第22話 クワサン・オリビー

前回のあらすじ
ペンタゴナ・ワールドをオルドナ・ポセイダルが一瞬の内に統一したのも、星々の間の争いが長く続き過ぎたからだ。
レッシィ
「商船のイクシオンですって」
アム
「本当?」
キャオ
「へえ、こんなとこで商売してんのか」
ダバ
「丁度いいじゃないか」
クワサン
「こちらは商船イクシオンでございます」
「洗濯用の部品、食料など、ご入用の品がおありでしたらお分けさせて頂きます」
ダバ
「はっ……」
クワサン
「但し、宇宙空間ですので、12%の割増料金となります。お返事をお待ちします」
キャオ
「どうしたの、ダバ? 好みの子には見えないけどな」
ダバ
「クワサン・オリビー……」
キャオ
「え? クワサンって……」
レッシィ
「何言ってるの、あの二人?」
アム
「クワサンって……ああ、ダバの義理の妹って言ってた」
レッシィ
「義理の妹?」
ダバ
「欲しい物はある」
クワサン
「はい。ご入用の品はリストにして、こちらへお出でください」
ダバ
「分かった、すぐ行く」
キャオ
「似ちゃいるけど、あんな感じの子じゃなかったぜ?」
ダバ
「いや、オリビーだ。歳を取れば変わるさ」
レッシィ
「接触するの?」
ダバ
「ああ。不足してる物はあるんだろ?」
レッシィ
「こんな所で出会う船は気を付けた方がいいわ。ポセイダル軍と通じてるかもしれなくてよ?」
ダバ
「心配なら、アムとキャオに付いてきてもらうさ」
キャオ
「ダバ……」
レッシィ
「アム、相手は女だし、気を付けてやってね」
アム
「ええ、冷静にやってみるわ」
レッシィ
「冷静に、か……」
「アロンかマルシェ、ロンペ。手の開いている人、ブリッジへ上がってきて」
「義理の妹、だって……?」
アム
「久し振りのお買い物となると、生き甲斐感じちゃう。がっちり値切ってやるわ」
「男だけで買い物任せると、相手の言いなりになっちゃうもんね」
キャオ
「へっ、買い物が生き甲斐だなんて、アムも女だね」
「な、ダバ?」
「まじ、か……。だろうな、やっぱり……」
リョクレイ
「いらっしゃいませ」
アム
「ねえ、ちゃんと商品見せてくれるんでしょ?」
ダバ
「リストはこれだが」
リョクレイ
「分かりました。お取引はこちらの方で行いますので、どうぞ」
タック
「我らの大地、天に……」
キャオ
「コアムの歌だぜ?」
乗組員
「タック! その歌は禁じられてると言ったろ!」
ダバ
「ポセイダルがペンタゴナを支配する以前は、一つ一つの星にも国家にも、歌があったというのに……」
リョクレイ
「お客様、ここより先は重力制御帯となっております」
アム
「さ〜て、お楽しみ!」
リョクレイ
「この向こうが、お取引のカウンター・ルームです」
ダバ
「はっ……!」
「オリビー」
「……商売人にしては、一方的な警戒だな」
アム
「どういうつもり?」
キャオ
「あのね、俺達は食料品を買いにきたお客様だぜ? それが『いらっしゃいませ』の代わりかよ?」
「あっ……!」
リョクレイ
「これが我々の挨拶だ。ヤーマン族を抹殺する為のな」
キャオ
「誰がヤーマンなんだよ? 俺はれっきとした、コアムの……!」
リョクレイ
「進め」
キャオ
「は、はい」
クワサン
「お前一人か。ヤーマン族め」
ダバ
「何が証拠で……」
クワサン
「私には、ヤーマン族が分かります」
アム
「そんなものでは証拠になんないでしょ」
リョクレイ
「黙ってな、姉ちゃん」
「このクワサン・オリビーは、ヤーマン族には鼻が効くんだよ」
キャオ
「クワサン・オリビーだって?」
ダバ
「その名前、本当に貴方の名前なんですか? クワサン・オリビー」
「うっ……!」
クワサン
「気安く呼んでもらいたくはない!」
「何故、私の名をお前は知っている?」
ダバ
「自分の妹を知らない訳がないだろう」
クワサン
「妹? 私が?」
「私はずっと一人だ。兄など持った覚えはない」
キャオ
「ダバ、やっぱ違う……オリビーじゃないよ」
ダバ
「違わない。この女はクワサン本人だ」
リョクレイ
「……どういう事なんだ、こいつは?」
「益々、ヤーマン族だと証明したようなもんだな」
キャオ
「貴様……!」
乗組員
