第15話 プライド

前回のあらすじ
ペンタゴナ・ワールドを、オルドナ・ポセイダルが一瞬の内に統一したのも、星々の間の争いが長く続き過ぎたからだ。
我らの強情者ダバ・マイロードは、遂に、一人でポセイダルに会いに行ったんだよな。
しかし、無事に済む訳ないじゃないって訳で、這う這うの体で逃げ出してきたって訳だ。
ヘヘッ、怖かったな〜。
反乱軍
「ほら、手元が暗くなるだろ？」
キャオ
「ん、俺はな、分からない所を教えてやろうと思って……」
反乱軍
「邪魔だ」
キャオ
「うっ！」
アム
「ちょっと邪魔よ！」
「これでいいの？」
反乱軍
「ああ、ご苦労さん」
キャオ
「そんな使い古しじゃなくって、新しいのないの？」
アム
「ここで油売ってる暇があったら、ワークスのガス台修理しといてよ」
キャオ
「ガス台？」
アム
「少しはキャボットさんを見習うのね」
キャオ
「チッ！」
キャオ
「爺さん」
「あんたを見習えって言われたけどさ、流石歳なんだね」
「仕事中に居眠りするの、良くないよ？　ベッドで寝なさい」
「ベッドでおねんねして、よ〜く体を休めなさい。俺も真似すっから」
「あっ、わっ……！」
「誰か〜！　死んでる〜！」
反乱軍
「ヤーマン族だってよ」
　〃
「キャボットさんが？」
キャオ
「う〜、やだやだ……こんな事なら、正規軍に入っときゃよかった」
「ははっ、脱走しようかしら」
不審な男
「確か、ミラウー・キャオ……」
ダバ
「キャボットさんがヤーマン族かどうか、分かりはしないのに……」
リリス
「ヤーマン族だから殺したって書いてある」
ダバ
「しかし、何故分かるんだ？」
リリス
「私達ミラリーは、ポセイダルが出る前に滅ぼされたわ」
ダバ
「何故？」
リリス
「それぞれの星の人達の玩具にされたんだって……」
ダバ
「玩具に？」
リリス
「他の動物と同じよ。鑑賞用とか実験用に使われてね」
ダバ
「しかし、今はこうして生き延びている」
リリス
「ええ、そう」
アム
「スパイ？」
レッシィ
「スパイが入っているのは間違いないでしょ。こんなに雑多な人の集まりなんだから」
アム
「まるで他人事じゃない」
レッシィ
「何で私が他人事なの？」
アム
「何たって、ポセイダル軍の正規軍……いいえ、十三人衆の一人だもんね」
レッシィ
「関係ないって事は、私の働きを見れば分かるでしょ？」
「私はダバ一人の為に、軍を捨てた女……」
アム
「それ以上言うな！　抜け抜けと！」
レッシィ
「妬くな！　この焼き餅！」
アム
「何を〜！」
レッシィ
「黙れ、このボンゴリ女め！」
アム
「元正規軍のスパイめ！」
レッシィ
「そういう言い方すんなら、正規軍の軍服に憧れてるような奴こそ信用ならない」
アム
「ん、そういえばあいつ、正規軍に入るって夢はまだ捨ててない……」
レッシィ
「疑えば、あんただっけ元は盗賊……」
アム
「黙れ！」
レッシィ
「はっ……！」
アム
「きゃっ！」
「ちょっと、気安いぞ！」
キャオ
「何か調子悪くってよこれ、芯がイカレてんじゃないの？」
レッシィ
「噂をすれば何とやらってね……わざとじゃないんでしょうね？」
キャオ
「は？　わざとやる……？」
「どうしたの？　ヘッ、俺の男前に気が付いたのかな？」
チャイ
「ネイには気取られてはいないんだろうな？」
正規軍
「はっ！」
チャイ
「ギワザ殿が自らミズンへ来るという噂がある。それまでには、何とかリトル星を反乱軍から取り戻すのだ」
「我々だけでな」
正規軍
「ベース内、工作員より連絡。作戦開始の信号です」
チャイ
「フッ、結構な事だ」
ダバ
「サスペンサーの部分、甘くないか？」
キャオ
「ダバ……」
ダバ
「アム、新しいナットを」
アム
「はい」
キャオ
「ふん、どうせ俺はお邪魔虫だよ」
キャオ
「ケッ、何だってんだよ。俺がどうしたってんだよ」
ステラ
「自分の胸に聞いてみるといい」
キャオ
「な、何だ……？」
「俺がスパイ？　冗談じゃない！　そりゃ、俺はあの爺さんと喧嘩はしたけど……」
ステラ
