第1話 ドリーマーズ

アム
「はぁっ、はぁっ……!」
「あっ……!」
ハッシャ
「冗談じゃないぜ。当てないように撃つ方が、よっぽど腕が要るんだぜ?」
「ファンネリアに当てる訳には行かねぇの」
「そこだ!」
アム
「きゃっ……!」
「もう! ハッシャ・モッシャ、射撃が近過ぎるんじゃないの?」
「きゃっ、ぁっ……!」
「ハッシャ・モッシャめ……。遅いんだよ、あいつが」
キャオ
「あっ、わわっ……!」
アム
「きゃっ!」
キャオ
「んん、ちっ……」
アム
「あぁっ……!」
キャオ
「おい、大丈夫か?」
アム
「うぅ、助けて」
「あ、期待外れ……」
キャオ
「え?」
アム
「向こうで盗賊に襲われて、私、身包み剥がされてしまって……」
「お願いです。後生ですから、助けてください」
キャオ
「身包み剥がされちゃいないじゃないの」
アム
「大事な物は、みんな盗られちゃったのよ!」
「ええ〜ん!」
キャオ
「そ、そいつは……。で、相手は多いのか?」
アム
「多くない、多くないわ」
「助平そうなのが一人だったんだけど、中古のマシンナリィ持ってて、怖かったわ〜」
キャオ
「そ、そうか。よ〜し、マシンナリィ1台ぐらいなら任せとけって!」
アム
「きゃっ……!」
キャオ
「取っ返してやっかんな! 待ってろよ!」
アム
「待ってるわ、逞しいお方!」
キャオ
「お、ヒヒッ……!」
「行くぜ、山賊共!」
アム
「……あ〜あ、もう少しマシだとね」
「さて、これでリーリン姐さんの出番とね」
アム
「やだ、このヘビー・メタル、半完成品じゃないの?」
「よいしょ……」
「あ、完成品らしい。良かった」
ダバ
「ふぁっ……」
「ん?」
「あれ?」
アム
「やっと来た」
「きゃっ……!」
リーリン
「動いた? アムの奴が動かしてんのかい?」
盗賊の手下
「いや、アムはクレーンの上だ」
アム
「オートマチックなの? 誰か居るの?」
「あぁ、まだもう一人居た!」
リーリン
「坊や一人かい? 可哀想だね、私と出会ったってのがさ!」
「つぁっ!」
ダバ
「あっ、くっ……!」
「はっ……!」
リーリン
「全く、可愛いね……このスットコドッコイのオッチョコチョイのとこがさ」
「はっ!」
「ふふっ、やるじゃないか」
ダバ
「キャオの奴、どこに行ったんだ?」
リーリン
「ふんっ!」
ダバ
「貴方は何なんです? このワークスもヘビー・メタルも、父の形見なんだ」
「ホバー・サドルをぶつけ、その上、土足で上がり込み、セイバーで斬り掛かって……堪んないな」
リーリン
「なら、さっさと降りちまいな。そうすりゃ楽になるよ」
「ファンネリア・アム! 呆っとしてないで、手伝ったらどうなんだ?」
「てやっ!」
ダバ
「はっ!」
「無茶でしょ」
リーリン
「これが私達の商売なんだから、しょうがないだろ」
「今夜の酒代も要るんだよ」
ダバ
「わっ、くっ……!」
リーリン
「やめないか、ハッシャ・モッシャ! 傷物にしたら、高く売れないだろ!」
「ま、ミヤマ・リーリンに会ったの、身の不幸と諦めな」
ダバ
「わっ、くっ……!」
リーリン
「坊や、上手いね!」
ダバ
「わぁっ……!」
リーリン
「ふふっ、可哀想だがこれで……」
「ん?」
ダバ
「くっ……!」
リーリン
「こいつ……!」
「アム、手を貸したらどうなんだ?」
アム
「ワークスは動いてるのよ? 私には、とても出来ないわ」
リーリン
「ぶりっ子するんじゃないよ! 売れない芝居小屋から、引き取った恩を忘れて!」