「大人しく……!」
キャオ
「出来る訳はないだろう!」
乗組員
「私もしたくはないんです。でも、国を滅ぼされた者はこうするしか……」
キャオ
「お前も、コアムの……?」
レッシィ
「ふぁっ……」
「アムの奴、快感だろうな。ショッピングっていうほどのものじゃないけど、値切るのが快感なのよね〜」
アロン
「レッシィさん、ちょっと見てもらえますか?」
レッシィ
「ん?」
アロン
「この通信、変じゃありません?」
レッシィ
「SOSか?」
アロン
「ダバさん達の通信と入れ替わりに来たんです」
レッシィ
「ダバの替わり?」
「ロンペ、攻撃スタンバイ!」
ロンペ
「はい!」
レッシィ
「砲撃は?」
ロンペ
「いつでも」
レッシィ
「威嚇を掛ける。発射!」
キャオ
「わっ、何だ……?」
レッシィ
「イクシオンに告ぐ! 早急に仲間を解放せよ! さもなくば、船の安全はないものと思え!」
リョクレイ
「き、貴様ら……!」
キャオ
「ほいよ」
ダバ
「俺達を無事に帰してもらおう。クワサンと共に」
リョクレイ
「ふん、ヤーマン如きに何が出来る?」
ダバ
「ヤーマンがそんなに劣等民族か!」
「はっ!」
リョクレイ
「船の中じゃレーザー・ガンが使えなくて不幸だな」
ダバ
「こいつ……!」
「やぁっ!」
リョクレイ
「だからヤーマンなんだよ!」
ダバ
「うぅっ……!」
「クワサン……」
リョクレイ
「おっと、クワサンにヤーマンの臭いが移るじゃねぇかよ」
ダバ
「うっ!」
キャオ
「ダバ!」
リョクレイ
「お前らが居る限り攻撃は出来ない。我々が無事逃げられるまで、人質として生かしといてやる」
レッシィ
「聞いているのか、イクシオン? これ以上応答がない場合は、威嚇だけでは済まないぞ!」
アロン
「レッシィさん、イクシオンからの応答です!」
レッシィ
「照準、そのまま!」
ロンペ
「レッシィさん……!」
レッシィ
「何……!」
リョクレイ
「三人の身柄はこちらの手にある」
レッシィ
「あんた達商船が、何の為にダバを?」
リョクレイ
「これ以上の砲撃は、仲間を殺す事になるぞ」
レッシィ
「ダバ達の声を聞かせて。……待て!」
アロン
「レッシィさん!」
レッシィ
「今度は何だ?」
アロン
「追っ手らしい船をキャッチ!」
レッシィ
「ギャブレーか?」
アロン
「多分」
レッシィ
「こんな時に……!」
ギャブレー
「そちらの状況はよく分かった。援護をする代わりに、ダバ・マイロードはこちらに引き渡してもらう」
クワサン
「分かりました、引き渡しましょう」
リョクレイ
「クワサン……!」
クワサン
「ダバ・マイロードの引き渡しの代わり、援護の約束を」
ギャブレー
「承知しました。美少女の為ならば、命に替えましても……」
アム
「馬鹿、くすぐったいわよ!」
キャオ
「もう、我慢しろよ。そう上手くは行かないよ」
「イテッ! 痛いじゃないか……」
ダバ
「ごめん、気を付ける」
「リリス、どうだ?」
キャオ
「ダバ、本当にクワサンなのか?」
ダバ
「首に黒子があった」
キャオ
「あぁ、あれね」
ダバ
「切れた!」
キャオ
「あ、こっちも早く……」
リョクレイ
「今聞いたんだが、お前ら、大した連中らしいな」
「喉を鳴らして欲しがってたぜ、ギャブレット・ギャブレーってのが」
キャオ
「ギャブレー?」
アム
「また来たの〜?」
リョクレイ
「ああ、あっちの船で可愛がってくれるぜ」
キャオ
「出来りゃ、別の人のがいいな」
アム
「うん、ギャブレーはもういいよ」
ダバ
「クワサン・オリビー、何故こういう事になる?」
クワサン
「何故? ふふっ、任務を行うのが軍人だろ?」
ダバ
「ミズンを脱出してコアムの荒野で畑の手伝いをした事を、覚えていないのか?」
クワサン
「コアムの荒野……」
キャオ
「水浴びもしたぜ? お前のお尻が可愛くてさ」
クワサン
「人違いもいい加減にしたら?」
ダバ
「クワサン、何故だ?」
「クワサン……!」
クワサン
「あっ……!」
リョクレイ
「貴様……!」
キャオ
「ん、強い奴には不意打ち!」
リョクレイ
「うおっ!」
アム
「こんにゃろ、こんにゃろ!」
監視の男
「わっ、うっ……!」
