第8話 ヤーマン・クラン

前回のあらすじ
ペンタゴナという、太陽系の辺鄙な惑星コアムから、物語はミズン星に移った。
しかし、ギャブレーの追撃を振り切るだけで精一杯。
そこに現れるは、ステラ・コバンと反乱軍……という訳。
船長
「ふう、やれやれ……」
レッシィ
「何故、反乱軍は、この船を襲わなかったと思う?」
船長
「白いヘビー・メタルと合流出来たから、気が済んだんでしょ」
レッシィ
「確かに、あの白いヘビー・メタルは、使いようによっては強力な戦力になるね」
「ん? 軍のジャイロか?」
ギャブレー
「十三人衆のガウ・ハ・レッシィは居るか? 迎えにきた。ガウ・ハ・レッシィ」
「盗っ人に殺されたのか? 連れて行かれたのか? ガウ・ハ・レッシィ」
「居ないのならば、仕方がない……引き上げるぞ」
レッシィ
「貴様! どこの隊の者だ! 目は付いてるのか! 手を挙げてるのが見えないのか!」
ギャブレー
「チャイ・チャー様の命令で迎えにきた。掴まれ」
レッシィ
「掴まれ?」
「あっ……!」
「貴様、どういうつもりか?」
ギャブレー
「つもりはない。命令だからやっているだけだ」
「私は、エルガイムを追い掛けたい」
レッシィ
「じゃあ貴様か。ミズンに来るまで追っ掛けて、次々と失敗したってのは」
ギャブレー
「生まれて始めての宇宙戦やら、ヘビー・メタルのグライアやら、むしろ、よく戦ったと褒めて貰いたいね」
レッシィ
「そうかい。偉いよ坊や」
ギャブレー
「むっ……!」
レッシィ
「ああ、ああ〜っ!」
ギャブレー
「……只の坊やではないつもりだが?」
レッシィ
「そんな脅しで、女が『はい、ごめんなさい』って言うと思ってるから、山出しって言われるんでしょ!」
キャオ
「おっと、ほれ、こらしょっと!」
リーフ
「あ、ステラ様……」
「あいつら、我々の事を、盗賊じゃないかと言うんです」
ステラ
「この有様では、反乱軍などとは思えんものな」
キャオ
「いや、俺はそんな酷い言い方はしてないぜ?」
「あんましみんなが、点々バラバラにやってっからさ……」
アム
「早いとこ謝っちゃいなさいよ」
キャオ
「……ん?」
ステラ
「ダバ君、外の修理は部下にやらせよう。少しは休みたまえ」
ダバ
「アマンダラ・カマンダラに会うまでは急ぎたいんです。彼の居所は分かりましたか?」
ステラ
「リーフ、エルガイムの修理が終わり次第、出発してくれ」
リーフ
「はい」
ダバ
「ステラさん。反乱軍の貴方が、ポセイダルの正規軍へ協力しているアマンダラを、何故知ってるんです?」
ステラ
「我々の情報網の素晴らしさかな」
ダバ
「しかし、あんたは俺達を、アマンダラに会わせてくれると言ったな?」
ステラ
「うむ、それでいいじゃないか。我々の情報網は、君のエルガイムにも目を付けて、私達は接触出来た」
「いいヘビー・メタルだ」
ダバ
「でもまだ、十分に使いこなせていない……。俺の損な性分のせいでね」
アム
「その性分のせいで、私達、知り合えたのよね?」
ダバ
「そうだね」
ステラ
「この話、極秘事項だぞ?」
ダバ
「そりゃもう」
キャオ
「おりゃ、正規軍のユニフォーム、好きなんだよな〜」
ステラ
「ん? 君は洋服の格好で、人生を決めるのかね?」
キャオ
「死にたかね〜もんな」
ステラ
「君のような男が居るから……!」
キャオ
「うっ……!」
ダバ
「キャオ、謝れ!」
「ステラさんに謝れ」
キャオ
「な、何でだよ〜?」
ダバ
「エルガイムを直してもらえば、こっちのもんだろ?」
「謝れってんだ!」
キャオ
「ん、効く〜」
「ステラさん……僕も、反乱軍精神の勉強します」
ステラ
「そうかそうか。若者、期待するよ。諸君の働きに」
「リーフ、修理を急げ」
キャオ
「な〜んも聞こえない……」
レッシィ
「ギワザ・ロワウ閣下が仕組んでいるのよ。縄張り争いの時代じゃないからね」
ギャブレー
「ここの司令の首が飛ぶって……」
正規軍
「余所者が、邪魔するな!」
ギャブレー
「レッシィ……女だからといって、容赦しないぞ!」
レッシィ
「首切られる司令が居るのよ? もう少し気配りないと、あんたも即首よ」
ギャブレー