「君は暫く工場から外れて、パトロールに出てもらう」
キャオ
「な、何で……」
ステラ
「君の為に、我が軍の戦力を正規軍に知らせる訳には行かないのでね」
ダバ
「何が証拠で……」
ステラ
「証拠を残すようなスパイが居るか」
ダバ
「キャオがやる訳がない」
キャオ
「ええいっ！」
「ぐっ……！」
ダバ
「キャオ！」
ステラ
「うっ……！」
キャオ
「どけ！」
反乱軍
「あっ……！」
ダバ
「キャオ！」
ステラ
「追え！　逃がすな！」
「追え！」
ダバ
「逃げれば、誤解されるだけだというのに……」
キャオ
「本気でやろうっていうのか、ステラめ……！」
「あれ、俺撃ってないのに……？」
「あ？　何だ、お前は？」
不審な男
「ステラに一泡吹かせたくないか？　ミラウー・キャオさんよ」
キャオ
「何モンだ、お前は？」
不審な男
「金は払う。こうなったら後戻りは出来ない筈だ」
チャイ
「ようこそ、ミラウー・キャオ君」
キャオ
「チャイ・チャーか」
チャイ
「知っていてくれて光栄だな。君がエルガイムの優秀なメカマンである事は、私も知っている」
「その腕を、我が正規軍で使ってもらえんかね？」
キャオ
「へ〜、五千ギンってとこかな？」
チャイ
「それは支度金だ」
キャオ
「ヘッ、そりゃそうだろうな」
ギャブレー
「はっ……！」
キャオ
「明日の朝、攻撃のドサクサに紛れてステラを暗殺……？」
チャイ
「セイの中でステラがどう動くかは、君になら想像が付く筈だ」
キャオ
「この格好じゃ、俺は目立つ」
チャイ
「勿論、セイのメカニック・マンらしい服装は用意してある」
キャオ
「ん、用意周到なんだね」
「やってみよう」
ギャブレー
「……そう上手く行きますかな？」
「そう簡単に信じていいのですか？」
チャイ
「何を言いたいのだ？」
ギャブレー
「ああ見えて、中々強かな連中です」
正規軍
「ステラはキャオを、スパイ容疑で追っていたんだ」
ギャブレー
「スパイ工作の件は、ネイ殿にお任せの筈ではないのですか？」
チャイ
「貴様、私に指図をするのか？」
ギャブレー
「とんでもない」
チャイ
「なら、私のやる事に口は出すな！」
ギャブレー
「私は忠告しただけであります」
「どうもチャイ殿は、チャイ殿の後任にいらっしゃったギワザ殿が……」
チャイ
「私は、ギワザを追い落とすのだ！」
ダバ
「この調子なら、数を揃えるのにも時間は掛からないな」
キャオ
「あ〜あ、まるで忘れられてる……」
「イッ……！」
アム
「ん？」
ダバ
「キャオ、戻ってきて……」
キャオ
「俺に行くとこなんかないだろ？」
レッシィ
「あんたはスパイにされちゃってるのよ？」
キャオ
「何とかさ、ステラの馬鹿に執り成して……」
アム
「あんな事やったら、スパイだって認めたようなもんじゃない！　スパイ！」
ダバ
「コントロール、自動に切り替えてくれ」
キャオ
「ダバ、な……？」
ダバ
「ああ」
キャオ
「ちょっと休ませてね」
レッシィ
「……でも、ちょっと変だと思わない？」
ダバ
「うん」
レッシィ
「何かあったんじゃないかな」
ダバ
「ああ、膝のサスペンションが甘いな」
レッシィ
「え？」
キャオ
「ダバ」
「俺達さ、本当は正規軍に入りたくて、ウーゴルから出て来たんだよな？」
ダバ
「ああ」
キャオ
「な、今からでも遅くないよ。ステラにいびられてるより、俺と一緒に正規軍に入らないか？」
ダバ
「今更、何を……」
キャオ
「ステラのやり方は、反乱軍じゃない」
ダバ
「そりゃそうかもしれないけど……」
キャオ
「ミズンを救うのは、正規軍に入ったって出来る事だぜ？」
ダバ
「そのやり方は放棄した筈だ」
キャオ
「でも、ポセイダルに近付く為には……」
ダバ
「俺はポセイダルに会ってしまったんだよ」
キャオ
「お前一人置いてけないんだ、分かってくれよ」
ダバ
「キャオ、お前……！」
ステラ
「やはり戻っていたのか、スパイめ！」
ダバ
「本当のスパイだったら、戻ってくるわけないでしょ」
ステラ
「甘いな……友達だからといって、軍の規律から見れば……」