ダバ
「急げよ!」
キャオ
「OK!」
アム
「解いてよ〜!」
リョクレン
「ク、クワサン……!」
アム
「ダバ」
ダバ
「ああ」
「クワサン……確かにクワサン・オリビーだ」
クワサン
「んっ……あ、お兄ちゃん……」
「お兄ちゃん、あぁっ……!」
ダバ
「クワサン! クワサン! オリビー!」
アム
「ダバ……」
キャオ
「急ぐよ、ダバ。メット付けてくれ」
アム
「あっ……!」
キャオ
「何だ?」
リョクレイ
「ギャブレーがお前達の船に攻撃を掛けてるんだよ」
キャオ
「何?」
リョクレイ
「エア・ロックは外から閉めさせてもらうぜ」
キャオ
「こいつ……!」
「うわっ、あっ……!」
レッシィ
「アロン、ロンペ。ターナをイクシオンに接近させて」
「懐に飛び込めば、敵は砲撃は出来なくなる。そうすれば打つ手はある」
アロン
「ラジャー!」
「ん、ヘビー・メタルか!」
ハッシャ
「ダバが居なけりゃ、エルガイムは動けないって事だ」
ギャブレー
「油断はするなよ、ハッシャ・モッシャ。貴様を部下にするかどうかは、この戦いで決めさせてもらう」
ハッシャ
「へい!」
ギャブレー
「ん?」
ハッシャ
「頭」
「レッシィちゃんのディザード1機のみ」
「わっ……!」
「脅かされるか!」
レッシィ
「この裏切り者!」
ハッシャ
「お互い様だろ!」
レッシィ
「志しが違う!」
ハッシャ
「笑わせるな!」
レッシィ
「アロン、そっちへ行った!」
スカラ隊
「爆発はさせるな! イクシオンを巻き込む!」
アロン
「イクシオンに引っ付くんだ!」
ロンペ
「奴ら、すばしっこすぎて……!」
「上!」
スカラ隊
「この船のブリッジはどこなんだ?」
「うわっ!」
レッシィ
「ダバ、脱出出来ないの?」
リョクレイ
「クワサン・オリビーに手を掛けるとは大したものだ。あの救命ポッドに入ってもらおう」
「その後は、ギャブレーに聞きな」
キャオ
「へっ、そんな物に入れたって、脱出してやら!」
アム
「パ〜ッとね」
リョクレイ
「逃げてどこへ行こうというのだ?」
キャオ
「コアムに辿り着いてやる」
リョクレイ
「そしてまた、反乱軍を揚げようって訳か」
キャオ
「当たり前だ」
リョクレイ
「口が減らないのはいいが……」
「クワサン……タック、後は任せる」
タック
「は、はい!」
乗組員
「我らの大地、天に着き……」
リョクレイ
「誰が歌っている!」
「貴様……何?」
「地方の歌を歌うのは禁止されている」
キャオ
「この世の別れに、歌ぐらいいいだろ」
タック
「許してやってください。この人達は、コアム出身の人達なんだから……」
リョクレイ
「貴様、何だと……!」
タック
「こんなスパイ活動をして、ヤーマン族や反乱分子を叩く……薄汚い作戦ばかりやらされて!」
リョクレイ
「タック……貴様、反逆罪を犯そうとしてるんだぞ?」
タック
「貴方のトライデータルだって、元々はポセイダルに滅ぼされたのでしょ!」
「こんな軍の中でも、卑しいと……え?」
クワサン
「我らの大地、天に着き……」
ダバ
「クワサンが歌ってる……」
タック
「反逆ではありません!」
リョクレイ
「動くな!」
タック
「司令……あっ!」
キャオ
「お、お前……」
「貴様! ここに居る連中がみんな、ポセイダルの奴隷じゃあるまい! なのに……!」
リョクレイ
「我々は商船ではあっても、軍の仕事を行ってる軍人だ!」
キャオ
「スパイめ!」
リョクレイ
「動くな! 今度は……」
「うっ、誰だ!」
乗組員
「俺達は、正規軍ならいざ知らず、こんな囮の仕事はもう嫌だ!」
リョクレイ
「反逆するのか?」
「抑えろ! 撃っても構わん!」
乗組員
「うわっ、あっ……!」
 〃
「……我々がハッチを開きます。その間に、スペース・リスタで脱出を」
ダバ
「反逆罪は死刑だぞ?」
乗組員
「後の心配はしないでください、さあ」
ダバ
「しかし……」
キャオ
「ダバ!」
ダバ
「オリビー!」
キャオ
「ダバ、今はやめろ。逃げる事が先だ。俺達の為に抵抗してくれてる乗組員が居るんだ」
ダバ
「分かった、今は逃げよう」
リョクレイ
「あぁ、何てこった。何でこんな事に……」
