第38話 宇宙の逃亡者

前回のあらすじ
バッフ・クランのドロンとアジアン星のコモドアの協力で、人質作戦が行われた。
しかし、その作戦は上手く行かず、ただ犠牲者を増やすだけであった。
ソロ・シップの行く所、ただ誤解と策謀を生み出した。人は、善き力を手に入れる事が出来ないのだろうか。
ベス
「この状態で、全天座標との照合は出来るのか、ジョリバ?」
ジョリバ
「出来る筈だ」
カーシャ
「これ全部、ソロ・シップを中心とした宇宙図よ」
コスモ
「こんなにキャッチ出来るなんて……」
ジョリバ
「来たぞ。ソロ・シップを中心にした全天宇宙図だ」
ベス
「という事は、あの赤い輝きはバッフ・クランの艦隊なのか」
ハタリ
「少なくとも星ではないな」
「やったぜジョリバ、思った以上に上手くいったな」
ジョリバ
「あぁ、イデのエネルギー計をレーダーに接続した価値があったってもんだ」
カーシャ
「でも、この点々が50万光年以上に離れているんでしょう? 信じられて? そんなレーダーがあるなんて……」
コスモ
「ちょっとね……」
ギジェ
「これでは、生体発信器など玩具だな」
コスモ
「そうだね。あれは場所を教えるだけだもんな」
ハタリ
「53万光年先の赤い点を拡大してみる」
ベス
「上手く映ってくれるかな」
「拡大」
「バッフ・クラン……間違いないのか?」
ハタリ
「座標軸は固定している。こりゃ現実の映像だ」
カララ
「またバッフ・クラン……?」
ギジェ
「いえ、あれは50万光年先の映像です」
カララ
「あれが……」
コスモ
「イデのエネルギーを利用しているんだってさ」
カララ
「イデの力?」
ベス
「囲まれているとなると、4時の方向が手薄のようだから……」
カーシャ
「敵襲!」
ベス
「何?」
カーシャ
「イデのレーダーは近い所が苦手のようね。行くわ!」
ハタリ
「バッフ・クランの艦隊だ。かなり居るぞ」
ベス
「デス・ドライブを掛けろ! 振り切る!」
ハタリ
「了解! 第一エンジン、第二エンジン始動!」
ベス
「反物質エンジン、急げ!」
バッフ・クラン兵
「ロゴ・ダウの異星人の船が亜空間飛行に入りました!」
 〃
「生体発信器は?」
 〃
「付けられませんでしたが……」
 〃
「時空の歪みがチェック出来るか? そうすれば、ロゴ・ダウの船は追える!」
 〃
「そいつがもう少し正確だとな……」
 〃
「無理言うな。2.5光年だけでも接近出来るだけでも、有難いと思わねばな」
ギジェ
「私はソロ・シップの生体発信器は全て捨てた筈だが、敵の追跡は正確だ」
コスモ
「おかしいな……」
ギジェ
「何故だと思う?」
ベント
「あんたが知らせてるなんての、冗談にならんか」
ギジェ
「あぁ、私が知らせていれば、もう少し手際良く攻撃させるよ」
ベント
「それもそうだ」
コスモ
「考えられる要素って、何だ?」
ギジェ
「イデだな。イデの力だ」
コスモ
「そうか……イデの力が強くなればなるほど、それはキャッチされ易くなる」
デク
「正面、敵機!」
コスモ
「何?」
「ギジェの言った通りだ。発艦するか?」
カーシャ
「イデオ・バスタ、先鋒を取るわ」
コスモ
「了解!」
カーシャ
「いい? 母船を狙うわ」
テクノ
「大丈夫かよ?」
カーシャ
「お任せ!」
テクノ
「あぁ、亜空間飛行で進路を外すのはやめてくれ! 合流が出来なくなったら……」
カーシャ
「どの道、私達は宇宙の孤児よ」
テクノ
「だ、だけど……!」
コスモ
「カーシャの奴、いい戦法を教えてくれた。デク、亜空間ゲージをよく見ていてくれよ」
デク
「了解。左右の線からはみ出さないようにすればいいんだね?」
コスモ
「来たぞ!」
ギジェ
「よし、イデオ・ノバも座標をずらすぞ!」
ベント
「無茶は困るぜ」
ギジェ
「かなり慣れたつもりだ」
「んんっ……!」
ベス
「来るぞ! 主砲、撃て!」
ベント
「やった! 4機同時撃破!」
ギジェ
「カーシャのイデオ・バスタは?」
ベント
「敵艦と接触した所だ」
ギジェ
「間に合うか?」
カーシャ
「たかが1隻で……!」
ハルル
「どうも解せんな……ロゴ・ダウの船は包囲網の薄い所を抜けてるように思える」
トロロフ
「何故、分かるのでありましょう?」
ハルル
「それが分かれば苦労せん。コドモン・ムロンをモニターへ」
トロロフ
「はい。コドモンです」
ハルル
「我が艦隊が一番ロゴ・ダウの異星人に近い。コドモン隊が足止めをさせい」
