第25話 ラブ・アゲイン

若者
「ねぇ彼女、いい事しようぜ?」
 〃
「や〜よ」
アム
「リリス、飛ばされないように捕まってんのよ!」
「あっ、落ちるよ!」
「うぅっ……!」
「ダバ〜!」
「捕まってたまるもんですか!」
警備隊
「ん……?」
アム
「しぃっ……!」
チェック
「何をやっている? そんな所に居る訳ないだろう?」
警備隊
「いえ、物音がしましたので……」
チェック
「袋小路に入る奴が居る訳ないだろ」
「四百番ストリートの方が怪しいんだ。行ってくれ」
警備隊
「しかし……」
チェック
「ここは私がやっておく」
警備隊
「手柄を取る気だ……」
チェック
「何か言ったか?」
警備隊
「い、いえ……!」
チェック
「もう大丈夫だ。出ておいて、アム」
アム
「え? やっぱり……チェックなの?」
チェック
「何でこんな、トライデアトアルの僻地にまで?」
アム
「本当にチェックなの?」
チェック
「ふっ、ご覧の通りさ」
アム
「チェック、あっ……!」
チェック
「アム……昔と同じなんだな」
アム
「チェック〜!」
チェック
「臭い……!」
キャオ
「へっ、リスタ一台解体しなきゃ、部品の換えがないなんてね」
ダバ
「ないよりマシさ」
キャオ
「お〜お、呆れるね……」
「おっと、落っこった!」
レッシィ
「え? ……嫁入り前の娘を殺す気?」
キャオ
「あ、そら感動的なお言葉……行けんの?」
ダバ
「言い過ぎは角が立つ」
レッシィ
「もう立ってるわよ」
「大体、仕事の割り振りが気に入らないね。アムは買い物で、私は肉体労働なんてさ」
ダバ
「君には、活用してもらいたい能力がある」
レッシィ
「そうね、そりゃそうだわ」
キャオ
「サンキュー」
アム
「チェック」
チェック
「どうした?」
アム
「どう、似合う?」
チェック
「あ、ああ……いいよ。可愛い」
リリス
「チェックさん」
チェック
「ん?」
リリス
「私のは?」
チェック
「ああ、おチビさんの服か……」
「そうだ、いい物がある」
「アム」
アム
「あっ、似てる……私に……」
リリス
「うふっ、いいんだ」
アム
「いいの?」
チェック
「何が?」
アム
「だって、私はお尋ね者よ?」
チェック
「君がどう変わろうと、俺の気持ちは昔のままさ」
アム
「覚えてるわその台詞。貴方と最後に演じた、オルフェリオの第三幕……」
チェック
「あれからもう三年……君は、自分の人生を見付けたいと言って、劇団を出て行った」
アム
「その結果が、今では敵と味方……」
リリス
「アムのいい人なんでしょ? もっと嬉しがらなくちゃ」
アム
「そうね」
チェック
「なぁ、アム……」
アム
「ん?」
チェック
「ここに居てくれないか?」
アム
「どういう事?」
チェック
「もう一度、君とやり直したい」
アム
「もう遅いわ。三年って時間は、私を変えるには十分過ぎた……」
「帰るわ」
チェック
「アム……」
アム
「仲間が待ってるの」
チェック
「けど……」
リリス
「いいの、アム? このまま帰っちゃって」
アム
「いいのよ、リリス」
チェック
「考え直せないか? 俺は君を、お尋ね者から解放する事だって出来るんだ」
アム
「そんな事……!」
チェック
「本当に俺達、もう駄目なのか?」
アム
「私には、貴方とダバを比べる事は出来ないのよ」
チェック
「ダバ? 奴は君の恋人か?」
アム
「さようなら、もう会わないわ」
チェック
「アム……!」
「アム、行かせたくない……」
アム
「何故あの時、そう言ってくれなかったの?」
チェック
「アム……」
アム
「酷いよ。自分の都合のいい時だけ、優しくなって……」
「リリス、飛ばすよ。きっとみんな、お腹空かしてっからね」
ヘッケラー
「何故、整備が終わっていない? 急げ!」
