第3話 カミング・マン
- 前回のあらすじ
- ペンタゴナという、太陽系の辺鄙な惑星コアム。
- そのコアムの、もっと辺鄙な田舎から、青雲の志を抱いた青年が二人。
- ま、出世したくて街へ出て来たと思って欲しいね。
- ところが、女盗賊のリーリンとかと引っ掛かったのが、運の尽き。
- ダバとキャオ、アムの運命は、全然違っちゃう……という次第。
- 山賊の手下
- 「居たのかよ?」
- 〃
- 「ああ、鼠がな」
- 〃
- 「ちっ、無駄弾を使いやがって」
- アム
- 「あ、こら! 碌な事しないんだから、ん……!」
- 「あれま……中々のモンじゃないの」
- ダバ
- 「……あれ、いつから居たのさ?」
- 「ん、何? 味見しろっていうの?」
- 「絶品、美味しい」
- キャオ
- 「ダバ、修理終わったか?」
- ダバ
- 「まだ、もうちょい」
- 「このナットを閉めれば、パワー・ユニットもご機嫌だ」
- 「こいつが済んだら、プリャーモに戻るぞ」
- キャオ
- 「おめ、冗談だろ?」
- ダバ
- 「いや、この手形を渡す約束が残ってる」
- キャオ
- 「へっ、約束なんてな、破る為にあんだぜ?」
- ダバ
- 「よせ」
- キャオ
- 「おら、貸せよ。俺が現金にしてやっからよ」
- ダバ
- 「よせよ、嫌だよ」
- キャオ
- 「貸せおら……、んっ」
- ダバ
- 「わっ!」
- アム
- 「二人共……食べ物があるんですからね。埃立てないで頂戴」
- ダバ
- 「飯?」
- キャオ
- 「ほ、朝飯とは気が利いてんじゃないの」
- アム
- 「身の安全の為よ。餓えた狼は、お腹が空くと何をするか分からないからね」
- キャオ
- 「ここいらに、狼なんか居んのかい?」
- アム
- 「狼は自分を、高貴な動物だと思っているんだよ? キャオみたいにね」
- キャオ
- 「何を〜?」
- ダバ
- 「キャオ、エスックスをエルガイムから降ろせ」
- アム
- 「え、何これ〜?」
- 「あ〜ん、一杯作ったのよ、これ〜」
- 「もう……リリス、どこ?」
- 「はっ……!」
- ダバ
- 「誰だ、お前?」
- ギャブレー
- 「薄味の都会ぶった味は、余り好まぬな……」
- アム
- 「何て言い草よ? 人の食事盗んだ癖して……!」
- 「味の分からん奴に、誰が食わせるか」
- 「ん、ああんっ……!」
- ギャブレー
- 「中々いいヘビー・メタルをお持ちじゃないですか」
- 「ハンドメイドですかな?」
- ダバ
- 「ああ、親父の形見なんだ」
- キャオ
- 「何だ、そいつは? 何モンだ、てめぇ?」
- ダバ
- 「あれがあんたの、アローンかい?」
- ギャブレー
- 「ああ。中古だが、手入れは十分にしている」
- 「チューン・ナップもしているしな」
- キャオ
- 「ほれほれ……」
- ギャブレー
- 「何か?」
- キャオ
- 「恍けんなよ。食事代だよ。食べたんでしょ、あんた?」
- ギャブレー
- 「確かに頂いたが、金を払うような味ではなかったな」
- キャオ
- 「この、てめ……!」
- 「あ、畜生、舐めたな〜?」
- ギャブレー
- 「お前なぞ、舐めたくない」
- ダバ
- 「俺は、ダバ・マイロードだ。軍人志願かい?」
- ギャブレー
- 「そんな所だ。地方の貧乏豪族の……ま、パターンだな」
- ダバ
- 「俺達も、プリャーモへ行く所なんだ。どうだ?」
- ギャブレー
- 「むっ……!」
- 「つぁっ!」
- リリス
- 「きゃっ……!」
- ギャブレー
- 「こいつは悪魔の手先だぞ! 悪い星を呼ぶのを知らないのか?」
- ダバ
- 「嫌なら近寄るな!」
- ギャブレー
- 「……中々やるじゃないか、ダバ・マイロード君」
- キャオ
- 「何なんだ?」
- アム
- 「あ、分かった。あんた、モール・タウンの人でしょ」
- 「モールでは有翼人のミラリーは、災いの元だという言い伝えがあるのよね?」
- ギャブレー
- 「食事代代わりだ。ま、とっておきたまえ」