コドモン
「はっ! 了解であります!」
コドモン
「出撃命令が降りたぞ、発進準備急げ! 我ら老腰と言えども、若い者には負けん所を殿下に示すチャンスである!」
「いいか、敵を発見しハルル様が増援を得るまでの間、敵を疲れに疲れさせろ!」
カララ
「こんな星があるなんて……」
ベス
「どうだ?」
ハタリ
「取り敢えずは撒いたようだ。しかしな、来たってまた先手を打てばいいんだ。今の我々にはそれが出来る」
ベス
「ふっ、ご機嫌だな」
ハタリ
「あぁ、俺とジョリバで思い付いたイデのレーダー・システムが上手く働いてくれたんだからな」
ジョリバ
「後の事は、一休みして考えようぜ。アジアン以来一睡もしていないんだから」
ベス
「あぁ、そうしよう」
ギジェ
「シェリル、居るんだろ? 入るぞ」
シェリル
「何?」
ギジェ
「君が見たかったから……」
シェリル
「こんな私を?」
ギジェ
「いけないか?」
「私も一杯貰おうかな」
シェリル
「ふっ、待機中でしょ? ベスに怒られるんだから」
ギジェ
「これが最後の休みだと、みんな言ってるんだ。いいじゃないか」
シェリル
「最後の大決戦をやってどこへ逃げるの?」
ギジェ
「因果の地平……つまり、宇宙の果てにな。そうすれば、運命なんてものからも逃れられる」
シェリル
「本当?」
ギジェ
「そうでなければ、このイデオンの戦いは悲し過ぎる」
シェリル
「そうなのよね……」
「リン、リン……姉らしい事、何もしてやれなくって、私……」
コドモン
「この惑星に隠れている可能性が一番強い。何としてでも見付け出せ!」
ベス
「ん、痛いな……」
カーシャ
「痛い? 何やってんの、あの二人?」
カララ
「反対ね」
ベス
「ん……」
カララ
「あらカーシャ、まだ休まないの?」
ベス
「少しでも休んでてくれよ」
カーシャ
「えぇ、え〜え……」
カララ
「もう少し余裕があるとね」
ベス
「若いんだよ、まだ」
カララ
「そうね」
ベス
「上手いんだな」
カララ
「ふふっ……」
カーシャ
「コンピュータ・スペア、持ってきたわよ」
コスモ
「どうも」
「どうしたんだい?」
カーシャ
「耳掃除なんてさ。気楽なもんね。はぁっ……」
コスモ
「寝るんなら……」
カーシャ
「ふぁっ……」
コスモ
「……俺達、何でこんな事やってんだろうな。カーシャ……」
ギジェ
「もうやめた方がいい」
シェリル
「ふんっ、もうちょっと違った事言えないの?」
ギジェ
「どうも、こういう事は不得手で……」
シェリル
「ふっ、そうよね。好きよ、ギジェ……」
「でもね、どれもこれもみんなロゴ・ダウのイデの捜索から始まってるのよね」
「ねぇ、教えて。何でこんな事になったの? 何で宇宙を流離うなんて馬鹿な事、私達しなくちゃなんないのよ」
「憎しみ合ってもいなかったのよ、私達……」
「むしろ、こうやって愛し合う事だって出来たのよ。地球もバッフ・クランも……。教えてよ!」
「うっ、うぅっ……」
ギジェ
「イデの試しだ。我々人を、イデは試しているのではないのか?」
シェリル
「リンを殺しといて試しだなんて、そんなのない! イデがそんなに偉いの? 神様だってしちゃいけない事よ!」
ギジェ
「シェリル……」
シェリル
「リ、リン……」
カララ
「かなりの数です」
ベス
「総員、第一戦闘配置!」
ギジェ
「機種は?」
カララ
「アディゴです」
ギジェ
「コスモは?」
カララ
「コックピットに居ます」
アーシュラ
「頑張って!」
デク
「うん!」
ソロ星の軍人
「対空砲火、用意だ!」
ハタリ
「遅くなった!」
ベス
「いや、エンジンはスタートした」
ハタリ
「んっ」
ベス
「これだけ隠れていて見付かったんだから、手強いぞ」
カーシャ
「ご苦労さん」
デク
「ここで寝てたの?」
カーシャ
「そうよ、いけない?」
デク
「別に」
コスモ
「イデオ・デルタ、発進するぞ」
デク
「どうしたの?」
コスモ
「何が?」
デク
「カーシャさ」
コスモ
「さぁね」
ギジェ
「コスモ、休めたのか?」
コスモ
「たっぷり寝た。カーシャと一緒にね」
ギジェ
「おやおや……」
カーシャ
「誰が! コスモと一緒に寝るもんですか!」
テクノ
「ハハッ……」
ベス
「ハタリ、ソロ・シップを葉の陰に入れろ」
ハタリ
「了解!」
デク
「うわっ……!」
「て、敵襲!」
コスモ
「いや、葉っぱに引っ付いた」
