第2話 スキャンダル・P

前回のあらすじ
ペンタゴナという、太陽系の辺鄙な惑星コアム。
そのコアムの、もっと辺鄙な田舎から、青雲の志を抱いた青年が二人。
ま、出世したくて街へ出て来たと思って欲しいな。
それが、ダバ・マイロードと、ミラウー・キャオ……。
んで、余分に引っ付いてきたのが、ファンネリア・アム。
ま、そゆ話だ。
キャオ
「ダバ、もういいよ。十分だ」
ダバ
「ああ」
アム
「ね、そんなに心配なら、私が留守番に残ってやるよ」
キャオ
「いい事言うよ。留守の間に、ワークスとエルガイム持って、女親分の所に引き返すんだろ?」
アム
「そんな女に見えるのかよ?」
キャオ
「見えるよ!」
ダバ
「アム、よさないか」
「俺達は街で、アマンダラ・カマンダラって奴を見付けて、手形を渡すだけだ。すぐに戻る」
「リーリンとかいう年増女の、深情けは遠慮したい」
アム
「そんなの、分かってるって言ってるでしょ?」
柄の悪い男
「ほらよ」
若い女
「あっ、んんっ……!」
太めの女
「ツケがたまってる内は、来なくていいってんだよ」
中年の男
「わっ……!」
キャオ
「しかしまあ、原始的な造りの街だねぇ」
ダバ
「あれ? 車を止めたらキャッシュ・カードを入れ、車をロックして……」
「アム、キャッシュ・カードって何だ?」
アム
「キャッシュ・カード持ってないの?」
「もう、私の貸してあげるから……」
「カード入れて、チョンチョンっと……これでいいの」
ダバ
「キャオにも貸してやって」
アム
「嫌よ、路上駐車しとけばいいでしょ?」
ダバ
「駐車料金の方が、罰金より安いんだろ?」
アム
「どうして、そういう事だけ知ってんの?」
ダバ
「現金で返すからさ」
アム
「終わったわ」
キャオ
「あんがと」
ダバ
「分かれて探そう。アマンダラ・カマンダラなんて名は、そうないだろうからさ」
アム
「分かったわ」
キャオ
「じゃ、一時間したらここでね」
キャオ
「あ、ねね、アマンダラ・カマンダラって知らない?」
アム
「んん、やっぱり……!」
ダバ
「うっ……!」
アム
「キャオ、どうだった? 見付かった?」
キャオ
「あ〜駄目駄目、知らない知らない……まるで犬扱いよ」
アム
「無理ないわ」
キャオ
「何か言った?」
アム
「何にも」
キャオ
「金に換えて、頂いちゃえばいいのにさ」
アム
「本当、私の事気にする方がいいのに」
キャオ
「俺なら、女の子を悲しませるような事、しないぜ?」
アム
「あんたに慰められても仕方ないわよ」
ダバ
「ん?」
盗賊の手下
「黙って俺達に付いてきてもらおうか」
「姐さんのお声が掛かってるんだぜ、嬉しかろう?」
ダバ
「年増の姐さんかい」
盗賊の手下
「ふふ、そう言っちゃ可哀想だぜ」
「うぉっ……!」
 〃
「話が違うぜ」
 〃
「強いのは、女と一緒の筈だ」
ダバ
「キャオにアムの事か」
キャオ
「な、何だよ、こんなに大勢で……」
盗賊の手下
「捜したぜ、アムちゃん。姐さん裏切ってんだって?」
「……で、お前かい? 姐さんの片腕落としたってのは」
キャオ
「ち、違います。僕じゃありません」
盗賊の手下
「じゃ、誰だってんだ? え、おい?」
「うぅっ、ぉっ……!」
キャオ
「……どうしたんだ?」
ダバ
「キャオ」
キャオ
「え?」
盗賊の手下
「誰だ!」
 〃
「追え!」
ダバ
「よーし、上手い上手い」
盗賊の手下
「逃がすなよ!」
ダバ
「リモコンを解除するぞ」
キャオ
「OK、ワークスで落ち合おう」
アム
「来るよ、来るよ!」
盗賊の手下
「当てるなよ、姐さんに突き出すんだからな!」
中年の男
「うぉっ……!」
若い女性
「きゃっ……!」
キャオ
「アム、当てなくていいから撃て」
アム