正規軍
「はっ!」
アントン
「バスター・ランチャーのチューニングが、まだ甘いぞ!」
正規軍
「はっ!」
アントン
「これで、ネイ様を助けられるという訳か」
ヘッケラー
「もうギャブレーの餓鬼に、デカい顔はさせん。この三機でな」
ネイ
「まるで玩具を充てがわれた子供だな。乗れ」
アントン、ヘッケラー
「はっ!」
チェック
「失礼します」
ネイ
「恋人は裏切れなかったようだな。それとも振られたか?」
チェック
「ど、どうしてそれを……?」
ネイ
「これで、ファンネリア・アムの無罪も、お前の出世もなくなったという訳だ」
チェック
「もう一度チャンスをください! 今度こそ、ダバ・マイロードの居所を……!」
「うっ……!」
ネイ
「残念だねぇ……」
「女のフロッサーには発信器を取り付けた。それを衛星軌道上のサージェ・オーパスから追跡させているという訳だ」
チェック
「そ、それじゃ、始めからそのつもりで……!」
ネイ
「お前が上手くやっていれば、こうはならなかったさ」
「スギサン・バレーか、やっぱりな」
「アントン、ヘッケラー、行くぞ!」
アントン、ヘッケラー
「はっ!」
チェック
「ネイ様……!」
ネイ
「恋人の無事でも祈っていてやれ」
チェック
「ネイ様……!」
チェック
「A級三機がアムの船を襲ったら、幾ら噂のエルガイムでも……!」
ネイ
「アントン、ヘッケラー。バッシュの性能を十分に使いこなしてみせろよ」
アントン
「仰るまでもなく」
ネイ
「よし、出撃する!」
アントン、ヘッケラー
「はっ!」
正規軍
「警備隊の兵が、ヘビー・メタルを弄るとはどういう事だ!」
チェック
「後で、軍法会議でも何でも受けてやる!」
正規軍
「貴様……!」
「あっ、行っちまいやがった……!」
チェック
「まだアムとは話し合う事がある……済んじゃいないんだ」
ロンペ
「遅かったじゃないかよ、アム……どこまで買い物に行ってたんだよ?」
「人を飢え死にさせる気か?」
アム
「警備隊の派手な歓迎に遭って、それどころじゃなかったのよ!」
レッシィ
「貴方がそんな軟だったなんて、想像出来ないね」
アム
「レッシィ……!」
キャオ
「そう目くじら立てんなよ。アムが居たって、エルガイムの修理が早く出来る訳じゃないんだから」
レッシィ
「いつ追っ手が掛かるか分からないのよ? アムだって猫よりはマシよ」
アム
「くっ、うぅっ……!」
ダバ
「アム……」
キャオ
「どうした? 怒ったの?」
アム
「嫌、もう嫌! 戦争ごっこなんて、もう沢山だわ!」
ダバ
「アム……」
レッシィ
「どうしたの?」
アム
「反乱軍とか正規軍なんて、私にはどうでもいい事よ!」
「私は、私はね……チェックは正規軍に入っても、私の事忘れないで居てくれたわ」
「一緒に暮らそうって……」
レッシィ
「チェック……?」
ダバ
「知り合いか?」
キャオ
「はん、昔の彼氏に会ったな?」
ダバ
「恋人……!」
キャオ
「劇的な再会をしてきたって訳だ」
「な?」
レッシィ
「へ〜、軍人の妻はいいよ? 死亡年金……うっ!」
「そう剥きになるという事は、本物のようね! そういう人、ここには必要ないのよ? 分かって?」
アム
「あんたに言われるまでもないわ!」
リリス
「アム、駄目! 弾みで物を言っちゃ駄目!」
アム
「もういいのよ、リリス……」
リリス
「ダバ、止めてよ! アムを行かせないで! 止めてあげないと、アム行っちゃうよ!」
ダバ
「いや、アムにそんなに心に掛かる人が居たなんて、知らなかった」
「俺にはまだ、アムを止める権利なんて……」
アム
「ダバ、うぅっ……!」
リリス
「アム……!」
「馬鹿!」
ダバ
「うっ!」
リリス
「アムはね、ダバの為にあの人を振り切って戻ってきたのよ? 少しは女の気持ち、考えてくれてもいいじゃない!」
