第6話 シー・ジャック

前回のあらすじ
ペンタゴナという、太陽系の辺鄙な惑星コアム。
そこで育ったダバ・マイロードの律儀さが、ポセイダル軍の宇宙船を盗み出す事になってしまった。
チャイ
「射撃をやめさせろ! エネルギーの無駄使いはやめさせるんだ!」
「中には軍の物資も入っている。奪い返せ」
正規軍
「はっ! ガストガルでですか?」
チャイ
「ガストガルのパトロール隊には待機させろ」
正規軍
「はっ!」
チャイ
「それだけでは駄目だ! 追って奪い返せ!」
「正規軍に任せるにしても、十三人衆の私の目の前で奪われたとあっては、コアム地方軍の名が泣くわ」
ダバ
「キャオ、ブリッジに向かってくれたか。アムを助けてやってくれ」
「アム、首尾はどうだ?」
「わっ、あっ……!」
「うっ……!」
レッシィ
「その男は頼んだわよ」
キャオ
「アム」
アム
「キャオ」
キャオ
「下手に動くなよ?」
乗組員
「船内通信だよ」
キャオ
「他にまだ、誰か居るのか?」
乗組員
「乗組員はこれだけだ」
アム
「さっき、ブリッジの近くまできた兵隊が居たわ」
「何の用? 誰?」
「な〜んだ、ダバ、ちゃんと乗り込んでたのね」
「良かった、無事?」
ダバ
「アム、女……!」
アム
「女? 女と一緒になって、何て声出してんの?」
キャオ
「女?」
アム
「女とふざけてる時じゃないでしょ?」
ダバ
「違うんだ、女の軍人……軍人が、一人そっちへ行った!」
「わっ、くっ……!」
アム
「分かったわ。女一人ぐらい、相手にしてやるよ」
キャオ
「お前らは前を見て。真面目に船を飛ばしてりゃいいの!」
正規軍
「ぐわっ、ぐっ……!」
ダバ
「ご、ごめん」
正規軍
「こんのぉ〜!」
ダバ
「もう、執拗いな」
「そらっ……!」
正規軍
「わ〜っ!」
アム
「付いてこなくてもいいのに」
「きゃっ……!」
「出といでよ。あんた一人だって事は、分かってんだから」
レッシィ
「お前達、今すぐ船を戻せ。このままで済むと思ったら大間違いだ」
アム
「余計なお世話よ」
キャオ
「ダバ、やったのか?」
ダバ
「え?」
「あ、ごめん」
「キャオ、アムはどこへ行ったんだ?」
キャオ
「あれ、行かなかった? 一緒にそいつをやっつけたんじゃないの?」
ダバ
「え?」
「もう一人は捷い奴なんだぞ。アム一人じゃ……」
キャオ
「仕方ないだろ? ブリッジの方も目が離せないんだよ」
「俺の後ろに回り込むなって!」
アム
「引っ込んでるの!」
レッシィ
「あ、しまった……!」
「くっ……!」
アム
「中々素早かったんだけどね。リーリン姐さん仕込みの早業っての、伊達じゃないんだよ」
レッシィ
「くっ……!」
アム
「あんた……正規軍?」
レッシィ
「いけないかい?」
アム
「さ、立ちなさいよ」
「手を頭にやって」
ダバ
「アム、アム」
アム
「ダバ、こっちよ」
レッシィ
「この!」
アム
「うっ!」
レッシィ
「くっ、てぇっ!」
アム
「う、このっ……!」
レッシィ
「あ、あ〜っ!」
ダバ
「あっ……?」
アム
「あ〜、噛んだ! 噛んだわね!」
ダバ
「ア、アム……もうやめろよ」
レッシィ
「はぁっ、はぁっ……!」
「この、盗っ人がぁ〜!」
アム
「黙んなよ〜!」
アム、レッシィ
「うっ……!」
ダバ
「……何やってんだよ?」
キャオ
「ははっ……どう、似合ってると思わない?」
ダバ
「そんな格好して、面白いのかよ?」
キャオ
「作戦よ作戦。万一に備えての変装」
「お、派手にやったな〜」
「元気?」
アム
「お陰様でね」
ダバ
「この船の船長さんは?」
船長
「私だ」
ダバ
「この船はどこ行きですか? ミズン星だと助かるんだけど……」
船長
「せっかくだが、これは、ガストガル行きだ」
キャオ
「ミズン星へ行けよ」
レッシィ
「ははっ……!」
キャオ
「何だよ?」
レッシィ
「行き先も知らずに船を乗っ取るなんて、お粗末もいいとこね」
「あんた達、船の事について何も知っちゃいない……そうだろ?」
チャオ