「馬鹿にしないでよ。街中だからって、当ててみせるわ」
「きゃっ……!」
キャオ
「わ〜っ!」
「アム、舌噛むなよ!」
アム
「キャオ、あんた……初めての街にしては、凄いハンドル捌きね」
キャオ
「へん、村の谷に比べりゃ、こんな所!」
アム
「なら、機体を安定させて」
キャオ
「何で?」
アム
「また集まってきたのよ」
「頼むわよ!」
盗賊の手下
「わぁぁっ!」
キャオ
「スゲ〜女の子」
アム
「何か言った?」
キャオ
「いや〜、妖精と笑うより早く天下が取れそうだよ」
アム
「何それ、妖精って……」
キャオ
「俺の村にね、『天下を取るなら妖精と笑え』っていう諺があんの」
アム
「あぁ、知ってる。見世物小屋の、羽根の生えた奴の事ね?」
キャオ
「え?」
「わっ……!」
アム
「何?」
盗賊の手下
「追い込むぞ!」
「むっ……!」
キャオ
「へん、腕の差、腕の差!」
アム
「キャオ!」
キャオ
「うわ〜っ!」
「あぁ、もう駄目だ……!」
盗賊の手下
「このまま断層へ追い込め!」
ダバ
「はっ……」
「しまった、制限高度がオーバーしてる」
「わぁぁっ、くっ……!」
盗賊の手下
「街から出ていない筈だ、捜せ!」
マップン
「リリス、何度失敗したら気が済むんだ? お前のせいで、最近めっきり客が減ったんだ」
「いつまでもこのままなら、解剖用に大学に売ってもいいんだ。その方が、当座の銭になる」
「新しい衣装で客を呼ぼうったって、ここの客はもっと、色っぽい踊りが好みだってのが分かんねえのか?」
ダバ
「妖精だ……」
マップン
「おい、聞いてんのか? こら、おい……!」
ダバ
「何だ……?」
「あれ?」
マップン
「何だね、あんた?」
ダバ
「ああ、いや、あの……」
マップン
「な、何すんだ、小僧……!」
「こ、こりゃ、アマン銀行の第一級の手形じゃないか」
「何だよ、小僧」
ダバ
「どうだい、これで?」
マップン
「ふん、どうせ偽モンだろうがよ」
ダバ
「商売人なら、この手形が本物か偽者かどうかぐらいは、分かるんじゃないの?」
マップン
「ふん、そりゃそうだ。酒の肴に調べさせてもらうか」
ダバ
「……縫い物が得意なのか」
マップン
「ふむ……何て金額だ」
受付嬢
「アマン銀行で御座います。お取引、有難う御座います」
「この手形は高額で御座いますので、現金にするのは、当銀行でお願いします」
マップン
「わ、分かった……後で行く」
受付嬢
「有難う御座います」
マップン
「い、いや、へへっ……」
「お、おい、リリス・ファウは売るぜ」
ダバ
「そうかい、そりゃ良かった」
マップン
「そりゃ、文句言ったら罰が当たらぁ」
頭取
「何だと? 例の手形が、見世物小屋の親父から出ただと?」
銀行の職員
「はっ……確かに、アマンダラ様が探しておられる、コード・ナンバーです」
頭取
「何故、プリャーモにあるのか分からん……。押さえろ! 手形のルートを逆算しなければならん!」
マップン
「ヒヒッ……」
ダバ
「あぁ、困ります、そんなに……」
マップン
「いいじゃないか、いい酒だ」
ダバ
「じゃ、急ぎますので、これで」
マップン
「そ、そうかい? なら、元気でな」
銀行の職員
「ここか?」
 〃
「マップンとかいう奴だ!」
マップン
「な、何だ……?」
ダバ
「じゃ、じゃあ……!」
マップン
「お、おいこら……リリス!」
銀行の職員
「マップンとかいうのは、お前か?」
マップン
「う、煩い! 取り込み中だ!」
銀行の職員
「手形を出してもらおう!」
「今しがた、照合した手形を出せ!」
マップン
「い、今、小僧に盗まれた」
「おい、何なんだよ? あの手形は俺が……うわっ!」
ダバ
「リリス」
「もういいんだよ、そんな事しなくても」
