第27話 ミステイク・ラブ

前回のあらすじ
一つの記憶は人の中で絶えず増幅を続け、色取り取りの意味を与えて行く。
それに支配されるのが、人の悲しい性なのだろうか。
そんな想いを、マシンは一瞬足りとも忘れさせてくれる。
ダバ
「追ってくるか?」
アム
「同じようよ」
「ん、執拗いんだから」
キャオ
「出ようか、ダバ」
ダバ
「磁気嵐の中だ。滅多に攻撃を仕掛けちゃこれないさ」
アム
「気晴らしに、リリスの家庭料理でも教わってこよっと」
キャオ
「俺も飯にして……」
レッシィ
「キャオ」
「摘み食いする間に、整備は……」
キャオ
「整備は済んでますよ、レディ」
レッシィ
「不潔、もう……!」
「……何?」
アロン
「べ、別に……」
レッシィ
「何か言いたそうな目じゃない? 言ってご覧なさいよ」
アロン
「あんた、あんたさ……」
レッシィ
「私が何よ?」
アロン
「いや……」
レッシィ
「ウジウジしてないで、ハッキリ言ったらどうなの?」
アロン
「あんた、こんな事してていいのかな?」
レッシィ
「え?」
アロン
「な、あんたに限らずだけどさ、女の子はこんな生活やめて、平穏な暮らしをした方がいいんじゃないのかな?」
ロンペ
「アロン……お前、何を……」
アロン
「俺はさ……」
「女の人ってよ、こう、優しくて……」
レッシィ
「余計なお世話よ!」
ダバ
「レッシィ!」
アロン
「レッシィさん、俺……!」
アム
「ね、リリス、味見て?」
リリス
「いいね」
アム
「レッシィには出来ない芸当だろ?」
ダバ
「レッシィ、レッシィ」
「どうして止めなかったんだ?」
キャオ
「あっという間だもん」
ギャブレー
「挑発に乗ってくれたのかな、連中?」
イレーネ
「乗るでしょう? 我慢の出来るようなクルーじゃない筈です」
ギャブレー
「血気盛んという事は、自らの命取りになるという訳か」
「ん? 磁気嵐が弱まったようだな」
「出動する」
イレーネ
「御自分から出る事はないでしょうに」
ギャブレー
「ドバで直させたバルブドの調子を見てみたい」
レッシィ
「外れた? 磁気嵐め……!」
「パワー・ランチャー……どこだ?」
「バルブド? パトロール艇は囮か!」
アロン
「レッシィさん、応答してください! レッシィさん、早く戻って!」
ロンペ
「ほれ、やっぱり傷付けたんだ」
アロン
「どうしよう」
「俺、捜してくる」
ギャブレー
「ディザード1機? エルガイムではないのか?」
スカラ隊
「はい、地上へ降りました」
ギャブレー
「よし、任せろ」
「お前達は引き続き、ターナの行方を追え」
「そこか!」
「小癪な……!」
レッシィ
「誰だ、パイロットは?」
ギャブレー
「この砂嵐の中では無理か」
レッシィ
「うわぁぁっ!」
アム
「ダバ、ね、味見して?」
ダバ
「後でね」
アム
「どこへ行くの?」
ダバ
「レッシィ探しだ」
アム
「レッシィがどうしたの?」
「キャオ、ダバがそっちへ行ったら、引き止めるのよ?」
キャオ
「グッド」
「ん?」
「ダバ、追い掛けんのか?」
ダバ
「ハッチを開けてくれ」
キャオ
「レッシィは粋がって飛び出したんだ。放っとけ」
「おい、ダバ」
「誰だ、ランド・ブースター飛ばしたのは?」
ダバ
「アロン、パトロール艇と接触したくない。迂回するから付いてきてくれ」
アロン
「ラジャー」
ギャブレー
「くっ……!」
レッシィ
「慢心したかな、ギャブレー君?」
ギャブレー
「私が?」
レッシィ
「何時でもランチャーは撃てるんだよ」
ギャブレー
「ならやればいいだろう。私程、君達を追い続けてきた者は居ないのだから」
レッシィ
「何故こんなにも追うんだ? 私達を」