「ははっ……チャイ・チャー殿の通信が入ったそうで、受領に参りました」
レッシィ
「軍の出世ってね、パワーだけじゃないんだよね」
ギャブレー
「上手にするわい」
レッシィ
「ベェッ!」
ギャブレー
「チャイ・チャー殿の伝聞は?」
正規軍
「口頭で伝えます」
ギャブレー
「口頭?」
レッシィ
「秘密指令はそうなのよ」
ギャブレー
「何で?」
レッシィ
「阿呆!」
正規軍
「『以前より追跡していた所属不明のヨットが、ミズンに降下の模様。これを追跡、調査せよ』……以上」
ギャブレー
「不審なヨット……何だ?」
レッシィ
「だから、チャイ・チャーは、あんたに私を助けさせたのか」
ギャブレー
「知ってんだろ?」
レッシィ
「当たり前だ。私は十三人衆……あんたはまだ、見習いでしょうが」
ギャブレー
「分かった、頼まん! 一人でやる!」
レッシィ
「待ちなよ、ギャブレー君」
ギャブレー
「ブースターは任せていいのか?」
レッシィ
「当たり前だろ?」
ギャブレー
「俺はグライアで出る」
レッシィ
「用意はいいかい、ギャブレー君?」
ギャブレー
「いい加減にしないか、少女! “君”はやめて欲しい!」
レッシィ
「ははっ、ごめん、ギャブレーちゃん」
「行くよ」
キャオ
「街だ」
リーフ
「あんな所は避けろ。迂回すりゃいい」
キャオ
「何で?」
リーフ
「ヤーマン族の街があった所だ」
キャオ
「ヤーマン? ポセイダルが滅ぼす前に、このミズン星を支配していた種族の事か?」
リーフ
「そうさ。あんな所、用はない」
ダバ
「いや、キャオ、村へ入れ」
リーフ
「ダバ、何でだよ? 無駄な事だ」
ダバ
「俺達は、ミズンの事は何も知らず、あんた達反乱軍の事もよく分からないんだ」
「だから、滅ぼされたヤーマン族の遺跡も、見ておきたい」
アム
「誰も居ないじゃない、パサパサでさ」
キャオ
「お、お〜い、ヤーマン族の方、居らっしゃいませんか?」
「あ?」
ダバ
「キャオ、誰か居たの?」
キャオ
「うわっ……!」
「もしもし、何方かいらっしゃいませんか?」
「ぎゃ〜っ!」
ダバ
「キャオ、どうした?」
アム
「鼠でも居たの?」
キャオ
「ミ、ミイラだよ……!」
アム
「えっ……?」
ダバ
「ミイラ……」
リーフ
「ヤーマン族です。ポセイダルに皆殺しにされたヤーマン族です」
「ヤーマン族根絶やし作戦の犠牲者って訳です」
キャオ
「根絶やし作戦?」
リーフ
「ヤーマン一族を、酷く恐れていたようですね」
ダバ
「ポセイダルがか?」
リーフ
「ええ。何故だと思います?」
ダバ
「分からない」
リーフ
「博物館なんですよ、ここは」
キャオ
「博物館?」
リーフ
「ヤーマン族は一人残らずこうするぞっていう、ポセイダルの見せしめの博物館」
アム
「酷いわ……!」
リーフ
「ペンダゴナの全ての王朝は、こうやって滅ぼされたのです」
ダバ
「それでポセイダルは、五つの惑星を支配した……」
リーフ
「こんな事って許せますか?」
「あんたらは、そんなポセイダルの政治を、黙って見ていくつもりなのですか?」
ダバ
「俺達はコアムの田舎者だ。まだよく分からないんだ」
リリス
「うぅっ……!」
ダバ
「ジャイロが来る?」
ダバ
「正面の倉庫に突っ込め」
キャオ
「おう!」
アム
「軍のジャイロ?」
正規軍
「今、何か光らなかったか?」
ダバ
「いつでも出られるように準備して」
ダバ、アム
「わっ……!」
キャオ
「あんにゃろ〜!」
アム
「ポセイダル軍、落としてやる!」
ダバ
「やめろ、アム」
「リリスは?」
リリス
「んんっ……!」
正規軍
「うわぁぁっ!」
 〃
「うわっ……!」
アム
「あれ?」
ダバ
「リリスがやった」
リリス
「うふっ」
キャオ
「もう、こんな所に長居は無用だ。ダバ、行こうぜ」
「ダバ……ダバったら」
ダバ
「え?」
キャオ
「どうかしたか、ダバ?」
ダバ
「いや、別に……何でもない」
キャオ
「行こうぜ」
ダバ
「ああ」
ギャブレー
「ヤーマン族の廃村に、誰か立ち寄った形跡があるという報告は、確かなのか?」
正規軍
「ロージア警備隊の報告ですから、確認はしていません」