「このガキャッ!」
ダバ
「餓鬼よりは坊やの方が、可愛らしくていいな」
リーリン
「遊んでんじゃないんだよ!」
ダバ
「おおっと」
リーリン
「あっ、あっ……!」
ダバ
「ん?」
リーリン
「てぇっ!」
ダバ
「ん、わっ……!」
リーリン
「わぁっ……!」
盗賊の手下
「てめぇも手伝ったらどうなんだ!」
アム
「逃げ回る役、やったんでしょ? セイバーもライフルも持っちゃいないよ」
ダバ
「いけね、ハッチ開いてない」
「わっ!」
盗賊の手下
「さっさと引っ込んじまえってんだよ!」
リーリン
「ヘビー・メタルに傷付けんじゃないよ! せっかく新品らしいんだからさ!」
ダバ
「こんな、ハンドメイドのヘビー・メタルを盗ったって……」
リーリン
「こういうの流行ってんだからさ、高く売れるんだよ」
「てやぁぁっ!」
ダバ
「ちっ!」
リーリン
「きゃぁぁっ!」
「あっ……!」
ダバ
「親分さんが腕をやられた。助けてやれ」
ハッシャ
「あ、姐さん……!」
リーリン
「ハ、ハッシャ・モッシャ……早く、早くしないかよ!」
ハッシャ
「姐さん、もうちょっとの辛抱ですぜ」
「姐さん、降りて」
リーリン
「くっ、ぅっ……!」
ハッシャ
「姐さん、そ、その腕……」
アム
「……あんたがドジだからよ」
盗賊の手下
「何言ってんの。お前がもっと色気出して、あいつを惚けっとさせりゃ上手く行ったんだ」
ダバ
「……へ?」
キャオ
「あれ、あらら? ワークスはどこへ行ったんだ?」
「あの女、ワークスを盗み出す為に……!」
「おいダバ、ダバ・マイロード。まだ寝てんじゃないだろうな?」
ダバ
「何だよ? どこに行ってたんだ?」
キャオ
「あれ? あのちょっと、あそこまで盗賊探しに……」
ダバ
「ふ〜ん、まめなんだね」
キャオ
「キャビンの中なの?」
ダバ
「何がさ?」
キャオ
「何がって……あのさ」
「おいダバ」
ダバ
「何だよ?」
キャオ
「知らないのか?」
ダバ
「ファンネリア・アムって、女の子の事か?」
キャオ
「名前聞き出したの? ふふっ、こいつ……俺より先に、よくやるじゃないの」
「どうしたんだよ?」
ダバ
「行ったよ、仲間と一緒に」
キャオ
「え、仲間が居たの? 誰、そいつは?」
ダバ
「悪い男とか女が付いてたな、あの子」
キャオ
「そんなの……あんな可愛い子にかよ?」
ダバ
「普通じゃないの? 可愛い子に棘があったりなんかするのは。親父が言ってたよ」
キャオ
「あの女……!」
ダバ
「87・88……」
キャオ
「俺はやっぱ、ポセイダルの正規軍に入りたいな」
「エルガイムがありゃ、二つ返事で入れてくれっだろ?」
ダバ
「俺は反対だ。親父は正規軍には、エルガイムは見せない方がいいって言うし」
「それに、クワサン・オリビーを捜したいしな」
キャオ
「へっ、血は繋がってないってのにさ」
ダバ
「けどさ……」
キャオ
「明日は、プリャーモに入ってみようぜ」
ダバ
「キャビンよりこっちの方がいいよな」
キャオ
「コード・センサーはいいのか?」
ダバ
「ああ、オンしてる」
盗賊の手下
「あの馬鹿、俺達が追い掛けてるなんて、考えてないぜ」
「リーリン姐さんの腕の仕返しは、出来るってもんだぜ」
「姐さんに報せな」
 〃
「へぇ」
リーリン
「痛ぁぁっ!」
盗賊の手下
「押さえていろって!」
ハッシャ
「あ、あぁ……ごめんなすって」
盗賊の手下
「姐さん、これでお仕舞いです」
リーリン
「な、何だよ?」
盗賊の手下
