シェリル
「こうなると、カララがバッフ・クランに追われていた気持ち、分かるような気がする……」
ハタリ
「左右から巡洋艦、各一隻!」
ジョリバ
「ノーマル・エンジン、良好!」
ベス
「何? スカラベリィが後ろに付いているのか?」
ハタリ
「らしいな……視界には入っていない」
ベス
「後部ミサイル、水平発射!」
フランクリン
「バッフ・クランに手を借りる前に、落とせるものなら落とせ!」
シェリル
「放っておく事もしない、地球……何故なの?」
カララ
「無限力という言葉に憧れた、悲しい人々です。バッフ・クランと同じね……」
シェリル
「そんなにいい物ではないのよ、イデって……コントロール出来ないし……」
カララ
「自分の星の仲間は、賢いと思いたいのですけど……」
シェリル
「そ、そうね……」
ベス
「撃つしかないんだ、撃つしか……。そうしなければ、我々がやられてしまう!」
ハンニバル
「パワーではこちらも負けん。私はメバルルとは違う!」
コスモ
「行けぇっ!」
ハンニバル
「力尽くでもXポイントに引き摺りだすぞ!」
デク
「やられた……!」
ギジェ
「むぅっ……!」
カーシャ
「ウッ……!」
バッフ・クラン兵
「やった……!」
ハンニバル
「スカラベリィ、聞こえるか! 巨神はXポイントへ持っていく。宇宙船の追い込みを急げ!」
フランクリン
「了解だ。貴公の働きには感謝する」
ハンニバル
「おう! 侍が自ら散れば、家の子郎党、末代まで悔いはない! 無駄死にだけはさせるなよ!」
フランクリン
「死に急ぎはするなよ!」
ジョリバ
「そ、そういう事だったのか……そういう……」
「ベス! スカラベリィは、バッフ・クランと手を組んで攻撃しているぞ!」
シェリル
「えぇっ?」
カララ
「何で……!」
ベス
「そんな馬鹿な……!」
コスモ
「クソッ、素早い……!」
ハンニバル
「左ミサイル!」
コスモ
「こ、こんな事で落とされるなんて……!」
カーシャ
「コスモ! このバッフ・クラン、スカラベリィと手を組んでいるんですって!」
コスモ
「何っ?」
ギジェ
「バッフ・クランと……!」
デク
「引っ張られる! ミサイル!」
コスモ
「クソッ、こんな単調な攻撃に……!」
ギジェ
「コスモ、奴のパワーに逆らっちゃいかん!」
カララ
「うっ、あぁっ……」
シェリル
「カララ、どうしたの? 奥に行って横になっていなさい」
カララ
「え、えぇ……」
ベス
「どうした?」
シェリル
「大丈夫、ちょっと気分が悪いだけ」
バッフ・クラン兵
「巨神が距離を縮めています!」
ハンニバル
「純光速ミサイルの発射信号を!」
地球連合兵士
「純光速ミサイルの発射信号、確認!」
フランクリン
「ギド・マックに純光速ミサイルの発射を伝えろ!」
ハンニバル
「分離!」
コスモ
「クッ……!」
ハンニバル
「退けぇぇっ!」
コスモ
「ドッキング・アウトだ!」
カーシャ、ギジェ
「了解!」
ギジェ
「カーシャの方は大丈夫か?」
コスモ
「あれでも一人前だ!」
コスモ、ハンニバル
「ミサイル撃てぇぇっ!」
ハンニバル
「地獄へ落ちろぉっ!」
ギジェ
「バリアーッ!」
ミラクリン
「ギドマック、消えました」
フランクリン
「退避急げ! 純光速ミサイル、カウント・ダウン中だ」
地球連合軍兵士
「純光速ミサイル、発射準備よし!」
 〃
「ターゲット確認!」
 〃
「バッファ収容、後30秒で終わります」
フランクリン
「よし、純光速ミサイル来るぞ! 各艦、最後の一斉攻撃を30秒間続けろ!」
ベス
「戦闘機が引き上げた? 艦隊戦に持ち込もうっていうのか」
デク