- アム
- 「何だ? こんな古い時計、要らないわよ」
- ギャブレー
- 「そっちの、心の貧しい奴にあげな」
- キャオ
- 「俺は貧しかね〜やい!」
- 「寄越せ!」
- ダバ
- 「よせ、キャオ……!」
- キャオ
- 「百万だよ? 百万ギーンの手形だよ?」
- ギャブレー
- 「何、百万ギーンだと?」
- アム
- 「オートジャイロ……」
- 盗賊の手下
- 「ふふっ、み〜つけた、ほい」
- キャオ
- 「わっ、くっ……!」
- ギャブレー
- 「何だ?」
- 「手形……百万ギーン……」
- キャオ
- 「あ、野郎……!」
- 「うっ……!」
- 「畜生、百万ギーンを逃がすかい!」
- ダバ、アム
- 「わっ……!」
- 盗賊の手下
- 「リーリン姐さんに伝えろ。めっかったってよ」
- キャオ
- 「行くぞ」
- ダバ
- 「急げ」
- キャオ
- 「あの、色男ぶりっ子が……!」
- ダバ
- 「アムも、ワークスへ」
- キャオ
- 「いて、何すんだよ?」
- アム
- 「あんた、私を置いてこうとしたろ?」
- キャオ
- 「上に来た連中と、引っ付けばいいだろ?」
- アム
- 「もう連中の仲間じゃないよ!」
- キャオ
- 「ん、信じるよ」
- 「ダバ、早くしろよ」
- ダバ
- 「やはり、リーリンか。いつまで付き纏うんだ」
- 「くっ……!」
- 「キャオ、出してくれ」
- キャオ
- 「よし」
- 盗賊の手下
- 「わぁぁっ!」
- 〃
- 「あぁっ……!」
- リーリン
- 「ハッシャ・モッシャ、回り込んで追い込むんだよ、いいね?」
- ハッシャ
- 「煩いんだよ、一々よ」
- ダバ
- 「ん?」
- アム
- 「ハッシャ・モッシャ君。あんたの教えてくれた腕前、試させてもらうよ」
- 「きゃっ!」
- 「キャオ、しっかりしてよね?」
- キャオ
- 「何で撃たねんだ?」
- アム
- 「こいつが重いのよ。油差してないんでしょ」
- キャオ
- 「うひゃ〜、こりゃ駄目だ。勝ち目がね〜わ」
- ハッシャ
- 「当たれよ!」
- ダバ
- 「やるな、いいチーム・ワークだ」
- ギャブレー
- 「土地柄だけじゃないな、あの連中。見た目程に志が高くない……ゴロツキだ」
- 「ふふっ、随分、お出でなすった」
- 「この辺りの盗賊か。一泡吹かせてやるか」
- アム
- 「え〜い、この……こいつ!」
- 「有難う」
- 「さっきのあいつだ。あいつだよ〜!」
- キャオ
- 「くそ、泥棒! 手形を返せ!」
- 「お? あの野郎……気が咎めたんで、味方する気になったんだな?」
- リーリン
- 「何だ、あいつは? 撃てっ!」
- ギャブレー
- 「只の中古も、乗る者によっては超高性能になるって事を、見せてやる」
- リーリン
- 「何と……!」
- 「貴様!」
- ギャブレー
- 「君達ではどう戦おうと、あのヘビー・メタルには勝てんよ」
- 盗賊の手下
- 「何を?」
- リーリン
- 「待て」
- 「何が望みだ?」
- ギャブレー
- 「お前の仲間はこれで全てか? あの白いヘビー・メタルをやるには、この三倍は要るな」
- リーリン
- 「お前の指図は受けない」
- 「右の腕が痛い。この恨み……」
- 「本当に、三倍も要ると思うのか?」
- ギャブレー
- 「要るさ」
- ハッシャ
- 「うわっ……!」
- リーリン
- 「だらしない! ハッシャ・モッシャめ!」
- 「行くぞ!」
- ギャブレー
- 「私の助けが必要なら、頼まれてもいい」
- リーリン
- 「何? たかが小僧子供に、何が三倍だ!」
- 「大きなお世話だよ!」
- 「行くぞ!」
- ダバ
- 「第二波攻撃とはね」
- 「キャオ」
- キャオ
- 「アム、バックするぜ」
- アム
- 「あん、キャオ、もう……!」
- ハッシャ
- 「お〜い、俺にゼッタを貸してくれ」
- 「あ、おい……貸さねっていうんなら、腕ずくでも取ってみせるぜ」
- リーリン