「そうか……それが好きなら、やっててもいい」
「死んだ父さんが言ってた。俺が、ミズン王朝の生き残りだと……」
「確かめてみたい気もあったし、キャオに引っ張られたせいもあった」
「けれどこれじゃ、村に帰った方が……」
「おい、リリス……どうした?」
キャオ
「あっ、ぐっ……!」
盗賊の手下
「おらおら!」
 〃
「吐けよ!」
アム
「やめなさいよ! 無抵抗の者しか相手にしないの?」
盗賊の手下
「あんた、抵抗出来るってのかい?」
アム
「弱い者イジメ!」
キャオ
「おら、弱かないわい!」
アム
「じゃ、そいつらやっつけなさいよ!」
リーリン
「いい事言うね、アム」
「ふん、吐きなよ」
「ヘビー・メタルの隠し場所を言わないなら、餓鬼を逆さ吊りにおし!」
ハッシャ
「ほら、言いなよ」
アム
「私は口軽の女じゃないわ」
ハッシャ
「そうかい、好きにしな」
リーリン
「何? アマンダラ・カマンダラが動いてるだって?」
盗賊の手下
「ああそれが、奴らもこの餓鬼共を……」
リーリン
「アマンダラの奴……!」
キャオ
「うぅっ、ぅっ……!」
リーリン
「この手はパワーがあってね。役に立ってるよ、ふん」
キャオ
「ダ、ダバ……!」
ダバ
「どう考えても可笑しい。キャオにアムの奴……」
「何だ、戻ってきたのか?」
「どうした?」
「何だ?」
「リリス……キャオとアムを見付けたのか?」
「案内は出来るか?」
「よし」
キャオ
「はぁっ……!」
リーリン
「私は諦めもいいんだよ? お前が死んだら、次は、アムが居るからね」
キャオ
「分かった、言うよ……」
「ワークスと一緒に、北の外れの渓谷に隠してあるよ」
アム
「何言ってんのよ!」
リーリン
「お黙り!」
「一時逃れじゃないだろうね? 嘘だと分かったら、本当に……!」
キャオ
「本当だってば……!」
アム
「この男、出鱈目よ?」
リーリン
「そうムキになる所が、本当だね」
アム
「何を!」
「ああんっ!」
ハッシャ
「リスタに、膝ライフルを付け忘れんなよ?」
リーリン
「出るよ!」
盗賊の手下
「おうっ!」
アム
「意気地なしの弱虫、格好付け!」
盗賊の手下
「今頃な〜に言ってんの、姉ちゃん達?」
 〃
「全く、最初から喋りゃいいものを……」
 〃
「本当本当……ま、姐さんが戻ってきてからが楽しみだ」
ダバ
「姐さんが、どこ行ったって?」
アム
「あっ……?」
盗賊の手下
「何だよ、デカイ態度だな」
キャオ
「あ〜っ!」
アム
「ダバ……!」
キャオ
「何しに来た!」
盗賊の手下
「お前……!」
 〃
「野郎!」
ダバ
「無駄だ!」
盗賊の手下
「うぉっ……!」
 〃
「うわぁぁっ!」
アム
「……ダバ、どうして?」
キャオ
「ダバ!」
アム
「ダバ〜、ああんっ!」
キャオ
「俺、ワークスの隠し場所、教えちまったんだぜ?」
「それなのに、何で助けになんか来たんだよ。逃げてるもんだと思ってたのに……」
ダバ
「大丈夫だ。ワークスもエルガイムも、連中には渡さないよ」
リーリン
「ははっ、こうも正直に残してあるなんて思わなかったよ」
盗賊の手下
「姐さん、試してみますぜ」
「あれ? 何だ、このコックピットは……」
「これだけかよ? 未完成品じゃねえの?」
「……っと、これだな?」
リーリン
「どうだい、動くかい?」
盗賊の手下
「へ、へぇ、やってみますけど、何とかなるで……」
「お、掛かった?」
「な、何だ、この振動は……ショック・アブソーバーはないのかよ」
 〃
「やった、やった〜!」
 〃
「お宝じゃ〜!」
 〃
「ふう、起き上がるだけで、こんなガタがあんのかよ……」
ハッシャ
「外見と中身が、大分違うみたいですぜ?」
リーリン