ダバ
「でも、俺は……」
アム
「これじゃ、ダバだってあのチェックと同じじゃないの……!」
アム
「チェックだわ。あいつが私を付けたんだ」
「私のせいだ。迂闊にあいつを信じたばっかりに、私は、ネイにターナの隠れ場所を教えてしまった……!」
チェック
「無事で居てくれよ、アム……!」
「はっ……!」
「アム、良かった。まだ戻ってなかったのか」
アム
「また来た……」
チェック
「アム、俺だ! チェックだ!」
アム
「チェック……」
チェック
「アム、無事で良かった……うっ!」
「アム!」
アム
「よくも私を……騙したわね……!」
チェック
「誤解だ! 君を騙してなんかいない!」
アム
「今行った、バッシュとオージェは何なのよ?」
チェック
「そ、それは……」
アム
「一緒に暮らそうとか何とか上手い事言って、結局、私を利用しようとしただけじゃないの!」
チェック
「違う! それは違う!」
アム
「来ないで! 傍に来たら撃つわよ!」
チェック
「確かに俺は、君の仲間を探るように……!」
アム
「もう、そんな事情は分かってるわよ!」
チェック
「その代わり、ネイ・モーハンは、君の自由を約束してくれたんだ!」
アム
「そんな事してもらって、私が喜ぶとでも思ったの?」
チェック
「何故だ! 何故そうまでして、お尋ね者で居ようとする!」
アム
「もう行って! 私は、こんな事してる場合じゃないの!」
チェック
「ダバとかいう男の為にか……!」
アム
「違うわ」
チェック
「なのに行く? 何故だ!」
アム
「私は、自分が納得したいだけなのよ!」
チェック
「そんな理由だけなら行かせない!」
アム
「勝手よ!」
チェック
「うわっ……!」
「うっ、アム……!」
アム
「あんたの方が勝手だわよ!」
「同じ優柔不断なら、正規軍でない方に賭けた方がいいとは思わなくて?」
チェック
「あいつ、本気で撃ちやがった……。俺は正規軍に入ったのは、誰のせいだと思ってんだ……」
ネイ
「見付けたよ、坊や」
「アントン、バスター・ランチャーで燻り出せ!」
アントン
「ラジャー!」
ネイ
「どうした?」
アントン
「やってます!」
「ファイヤーッ!」
ダバ
「な、何だ?」
キャオ
「じ、地震か?」
レッシィ
「敵襲よ! 離れろ!」
ダバ
「マルシェ、何故キャッチ出来なかった?」
マルシェ
「ブリッジです! すまねぇ、留守にしてた!」
ダバ
「レッシィ!」
レッシィ
「私もディザードで出るわ」
ダバ
「船を脱出させる方が先だ。レッシィはアムの代わりに、コ・パイロットの席に就いてくれ」
アントン
「メカニック・マンめ、あれだけ言ったのに……!」
ネイ
「どうした? バスター・ランチャーが陽動にしか使えんのか?」
アントン
「申し訳ありません! エネルギー回線がショートしてしまいました!」
「無理して二回も撃ったから……!」
ダバ
「ん?」
ネイ
「久し振りだねぇ、ダバ・マイロード……少しは腕を上げたかい?」
「ヘッケラー、お前は船を!」
ヘッケラー
「はっ!」
「一撃で仕留めてやるぜ!」
「こっちもバッド・チューニングか……!」
ダバ
「はっ……!」
ヘッケラー
「逃がすか!」
レッシィ
「Sマインか! バリアは?」
キャオ
「効いてる!」
レッシィ
「対空砲火、止めるな!」
キャオ
「各砲座、チェック!」
アム
「ターナがやられたの? ごめんみんな、私のせいで……!」
レッシィ
「ディザードで出るわ」
アロン
「レッシィさん、船はどうするんだよ?」
レッシィ
「船がやられちゃったらどこへ帰るの?」
リリス
「アムが帰ってきた!」
キャオ
「アムが?」
ロンペ
「あの裏切り者め、よくも帰ってこれたもんだ」
キャオ