キャオ
「何だよ？」
ステラ
「連れて行け！」
反乱軍
「はっ！」
キャオ
「ステラ……！」
ダバ
「誤解だ！　違うんだ！　ステラさん！」
ステラ
「見せしめの為、明日の朝、二人を銃殺刑にする」
キャオ
「放せって……！」
ダバ
「ステラさん！」
キャオ
「ダバ、すまない……こんなドジ踏んじゃうなんて思ってなかったから、俺……！」
「すまない、ダバよ……！　俺はお前が、もっといい出世の仕方があるんじゃないかって」
「そう思ってたから、何とかしてやりたいって……！」
ダバ
「世の中、自分の思い通りにばかり行くもんじゃない……」
「俺には、やらなくちゃならない事がある」
アム
「ステラ同志、ダバはスパイなんかじゃありません！」
レッシィ
「スパイが、ヘビー・メタルの資料を提供したりすると思います？」
ステラ
「キャオと協同謀議をしていた」
「んっ、蝶々までが……！」
アム
「ステラさん！」
ステラ
「くどい！　私は推測よりも、状況証拠を大切にする方だ」
「……何事だ？」
反乱軍
「敵です！　包囲網が遂に解けて動き出しました！」
ステラ
「防戦態勢を！　コピー・エルガイム……ウィザードか、出撃出来る者は出せ！」
アム、レッシィ
「ラジャー！」
反乱軍
「数が……ヘビー・メタルはまだか、これじゃ……！」
「うわっ！」
　〃
「モタモタすんな！」
　〃
「うわっ！」
キャオ
「仕掛けてきた？」
「チャイ・チャーの奴、早いじゃないか！」
反乱軍
「急げ！」
チャイ
「ネイの部隊には、左翼の押さえだけにさせろよ」
正規軍
「はっ！」
チャイ
「キャオ君、君の活躍に期待しているぞ」
「出る！」
ネイ
「入っていい」
ギャブレー
「チャイ・チャー殿が……！」
「あっ……！」
ネイ
「本当なのか？」
ギャブレー
「はっ！　出撃の気配はあったのですが、こうも早いとは想像しませんでした」
ネイ
「チャイは初めから、こうするつもりだったのさ」
ギャブレー
「出動します。遅れを取り戻さなければ……」
ネイ
「チャイの出過ぎの作戦は、誰にでも分かる布陣のようだ」
ギャブレー
「はっ！」
ネイ
「だから、深入りする必要はない」
ギャブレー
「わ、分かります……」
「ネイ殿……！」
ネイ
「出撃準備だろう？」
ギャブレー
「はっ！」
ネイ
「ふんっ……」
ステラ
「うっ、押されているぞ！　ウィザードの出が遅い！」
「手段を選ぶな！　何としても、このリトル・セイを死守するんだ！」
反乱軍
「よし、出るぞ！」
「うわっ！」
　〃
「こっちへ続け！」
反乱軍
「ワークスを出す。エルガイムに乗る奴はどこだ？」
アム
「ワークスが動いてる」
レッシィ
「あの兵、スパイラル・フローを忘れてる」
「よし。アム、スパイラルに」
アム
「うん」
レッシィ
「あっ……！」
アム
「エルガイムは私がやる！」
レッシィ
「何言ってるの！　実力から言ったら私でしょ！」
「一番！」
アム
「勝った！」
キャオ
「当たれ当たれ、俺に当たらず、牢屋だけぶっ壊せ！」
「わっ……！」
「やったやった、ざまあ見ろ！」
ダバ
「アムか、操縦してるのは？」
アム
「ダバ、キャオが……」
ダバ
「アム、キャオはどこへ行ったんだ？」
アム
「分かる訳ないでしょ」
ダバ
「キャオの奴、何を企んでるんだ？」
アム
「キャオが本部へ向かってる」
キャオ
「ステラの野郎、見てろ！」
「わっ、くっ……！」
「ステラ……！」
ステラ
「南側ゲートの守りを強化させるんだ」
反乱軍
「はっ！」
アム
「ダバ、敵が来るよ」
ダバ
「キャオの事が気になる」
ステラ
「私も守りに就く。ここは……」
キャオ
「ステラ！」
ステラ
「むっ？」
キャオ
「悪いけどね！」
ステラ
「キャオ君、やはり君は……！」
キャオ
「違う！　俺は始めっからのスパイじゃない！」
反乱軍
「ステラ同志……！」
キャオ
「邪魔だ！」
「逃がさないよ」
ダバ
「はっ、くっ……！」
キャオ
「あっ！」
ダバ
「ステラ同志！」
