第26話 サーチII

前回のあらすじ
一つの記憶は人の中で絶えず増幅を続け、色取り取りの意味を与えて行く。
それに支配されるのが、人の悲しい性なのだろうか。
そんな想いを、マシンは一瞬足りとも忘れさせてくれる。
イレーネ
「マグネット・アンカー、スタンバイ」
ギャブレー
「大丈夫か、キャプテン?」
イレーネ
「大丈夫と賭けたのは、ギャブレー殿でありましょう?」
「遅い!」
スカラ隊
「アンカー、逆噴射制動」
正規軍
「オーバー・ランだ」
イレーネ
「強制ブレーキング!」
ギャブレー
「無理だ」
スカラ隊
「止まりました」
イレーネ
「よし、良好。船首の損傷をチェック」
「ギャブレー殿……ん?」
ギャブレー
「……補助シートと言えども、調整は万全にな」
イレーネ
「申し訳御座いません」
「ギャブレー殿」
ギャブレー
「分かっている。いいキャプテンに出会って幸せだ」
イレーネ
「光栄です、作戦参謀殿」
ギャブレー
「こんな辺鄙な工場で、新しいヘビー・メタルの開発が行われているなど、信じられんな」
イレーネ
「これは、赤十字に寄付させて頂きます」
「トライデトアルという星は、技術的伝統は長いのです。ギワザ殿はそれを信じて……」
ギャブレー
「ヘビー・メタルの開発をさせているのか」
イレーネ
「はい」
ハッシャ
「負けたんでしょ?」
ギャブレー
「済んだ事の詮索をする男など、嫌いだ!」
ギャブレー
「ここがか?」
イレーヌ
「恐らく」
「ここの責任者は?」
技術者
「落ちる!」
 〃
「うわっ……!」
イレーヌ
「ここの責任者は?」
技術者
「貴様か! 我が新型のヘビー・メタル、スタックをぶち壊そうとしたのは!」
イレーヌ
「あれがか?」
メッシュ
「見れば分かるでしょ」
ギャブレー
「ギャブレー……私が受け取るヘビー・メタルは?」
技術者
「あれです」
ギャブレー
「しかし、人型をしていないが」
技術者
「でも、ヘビー・メタルです」
イレーヌ
「一度テストした、バッシュのデータです」
技術者
「バッシュ?」
イレーヌ
「実戦テストをしたヘビー・メタルだ。至急手直しを」
技術者
「はい」
レッシィ
「コンスタントにジャマーは厚いし、間違いなくこの辺にも反乱分子は居るわね」
アム
「だからって、ミサイルの狙い易い高度を取る事ないでしょうに……いい心臓してるわ」
リリス
「コーヒー・タイムよ」
ダバ
「有難う」
キャオ
「あ? 何の恨みがあんの?」
「リリス、どうしたんだ?」
リリス
「駄目、ダバ! しっかりしてよ! アム、早く!」
アム
「押さえてんのよ、降ろすからね」
「どうしたの?」
リリス
「ダバ、落ちちゃうよ」
アム
「ダバ、ダバ……!」
「熱よ」
キャオ
「凄いや、かなりある。アムの二、三倍の熱は……」
アム
「どれ? 本当だ……どうする?」
キャオ
「病気だなんて……今までダバが熱を出したなんて、聞いた事ないぜ?」
「レッシィ、ダバが酷い熱を出して倒れた」
レッシィ
「急性白血症? 急性扁桃腺? 腸チフス、髄膜炎……」
「駄目だわ、外科用のでは分かんないな」
アム
「何か、薬飲ませりゃいいでしょ?」
レッシィ
「そうは行かないわ。効き過ぎる薬っていうのは怖いのよ?」
リリス
「レッシィ、死んじゃうよ」
アム
「助けてやってよ、レッシィ……」
レッシィ
「情けない声を出さないでよ」
「キャオ……薬の副作用でダバを殺す気?」
キャオ
「じゃ、どうすんの?」
レッシィ
「お医者様に診せましょう」
アム
「駄目よ」
レッシィ
「仕方ないでしょう?」
キャオ
「着陸は危険だけどな……」
「ダバが倒れたとなると、命令は俺が出す以外にないな」
「よしレッシィ、医者を探そう」
レッシィ
「結局それが言いたかったの? この大事な時に……」
キャオ
「ん?」
アム
「それを言うなら、ステラ軍の時のリーダーは私だからね?」
キャオ
「分かったよ」
アム
「ダバ……」
キャオ
「ホロ・ガードは使えるんだろ?」
レッシィ
「ええ」
キャオ
「アム、それで大丈夫だよ」
アム
「落とさないでよ?」
キャオ
「だからここに居るんじゃないか」
