第28話 ネイ・クライシス

前回のあらすじ
一つの記憶は人の中で絶えず増幅を続け、色取り取りの意味を与えて行く。
それに支配されるのが、人の悲しい性なのだろうか。
そんな想いを、マシンは一瞬足りとも忘れさせてくれる。
レッシィが戦闘中に、ギャブレーと二人だけになっちまった。
ちょっとした気分転換って訳だが、そんな暇ないんだよな。ギワザが動き出したからさ。
セムージュ
「セリア・チームのコロンボ隊はどうした?」
反乱軍
「左翼のアローンの部隊を追跡しております」
セムージュ
「引き上げだ!」
「正規軍の援軍か?」
ギャブレー
「田舎に来る程、反乱軍が多くなるとはな」
セムージュ
「このままじゃ、やられる……!」
スカラ隊
「この、調子に乗りやがって」
ギャブレー
「熱くなるな。時間を掛けて料理するんだ」
スカラ隊
「しかし、隊長」
ギャブレー
「これは奴等を呼び込む為の罠だ。奴等が現れるまでは泳がせておけ」
スカラ隊
「了解」
反乱軍
「わぁぁっ!」
ギャブレー
「お寝んねするにはまだ早いんだよ。立って貰おうか」
ギャブレー
「ターナがここを通過するというのは、確かなんだろうな?」
ハッシャ
「反乱軍は戦力を集中し始めてるんだ。間違いない」
イレーネ
「ハッシャ、お前もヘビー・メタルの用意を」
ギャブレー
「聞こえたぞ」
「やめておけ。お前達が出て来ると、力押ししか出来ん」
ハッシャ
「何故それがいけねんだ? 地方軍の援護ばかりして、やられてちゃ……」
ギャブレー
「考えてる事がある」
「当初の作戦通り行く。そうでなければ、ターナは落とせんのだ」
ハッシャ
「ターナらしいのをキャッチした。聞こえるか、頭?」
ギャブレー
「よし、それでは派手にフィニッシュと行くか」
セムージュ
「マシンの性能が違い過ぎる」
ギャブレー
「これまでだな」
「くっ、来たか」
ダバ
「レッシィはバルブド・タイプを牽制してくれ」
レッシィ
「ラジャー」
ギャブレー
「この地方を、むざむざ反乱軍の拠点にはさせんよ、ダバ君」
「この程度の攻めでは、このアシュラは落とせんよ」
ダバ
「そうかな? 戦いは性能だけじゃないんだ」
ギャブレー
「やったか」
「良くやった、ダバ……さあ来い、もっと派手にやらせてやるよ」
ダバ
「何だと? 脆過ぎる」
「どこだ?」
ギャブレー
「撃て撃て、もっと撃て!」
ダバ
「ここで一気に……!」
「貴様、寝技に持ち込もうというのか?」
ギャブレー
「派手に撃ってくれた礼に、共に爆死するか」
ダバ
「離れろ!」
ギャブレー
「仲良くするんだな、ダバ!」
ダバ
「……ギャブレーめ、よくやるよ」
レッシィ
「ダバ……ダバ、どこに居るの? 聞こえて、ダバ?」
ダバ
「ああ、大丈夫だ」
「エルガイムはちょっと問題だけどね」
ネイ
「いつまでここにいらっしゃるのです?」
ギワザ
「ポセイダルがトライデトアルに派遣した男というのが、確かに居るらしい」
「その男が分かるまでは、動きたくはないんだ」
ネイ
「私が至らぬばかりに……」
ギワザ
「いや、ポセイダルのレベルは違うよ」
正規軍
「ギワザ様、緊急通信が入りました」
ギワザ
「どこからだ?」
正規軍
「クワサン・オリビー様からです」
ギワザ
「クワサンだと?」
クワサン
「コアム師団長、ギワザ・ロワウ様でいらっしゃいますね?」
ギワザ
「そうだが、緊急通信とは何か?」
クワサン