「一々突っ掛かるんだな、もう……!」
ダバ
「本当なんだから仕方がないじゃないか」
「ミズン星へ行ってくれませんか?」
船長
「この船は、自動航行装置によって運行されている。進路変更は出来ん」
アム
「あら、プログラムを変えれば行ける筈よ?」
「この船にだって、プログラマーが乗ってるでしょ?」
キャオ
「どいつだ〜、そのプログラマってな?」
「おっ……?」
アム
「み〜つけ」
キャオ
「そう、君だったの。やってくれるね?」
乗組員
「せ、船長……!」
船長
「ううむ、やむを得んな……」
レッシィ
「やめなさい! そんな事をすれば、お前達も同じ罪に……!」
乗組員
「船長、小型艇が急速に接近してきます!」
 〃
「パトロール艇ですよ、船長」
キャオ
「もっとスピード上げらんないのかよ?」
乗組員
「パトロール艇を振り切れる訳ないだろ?」
「船長、どうします? 停止しますか?」
キャオ
「この野郎、そんな事してみろ!」
「お、おい、ダバ、どこへ行くんだ?」
ダバ
「何とかしてみる」
「船長、プログラムの変更、お願いします」
船長
「『お願いします!』……本気かね?」
キャオ
「本気だよ!」
ダバ
「まさか、スペース・スーツが要るようになるなんてね」
「小型ブースターがある」
正規軍
「三号機は輸送船の前へ出る。二号機は雲影へ付けろ」
 〃
「三号機、了解!」
 〃
「二号機、了解!」
ダバ
「ジョイントは共用の奴だ。使える」
「はまるかな?」
「キャオ、出るぞ」
キャオ
「大気圏の外でなんて、やれんのか?」
ダバ
「やってみれば分かるだろ」
正規軍
「出て来るぞ」
「ヘビー・メタルだ。空港で暴れた奴だ」
ダバ
「行くぞ!」
「わ〜っ、は、速い……!」
「うわぁぁっ!」
「来た!」
アム
「あ〜あ、何て飛び方してんだろ?」
乗組員
「あれで、パトロール艇をやろうっていうの……本気?」
アム
「煩い!」
キャオ
「ちょっと我慢してね」
レッシィ
「いつまでも我慢しないわよ」
アム
「キャオ、いつまでも女の世話してないで、ダバの援護しなさいよ」
キャオ
「この女、舐めると怖いのよ」
アム
「軍服着ればいいってもんじゃないでしょ?」
レッシィ
「イ〜ッ!」
アム
「ふんっ」
リリス
「イ〜ッ!」
アム、リリス
「ふんっ」
ダバ
「何と……!」
「変な所に当たるな?」
「よーし!」
キャオ
「レーザー砲ぐらいあるんだろうけど、どこにあんだ?」
アム
「ちょっとあんた……」
「あんたよ」
乗組員
「は、はい」
アム
「ちゃんとやってる? 誤魔化そうたって駄目よ」
「きゃっ!」
レッシィ
「今よ! 通信回線を開いて! 早くパトロール艇へ!」
「こちら、ガウ・ハ・レッシィ。コアム・パトロール艇へ連絡を取って!」
「この輸送船は、ガストガル星へは行かない! ミズン星よ、ミズン星に進路を変更!」
正規軍
「了解した」
「引き上げだ」
ダバ
「あれ、引き返すのか?」
キャオ
「おい、レーザー砲はどこへあんだよ?」
アム
「キャオ……!」
キャオ
「ん?」
「このアマ、何したんだ?」
「あ、おっぱい……」
「あっ!」
レッシィ
「何、勝手に感動してんの!」
キャオ
「わっ……!」
レッシィ
「ん、貴様……!」
ダバ
「あっ……」
アム
「ダバ、そいつパトロール艇に知らせたよ? ミズン星に行くって……」
「にゃろっ!」
正規軍
「わっ!」
アム
「こんな女、外へ放り出せばいいのよ」
レッシィ
「黙ってやられるような、ガウ・ハ・レッシィじゃないよ!」
アム
「何だと〜!」
ダバ
「アム、俺達はこの人の協力が要る」
レッシィ
「誰の協力だ?」
ダバ
「いいじゃない、宜しく頼むよ」
レッシィ
「何〜?」
ダバ
「あ、キャオ」
「酷くやられたのか?」
レッシィ
「あんた、盗っ人の癖に、ちょっと図々しいんじゃない?」
「……見たな?」
ダバ
「見た……」
チャイ
「レッシィは乗り込んだんだな?」
「滞空中の第五パトロール隊を出動させろ。人質に対しては手を打つ」