「ロンペ、やってくれ」
ロンペ
「じゃ」
アム
「リリス、頼んだわよ」
レッシィ
「アロン、ホロ・ガード展開」
医者
「何、患者だと?」
キャオ
「いきなり熱が四十二度も出たんで、レッシィは、チフスじゃないかって」
「だから……」
医者
「綺麗な肌してるね」
キャオ
「な、何だよ?」
医者
「この兄ちゃんも可愛い顔して……」
キャオ
「あ、あんた、本当に医者……?」
医者
「そうだよ」
「ほれ」
キャオ
「熱冷まし?」
医者
「すぐ飲ませとけ。今、診察室をセットするからな。発電器を見なくちゃな」
キャオ
「自家発電なの?」
ロンペ
「大丈夫かな?」
キャオ
「しかし、いいとこの医大は出てるみたいだな」
医者
「金の素が転がり込むなんて、ヒヒッ……!」
ギャブレー
「コックピットに、エルガイムのシステムを入れたなどと……」
正規軍
「ギャブレー殿、お尋ね者についての情報が入りました」
医者
「ダバ・マイロード十万ギーン、ミラウー・キャオ五百ギーンとかで……」
キャオ
「あれ? あの医者、発電器がどうのって……」
「あ、しまった! ロンペ、ドアを開けてみろ!」
ロンペ
「何?」
「開かない……!」
キャオ
「あの医者め、俺達を売ったな?」
リリス
「どうすんの?」
キャオ
「どうせ、近くに正規軍の当所があるんだろ?」
ロンペ
「けど、ダバをどうする?」
キャオ
「俺がおぶってでも、ミッド・フロッサーに運び込む」
技術者
「どうぞ」
イレーヌ
「シートの動きだけを見ていると、いいようだが?」
ギャブレー
「何もないが……これか?」
「ほう、上も下もモニターか……」
「テストを兼ねて、ダバ君と再会するか」
「な、何……!」
「コントロールが……!」
「どうせ着陸するのなら、何とかダバの居る病院前へ……どこか?」
「ハッシャどこだ? こっちはコントロールが効かんのだ」
「あの家か。降りろよ!」
ゴロツキ
「うわっ……!」
ハッシャ
「ダバ、そこに居るのは分かってるんだ。大人しく出て来い」
「あの光、ありゃ……」
ギャブレー
「ミラウー・キャオ君、ダバ君を医者に診せる手伝いをしようじゃないか」
キャオ
「ば、馬鹿言え! お前らに治せるか!」
ギャブレー
「私の優しさが分からんとは……!」
ダバ
「ヘビー・メタル……」
ギャブレー
「ダバ君が動けないのだろう?」
ダバ
「キャオ」
ロンペ
「屋上へ回った」
ギャブレー
「キャオ君、せっかくダバ君のチフスを治してやろうと思ったが、全く話の分からん奴だ」
キャオ
「とりゃっ、何と……!」
ダバ
「ロンペ」
ギャブレー
「キャオ!」
キャオ
「走れ! ギャブレーのヘビー・メタルから離れるんだ!」
ロンペ
「もう少し行ったら、ターナを呼び出す」
ダバ
「急いでくれ」
ハッシャ
「あのチビ、どこへ……」
ギャブレー
「ハッシャ、戻れ。グライヤが取られた」
ハッシャ
「誰にです?」
ギャブレー
「キャオにだ」
ハッシャ
「頭、何やってたんです?」
キャオ
「拳銃だけじゃない! お前も出ろ!」
正規軍
「でも、どうすんの……?」
キャオ
「こうすんの!」
正規軍
「うわっ、この……!」
ハッシャ
「舐めて貰っちゃ困るな」
正規軍
「うわ、やらないで……!」
キャオ
「くっ、ハッシャ……!」
「この、あっ……!」
ハッシャ
「しまった!」
キャオ
「ハッシャ、残念だったな」
「あっ……!」
ギャブレー
「はっ……!」
キャオ
「ヘビー・メタルか」
ハッシャ
「動くな、キャオ!」
ギャブレー
「グライヤから出て貰おう」
キャオ
「分かったよ。お宅達のヘビー・メタル壊しちゃって、済まなかったな」
レッシィ
「アムに行って貰おうと思ったのに」
アロン
「でもアムは、ダバが心配だからって、俺は止めたのに出てっちまったんだ」
レッシィ
「ミッド・フロッサー? ロンペ?」
「大丈夫?」
ダバ
「少し、熱は引いたみたいなんだけど……」
リリス
「キャオが遅いの」
レッシィ
「そう……」
「ターナは直ぐに出せるようにね」
ロンペ
「ラジャー」
キャオ
「わっ……!」
ギャブレー