「貴方の部下の遊撃隊の事ですの」
リョクレイ
「ヘッド・ハンターに成り損なっている奴等の事だ」
ギワザ
「ん?」
クワサン
「近頃、小さな作戦ばかりに血道を上げて、大きく事態を見ていないようです」
ギワザ
「ヤーマン族根絶やし作戦の為だけに生かされいるお前が、何を言うか」
リョクレイ
「ポセイダル様の近衛軍に昇格した」
ギワザ
「何?」
リョクレイ
「口の利き方に気を付けて貰おうか」
ギワザ
「クワサンがか?」
リョクレイ
「そうだ」
クワサン
「今の私の任務は、貴方にポセイダル様のメッセージをお届けする事です」
「お受け取りを」
ポセイダル
『ギワザ・ロワウに私の意志を伝える』
『私は、ペンタゴナに余計な力が充満するのは好まぬ』
『力が分散し、身内で鎬を削り合う事は、私の意志ではない』
『良いな?』
ギワザ
「はっ……」
クワサン
「何れ我々もファーンに回った後、トライデトアルに行きます」
「それまで命を大切に」
ネイ
「ギワザ様……」
ギワザ
「大丈夫だ。誤解は晴らしてみせる」
ネイ
「スレンダー・スカラへ向かう。ギャブレーには任せておけん」
アントン
「しかし、あいつなりに動いているようですが」
ネイ
「ギワザ様をお救いするには、トライデトアルの反乱分子を全滅させねばならん」
ダバ
「何とかなりそうか?」
キャオ
「俺は魔法使いじゃないんだよ?」
「マーク・ツーだって、やらなきゃならん事が山程あるんだ」
アム
「ダバが無事だっただけでも良しとしなきゃ」
キャオ
「こう滅茶苦茶にされたんじゃ、造り直すのと同じなのよ」
ダバ
「すまん。予備パーツの組み立ては俺がするよ」
キャオ
「当たり前でしょ」
アム
「……何よあれ」
レッシィ
「ギャブレーはどうしたろ?」
アム
「気になるの?」
レッシィ
「当たり前でしょ?」
「いい加減になさい! いけない手!」
アム
「痛いわよ」
レッシィ
「アシュラ・テンプルからは、ギャブレーの遺体は見付からなかったのよ」
「という事は、この辺りに潜伏してる可能性があるって事」
ダバ
「シートはなかったし……」
アム
「でも、爆発に巻き込まれて……」
ダバ
「都合のいい考え方は良くないよ」
「仕事だ」
キャオ
「おいアロン、部品どうしたの?」
アロン
「こいつはエルガイムので」
キャオ
「こっちが先だろ? 今、エルガイムは放っとけ」
アム
「食らえ!」
キャオ
「何すんだよ?」
アム
「新しい物好き! 少しはエルガイムが可哀想だと思わないの?」
キャオ
「今は、こいつを即戦力にする方が先なんだ」
「女にゃ、それが分からんのか」
「おい、やめろ……!」
アム
「女が何だって?」
ダバ
「アム、降ろせ」
レッシィ
「キャオの事なんか言えないわね」
アム
「放っといてよ」
「キャオは見え見えで、マーク・ツーに一辺倒じゃない」
ダバ
「キャオの判断の方が正しいんだ。任せよう」
ギャブレー
「うっ、寄るな! 悪魔の手先め!」
「下がれ、下がれ……!」
ダバ
「ギャブレー!」
ギャブレー
「ミラリーはいい! こいつ!」
「丸腰の者を撃つつもりか?」
リリス
「爆弾仕掛けたんでしょ」
ギャブレー
「誰がそんな事をする? お前達と一緒に死ぬ訳にはいかん!」
リリス
「嘘だ!」
ギャブレー
「寄るな、悪魔の手先!」
リリス
「悪魔じゃない!」
アム
「へぇ、モーレの言い伝えって根深いのね……」
ダバ
「どういうつもりだ、ギャブレー?」
