第14話 レディ・ポセイダル

前回のあらすじ
ペンタゴナ・ワールドを、オルドナ・ポセイダルが一瞬の内に統一したのも、
星々の間の争いが長く続き過ぎたからだ。
で、遂に、ステラ・コバン指揮下の反乱軍は、ポセイダルの艦隊に仕掛けたんだが、
どうも相手が手を抜いてくれたって感じ。
この人、一体、何考えてるんでしょうね？
ステラ
「我々の攻撃に正規軍は無様に戦った。最早我々は、ポセイダルを恐れる事はない」
「各地には次々と同志が立ち上がりつつある」
「このリトル・セイのベースも、我々自身が予想する以上の同志が集まった」
反乱軍
「打倒ポセイダルだ！」
　〃
「同志ステラ！」
レッシィ
「……あんな能天気な事、言わせていいの？」
ダバ
「ステラさんのやり方だからね」
レッシィ
「元気ないよ？」
ダバ
「大丈夫だよ」
レッシィ
「何考えてるの？」
ステラ
「受け取りたまえ、諸君！」
ダバ
「まただ……」
レッシィ
「ダバ、あっ……きゃっ！」
ステラ
「次の作戦は近い。それまでは、これで英気を養え」
アム
「ちょっとどいてよ、もう……きゃっ！」
「こんな事だから、ステラ同志が図に乗るのよ」
「あ、リリス。ダバやレッシィが見えないけど、どこ？」
「何？　二人で？　どこ？」
ステラ
「何だ君は？　勝手に人の部屋に……」
ダバ
「すいません、是非ご相談したい事がありまして」
ステラ
「相談？」
ダバ
「はい」
ステラ
「どんな事だ？」
ダバ
「もう一度、ポセイダルを討ちに出撃させてください」
ステラ
「宇宙（そら）へか？」
ダバ
「勿論です」
ステラ
「若いな、君は……」
レッシィ
「リリス、しっ……」
ステラ
「少しばかりエルガイムで戦えたからといって、力を過信してはいかんな」
ダバ
「力を信じていないからこその作戦です」
「このままでは、ポセイダルの正規軍の包囲網は縮まるばかりです」
「このベースだっていつ落とされるか……」
ステラ
「リーダーは私だよ。そのくらいの事は考えている」
「いいかね？　我が反乱軍は、現在出資の集積を待っているんだ」
レッシィ
「あっ……」
アム
「ほら！」
レッシィ
「アム」
アム
「あんた、スパイやってんでしょ？」
レッシィ
「いい加減に焼き餠はやめて？」
アム
「盗み聞きがスパイでなくて何なのさ？」
レッシィ
「根性暗いからそう見えるのよ。私はダバを心配して……」
アム
「ステラ同志とあの中に居るの？」
レッシィ
「あっ……」
「ステラなんか気にしないで、ダバは思った通りやればいいのよ」
ダバ
「分かりました」
ステラ
「分かりゃいい」
アム、レッシィ
「ふんっ……！」
ステラ
「ダバ・マイロードか、危険だな……」
チャイ
「我々は、反乱軍を完全に分断させている。リトル・セイとかいうベースは、まさにリトルなのさ」
「今ならセイのベースを奪還出来る。共同作戦だぞ。協力するな、ネイ？」
ネイ
「窮鼠猫を咬むの喩え通り、追い詰められた鼠共は信じられない力を出します」
「ここはジリジリと攻めて、彼らが自滅するのを待つのが得策と考えますが？」
チャイ
「ポセイダル様が、ミズン星にいらっしゃろうというのだぞ」
ネイ
「その為に、チャイ殿のお力を見せたいと仰るのならば、益々協力出来ませんな」
チャイ
「くっ、貴様……！」
「……ギワザ様に気に入られているからといって……！」
ギャブレー
「ステラはリトル・セイまで後退したのです」
チャイ
「黙らんか！」
「貴様は女に見下されているのを、恥とは思わんのか？」
ギャブレー
「ネイ殿の仰る事が真理故……」
チャイ
「黙れ！　ポセイダル様の前に、手柄を示すのも真理だろうが！」
ギャブレー
「役人根性の軍人としては、それもそうです」
チャイ
「貴様、わっ……！」
ギャブレー
「連絡事項がなければ、ネイ殿の部隊へ戻ります」
ダバ
「わっ……！」
アム
「どちらへお出でですの、マイロードさん？」
ダバ
「黙って見逃して欲しいな」
アム
「レッシィも行くの？」
ダバ
「え？」
アム
「たった一隻で、どうやってポセイダル軍と戦えるっていうの？」