ギャブレー
「私だって、好きでポセイダルの正規軍に居るのではない」
「生きていく上では、やむを得んと心得ているからだ」
「しかし君達は……」
レッシィ
「動くな」
ギャブレー
「しかし君達は、一人でも世の中を渡っていけると思っている」
レッシィ
「それが気に入らないのか?」
ギャブレー
「そうだ」
「甘いな、レッシィ!」
レッシィ
「……本音を聞かせて貰ったね、ギャブレー君」
ダバ
「レッシィ」
リリス
「レッシィ、どこ?」
ダバ
「アロンの方で見付けてくれるといいが」
ハッシャ
「何でだよ? 何で捜索隊を出さねんだ?」
イレーネ
「この嵐だ! 迂闊に出られるか!」
ハッシャ
「どいつもこいつも意気地がねぇ」
イレーネ
「ほざけよ、盗賊上がりが」
ハッシャ
「俺は行くぜ」
「お前らも来い」
レッシィ
「ターナ、こちらレッシィ! ターナ、聞こえるか?」
「通じないか」
ギャブレー
「何故撃たなかった?」
レッシィ
「私だって元十三人衆の一人だ。気を失った男を撃つような真似はしない」
ギャブレー
「そんなものに拘っていると、後で竹箆返しを食う事になるぞ」
レッシィ
「君こそ、そういう口を利くと損をするよ」
ギャブレー
「恥を晒すぐらいなら、死んだ方がマシだ」
レッシィ
「君こそプライドに拘っているが、死んでいいプライドなぞはない」
ギャブレー
「男にはある。女とは違う。それが男と女の違いだ」
「……お前が? 優しいのだな」
レッシィ
「馬鹿を言うな」
「キャオ」
アロン
「レッシィさん」
レッシィ
「あんたが来てくれたの?」
アロン
「この野郎!」
レッシィ
「撃つな、アロン」
アロン
「え、ギャブレーを捕えたのか?」
レッシィ
「違う、戦士同士の仁義だ。ギャブレーには借りを作りたくない」
アロン
「仁義って……逃がすのか?」
レッシィ
「まだ決めてない」
アロン
「でも、あいつ……」
レッシィ
「エネルギー・チューブのブロック・コア34Dのスペアあるでしょ?」
「頂戴」
「有難う、上空で待機してて。直ぐ行くわ」
アロン
「本当にいいのか?」
レッシィ
「早く行って」
アロン
「分かったよ」
ギャブレー
「似ているな、ネイ・モーハンと……」
レッシィ
「何と言った?」
ギャブレー
「ポセイダル軍に培われた軍人魂は抜けていないな、ネイと同じに」
レッシィ
「私はネイのような女ではない!」
ギャブレー
「いや、あんたは戦士にだけなろうとしている」
レッシィ
「さっき優しいと言ったばかりだろ?」
ギャブレー
「いや、レッシィは、マシンに馴染み過ぎているんだよ」
レッシィ
「あんたの顔なんか、二度と見たくない」
ギャブレー
「助けるというのか?」
レッシィ
「それがあれば何とか飛べる筈だ。早く救助隊が来る事を祈るのだな」
ギャブレー
「優しさは捨てろ、レッシィ」
レッシィ
「私だって、私だって……女なんだよ!」
ダバ
「レッシィ、キャオは?」
メッシュ
「ブリッジの方へ行ったよ。何か、かなり怒っていたようだけど」
ダバ
「え?」
キャオ
「レッシィ……!」
「どったの?」
アム
「あれあれ」
キャオ
「あれ、レッシィ?」
アム
「そう」
キャオ
「おいレッシィ、ふふっ……」
アム
「ね、可笑しいでしょ?」
レッシィ
「汚いね、唾が飛ぶじゃないか」
キャオ
「あ、そうだ。笑ってる場合じゃないんだ」
「おいレッシィ、お前、ギャブレーを助けたんだってな?」
レッシィ
「アロンのお喋りが」
キャオ
「戦士同士の仁義が何とか言ったんだって?」
アム
「何かあったんじゃないの? ギャブレーと」
レッシィ