「地方から来る、お上り武芸者に売り付けりゃ、何とかなるさ」
「ワークス!」
盗賊の手下
「歩かせてみますが……やるかぁ」
「お、おい、本当に完成品かよ?」
 〃
「一応動けば、いいっていいって」
 〃
「さっすが、ヘビー・メタル」
「やっぱ、マシンナリィとは違うね〜」
「うっ……!」
ダバ
「今まで、動いてるのを止めた事ないもんなぁ……止まるかな?」
盗賊の手下
「うわ、何だぁ?」
ハッシャ
「変わった動きするな」
リーリン
「いいじゃないか、ははっ……!」
「後ろ歩きかい?」
「はっ……!」
ハッシャ
「お、何だ何だ……?」
リーリン
「ば、馬鹿〜、ぁっ……!」
「せっかくのヘビー・メタルを壊す気かよ?」
盗賊の手下
「姐さん、こいつは手間掛かるよ」
リーリン
「何でさ?」
盗賊の手下
「ショック・アブソーバー付きのシートを入れなくちゃいけないし……」
リーリン
「そんな馬鹿な……」
「うっ……!」
「何だ? ワークスに居るのは……」
アム
「は〜い、お・ば・さ・ま!」
キャオ
「サドっ気が少し、足んなかったようですね〜」
アム
「行けぇっ!」
盗賊の手下
「うわぁぁっ!」
 〃
「ぎゃぁぁっ!」
リーリン
「うっ……!」
「あの餓鬼、くっ……!」
アム
「もういいわよ、キャオは」
キャオ
「あんがと、体が痛くってよ」
アム
「いいわよ?」
ダバ
「ドッキング・センサー!」
「アム、チェーンを外してくれ」
リーリン
「ヘビー・メタルが動くぞ! 散開して囲め!」
「リストを!」
盗賊の手下
「動けます!」
ダバ
「奴らは?」
アム
「左右に展開してるわ」
盗賊の手下
「あいつ、対レーザー用の盾を持ってやがる」
リーリン
「あんな高級品、餓鬼には勿体無いね。何がなんでも……!」
ダバ
「やっぱり、速いとやばいな……数もあるんだし」
「うっ……!」
「来る?」
「こういう所では、小型の方が有利か」
リーリン
「足を狙え! ウドの大木にしちまうのさ!」
ダバ
「足だけに来るのなら!」
「こちらからだって、撃つよ!」
リーリン
「しぶとい餓鬼め、んっ……?」
「ふん、あれかい」
ダバ
「ん、エネルギー・チューブが切れた。不味い……!」
「南無三!」
「あれ、休んじゃってる」
リーリン
「エネルギーのオーバー・ショートってのは怖いんだよ、ははっ……!」
「リストで、ヘビー・メタルを運びな! ワークスはやったんだろ?」
盗賊の手下
「あぁ、まだ生きてた……!」
リーリン
「何だって?」
「ほ、本当なのかい?」
ダバ
「わ、飛んだ」
盗賊の手下
「わぁぁっ……!」
リーリン
「あぁっ、何だい、あのヘビー・メタルは……」
「はっ、こっち見た……!」
「た、退却〜!」
「二度も失敗……餓鬼相手に……」
「ミヤマ・リーリンだよ、あたしゃ……!」
ダバ
「どうだ、キャオ。痛みは引いたか?」
キャオ
「あぁ、少しはな……。エルガイムの方はどったの?」
ダバ
「かなりの重症さ。第三エネルギー回線のショート、シリンダーも三本やられた」
「ここじゃ不味いから、少し離れた所で修理するさ」
キャオ
「ん、みんな俺が喋っちゃったもんね……」
「何で、あの場所が分かったの?」
ダバ
「リリスのお陰さ」
「リリス・ファウ」
キャオ
「あっ……」
アム
「見世物小屋の有翼人?」
キャオ
「まだこんな、有翼人のミラリーが居たの?」
ダバ
「ミズンの北の方には、多いみたいだよ」
キャオ
「へ〜」
「なな、俺っちの方ではさ、妖精と笑うと天下が取れるって云うんだよ。笑ってくれよ」
「あら……」
ダバ
「また振られたな、キャオ」
キャオ
「男前になったら口説いてみるよ」
ダバ
「結構」
アム
「出来たらね?」
ダバ
「ははっ……!」
アム
「ふふっ……」