「スカラベリィの巡洋艦が上がってくる!」
コスモ
「カーシャ、ドッキング急げ!」
カーシャ
「了解!」
ハタリ
「んっ……な、何だ……?」
ベス
「妙な振動だな」
フランクリン
「よーし、来たぞ! 各艦、急速デス・ドライブ、スタート!」
「ハンニバル・ゲン……バッフ・クランの死に花、無駄にはしないぞ」
コスモ
「わぁぁっ!」
カーシャ
「な、何っ……?」
デク
「隕石だ!」
ギジェ
「スター・ダストが……!」
ジョリバ
「月が落ちるぞ!」
ベス
「バリア全開!」
ハタリ
「エンジン最大パワー、焼き切れてもいい!」
カララ
「あぁっ……!」
「ルウ!」
「ルウ、危ないわ!」
「みんな奥の部屋へ移りましょう!」
ロッタ
「え、えぇっ! さっ、アーシュラ、ファード!」
ソロ星の軍人
「わ、わぁぁっ……!」
コスモ
「カーシャ、ギジェ、イデオン・ソードだ! イデオン・ソードでソロ・シップを守るんだ!」
ギジェ
「既にソードが発生している!」
コスモ
「何っ……!」
「こ、これは……!」
カーシャ
「く、食い止められるの……?」
ギジェ
「こ、これは……イデの力の発現か!」
コスモ
「ソロ・シップが……」
カーシャ
「ソロ・シップが潰されてしまったの?」
テクノ
「そんな事、そんな事あるもんか……!」
デク
「あぁっ……ベス、シェリル、ロッタ……」
カーシャ
「あぁっ……」
ギジェ
「んっ?」
地球連合軍兵士
「イデオンを足止めにさせていた巡洋艦は、連絡を断ちました」
フランクリン
「やむを得まい。ソロ・シップを仕留めたのだ、そのぐらいの犠牲はやむを得まい……」
「ん? 何の光だ。ナイト・スターの方向だが……」
コスモ
「な、何だ?」
カーシャ
「こ、この惑星が……」
ギジェ
「衛星の激突で、大異変が起きるのか……!」
コスモ、デク
「うわぁぁっ!」
カーシャ
「キャァァッ!」
ギジェ
「うぉぉっ!」
コスモ
「うぅっ……!」
デク
「ソロ・シップ……ソロ・シップが……!」
コスモ
「ソロ・シップだと?」
ベス
「これは、イデのパワーだ。イデの発現だ……!」
フランクリン
「間違いない……間違いないのだな……? ソロ・シップがまた浮上したのなら……」
地球連合軍兵士
「はっ……!」
フランクリン
「何という事だ、まるで悪魔の力が乗り移っているのか……あの船には……」
ベス
「俺達は、イデにコントロールを拒否されたのかもしれんな。イデの力によって助けられたと考えてはいけない。俺はそう思う……」
シェリル
「そうね……イデの力、善き心の顕れなんていうけれど、この破壊力は悪魔の力よ。あまりに大き過ぎる……」
カーシャ
「じゃあ、私達が悪魔だっていうの?」
シェリル
「そんな事は言ってないわ」
カーシャ
「でも……悪魔の力だなんていわれたら、私達……!」
ギジェ
「そうです、カーシャさん。しかし私は信じます。善き力による、イデの善き顕れ方がある事を……」
ジョリバ
「楽観的だな」
ハタリ
「そうでもない。な、ベスの夢の中で見たイデと、現実と同じであるなんて事はないんだ」
ベス
「そうだ。イデは英雄なのだからな……」
コスモ
「そうさ、英雄だったんだ。バッフ・クランの伝説では……」
カララ
「うっ、うぅっ……」
ロッタ
「カララ、今日は変よ? 少し休んでいた方がいいわ」
カララ
「えぇ、そうします」
ロッタ
「食べ合わせでも悪かったのかしらね」
カララ
「うっ、うぅっ……」
ロッタ
「リン、ラポーを呼んで!」
ナレーション
悪魔の船なのか、英雄の船なのか、マーシャル・フランクリンは自分の目でそれを確かめたいと思った。