「あんたは、そういうレベルでしか考えられないの?」
アム
「ギャブレーを逃がして、それで料理を作ってる方が、もっと嫌らしいわよ」
「どういうつもりなのよ」
ダバ
「やめないか」
「アムだって、傷付いた相手を本気で撃てる筈はないだろ?」
アム
「撃てるもん」
「ダバを追い掛け回して殺そうとしてる男なら、撃てるわ」
ダバ
「俺は、追われてる事を光栄に思ってるんだ」
アム
「ダバ、本気なの?」
ダバ
「本気さ。戦争にだって約束事はあるし、レッシィはその法律に則っただけさ」
キャオ
「そうかね」
アム
「信じられないわよ」
ダバ
「ギャブレーは、味方になってくれたかもしれない人なんだ。リリスと飯の事がなければ」
「レッシィは、その事も考えていた」
レッシィ
「そう」
アム
「ふうん、凄いのね……」
「ほら、焦げてるじゃない」
リリス
「ひっくり返して、早く」
メッシュ
「あれ?」
「忙しい船だな」
「よし、作動してくれよ」
「あれ?」
ハッシャ
「砂嵐が収まってきたな」
「おい、降下するぞ」
ドモ
「ラジャー」
ハッシャ
「隊長か?」
アロン
「もう出てきたのか」
ギャブレー
「ん?」
ハッシャ
「ドモ、右だ」
「回り込めってんだよ」
「ちゃんと狙って撃てってんだよ」
ギャブレー
「ハッシャ、ハッシャ・モッシャ」
ハッシャ
「あ、頭」
ギャブレー
「相手はディザードか?」
ハッシャ
「只の雑魚です。直ぐに片付けてそっちに向かいます」
キャオ
「誰が勝手に出動しろって命令した?」
ロンペ
「だ、だから、アロンの奴が……」
マルシェ
「どうしてもギャブレーを討つって」
キャオ
「出来ると思ってんのか?」
ダバ
「キャオ、もういい。出動する」
「アム、レッシィを呼んで」
キャオ
「お前ら、後で見てろ?」
アム
「レッシィ、出動よ。格納庫へ行って」
「まだ台所なの?」
リリス
「レッシィ、行かないの?」
アム
「レッシィ、返事しなさい」
「何〜?」
ダバ
「ジョイント出来たのか」
キャオ
「へぇ、いいじゃない」
メッシュ
「システムは万全です、ダバ・マイロード」
キャオ
「大したもんだ、メッシュ」
ダバ
「お、おい、キャオ」
キャオ
「何?」
ダバ
「あれ」
キャオ
「あ、あれ、メッシュお前……」
メッシュ
「あぁ、ICユニット2・3個使わせて貰いました」
キャオ
「ダバはこれから出動するんだよ?」
メッシュ
「マーク・ツーの製作に関しては、あらゆる協力をすると言ったじゃありませんか」
キャオ
「あのね……!」
ダバ
「メッシュ、マーク・ツーは出られるのか?」
キャオ
「ダバ……」
ダバ
「メッシュ、どうなんだ?」
メッシュ
「そりゃ勿論」
「只、実戦テストはしていません」
ダバ
「俺がやる」
キャオ
「お、おい」
「やめろよ、いきなりじゃ無理だって」
「ダバ……!」
メッシュ
「フロー・ツーも、エルガイムのスパイラル・フローより扱い易い筈です」
ダバ
「ん、いい感触だ」
「接続が完全じゃないのかな」
「出るぞ!」
「行け、マーク・ツー!」
ダバ
「パワーがあるけど、機体のバランスが取りにくいな」
アロン
「ターナ、聞こえるか? 救援を頼む!」
「わっ!」
ハッシャ
「これで動く筈だ」
ギャブレー
「ターナの方も、ヘビー・メタルを出したようだな」
ハッシャ
「ドモの奴……!」
ギャブレー
「援護に出る」
ハッシャ
「はっ!」
ギャブレー
「……見るな!」
アロン
「うぅっ……!」
ドモ
「トドメだ!」
バラ
「ドモ、何か来る。凄く速い」
ドモ
「何だと?」
ダバ
「機体の振動が大き過ぎる。照準が取れない」
「足のバランサーがなっちゃいない」
「こんな時に、うっ……!」