ダバ
「あ、しっ……！」
「どうして知ってる？」
アム
「貴方がやろうとしている事ぐらい、分かるわ」
ダバ
「大声出すな」
「頼むアム……俺は、一人でもポセイダルを討ちたいんだ」
アム
「私に言ってくれれば、私だって……」
ダバ
「アムは巻き込みたくなかったんだ」
アム
「そんなのってないよ、馬鹿……！」
ダバ
「アム……」
レッシィ
「ダバ」
ダバ
「レッシィ」
レッシィ
「濡れ場やるの？　船に乗るの？　どっちかに決めて」
アム
「何さ、レッシィには話してたんじゃないか」
ダバ
「あ、アム……！」
アム
「何で行くの？」
レッシィ
「面白そうな作戦だからね」
「あっ……」
ダバ
「参ったな……」
「出られるのか？」
レッシィ
「ダバがモタモタしてるから、やっといたわ」
ダバ
「有難う」
アム
「もう、あんなの知らないって言いたい」
ダバ
「アムまで死にに行く事はない」
「確かにアムに言わなかったのは悪かったけど……」
アム
「じゃあ、レッシィは死なせてもいいのか？」
ダバ
「レッシィだって勝手に……」
「いや、雄々しく死んでくれるかな」
レッシィ
「ダバの為ならね」
アム
「嫌いだ、きぃぃっ！　逃げるな！」
ダバ
「アム……！」
「やめなさい！」
「そんなアムだと、益々嫌いになるぞ」
アム
「ダバ、んっ……！」
ダバ
「……参ったな」
レッシィ
「女心は難しいのよ」
「行くわよ」
ダバ
「しかし、アムが……」
レッシィ
「好きにさせてあげて」
反乱軍
「誰だ、そこに居るのは！」
キャオ
「見付け〜！」
ダバ
「見付かったって……お前、どうして？」
キャオ
「ったく……いつもいつも、お前にだけいい格好させらんないね」
「ステラに見付かりそうだぜ」
レッシィ
「ダバ……」
ダバ
「出よう」
反乱軍
「その船に誰か居るのか？」
「わっ……！」
　〃
「誰が動かしてるんだ？」
　〃
「知らん、何も聞いてない」
ステラ
「この時間に飛び立つトランス・ポーターは？」
反乱軍
「ありませんが」
ステラ
「ないだと？」
「上手く行って元々……駄目でも知らぬぞ、ダバ……」
レッシィ
「メイン・パネルに出すわね」
ダバ
「頼む」
レッシィ
「エイプは全長千三百メートル。で、第一ブリッジは上部前面。艦内に侵入するとしたら、ここでしょうね」
ダバ
「ポセイダルの船室は？」
レッシィ
「はっきりとは分からないけど、この辺りじゃない？」
ダバ
「そこまでの進入経路は？」
レッシィ
「ミリタリー・インフではこれ以上は分からないから、私が案内するわ」
アム
「随分簡単に言うのね？　周りを警備する近衛部隊をどう突破するのよ？」
レッシィ
「それはもう、ダバとは打ち合わせ済み」
アム
「大した手回しの良さね。やっぱり私は除け者じゃない」
艦長
「大気圏外に出るぞ」
正規軍
「コールを続けていますが、応答がありません」
艦長
「識別ナンバーは？」
正規軍
「登録データにありません」
艦長
「メイン・パネルに」
正規軍
「はっ！」
「トランス・ポーターを基本にした、改造艦と思われますが」
艦長
「また反乱軍か……」
正規軍
「威嚇射撃をしてみますか？」
艦長
「たった一隻だとというのも分からん」
正規軍
「自爆装置を載せている可能性もあります」
艦長
「それにしては、余りにも無防備過ぎる」
正規軍
「叩きますか？」
艦長
「いや、ポセイダル様の目の前で騒ぎたくない。牽制して様子を見る」
キャオ
「来やがったぜ」
艦長
「どうやら、探りにきたようだな」
ダバ
「頼むぞ、キャプテン」
艦長
「了解」
ダバ
「キャオ、出撃準備だ」
キャオ
「おう」
アム
「私も行く」
レッシィ
「ちょっと、アム……！」
反乱軍
「キャプテン、コール要求しています」
艦長
「構わん、このまま進め」
正規軍
「どうだ、異常はないか？」
　〃
「応答はないが、不審な挙動もない」
「いや、発光信号だ」
「救助信号だ」
　〃
「どうします、艦長？」
艦長
「罠という事も考えられる。監視を続ける」
ダバ