レッシィ
「行ってみる価値はあるんじゃないの、ギャブレー? ダバ達って事は考えられるわ」
ギャブレー
「ふっ、ヨットよりそちらの方が、私の好みだしな」
キャオ
「へえ、ここがヤーマン族の居た頃の首都の、ロージナかい」
アム
「荒れてんな〜」
ダバ
「俺が、ダバ・ハッサーから聞いていたロージアは、もっと美しく、緑も豊かな街だった」
アム、キャオ
「へ〜」
リーフ
「ヤーマン族の王宮の跡です」
ダバ
「燃えている……家だった所だ……」
リーフ
「よし、次の崖へ降りてくれ」
キャオ
「わっ……!」
「行き止まりだぜ?」
アム
「ここを行けってんじゃないでしょうね?」
リーフ
「いや、ここの筈だ」
ダバ
「分かった」
キャオ
「わっ、おいおい……!」
アム、キャオ
「わっ……!」
キャオ
「あら?」
ダバ
「ホロ・スコープだ」
アム
「立体映像?」
ダバ、キャオ
「ん?」
リーフ
「これです。アマンダラさんの、操舵ヨットのホエールです」
ダバ
「こいつが……」
アム
「会社の持ち物だったら、このくらいの船はあるわよ」
キャオ
「でもよ、こんな胡散臭い隠し方をしたり、反乱軍の手助けをしたり……」
ダバ
「確かに、死の商人らしいやり口だな」
キャオ
「へへっ、これはたっぷりと脅し取れるぜ?」
ダバ
「そいつはしたくないな。手形を渡せば、関係のなくなる人だ」
「アマンダラ・カマンダラさ〜ん! アマンダラさ〜ん!」
リーフ
「居た居た」
キャオ
「へ〜、人が居んのか」
「何だ?」
「どうなってんだよ、こりゃ!」
「うわっ!」
「おい、こいつはどういう訳だよ?」
リーフ
「知りませんよ。私はただ、ステラ様の言い付け通りに、貴方達を……」
キャオ
「おい、ちょっと見てこい」
リーフ
「自分で見ればいいでしょうが」
キャオ
「遠慮すんなって!」
リーフ
「うわっ……!」
「ん?」
エイマン
「とんだ失礼をした」
ダバ
「何方か?」
エイマン
「アマンダラの秘書のエイマンです。貴方がたとは思いませんでしたので、失礼を」
キャオ
「本当? 知っててやったんじゃないの?」
エイマン
「アマンダラ様がお待ちです。どうぞ」
エイマン
「ダバ・マイロードと、そのご一行をお連れしました」
ダバ
「百万ギーンの手形、確かにお渡ししました。これで死んだ人間も居る事も忘れずに」
アマンダラ
「君のその誠意、気に入った。謝礼を出したい」
ダバ
「ならば……!」
アマンダラ
「うっ、あぁっ……!」
エイマン
「何て事を……!」
キャオ
「おっと」
ダバ
「危険な歓迎の返礼をさせてもらった事で、謝礼は受けました」
アマンダラ
「ふふっ……気に入ったよ、マイロード君。食事ぐらいしてゆかんか?」
リーフ
「ダ、ダバ……」
キャオ
「おい、待てよ」
アム
「ご飯だってさ」
アマンダラ
「君達だけでも、礼を受けてくれないかな?」
キャオ
「礼を?」
アマンダラ
「受けてくれるかね?」
アム、キャオ
「そ〜りゃもう!」
リーフ
「じゃあ、他の用もあるから」
ダバ
「ああ」
リーフ
「あの二人はどうするんだ?」
ダバ
「気が変われば、ワークスに帰ってくるさ」
リーフ
「じゃ、またな」
ダバ
「ああ」
「また……?」
リリス
「ふぁっ……」
ダバ
「お前は気楽でいいな」
正規軍
「何か言ったかい、おっさん? 俺達が酒代払ってねぇだと?」
民間人
「可哀想に……悪いのに掴まったよ」
ダバ
「警備兵だ」
リリス
「んん、んんっ……!」
ダバ
「助けろって?」
「駄目だってば」
民間人
「うわぁぁっ!」
正規軍
「一人だけ逃げねぇのか?」
ダバ
「いえ」
正規軍
「とっぽいじゃんかよ、小僧……おらっ!」
ダバ
「うわっ!」
「ここが俺の故郷なのか」
「リリス、無事か?」
リリス
「ぱっ」
ダバ
「出るな、引っ込んでろ」
正規軍
「うわっ!」
リーフ
「伏せろ、ダバ!」
ダバ
「リーフ!」
正規軍
「うわっ!」
 〃
「待て!」
「ロアン本部へ至急応援を」
 〃
「おう!」
ダバ
「有難う、助かったよ」
リーフ
「何となく、胸騒ぎがしてね」
「あんたはこの街、始めてじゃないんだろ?」
ダバ