「……貴様、誰に断って入ってきたんだ?」
ギャブレー
「新しい任務があると思いましたので」
チャイ
「何だと? 貴様、私の直轄でありながら、勝手にやり過ぎだな」
ギャブレー
「それもこれも、チャイ様のお役に立てる自信があればこそでございます」
チャイ
「図に乗るなよ。奪われたトランス・ポーター、奪い返せるのか?」
ギャブレー
「十三人衆の名前を汚すような事は致しません」
チャイ
「ほざいたな、ギャブレー。なら無傷で奪い返せ」
ギャブレー
「無傷で……」
チャイ
「ああ、リスタの操縦を許可するよ」
ギャブレー
「はっ!」
ギャブレー
「ふっ、あれがスペース用のリスタか」
正規軍
「追撃戦を若造がやるんだって?」
 〃
「十三人衆の直轄なんだとよ」
 〃
「やだやだ、ポセイダルに取り入った連中なんてよ」
 〃
「よく、チャイが許可したな」
 〃
「ギワザに取り入るのだけ上手いからよ」
 〃
「ギャブレーって奴もか」
 〃
「今頃、クシャミしてたりして……」
ギャブレー
「ハックション!」
チャイ
「ハックション!」
「……何だ?」
正規軍
「ノズル・コントロール、OK」
 〃
「レーザー・シンクロ交差、オン!」
キャオ
「あ? 何だありゃ?」
船長
「検問だろう」
キャオ
「検問?」
アム
「検問? 宇宙空間で?」
キャオ
「俺達を見付ける為か?」
船長
「そうかもしれんが、通行税をたかる連中かもしれん」
キャオ
「たかりが軍の中に居るの?」
船長
「パトロール隊というのは、冷飯食いの連中だ」
キャオ
「話の付けようは、あるってのかい?」
ダバ
「ポセイダル軍の内部は堕落しきっているのさ。強行突破出来るよ」
船長
「やめな」
キャオ
「パイロット達は、倉庫にぶち込んだんだぜ? そいつを使えば……!」
船長
「縁の連中は戦いを嫌う」
キャオ
「本当か?」
船長
「上手く言い逃れろ」
ダバ
「成程」
「キャオ、やれ」
キャオ
「何を?」
ダバ
「金で済むんなら、百万ギーンの手形を渡すって言えばいい」
キャオ
「アマンダラのだよ、どうすんの?」
ダバ
「渡す隙に逃げるさ」
正規軍
「よーし、停船しろ。話によっちゃ見逃したっていいんだぜ、大将」
キャオ
「あ、は〜い」
アム
「馬鹿……」
正規軍
「この先は、海賊だってウヨウヨ居るんだ」
キャオ
「ら、らしいね、大将」
正規軍
「俺達は、お前らと会わなかったって言ったっていいんだぜ?」
キャオ
「ふ〜ん、宇宙は広いもんね。だから、何なの?」
ダバ
「十万ギーンで通せって」
キャオ
「こっちだって、海賊対策ぐらいは考えている」
正規軍
「そういうならハッチ開けて、てめぇらの上前撥ねるだけだ」
「黙って通行税を置いてけば、通してやるぜ」
キャオ
「百万ギーンの手形ってのはどうだ?」
正規軍
「現金でなけりゃ駄目だ」
キャオ
「ダバ……」
正規軍
「力尽くで貰うぜ」
キャオ
「え?」
正規軍
「この船に乗り込め!」
キャオ
「あ、ちょっと……」
「百万ギーンだぜ?」
アム
「この役立たずが!」
「逃げるよ、全速で!」
正規軍
「あの船、逃がすな! 金になる!」
ギャブレー
「パトロール隊の諸君」
「パトロール隊の諸君、盗賊はこの、ギャブレット・ギャブレーが生け捕りにする」
正規軍
「誰だ、お前は?」
ギャブレー
「チャイ・チャー様直属の、ギャブレット・ギャブレーだ!」
ダバ
「エルガイムで出よう」
アム
「ダバ〜、どうしてダバだけ危ない事するの〜?」
「キャオ、あんた行けばいいでしょ?」
キャオ
「な、何でよ?」
アム
「あんた、話の付け方が下手だった」
キャオ
「あっ、そゆ事言うのね?」
船長
「パトロール隊でない者が近付いてるな」
ギャブレー
「停止しろ、盗っ人共」
キャオ
「あ、お前……!」
ギャブレー
「ああ、いつ軍隊に入った?」
キャオ
「ああ、これ? 割と似合ってるでしょ?」
アム
「何してんのよ!」
「いいかい? こっちにはしっかり人質が居るんだよ? あんた達こそ、邪魔はおよし!」