「キャオ、アム、いつでも出られるようにしとけ」
キャオ
「分かってるよ」
アム
「ラジャー」
ダバ
「リリス……！」
反乱軍
「停船命令です。どうします？」
艦長
「構わん、進め」
「来たな……！」
「リモコン弾、誘導開始！」
正規軍
「やっぱりだ！」
艦長
「何をしとるか、バルブド！　撃破してみせろ！」
「レーザーを使う奴があるか！　バトル・ファイトで賊を叩け！」
ダバ
「よし、出るぞ！」
レッシィ
「ラジャー！」
アム
「ラジャー！」
キャオ
「やったるぜ！」
正規軍
「艦長、敵艦に突破されました！」
艦長
「バルブドは何をしているか、うっ……！」
ダバ
「行くぞ、ポセイダル！」
チャイ
「反乱軍の船を飛び立たせたのは、ネイのミスだ。それは分かっているな？」
「包囲作戦に協力していれば……」
ネイ
「だからこうして、追撃戦を掛ける為に出ている」
チャイ
「身の程知らずのゲリラ共は、必ず叩け！」
ギャブレー
「パワー・アップだ！　昔のロケット並にな！」
ネイ
「可能な限り加速を掛けろ！」
正規軍
「敵ヘビー・メタル、エイプ航行空域内に入りました！」
艦長
「近衛兵の馬鹿共が！　何故、迎撃態勢を取らん？　第一級戦闘シフト！」
「しかし妙だ……何故、近衛兵はセオリー通りの動きをしない？」
「ポセイダル様の指令もない……ジャマーが厚いのは事実だが……」
ダバ
「抵抗がない？　今頃？」
レッシィ
「エイプの船底に……！」
ダバ
「了解！」
「船の下に入った。レッシィ、ハッチはどこだ？」
レッシィ
「今行くわ」
「ここだ……」
「ダバ」
ダバ
「竜骨が厚いだと？」
レッシィ
「急いで」
ダバ
「分かってる」
正規軍
「うわっ！」
　〃
「うぉっ……！」
ダバ
「何？」
「格納庫か？」
レッシィ
「こちらよ」
ダバ
「頼む」
キャオ
「ダバ、時限爆弾は二十分でセットしておくぞ」
ダバ
「十分にしておけ」
キャオ
「ラジャー」
正規軍
「賊が三機……いや、四機艦内に潜入！　潜入ポイント、動力炉五十メートル前方！」
艦長
「外からの守りに備えて、フォーメーションを崩すな！」
レッシィ
「どけぇ！」
ダバ
「急いでくれ、レッシィ！」
「ん、白兵戦か」
「何だって生身の体で攻撃に来るんだ」
「こいつら……うぉっ！」
「邪魔をして無駄死にをするな。俺はポセイダルに会うだけでいいんだ」
レッシィ
「この先とは思えない」
ダバ
「レッシィは通路を確保してくれ」
レッシィ
「ラジャー」
「ダバ、急いで」
ダバ
「そこから上がれるのか？」
レッシィ
「多分」
キャオ
「まだモタモタしてんのか、時間がなくなるぞ？」
アム
「私達はここで壁になってるわ、ダバ」
ダバ
「了解だ、頼む」
ダバ
「まだなのか？」
レッシィ
「あそこだ」
「あれを壊せば、ポセイダルの部屋に通じている通路に出る筈」
ダバ
「了解」
「周りはいいな？」
レッシィ
「ええ」
ダバ
「うっ……？」
レッシィ
「ダバ、引き上げましょう。もうこれ以上は、ヘビー・メタルでは入れないわ」
ダバ
「時間は？」
レッシィ
「後六分」
「ダバ、引き上げるわよ」
ダバ
「待っていてくれ。戻ってこなかったら、レッシィは引き上げろ」
レッシィ
「敵の真ん中でエルガイムを捨てるなんて、命を捨てるみたいなものよ？」
リリス
「ダバ、やめよ？」
ダバ
「いや、やめる訳にも行かないんだ」
「外に出てしまったのか？」
「ん、人……？」
「ホロ・スコープ・ルームか」
ポセイダル
「そう、これは罠だ。お前を呼び込む為のな」
「私が艦隊をコントロールしている。そうでなければ、お前はここまで来る事は出来なかった」
「尋問をしたかった」
ダバ
「尋問だと？　オルドナ・ポセイダルがか？」
ポセイダル
「いけないか、少年？」
ダバ
「聞きたいのはこっちだ」
「ペンタゴナの星々の王朝の全てを潰し、俺の父母を殺した……何故、こんな独裁を敷くのだ？」
ポセイダル
「王族の生き残りか、少年」
ダバ
「答えろ！」
ポセイダル
「私は、ペンタゴナの自然の摂理に従っているだけ……」
ダバ