「ん? 何で、そんな風に見えるんだ?」
リーフ
「他の二人と違うもんな」
「そこを左へ」
ダバ
「おい、本当にこの道で大丈夫なんだろうな? 出口塞がれちゃうぞ」
リーフ
「任せてください」
ダバ
「あっ……!」
リーフ
「あれ? 確かにこの辺りなんだ。参ったな、こりゃ……」
「引き返しますか」
ダバ
「追っ手が居なければね」
「けど奴ら、もうすぐ到着するな、これは……」
リーフ
「下水道があるんだよ、確か」
ギャブレー
「見付けたか?」
正規軍
「ロージナで追い掛けっこをやっている連中が」
ギャブレー
「そこはどこか?」
正規軍
「ロージナ第十三区1087です」
ギャブレー
「よし」
「お聞きの通りだ、レッシィ」
「お調子者め……自分の立場を弁えず、兵とやり合うから……」
レッシィ
「そのお調子者に梃子摺って、失敗を重ねたのは、どこの誰だったか?」
ギャブレー
「何とでも言うがいい! 今度こそは仕留めてみせる!」
アマンダラ
「ロージナの兵が……」
キャオ
「何なの?」
アマンダラ
「ダバ・マイロード君が追われているらしい」
キャオ
「え、どうしてそんな事が分かんの?」
アマンダラ
「ダバ君のフロッサーに、センサーを取り付けておいた」
アム
「貴方、そんな事する人なの?」
アマンダラ
「その為にダバ君の危機が分かったのだ。追い詰められている」
アム
「ダバ……」
「私行くよ、放っとけないもの」
キャオ
「おい、待てよアム……!」
「まだお礼貰ってないよ。おい、これ……!」
アム
「あんたにやるよ! じゃ!」
キャオ
「ん、もう……!」
アマンダラ
「やれやれ、行ったのか……」
キャオ
「あの、お礼、今度改めて貰いにきていいですか?」
アマンダラ
「明日の事など約束出来んな」
キャオ
「ケチ!」
アマンダラ
「今の二人に、アックスを貸してやりなさい」
部下
「はっ!」
アマンダラ
「あの三人、私の待っていた若者かもしれん……」
アム
「あっ……!」
キャオ
「やられたのかな?」
アム
「馬鹿言わないでよ! 何でダバがやられんの? 私がやらせないわい!」
ダバ
「お宅さ、コアム王朝の貴族の出だと言ってた割に、やる事えげつないんだな?」
「敵の爆撃のついでに火薬使うなんてよ」
リーフ
「へへっ……」
アム
「ダバ、どこに居るの?」
ダバ
「あ、その声はファンネリア・アム。アマンダラのお土産、どうした?」
アム
「どこで合流する?」
ダバ
「出る場所、分かるな?」
リーフ
「街の外れの、南の運河です」
ダバ
「という事だ。宜しく」
「ヘビー・メタルが……!」
ギャブレー
「出たな盗っ人……ヘビー・メタルを持たぬお前は、只の虫ケラだ」
「可哀想だが、捻り潰してやる」
リーフ
「うわぁぁっ!」
ダバ
「リーフ!」
リーフ
「ダバ!」
ダバ
「リーフ!」
「ブースター……」
レッシィ
「確かに、ダバ・マイロード……」
ダバ
「これ以上、街を滅茶滅茶にされたくはない……行くぞ、ギャブレー!」
ギャブレー
「ダバ……!」
ダバ
「うわぁぁっ!」
キャオ
「アム、無理すんな」
アム
「るっさいわね! 助けなくっちゃ、私、男日照りが続くのよ!」
「行け、ダバんとこへ!」
レッシィ
「エルガイムが? ダバは向こうの筈だ」
ダバ
「あ?」
ギャブレー
「何?」
アム
「きゃぁぁっ!」
キャオ
「ダバが乗るまでは、近付けさせないぜ!」
ダバ
「どいて、早く……!」
アム
「どいてって、どこへどくのよ?」
「あぁっ……!」
ギャブレー
「ははっ、こういうサイドってのも気の毒だな」
アム
「きゃぁぁっ!」
ダバ
「動けぇぇっ!」
アム
「あん、ダバ〜! ダバ、ダバ〜!」
ギャブレー
「くっ、あんなシステムにもパワーがあるのか!」
「レッシィ!」
レッシィ
「ふう、面倒見切れないね、全く……」
ダバ
「おい、アム」
「アム、大丈夫か、アム?」
アム
「う〜ん……」
ダバ
「アム」
アム
「く、苦しいわ、ああん……」
「……ばれてたか」
ダバ
「キャオ、リーフさんは見付からないのか?」
キャオ
「捕まったみたいだ」
「脱出するぞ、軍が動き出した」
ダバ
「了解」