- 「情けないね、味方を襲うなんてさ。セイバー1本で向かって行く勇気はないのかい?」
- ハッシャ
- 「あるかい、んなもん!」
- 「降りろってんだ、てめぇが!」
- 盗賊の手下
- 「これは俺のゼッタだ!」
- ハッシャ
- 「うるせぇ!」
- リーリン
- 「あの格好付けの餓鬼の言う通りなのかよ? あと二、三倍の戦力が要るって……!」
- ダバ
- 「あれ、後退するつもり?」
- リーリン
- 「モッシャ、あんたの処分は帰ってからだ! 覚悟しておきな!」
- ハッシャ
- 「処分するだと?」
- 盗賊の手下
- 「お、お仕置きよ、へへっ……」
- ハッシャ
- 「うるせぇ!」
- 盗賊の手下
- 「わぁっ、俺のゼッタ……!」
- ダバ
- 「……妙に簡単に、引き上げてったな」
- ギャブレー
- 「あの連中では、この程度のもんだな」
- 「ダバ・マイロードと言ったな……癇に障る男だ」
- アム
- 「キャオ……あんたって、頭に馬鹿が付く程のお人好しだね」
- キャオ
- 「何か言ったか?」
- アム
- 「手形をみすみす取られちゃってさ。ドジって言ったのよ」
- キャオ
- 「ん、しょうがねぇだろうが。急に襲われたんだから」
- アム
- 「予告して襲う盗賊が居ると思って? 馬鹿ね……」
- キャオ
- 「俺はね、おめぇのように盗賊崩れの擦れっ枯らしじゃねんだ。盗まれもするよ」
- アム
- 「悪かったわね!」
- ダバ
- 「いてっ……」
- 「何か用か、アム?」
- アム
- 「いけね、ごめん〜ははっ……!」
- ダバ
- 「ははっ……変な子だ」
- アム
- 「そりゃね、確かに私は、盗賊暮らしの擦れっ枯らしですよ」
- 「でもね、好きで盗賊になったんじゃないんだ。自分だけ上等の人間だと思ってさ」
- 「ナロ〜ッ!」
- ダバ
- 「アム、素っ頓狂な声出さないで、肩のカバー付けて」
- アム
- 「あ、うん、分かった」
- ダバ
- 「わっ、もっと左だ左、ゆっくり」
- アム
- 「おっと、これじゃないのか」
- ダバ
- 「よーし、今度はいける。上手い」
- アム
- 「あ〜ん、上手く行った〜」
- ハッシャ
- 「うぉぉっ、ぅっ……!」
- リーリン
- 「今度あんなふざけた事するなら、そんときゃ本当に追い出すからね?」
- ハッシャ
- 「ちっ、何言ってやがるんで……やられるかい」
- ギャブレー
- 「流石だな……短時間の間に、これだけの兵隊集められるとは」
- リーリン
- 「その代わり、百万ギーンの手形は頂くよ」
- ギャブレー
- 「あいつらに勝ったらな」
- リーリン
- 「あんたも物好きだね。何か深い恨みでもあるのかい、あいつらに?」
- ギャブレー
- 「奴らは、私を侮辱したのだよ。たかが食い物の事でだ」
- 「それは許せん」
- リーリン
- 「いいね〜、そういうのが男ってもんだよ、坊や」
- ギャブレー
- 「気安く触らんでもらいたいな。私の気持ちは、他人には分からんよ」
- リーリン
- 「いいねいいね、凛々しくて……あんた、私の下で働くつもりないかい?」
- ギャブレー
- 「私はもう少し、志が高いつもりだ」
- リーリン
- 「満更、詰まらない稼業でもないんだよ? 詰まらないのも多いがね」
- ギャブレー
- 「来たぞ、リーリン姐さん」
- リーリン
- 「どれどれ? あ〜、本当だ……あんたの言う通りだ」
- ハッシャ
- 「何をイチャイチャしてやがるんだ、姐さんは?」
- 「百万ギーンの手形が本当なら、あの野郎、さっさとやっちまえばいいんだよ」
- リーリン
- 「みんな!」
- 「奇襲を掛ける! 愚図愚図するんじゃないよ!」
- ハッシャ
- 「よーし、行くぞ!」
- キャオ
- 「やっぱりな……お出でなすったぞ、ダバ」
- ダバ
- 「覚悟してるよ。こっちはいつでも、スタンバイOKだ」
- 「あの集団の中に、手形泥棒は見えないか? 奴なら必ず、俺達を潰しに来る筈だ」
- キャオ