「あの男……ダバ・マイロードが来たからか……」
クワサン
「ダバ・マイロードか……」
リョクレイ
「クワサン」
クワサン
「あの男が元凶だ……あの男が……」
「ポセイダルの意志に反する意思を、人々に与える……でも……」
レッシィ
「はっ……!」
ダバ
「ロンペ、ハッチを開け!」
レッシィ
「ダバ!」
ダバ
「出る!」
ハッシャ
「これでレッシィも……うぉっ!」
「うわぁぁっ!」
レッシィ
「ダバ、無事なのね?」
ダバ
「心配掛けた。敵は?」
レッシィ
「大した数じゃないけど」
ダバ
「いや、大物が来た」
レッシィ
「え?」
ギャブレー
「ハッシャ・モッシャ、後退して物干し竿の用意を!」
ハッシャ
「え、あれを使うんで?」
ギャブレー
「一気に片を付ける!」
ダバ
「うわぁぁっ!」
「まだ行ける!」
ギャブレー
「そろそろ限界が見えたな」
ダバ
「な、何だ?」
ギャブレー
「スクラップ・メタルだな、ダバ君!」
ダバ
「まだ動く、くっ……!」
「ラスト・チャンス!」
ギャブレー
「イクシオンを隠れ蓑にする?」
「考えが甘いな、ダバ君! 遠慮はしない方でね!」
ダバ
「あいつ……!」
乗組員
「うっ!」
リョクレイ
「ダバ達の攻撃か?」
乗組員
「分かりません! ギャブレー隊かも……!」
リョクレイ
「何?」
「ギャブレー隊め、こんな近くで……」
「後退開始! 倉庫は隔離しろ!」
乗組員
「ハイッサー!」
クワサン
「リョクレイ、何故船を動かす? まだ終わってはいない」
リョクレイ
「いや終わった。悪い敵と出会ったこの作戦は、再検討します」
クワサン
「どういう事です、リョクレイ?」
「はっ、あのヘビー・メタル……この感触、何だ……?」
レッシィ
「不味い、イクシオンが……!」
アム
「キャオ、見て!」
キャオ
「イクシオンが後退する」
「ダバ、聞こえるか? イクシオンが行っちまうぞ!」
ダバ
「何?」
「はっ……!」
ギャブレー
「これで邪魔はなくなる訳だ!」
ダバ
「邪魔だ!」
ギャブレー
「ダバ……!」
ダバ
「クワサン!」
「クワサン……うっ!」
ギャブレー
「逃がさんぞ、ダバ!」
ダバ
「どけ、ギャブレー!」
ギャブレー
「そうは行かん!」
ダバ
「どいてくれ、ギャブレー!」
ギャブレー
「何を寝言を言うか!」
ダバ
「お前はいいんだ!」
ギャブレー
「何だと?」
ダバ
「くっ、クワサン……!」
「ギャブレー! 今日ほど……今日ほど、お前を憎いと思った事はない!」
ギャブレー
「くっ、今更……!」
ダバ
「ギャブレー!」
ギャブレー
「な、何だこの気迫は! エルガイムのパワーなのか!」
ハッシャ
「頭、物干し竿を持ってきやしたぜ」
ギャブレー
「よし!」
「エルガイムにまだ潜在能力があるのなら、このバスター・ランチャーで!」
「ハッシャ、避けろよ」
レッシィ
「ダバ、アシュラが後方で……はっ!」
「ダバ、下がって!」
ダバ
「何?」
ギャブレー
「ハッシャ、下がれ!」
「ファイヤーッ!」
ダバ
「くぅぅっ……!」
アム
「きゃっ!」
キャオ
「何なんだ、これは……!」
レッシィ
「バスター・ランチャーよ、高出力の!」
「ダバ、下がって!」
ダバ
「今度撃たれたら、避けようがない……!」
ギャブレー
「ええい、動かんのか! この……!」
「バスターとエネルギー・チューブの調整がなってない!」
「ダバ・マイロード、いつもと違っていた……イクシオンに拘り……」
「追撃に移る! スレンダー・スカラ!」
クワサン
「作戦は順調に行ってた筈です。あの男の船を、再びキャッチして……」
リョクレイ
「反逆者達の掃討があります。まず船内を掃除してからでないと……」
クワサン
「急がせろ」
リョクレイ
「はい」
クワサン
「その上で、ターナという船を再キャッチする」
リョクレイ
「はい」
クワサン
「各ブロックの反逆者は射殺すればいい」
リョクレイ
「あの変調に対しての自覚症状がないというのか。ガストガルに戻るしかないか……」
「厄介な敵に出会ったものだ」
乗組員
「メラを射殺しました」
クワサン
「よし」
ダバ
「確かにクワサンが歌っていたんだ。コアムの歌を、確かに……」