「レーザー、撃て!」
リリス
「アムは裏切り者じゃないやい!」
レッシィ
「今どこなの?」
リリス
「ディザードで出るって」
レッシィ
「ディザードはアムには無理よ」
キャオ
「頼む」
「ダバ、アムが戻ってきた」
ダバ
「了解!」
「はっ……!」
「わぁぁっ!」
レッシィ
「降りなさいよ、アム! あんたにディザードは無理よ!」
アム
「今日だけは私にやらせてもらう!」
レッシィ
「あんたには、ヘビー・メタルをコントロールする基礎訓練が出来て……あっ!」
アム
「全てのケリを自分で付けたいのよ。人の手は借りずにね……」
レッシィ
「アム……!」
ヘッケラー
「いつまでもバリアが持つかよ!」
「おっ……!」
アム
「執念、情念の燃えた女は、怖いんだから!」
ヘッケラー
「コピーでバッシュが落とせると思っているのか!」
アム
「あぁっ……!」
ヘッケラー
「頑張ったな、赤ちゃんや……だがこれで最後だ!」
レッシィ
「アム、女の意地を見せてご覧よ!」
アム
「レッシィ!」
アントン
「ったく、(?)のメカニックめ……戻ったらただじゃおかん!」
「ん、バルブド……ネイ殿の頼んだ増援か?」
チェック
「うっ、間に合うか……?」
ネイ
「ヘッケラー! 何を手間取っているか!」
ヘッケラー
「こいつら、滅茶滅茶な攻撃で、一体……!」
レッシィ、リリス
「うぅっ……!」
アム
「レッシィ!」
キャオ
「レッシィ! 大丈夫か、レッシィ!」
レッシィ
「何とか……」
キャオ
「そこを離れろ!」
レッシィ
「ラジャー!」
ネイ
「バルブド?」
ダバ
「あっ……!」
チェック
「貴方が出しゃばらなければ、作戦は上手く行ったんだ!」
アム
「チェック……!」
ネイ
「始めにお前がちゃんとやっていれば、こうはならなかった!」
ダバ
「あれが、アムの言っていたチェックか」
チェック
「ネイ様……!」
「アム、アムは居るか?」
アム
「何故来たの? まだ私を苦しめ足りないの?」
チェック
「俺は自分の為に、君や君の仲間を陥れようとした酷い奴だ!」
「だけど、君を救いたかったって事だけは、信じてくれ!」
アム
「チェック……」
チェック
「俺にだって、まだ一つだけ君にしてやれる事がある!」
ネイ
「何?」
「チェック、貴様……!」
チェック
「ネイ様、退却してください! さもなくば、このバルブド諸共、自爆して頂きます!」
ネイ
「こんな事をして、後でどうなるのか分かっているのか?」
チェック
「アム、今の内に早く逃げろ! ダバ君によくしてもらえ!」
ネイ
「聞いちゃおれん!」
アム
「チェック、貴方……!」
ネイ
「分かった、ここはお前に免じて手を引こう」
チェック
「本当ですか?」
ネイ
「ヘッケラー、止むを得ん。退くぞ」
ヘッケラー
「ネイ様、しかし……!」
ネイ
「それでいいんだよ」
「甘いわ!」
チェック
「うわっ!」
アム
「チェック!」
「このぉぉっ!」
ネイ
「ん、よくもマスクを……!」
「ヘッケラー、後退だ! 退け!」
ヘッケラー
「大丈夫ですか、ネイ様!」
ネイ
「アントンを合流させろ」
「マスクの修理をしなければ……」
キャオ
「ダバ、見ろよ。いい物拾ってきたぜ?」
「こいつがあれば、相当な戦力の強化になる……あ?」
アム
「うぅっ、うぅっ……!」
ダバ
「バルブドの残骸の中にチェックは居なかったし……大丈夫、彼は生きてるさ」
「アム……」
アム
「チェックは死んだわ」
ダバ
「え?」
アム
「チェックが生きていれば、私は、いつか彼の優しさに逃げてしまうかもしれないわ」
「だけど……だけど、彼が死んでしまえば、私はもうここに居るしかないのよ」
ダバ
「楽な優しさは人を殺す……それは分かって欲しいな、アム」
アム
「でも、ダバ……!」