「民族を根絶やしにする事が、自然の摂理か？　そんな一方的な理屈を誰が認めるか！」
ポセイダル
「私以前のペンタゴナの人々は、戦争を繰り返す民族の集団だった」
ダバ
「しかし、平和もあった！」
ポセイダル
「一時の平和が何になるか？」
「星々と宇宙を斯様に不思議に組み合わせた世界を与えられた、我々ペンタゴナの人々は」
「この宇宙から何一つ学ぶ事をせず、それぞれの王朝、それぞれの星の権益の争いに終始して」
「この聖なるペンタゴナ・ワールドを汚し続けてきた」
「私はこの世を治める為に、人々に試練を与える神の子なのだ」
ダバ
「そいつのやる事が、人殺しと暴力政治か！」
ポセイダル
「それを私にさせているのは、お前達、愚かな民……愚民達だろうが」
リリス
「言ったな！」
ダバ
「ヤーマン族一党の仇を討たせてもらう！」
レッシィ
「ヤーマン族……！」
アム
「仇討ちですって？」
キャオ
「ダバはコアムの人間じゃなかったのか？」
ポセイダル
「自然の摂理だ。ヤーマン族の全滅は、私の意志ではない……」
ダバ
「故事付けを……！」
ポセイダル
「ペンタゴナは、神の試しの中に生かされている」
リリス
「来る……！」
ダバ
「只のイメージだ！」
「ビームの干渉もない映像か」
ポセイダル
「人を鍛える為の独裁は良しとすべきだ。これを乗り越えた者こそが、より良き明日を担う真の民となる」
ダバ
「勝手な事を、そこか……！」
「只のホロ・スコープじゃない。ポセイダル自身が俺に話をしていた」
「ポセイダル、どこだ！」
ポセイダル
「少年は、より良き民の道を選ぶのか？　チャンスは一度しか与えんよ？」
ダバ
「偉そうに、何を……！」
ポセイダル
「ふふっ、籠の鳥が……！」
レッシィ
「ダバ、早くして！」
キャオ
「こっちがやられちまうよ！」
ダバ
「ラジャー！」
「脱出するぞ！」
キャオ
「早くしてくれダバ、これ以上は持たねぇよ！」
アム
「キャオ、時間でしょ？　ここで大丈夫？」
キャオ
「知らない！　向こうさんだけを吹っ飛ばしてくれる筈だ！」
「ダバ！」
ダバ
「スピリッツが時限爆弾の爆風を受けないか？」
艦長
「ヘビー・メタル隊に言え！　格闘戦でつまみ出すんだ！」
「ランチャーは……うぉっ！」
アム
「きゃぁぁっ！」
ダバ
「パワーを上げろ！」
「キャオ、レッシィ、脱出出来ないか？」
キャオ
「えっ？」
レッシィ
「穴が空いたわ！　出るわよ！」
キャオ
「俺っちの船がない」
アム
「やられたのよ」
レッシィ
「当然ね」
ダバ
「探すんだ、どこかに居る筈だ」
「信号だ」
キャオ
「あ、あの脱出カプセルだけ？　本体はどうしたの？」
アム
「これでは、ミズンには帰れない……」
ダバ
「何てこった……」
艦長
「ダバ……やられた……構わず行ってくれ……」
ダバ
「キャプテン」
「生存者が居る、救出する」
キャオ
「救出だって？　救ってもらいたいのはこっちだよ。追っ手は来てんだぜ？」
ダバ
「同志を見捨てる訳にはいかないな」
レッシィ
「ダバ」
「追撃機？」
キャオ
「スラッシュだ、別働隊が来たんだ」
ギャブレー
「ゲリラがダバ君だったとは……運も尽きたな！」
ネイ
「ギャブレー、早まるな」
ダバ
「俺は、ポセイダルを討つまでは死なない！」
「レッシィ、カプセルを頼む！」
ギャブレー
「お前との腐れ縁は、今日限りで切ってやる！」
ダバ
「独り決めするなよ！」
「パワー・ダウン……」
ギャブレー
「貴様の美しい光景を見せてもらう」
ダバ
「ギャブレー！」
「頼む、出てくれ」
ギャブレー
「くっ、エルガイムめ……！」
ネイ
「ギャブレー、引き上げるんだ」
ギャブレー
「な、何故です？」
ネイ
「反乱軍の第二波が上昇してくる。今は子鼠を構うより、ポセイダル様をお守りするのが先だ」
キャオ
「や、良かった良かった。これでまた、ミズンに帰れるぞ」
アム
「あはっ、良かった」
レッシィ
「今日ほど、ステラの事を有難いと思った事はないよ」
ダバ
「オルドナ・ポセイダル……男の筈なのに、女のようだったな」
「リリス、何だろう？」
「コンタクトするぞ」