ギャブレー
「つもりなんかあるもんか。道に迷ったんだ、道に」
ダバ
「道に迷った?」
ネイ
「何? ギャブレーが一人帰ってこない?」
ハッシャ
「えぇ、まあ……」
「でもね、連絡あるまでは動くなってのが命令で」
ネイ
「全く動きがキャッチ出来んのか?」
イレーネ
「いえ、ターナに接触したらしいのですが」
ネイ
「ターナに?」
イレーネ
「はい」
ネイ
「ふん、考えている事は分からんでもないが、もっと暇な時にやって欲しかった」
イレーネ
「どういう事です?」
ネイ
「知る必要はない」
イレーネ
「あ、ネイ様……」
ハッシャ
「ネイ・モーハン……」
イレーネ
「ネイ様……」
ギャブレー
「道に迷ったという台詞が嫌なら……」
「長い付き合いだ、コーヒー・タイムも乙な物だと思ってな」
キャオ
「ざけんじゃないよ」
ギャブレー
「そう怒るな」
「実はな、忘れられなくてな。砂漠でのレッシィ君の優しさが……」
キャオ、レッシィ
「え?」
レッシィ
「そんな言い訳で誤魔化せると思ってんの?」
ギャブレー
「あの時のレッシィは美しかった」
キャオ
「真面目な顔して、よくそんな事が言えるもんだね」
ギャブレー
「そりゃ恥ずかしいさ。大勢さんの前で」
レッシィ
「冗談でも、あんたからそういう言葉を聞こうとはね」
ダバ
「スレンダー・スカラには、御婦人方は居ないのか?」
ギャブレー
「居るが、朴念仁の集合体だ」
アム
「灼熱の恋って訳か」
アロン
「違いますよ! 何か企んでるんだ!」
ギャブレー
「いやにムキになるな? レッシィに気があるのか?」
アロン
「貴様……!」
ダバ
「やめろ! 下らん挑発に乗るな!」
アロン
「だけど……!」
ギャブレー
「挑発に乗る程、軽薄とは思ってなかったが?」
アロン
「野郎……!」
ロンペ
「ダバ、ハッシャの野郎から通信が入ってる」
ギャブレー
「いつまでくっついてんだ?」
アム
「ギャブレー……!」
レッシィ
「ギャブレー、無駄な事を」
ギャブレー
「そうかな? 仲間を見殺しに出来る程クールだとは思わないが」
ダバ
「目的は何だ?」
ギャブレー
「決まってるだろ? 貴様の命と、このターナだ」
キャオ
「この……!」
ギャブレー
「おっと、いいのかな?」
ダバ
「分かった、言いなりになろう、ギャブレー」
ギャブレー
「ならば、ハッシャからの連絡は予定外でね。このままブリッジに行って貰おうか」
ハッシャ
「頭!」
ギャブレー
「何だ? この忙しい時に」
ハッシャ
「ネイ殿がそっちに向かったんですよ」
ギャブレー
「ネイ殿が?」
ハッシャ
「ギワザがどうとかで、それには攻撃が一番とかで……」
ギャブレー
「俺が居るのを承知でか」
ハッシャ
「ええ、そうなんで……」
ギャブレー
「やめろ、放せこの……!」
「刺すぞ!」
ダバ
「リリス、やめろ」
アム
「やめて、この!」
ギャブレー
「うわっ!」
ハッシャ
「頭、どうしたんすか? 大丈夫すか?」
アロン
「いい気味だぜ」
キャオ
「効くんだよな、これが」
アム
「一人で図々しいんだよ」
キャオ
「来た!」
アム
「ネイ・モーハン?」
ダバ
「早いな、ネイ……!」
「ディザードで奴等の気を引く。その隙に飛び出せ」
レッシィ
「私も行くわ」
ダバ
「エルガイムが使えないのが痛いな」
「キャオ、開けてくれ」
キャオ
「ラジャー」
ダバ
「頼むぞ、ディザード」