ギャブレー
「ふふっ、気の強いお嬢さんだ」
アム
「うぅっ……!」
ギャブレー
「これが答えだ。脅しは一度だけだ」
船長
「強引過ぎないか? こちらには、十三人衆の一人も捕えられておる!」
ギャブレー
「ならば、船を止めないか。こちらの要求に逆らえば、砲撃せざるを得ない」
アム
「食い意地の汚い奴から逃げてみせる」
ダバ
「俺が奴らを引き付ける」
アム
「頼むわ」
キャオ
「ダ、ダバ……」
アム
「ほら、あんたも援護して」
「船長さん、頑張って」
キャオ
「イ〜ッ!」
ダバ
「ブースターの調節が難しいんだよな。今度はちゃんと飛べよ」
ギャブレー
「ん、抵抗するのか?」
「数名をあのハッチから入れろ。私はリスタで出る」
正規軍
「……格好付けちゃって」
ダバ
「よーし、順調」
「堕落したパトロール隊も、一応は軍隊か」
ギャブレー
「気負って、ドジ踏むなよ?」
正規軍
「若いあんたこそ、気を付けるべきだ」
ギャブレー
「やかましい!」
「一々逆らいやがって……」
「ん、わっ……!」
ダバ
「わっ、体当たりかよ!」
「撃つよ!」
ギャブレー
「くっ、あいつ……!」
ダバ
「しまった、ハッチから入られた」
「アム、キャオ!」
キャオ
「大人しくしてなよ?」
アム
「キャオ、キャオ!」
キャオ
「何だ?」
アム
「格納庫から兵隊が入ってくるって。行ってみて!」
キャオ
「分かった」
「あれ、あっ……何だ?」
船長
「重力制御装置をやられたぞ」
アム
「あ〜んっ!」
船長
「丸見えだ……ちゃんと座れ!」
キャオ
「あっ、わっ……!」
正規軍
「待て!」
キャオ
「く、来るな! 近付くと撃つぞ!」
正規軍
「宇宙服も着ないで、よく銃を撃てるもんだ」
ダバ
「そこか!」
正規軍
「あ、後ろかよ……!」
正規軍
「後ろへ回ってみよう!」
レッシィ
「ここを開けて」
正規軍
「は、はい!」
レッシィ
「ブリッジの連中は?」
正規軍
「まだ捕えてはおりません」
レッシィ
「お前達は船へ引き上げて。私もすぐに戻るわ」
「銃を貸して」
正規軍
「ど、どこへ……?」
レッシィ
「戻し次第、この船を吹き飛ばしてやるわ。急いで」
正規軍
「はっ!」
「おい、引き上げだ!」
 〃
「俺は、軍服を取り返してから行く。先に行ってくれ」
 〃
「気を付けろよ」
キャオ
「わ〜っ!」
正規軍
「服返せ〜!」
「わぁぁっ!」
キャオ
「あら? ヒヒッ……」
「あの女、逃げたな!」
アム
「あの女を逃がしたの? 何で?」
キャオ
「逃げたんだよ」
アム
「全く、役に立たないんだから」
「船長、変な真似しちゃ駄目よ」
船長
「自分の船は壊したくない」
ダバ
「流石に軍人さんは、戦い慣れてるな」
「後ろ……わっ!」
ギャブレー
「ふっ、呆気ないもんだな、ダバ」
ダバ
「くっ、まだまだ……!」
ギャブレー
「やるな!」
レッシィ
「あの坊や、よく持つよ」
ダバ
「飛べ、エルガイム!」
ギャブレー
「何だと?」
レッシィ
「坊や、よくやった。では、今度私が……あっ!」
「きゃっ!」
正規軍
「わっ! ギャブレーの若造、もう待たねぇぞ!」
ダバ
「キャオか、助かる。やるじゃないのさ」
正規軍
「よう、チャイ・チャー様には、何と報告するんだよ?」
ギャブレー
「私は諦めん!」
レッシィ
「こいつ! このミラリー! 有翼人!」
「んっ……!」
アム
「あんたも懲りない人なんだよね?」
レッシィ
「追撃してきた船を追っ払ったの、私だよ?」
アム
「何で、そんな事したの?」
レッシィ
「知らない。坊やに聞いてご覧?」
アム
「こいつ〜!」
「ダバ……」
レッシィ
「は〜い」
ダバ
「は〜い」
アム
「ダバ!」
ダバ
「わっ、何だ何だ?」
アム
「あんたはあの女と、何やってたんじゃ!」
ダバ
「何だ? 何だよ?」
レッシィ
「ふん、見苦しいわ!」
「あっ……!」
キャオ
「さ〜て、ミズン星にどうやって侵入するかね〜?」
レッシィ
「そうね、そいつは問題よ」
キャオ
「あ? あ〜あ……」