デク
「葉っぱ?」
ギジェ
「食虫植物とでもいうのか?」
ベント
「来たぞ、カーシャ! 12時、真上だ!」
カーシャ
「了解!」
「かなりの数よ。こちらの居所が分かっているらしいわ」
コドモン
「よーし、キャッチしたぞ。焦るなよ。各機、ゆっくりと締め上げればいい!」
ベント
「ギ、ギジェ、圧倒的な数だ!」
ギジェ
「覚悟の上! アディゴの足を止めてやる!」
「頂き!」
コスモ
「流石はギジェだ。ベトベト葉っぱを利用して叩くぞ!」
デク
「えっ?」
「後部ミサイル!」
コスモ
「よく狙え」
デク
「了解!」
カーシャ
「私だって!」
テクノ
「引っ掛かったぞ!」
カーシャ
「よーし、撃っちゃえ!」
ギジェ
「ぐわぁっ!」
ベント
「ベトベト葉っぱの所に降ろさなくっちゃ……!」
ギジェ
「そのつもりだ!」
ベス
「これがソロ・シップの位置……じゃあ、この赤い輝きは敵艦隊というのか」
ハタリ
「そうだ」
ベス
「本当にこれは現実の映像なんだろうな?」
ハタリ
「当たり前じゃないか。そうでなけりゃ、レーダーとは言えない」
ベス
「もしそれが本当だとしたら、何故一気に攻撃して来ないんだ?」
ハタリ
「援軍を待って一気に攻め込むつもりだな、こりゃ……」
ベス
「なら、ここにいつまでもじっとしている訳にはいかん」
ハタリ
「あぁ。目の前の敵を叩いて、この星を脱出した方がいい」
ベス
「よし、ソロ・シップ前進! 打って出るぞ!」
ハルル
「126船団の到着はまだか?」
バッフ・クラン兵
「はっ! 後5分で亜空間脱出します」
ハルル
「よし、我が隊は突撃隊形を取れ。126戦隊が到着次第、左右よりロゴ・ダウの異星人の船を叩くぞ」
「あの巨神のお陰でダラム・ズバと再会出来たものの、巨神の力でダラムは死んだ」
「あの時、ダラムの姿を見る事は出来なかった。それが、それが、悔いというものだ……」
コドモン
「近付くな! 遠くから攻撃して疲れさせればいい!」
ギジェ
「ええい、アディゴめ! 攻め込むのをやめたのか!」
ベント
「ギジェ、ベトベト葉っぱに引き摺り込むんだ!」
ギジェ
「そのつもりだ!」
コドモン
「離れろ! 慌てる事はない!」
ギジェ
「数に物を言わせて嬲り者にしようというのか……うわっ!」
コドモン
「んっ、ロゴ・ダウの船か?」
「ロゴ・ダウの船の足を止めろ! 合流させてはならん!」
シェリル
「うっ……」
「ギジェ……ギジェ……!」
テクノ
「しまった!」
カーシャ
「取り付かれた!」
「キャーッ!」
ギジェ
「カーシャは……どこだ!」
「ぶつけるぞ!」
ベント
「やってくれ!」
コドモン
「動きの止まった巨神メカに集中攻撃を掛けろ!」
ギジェ
「バ、バリアが破られた……うわっ!」
ベント
「落ちる! ギジェ、コントロールを……!」
「そうだ、ミサイルだな!」
コドモン
「おっ……何の輝きだ?」
デク
「あっ、ゲージが……」
コスモ
「何だ?」
カーシャ
「あっ……!」
「キャーッ!」
コスモ、デク
「うわーっ!」
コスモ
「イデオン・ソードか!」
コドモン
「わーっ!」
ギジェ
「こ、これが……イデの発現か……」
バッフ・クラン兵
「ハルル様、126船団到着です!」
ハルル
「よし、ただちに重機動メカを発進、出撃するぞ!」
「はっ……緊急脱出を掛けい! 脱出を!」
「な、何だ、この光は……この輝きは……」
「ほ、星の一つが……消えてゆく……」
「亜空間飛行で脱出しろ! この空域に居るのは危険だ!」
ベス
「ショート・デス・ドライブ、スタート! 脱出する!」
ベス
「来ちゃいかん。後にしろ」
カララ
「でも……」
ベス
「今は見ない方がいい」
カーシャ
「酷いのよ。任せましょう、カララ……」
カララ
「でも……」
シェリル
「ギジェ、ギジェ……!」
カーシャ
「駄目よ! 今はシェリルを来させては駄目よ!」
ジョリバ
「あ、あぁ……!」
シェリル
「何故いけないの? 何故……!」
ジョリバ
「シェリル……! すぐ会わせてやるって……」
シェリル
「だったら止めないで! 何で止めるの、私のギジェなのよ?」
「何故会えないの? 離してください! 会わせて、ちょっとでいいの! ギジェを見させて!」
ジョリバ
「シェリル……!」
シェリル
「何で……何で私の人がみんな、みんな死んじゃうの? ギジェーッ!」
ナレーション
ソロ・シップ……宇宙の逃亡者……。