「ちょいと痛みますけどね。何せ、腕をくっつけるんだから」
リーリン
「ぎゃぁぁっ!」
盗賊の手下
「終わりました、姐さん」
リーリン
「終わったかい……」
盗賊の手下
「動かしてみてください」
ハッシャ
「わ、すげぇ」
リーリン
「どきな」
「見てな。ミヤマ・リーリンの名前に賭けても、この二つの腕さえあれば……」
「あの餓鬼に、落とし前を付けさせてもらうよ!」
「プリャーモの連中は呼んだろうね?」
ハッシャ
「ゼッタがもう一台来ます」
アム
「ふぅ、どういう神経してんだろ? こいつら」
ダバ
「ん……?」
「あっ!」
アム
「はっ……!」
「はっ!」
キャオ
「わ〜っ! どど、どこだ? なな、何が来た?」
「お、女……?」
「こんな朝っぱらから、女かよ」
「おい、ダバ……」
ダバ
「おう、起きたか」
アム
「よく寝てられんね、あんたら。いい神経してるよ」
キャオ
「あ、おめぇ、昨日の女盗賊の片割れの、ファン……」
アム
「ファンネリア・アムってんだよ」
ダバ
「また騙しにきたのか?」
アム
「騙すつもりなら、とっくの昔にやってるよ」
ダバ
「そりゃそうだ。何しに来たんだ?」
アム
「姐さんの腕を斬ったのが、あんただって、どうもね……」
ダバ
「何だよ、見てたんだろ? 信じてないような口振りだな」
キャオ
「何しに来たんだよ、ビラビラターバン」
アム
「早く逃げろって、教えにきたのにさ」
ダバ
「逃げた方がいい?」
アム
「人がせっかく、二日酔いの頭痛を堪えて……早起きしてきた甲斐がないのね」
ダバ
「ちょっと彼女、今言ったの、どういう事? ねえ、彼女……」
アム
「ファンネリア・アムっての!」
ダバ
「お前達の仲間が、また俺達を襲うっていうのか?」
キャオ
「当たりめえじゃねぇか」
「行くぞ。その女は見張りだ」
アム
「違うってば」
ダバ
「ファンネリア」
アム
「何さ?」
ダバ
「有難う」
アム
「イ〜ッ!」
「ダバ・マイロードって言ったな……」
ダバ
「おっ……」
キャオ
「怖いね、ああいうの」
ダバ
「あんなのは、持て余すね」
アム
「そりゃ、あんたが勝手だからよ」
キャオ
「あ、こいつ……!」
アム
「あんたら勝手が、何でそんなワークスとヘビー・メタル持ってんのさ?」
ダバ
「いつ追っ手が来るんだよ?」
アム
「あたしゃ知らないわよ」
ダバ
「追い付かれそうだ」
アム
「いぃっ?」
「早いんだ……」
キャオ
「ほれ見ろ、見張りだったんじゃねえか。騙しやがって」
アム
「あっ、騙してないったら!」
ダバ
「キャオ、レーザー・キャノンをリモコンで試し撃ちしてみろ」
キャオ
「あ?」
「よし、やるぞ」
ダバ
「ん、マシンナリィが2台か」
盗賊の手下
「ははっ……あんなハンドメイドのヘビー・メタルに、姐さんがやられたっての?」
「お〜、嫌だ……」
「ゴロッゾ、前へ出ろ! 奴らの足を止めろ!」
ダバ
「不味いな……今度は、かなり組織的だぞ」
リーリン
「アム、あんた、奴らを逃がしたね?」
アム
「ちゃうわ、相手は二人よ? 撃ち合い負けしちゃったのよ。パック頂戴」
盗賊の手下
「落とすなよ、ほれ」
アム
「えへ、儲けちゃた」
ダバ
「あれ、キャオ。フローが置いてないぞ」
キャオ
「何だ?」
ダバ
「スパイラル・フロー、どうした?」
キャオ
「夕べ整備した時、ギア・デッキに置いたでしょ、ギア」
ダバ
「え?」
「あ、幌が……」
「あったあった」
盗賊の手下
「うわぁぁっ!」
 〃
「うわっ!」