「あ、すまん。このシートは慣れていないものでな」
キャオ
「何が」
ギャブレー
「あらゆる物のバランスが悪い。どういうつもりだ?」
メッシュ
「はっ……コックピットにスパイラル・フロー・システムというものを入れれば、何とか……」
ギャブレー
「あれは、ヤーマンのシステムだ」
メッシュ
「しかし『いい物は採用しろ』と、ギワザ様が……」
ギャブレー
「碌に歩く事も出来ないヘビー・メタルで、何を言う?」
メッシュ
「え、あのままで歩かせようとしたんですか? 足は伸びるんですよ?」
ギャブレー
「何?」
メッシュ
「ほら」
イレーネ
「ほう……」
キャオ
「へぇ」
ギャブレー
「冗談ではない! 兵器は、単一機能を画一にこなす物でなければならん!」
メッシュ
「そうは思いません。ディザードのムーバル・フレームというのは……」
ギャブレー
「技術屋として恥ずかしくないのか?」
「イレーネ、キャオを吐かせろよ」
イレーネ
「ターナの隠れ場所を吐けば、銃殺刑ぐらいにはしてやるが?」
「は、放せ……!」
ギャブレー
「ん?」
アム
「や」
ギャブレー
「何だ? また賞金が手に入ったな」
医者
「ヒヒッ、これは安いんですがね」
アム
「その内に高くなってやるよ」
「キャオ!」
イレーネ
「だ、誰か救急箱を……!」
アム
「キャオ……あんた、捕まっていたの?」
キャオ
「アム……せっかく囮になって逃がしてやったのに、みんな捕まっちまったのか?」
アム
「帰りが遅いから来てみれば、この先生が『みんな捕まった』っていうから、助けに来たんじゃない」
ギャブレー
「助けに来ただと? どういう事だ?」
アム
「こういう事よ」
医者
「わ、わしは、女は嫌いだ……!」
ギャブレー
「と、いう事は……」
アム
「キャオのロープを外さないと、ギャブレーは死ぬよ?」
ギャブレー
「私が君を投げ飛ばすのと、どちらが早いか……?」
アム
「やってご覧よ」
ハッシャ
「頭」
イレーネ
「ハッシャ、小僧のロープを解け! あの娘は本気だ!」
ハッシャ
「でもよ」
アム
「早く!」
ギャブレー
「やってやれ、ハッシャ」
キャオ
「しかし、ちょっと無理じゃないの?」
アム
「舐めんじゃないよ」
ギャブレー
「技術士官の君に、この娘を殺るのは無理だ」
「疲れないか、アム?」
アム
「え? ええ」
「手は動かさないの」
キャオ
「おいちょっと」
メッシュ
「え?」
キャオ
「ターナって軍艦、ちょっとしたもんだぜ? 見に来ないか?」
メッシュ
「え?」
キャオ
「こいつをもっと良くしたいんだろ?」
メッシュ
「スタックをか……」
キャオ
「馬鹿、元々エルガイムがベースなんだろ? エルガイムのマーク・ツーにすんのさ」
メッシュ
「そうか」
アム
「キャオ、早くして」
ギャブレー
「ハックション!」
アム
「あっ!」
イレーネ
「逃がすな! 撃ち殺せ!」
「防衛隊を!」
ギャブレー
「アムめ……!」
イレーネ
「スタックを……!」
ギャブレー
「バッシュは使えるな?」
イレーネ
「はい!」
「スタックの足を止めろ!」
レッシィ
「スレンダー・スカラ? バッシュ!」
ギャブレー
「エルガイムが来なければ、ダバは動けんという事だな」
キャオ
「うわぁぁっ!」
リリス
「駄目だよ」
ダバ
「どいてくれ」
リリス
「そんな体じゃ無理よ」
ダバ
「先生の所で薬は飲んだんだよ」
「風邪だよ、風邪……」
リリス
「嘘! 風邪でそんなに体がキツくなるの?」
「あ、来た!」
「降りて! 狙われちゃう!」
「セイバーを抜いて!」
「突っ込め!」
ダバ
「どけっ!」
リリス
「どくのよ!」
メッシュ
「キャオ君、出られるか?」
キャオ
「何か言ったか?」
レッシィ
「バッシュは何故来ないんだ?」
「アム!」
アム
「あっ……!」
ギャブレー
「ははっ!」
医者
「いいぞ! ワシを脅かしてこの基地に乗り込もうとした女なんか、捻り潰してしまえ!」
ギャブレー
「良かろう」
「レッシィ! ディザードから降りなければ、アムは……!」
アム
「あぁ、中身が出ちゃう……!」
レッシィ
「やめてギャブレー、そんな……!」
ギャブレー