「どこからだ?」
ギャブレー
「あれがターナのヘビー・メタルか?」
「見た事がない……いや、見た事がある!」
「速い!」
ハッシャ
「待ってたぜ」
ダバ
「ターナ、レッシィはどうした? マーク・ツーは動きが重いんだ」
ダバ
「キャオ」
キャオ
「メンテは万全の筈だぜ?」
「レッシィ、出てくれ」
レッシィ
「嫌よ」
キャオ
「ダバは初めてマーク・ツーで戦ってるんだぞ? 援護が要る」
レッシィ
「そっちの都合で私を使い分けないでよ」
アム
「レッシィ!」
レッシィ
「アム、貴方……!」
アム
「貴方だって、私の事分かってんでしょ?」
レッシィ
「何が?」
アム
「私だって自分の気持ちをどうしようもないのよ。全部が貴方のように出来れば、私だって直ぐに出て行くわ」
「でも、私は劇団の盗賊上がりよ。あんたのように正規の教育を受けないで何が出来て?」
「戦いが終わるまでは、もう我侭言わない……頼みます、レッシィ」
「ダバに、マーク・ツーに慣れさせる時間を上げて」
レッシィ
「ターナ、180度回頭」
キャオ
「よし」
アム
「レッシィ」
レッシィ
「少しでもマーク・ツーに近付く」
キャオ
「ラジャー」
ギャブレー
「不慣れなマシンで勝てると思うな」
「ターナ、いつの間に……」
「レッシィだな?」
レッシィ
「あんたの顔は二度と見たくないと言った筈だ」
ハッシャ
「そのヘビー・メタル、貰ったぜ」
ダバ
「ハッシャ・モッシャか」
「うっ、まだまだ!」
ハッシャ
「何てパワーだ!」
「ドモ、バラ、落ちるな!」
ダバ
「レッシィを援護する」
キャオ
「武器はまだ使えるか?」
ダバ
「大丈夫だ」
「あそこ?」
レッシィ
「しまった!」
ギャブレー
「僅か半日で腕が鈍ったか、レッシィ」
ダバ
「直撃ではなく……」
ギャブレー
「ええい、邪魔をするな! 私は今、レッシィに交渉していた!」
ダバ
「交渉だと? 何故だ?」
レッシィ
「私に借りを返したいのよ、ギャブレーは」
ギャブレー
「そうだ。本来なら君の射撃の前に、ディザードにトドメは刺せた」
「……が、私はレッシィから恩を受けたのだ。それを返す為に……」
「レッシィに生身の対決を交渉していた」
ダバ
「本当なのか、レッシィ?」
レッシィ
「えぇ」
「アムが言うように、プロ同士なのよ、私達」
「ダバは手を出さずに見ていられる勇気があって?」
ダバ
「あ、あぁ……あるつもりだ」
「ターナにも手は出させない」
ギャブレー
「行くぞ!」
ダバ
「レッシィ……」
ギャブレー
「ダバは、お前を見捨てたのかな?」
レッシィ
「そうじゃない。一度交わした契約は、破らないのが男なんだよ」
ギャブレー
「いつまでそんな事が言える?」
ダバ
「ギャブレー、あいつは……」
ギャブレー
「私は女は殺さない。レッシィ、君が女を超えたら、その時は勝負を着ける」
「これで貸し借りはなしだ」
レッシィ
「これで勝ったつもりか? ギャブレーの男が済んだのか?」
ギャブレー
「済んだと思っている。ダバ君だって見ている」
レッシィ
「ならいい。今度は本当に遠慮しないよ、ギャブレット・ギャブレー君」
ギャブレー
「望む所さ」
レッシィ
「……お山の坊やって、君の事なんだけどな」
「帰る事も出来ない男なぞ、何が出来る?」
ダバ
「レッシィ、気が済んだか?」
レッシィ
「えぇ、有難う、我慢してくれて」
ダバ
「いや……ギャブレーってああいう奴だって、分かってたから……それだけさ」
レッシィ
「ダバ、ごめん!」
アム
「こらレッシィ、やめないか!」
「ダバ、逃げて! 逃げんのよ!」
キャオ
「アム……さっき、レッシィに何て言った?」