ダバ
「んっ……!」
盗賊の手下
「わぁぁっ!」
ダバ
「わ〜やだ……おい、死ぬなよ」
「え?」
「ごめんよ」
「キャオ、エルガイムを出そうよ」
キャオ
「やれんのかよ?」
ダバ
「人をやるのは嫌だよ。気持ちが悪い……不気味だ」
キャオ
「分かった」
ダバ
「その代わり、ゼッタは撃退してみせるって。あれならマシンだからな。やっても不気味じゃない」
盗賊の手下
「ヘビー・メタルを出そうってのか? 撃てよ!」
「ハッシャ・モッシャ、モタモタするな! ヘビー・メタルが動くぞ!」
ハッシャ
「ワークスの足を止めりゃいいんだろ?」
ダバ
「ベッド・ルームかキャビンか、ヘルメットはどこに置いたっけ?」
「ドッキング・センサー」
「あ、こんな所にあった」
キャオ
「ダバ、何してんの。早くしなよ」
ダバ
「やってるよ。いつでもいい、離してくれ」
「視界良好だ」
「こんなに追い付かれちゃったの?」
キャオ
「出すぞ」
ダバ
「射撃が正確になってる。あのキンキラ金のゼッタか」
盗賊の手下
「あぁ〜っ!」
 〃
「ハッシャ、頼むぜ!」
カロモン
「姐さん!」
リーリン
「真っ直ぐ行きな! 正製ヘビーじゃないんだ。仕留めるさ」
「坊や……!」
ダバ
「邪魔なのは、あの二機か」
カロモン
「飛んだ!」
リーリン
「ジャンプだろ!」
盗賊の手下
「あぁっ……!」
「怖い!」
ダバ
「キャオ、ランチャーが要る」
キャオ
「分かってる」
盗賊の手下
「うぉっ……!」
 〃
「わっ……!」
リーリン
「転びなよ!」
ダバ
「あの女……!」
「女って怖い」
「キャオ」
キャオ
「こっちからも来てんだよ」
アム
「ありゃ、駄目だ。あれじゃ囲まれちゃう」
ダバ
「そこまで行く。我慢しろ」
リーリン
「このっ!」
ダバ
「えっ……?」
「ごめん!」
盗賊の手下
「何で当たった?」
「ぐわぁぁっ!」
ダバ
「ははっ!」
リーリン
「役立たずが……口だけ生まれたのかい?」
カロモン
「姐さん!」
リーリン
「くっ……!」
「わぁぁっ!」
「あ〜、離れちゃう〜! 誰か止めとくれ〜!」
ハッシャ
「姐さん〜!」
リーリン
「きゃっ! ハッシャ・モッシャ、落ちる〜!」
ハッシャ
「落ちるな、姐さん!」
リーリン
「イテッ……!」
ダバ
「おい」
カロモン
「うぅっ……」
ダバ
「動けないのか?」
カロモン
「う、打ち所が悪かった……」
ダバ
「キャオ、怪我人だ、怪我人」
カロモン
「医学部に居た事だってあるんだ、無駄だよ」
「坊やが……」
ダバ
「ん?」
カロモン
「頼みがある。俺の胸ポケット……」
ダバ
「ポケット?」
カロモン
「手形がある」
「そ、そいつだ。そいつを、プリャーモのアマンダラ・カマンダラに届けてくれ」
ダバ
「いいけど……」
キャオ
「死んじゃったんだろ?」
ダバ
「まだ生きてるよ」
カロモン
「すまない、止めを頼む」
ダバ
「やってやれよ」
キャオ
「え? ば、馬鹿言え……やったれよ」
アム
「何、愚図愚図してんのよ? そんなの放っぽいといて、早く逃げないと……」
キャオ
「何言ってんの。この人が、止め刺してくれって言ってんだよ。やってやんないと」
ダバ
「ん、お亡くなりになっている」
キャオ
「え?」
ダバ
「この人、知ってるの?」
アム
「カロモンって人? 二、三日前に転がり込んできた人よ。よくは知らないわ」
ダバ
「ふうん……」
「キャオ、移動するぞ。エルガイムの修理は移動しながらやる」
アム
「ん?」