「残酷かもしれんが、私はこの女に散々煮え湯を飲まされた!」
「レッシィ、ディザードから降りろ! それからキャオ君も!」
「な、何だ?」
アム
「ダバ、貴方……態々やられに来たの? その体で……」
レッシィ
「何て馬鹿なの? これじゃ……!」
リリス
「しっかりしてよダバ、死なないで! ダバ、死なないで!」
ダバ
「もう……」
リリス
「ダバ!」
メッシュ
「エルガイムが倒れている?」
キャオ
「ダバ! ダバなのか?」
リリス
「こんな熱じゃ、もう、もう……!」
ダバ
「みんな、さよなら……」
キャオ
「やっぱり、チフスだったのか」
リリス
「ダバ、ダバ……!」
ダバ
「みんな、すまない……」
ギャブレー
「気の毒にな……私の仇敵がこうも脆く、私の前で……」
アム
「本当なの、ダバ? 嘘でしょ、ダバ? こんな事、嘘でしょ?」
「あぁっ……!」
ギャブレー
「そうか! それは芝居だ!」
「ハッシャ・モッシャ、イレーネ! エルガイムを確認しろ!」
「動くなよ。少しでも動けば、アムの命はない!」
アム
「うぅっ……!」
リリス
「ダバ!」
イレーネ
「どけ!」
リリス
「ダバ、目を開けて! 嫌よ、目を開けてよ! ダバ!」
ダバ
「……芝居じゃないんだ。人質になって貰う」
イレーネ
「お前の狙いは外れても、向こうは確実にお前を潰すだろうさ」
ダバ
「確かにね。それに、僕がアムを大切に思ってるくらいに、ギャブレーが貴方を大切に思っていなければ」
「ギャブレーは、貴方を見殺しにするだろうな」
ハッシャ
「どうした、イレーネ?」
イレーネ
「来るな、ハッシャ!」
ギャブレー
「どうしたんだ、キャプテン?」
イレーネ
「わ、私は触れません……こ、怖くて……」
ギャブレー
「そうか、ダバは……!」
アム
「ダバが?」
レッシィ
「そんなのないわ!」
イレーネ
「私はまだ、作戦参謀の為に命を落とすなんて、御免だね」
ギャブレー
「キャプテン、何を言っているんだ?」
アム
「あっ……!」
ダバ
「レッシィ、アムを……!」
ギャブレー
「ダバ……!」
イレーネ
「うっ!」
医者
「お、女が……!」
アム
「ダバ」
レッシィ
「ダバ」
キャオ
「ダバ、行けんのか?」
ダバ
「分からない。脱出だけを考えろ」
ギャブレー
「貴様、騙したな?」
ダバ
「うぅっ……!」
リリス
「ダバ、目を開いて」
ギャブレー
「こうも、こうも虚仮にされて……!」
アム
「レッシィ、撃て撃て!」
ギャブレー
「エルガイム!」
ダバ
「うわぁぁっ!」
リリス
「ダバ! セイバー!」
キャオ
「バスター・ランチャーが使えるんだな?」
メッシュ
「当てなくったって、効き目はある!」
リリス
「逃げて!」
ダバ
「レッシィ、キャオ、早く逃げろ!」
「くっ、逃げろ……!」
ギャブレー
「貴様は逃がさん!」
「真っ二つにしてやる!」
ダバ
「リリス、お前は逃げろ。今なら……」
リリス
「ランサーは二つに使えるのよ」
ダバ
「そうか」
ギャブレー
「何だと?」
キャオ
「ダバ、レッシィ! バッシュから離れろ!」
イレーネ
「あれが、私の敵なのか……」
ギャブレー
「イレーネがダバに騙されたとは思えん……ダバは、イレーネを人質に取るチャンスを放棄して戦った……」
「人間の格の違いだというのか……イレーネ……」
ハッシャ
「キャプテン」
イレーネ
「伝染病かも知れなかったんだぞ、ダバは」
ロンペ
「降下するぞ、二機ぐらい何とかなる」
キャオ
「よっしゃ、追い掛ける」
リリス
「三十六度一分だ……どうしてかな?」
ダバ
「今の戦いで汗をかいたからね」
キャオ
「ダバ、熱の出る病気した事あんの?」
ダバ
「麻疹しかないな。風邪なんて引いた事ないし……」
キャオ
「それだそれだ。熱に弱い体質なんだよ、お宅」
レッシィ
「熱に弱い?」
アム
「何て人……それなら私なんて、しょっちゅう倒れてなきゃなんない」
レッシィ
「何故?」
アム
「いつもお熱上げてるもん」
レッシィ
「あら」
キャオ
「ターナ、聞こえるか? メカニックマンのメッシュのトレーラー、収容急げよ」
アロン
「ラジャー」