- 「リーリンなんて女が、あいつと組むなんて信じられるかい、アム?」
- アム
- 「私は、リーリンと手を切ったんだよ? 分かる訳ないでしょ?」
- キャオ
- 「何を〜? へん、今更綺麗な口を利いて気取ったって……落とされんなよ!」
- ダバ
- 「うっ……!」
- 「ゼッタにブースターを付けてきたのか。あの女を只の山賊と思ったのが、迂闊だったな」
- ハッシャ
- 「こいつに上手い事、姐さんがやられてくれりゃ、俺は次の頭だ」
- 「何とかあの白い奴の前に、姐さんを誘き出してやる」
- リーリン
- 「今度こそって台詞があるんだよ。白い奴、行くぜ!」
- 盗賊の手下
- 「わ〜っ、飛べ飛べ……!」
- キャオ
- 「ど〜んなもんだい、数じゃねってんだよ」
- リーリン
- 「くっ、だらしない奴らめ」
- ハッシャ
- 「やるか、思い切って……!」
- ギャブレー
- 「所詮は山賊の集まりだな。組織戦は出来んな」
- ダバ
- 「来たな、手形泥棒!」
- ギャブレー
- 「見掛けだけではなさそうだ。中身もある」
- ダバ
- 「手形を返してもらうまでは、決して放しはしない」
- キャオ
- 「おめ〜は邪魔なんだよ!」
- 「おい、どこ行くの?」
- アム
- 「リリス、どこへ行くのよ?」
- ダバ
- 「頂きだ、アローンのギャブレー!」
- 「何、あのリリス? 邪魔をする……?」
- リーリン
- 「うっ、うぅっ……!」
- 「餓鬼……」
- ダバ
- 「キャオがやったのか?」
- ハッシャ
- 「やった、やっちまった……」
- ダバ
- 「仲間割れか」
- ハッシャ
- 「おいみんな、こいつがリーリン姐さんをやったぞ! 手を貸せ!」
- 盗賊の手下
- 「え、リーリン姐さんが?」
- 〃
- 「やられた? 本当かよ?」
- 〃
- 「どうする?」
- 〃
- 「やばいよ……!」
- 〃
- 「わ、何で……!」
- ギャブレー
- 「おい、しっかりしろ」
- リーリン
- 「あんたかい、色男……。私も焼きが回ったもんだよ。手下にやられるなんてね……」
- ギャブレー
- 「部下に……?」
- リーリン
- 「モッシャが……馬鹿だからね、あいつは……」
- 「ね、最後の頼みって奴だ。聞いとくれ」
- ギャブレー
- 「何だ?」
- リーリン
- 「この私の組を、あんたが引き取っとくれ……ね?」
- ギャブレー
- 「おい……!」
- 「一方的に頼み事なぞ……」
- 「むっ……!」
- ハッシャ
- 「うぉぉっ、わっ……!」
- ダバ
- 「手形を返してもらおうか」
- ギャブレー
- 「結局、こういう風になるようだな。ダバ・マイロード君」
- アム
- 「加勢するわよ、ダバ」
- ダバ
- 「いや、こいつとは一対一でやってみたい」
- ギャブレー
- 「望む所だな、ダバ・マイロード君」
- ダバ
- 「故障でもしたのか、ギャブレー?」
- 「殺したくない。手形を返せば助けてやる」
- 「リリス、お前……」
- アム
- 「ダバ、やったのね? ダバ……!」
- ダバ
- 「おいどうした、大丈夫か、ギャブレー?」
- ギャブレー
- 「有難う。余計な心配を掛けたようだが、どうやら今日の所は私の負けだ」
- 「その有翼人が、とんだ秘密兵器だったって訳だ」
- 「また会おう、ダバ・マイロード。今日の借りは、その時に必ず返す」
- 「では、失礼する」
- リリス
- 「ベェッ!」
- ダバ
- 「無茶しちゃ駄目じゃないか」
- 「でも、有難う」
- 「恩返しなんか考えなくていいんだ、リリス」
- 「もし、今度こんな事したら、メッだからね」
- ギャブレー
- 「いいかよく聞け、山賊共」
- 「リーリン姐さんを殺ったのは、ハッシャ・モッシャだった」
- 「しかし、あの白い奴が手を貸したのも、事実だ」
- 「以後は、私がお前達を指導して、リーリン姐さんの仇討ちをする。いいな?」
- 「死者への手向けをする事こそ、生きている者の務めだ」
- 「裏切り者は、容赦しない!」