「一時の感情だけでステラ同志を殺したって、お前の立場が辛くなるだけだぞ」
「反乱軍に戻れなくなる」
キャオ
「構うもんか、俺はもうこんな所に居る必要はないんだ！」
ダバ
「キャオ！　周りがお前を認めなくても、俺はお前を認めてるんだ！」
キャオ
「認める……？」
ダバ
「俺にはキャオが必要だ」
キャオ
「ダバ……！」
ダバ
「ポセイダルを討つ為には、キャオが必要なんだよ」
キャオ
「ポセイダルをやる為に……？」
ダバ
「当たり前だろ！　村に居る時からそうだったじゃないか！」
リーフ
「ステラ同志、このままでは侵入されます！」
ステラ
「何？」
リーフ
「ゲート付近の援護を……」
ダバ
「エルガイムを出す」
リーフ
「頼みます」
ダバ
「ここは、ステラ同志と一緒に守ってくれ」
キャオ
「ダ、ダバ……！」
ステラ
「んっ……！」
キャオ
「ヘッ、自分の事は自分でやんな！　俺だって、マシンで戦うんだからな！」
ステラ
「キャ、キャオ君……君、後ろから撃たれるぞ！」
キャオ
「撃ちなさいよ！　お好きにどうぞ！」
ステラ
「うわっ！」
キャオ
「あっ……！」
ステラ
「うぅっ……！」
キャオ
「ステラ・コバン！」
ステラ
「私に構うな……リトル・セイの守りを固めるのが先である……！」
アム
「私もマシンナリィで戦うわ！」
ダバ
「マシンナリィを探す！」
チャイ
「攻撃が手緩いぞ！　ベース帯を集中攻撃しろ！」
キャオ
「衛生兵、ステラ同志が怪我だ！」
反乱軍
「え？」
キャオ
「俺は、あんたの為にやったんじゃない。ダバがやれっていうからやっただけだ」
「これだけは、忘れないで欲しいな」
キャオ
「足の一本ぐらい、何だってんだ」
「スピリッツ、来てくれ……！」
ステラ
「ミラウー・キャオか……」
レッシィ
「あれは、ネイのオージェ」
ネイ
「ふん、未熟な」
「ギャブレット、ここは私がやります。アローンを連れてチャイ殿の援護に行きなさい」
ギャブレー
「はっ！」
ネイ
「チャイ殿、それ以上の侵入は危険です」
チャイ
「ほう、意外と早いお着きで」
ネイ
「退きなさい！」
チャイ
「貴方は、私の面子を潰し足らんようですな。お節介はいい！」
ネイ
「お前などに私が討てる訳がない」
チャイ
「あいつは……エルガイムは私が貰った！」
「何？　こっちがエルガイム……！」
「あの男、ちっ……！」
ギャブレー
「ダバ・マイロード、君の相手は私だ」
ダバ
「夫婦じゃあるまいし！」
アム
「キャオ！」
チャイ
「小賢しい！　貴様から片付けてやる！」
「うっ！」
「な、何だ、この男は……！」
キャオ
「くそっ……！」
アム
「キャオ！」
ダバ
「キャオ！」
ネイ
「ギャブレー、チャイ殿を！」
ギャブレー
「はっ！」
キャオ
「わっ、うっ……！」
反乱軍
「わっ……！」
チャイ
「こ、こんな事で、うっ……！」
「ここは私が、取り返す……うわぁぁっ！」
ギャブレー
「ネイ殿、チャイ・チャー殿が……！」
ネイ
「そうか……」
「よし、無事帰還する事も勝利の内だ。脱出出来るか？」
ギャブレー
「はい」
「こういう事か……」
ネイ
「ふっ、お前の料理は次にする」
レッシィ
「あっ、くっ……！」
ダバ
「ステラ同志……」
ステラ
「キャオ君には、厄介を掛けた」
キャオ
「あれ、皆さん……」
ダバ
「どこに行くんだ？」
反乱軍
「ポセイダルを倒すなんて、所詮夢さ」
ダバ
「待てよ、まだ結果は出てないんだぞ」
アム
「ダバ、シエラのチームがリトル・セイから出てっちゃったわ」
「出てく人、まだ居そうよ」
ダバ
「メカニック・マン達も……」
反乱軍
「あんた達も、早いとこ後の事を考えた方がいいぜ」
キャオ
「ダバ、いいのかよ？　どうすんだ？」
ダバ
「反乱軍はここだけじゃないんだし、まだ、ここだって全滅した訳じゃない」
キャオ
「そうだ、俺は負けるのは嫌だ」
ダバ
「俺だってさ。だからまず、今ある戦力は纏めよう」
キャオ
「おう、メカの整備もしなくちゃな」
ダバ
「頼む」
「そうさ、まだ始まったばかりなんだ……」