ダバ
「これじゃ、飛び上がれない」
「レッシィ、威嚇してくれ」
レッシィ
「ラジャー」
ネイ
「雑魚には構うな。ターゲットはダバとターナだ」
ダバ
「キャオ、今の内に飛び出せ! オージェは足止めしておく!」
アントン
「ネイ様、離れてください」
ネイ
「私には構わず、ターナを潰せ」
アントン
「しかし……」
ネイ
「この程度のヘビー・メタル、オージェの敵ではない」
「早く行け」
「そんなヘビー・メタルでよくも……ダバか!」
ダバ
「味方が居るというのに」
キャオ
「ロンペ、もっと応戦しろ! このままじゃやられる!」
ロンペ
「やってるよ! 大体、ターナの砲座は動きが遅いんだ!」
アム
「やられちゃうよ」
キャオ
「レッシィは何やってんのよ」
レッシィ
「やってますでしょ?」
ギャブレー
「大丈夫なのか?」
アロン
「いいザマだぜ、仲間に見捨てられてよ」
ギャブレー
「だがな、奴とは、仲間とか甘い関係ではない」
アロン
「レッシィに気を寄せるのも分かるけどよ」
「早く歩け」
「ロンペの奴、応戦してるのか?」
ギャブレー
「ふん!」
「久し振りに決まったな」
「まだ響く……あの女、男というものを知らん!」
ギャブレー
「うわぁぁっ!」
「た、助かった……」
アロン
「すまない、ギャブレーに逃げられちまった」
キャオ
「何? ……ドジ!」
アム
「逃げたって、何で?」
キャオ
「知るかよ」
ネイ
「逃がさんぞ、ダバ」
ダバ
「エルガイムさえあれば……」
ネイ
「マシンが違うと他愛無いね!」
ダバ
「うわぁぁっ!」
ネイ
「アントン、ターナ1隻に何を手古摺っている?」
キャオ
「こんなこっちゃ、時間切れでやられちまう!」
アム
「エルガイムをさっさと直さないから」
キャオ
「ターナは任せる」
アム
「あ、キャオ」
キャオ
「メッシュだけが頼りの網だけど」
「メッシュ、マーク・ツーを出すぞ」
メッシュ
「おう、リモコン・システムは何とかした」
キャオ
「スパイラル・フローは乗っているな?」
メッシュ
「大丈夫だ」
キャオ
「よし」
「頼むぞマーク・ツー、ダバの所まで飛んでってくれよ」
アントン
「何だ、あんなブースター見た事ないぞ」
「ネイ様、そちらにブースターが1機行きます!」
ダバ
「マシンの差だっていうのか?」
ネイ
「貴様には恨みはないが、ギワザ様の為に死んで貰う!」
「トドメ!」
「む、援軍か!」
セムージュ
「フロッサー隊は右翼へ。リスタはオージェの後方へ回り込め」
「ブースター隊は上空のヘビー・メタルを蹴散らせ」
反乱軍
「ラジャー」
セムージュ
「このセムージュ・シャトの前で、ポセイダル軍の好きにはさせん」
ダバ
「反乱軍?」
キャオ
「ダバ、聞こえるか?」
ダバ
「大丈夫だ」
キャオ
「マーク・ツーをそっちへ送った。リモート・コントロールしてるから飛び移れ」
ダバ
「分かった、やってみる」
「あれか? 速過ぎる」
「キャオ、もっとスピードを落とせないか?」
キャオ
「駄目だ、これ以上落としたら標的になっちまう」
ダバ
「よし、もう一回だ」
ネイ
「あれは盗まれたマシンに似ているが……ん?」
ダバ
「よし、行くぞ!」
キャオ
「ダバ、大丈夫か?」
ダバ
「ディザードもパワー・ダウンか」
キャオ
「もう一度やるぞ」
ギャブレー
「馬鹿め、ネイとて黙って見てはいない」
「あれに飛び乗ろうなど、無理な話だ」
ダバ
「今だ!」
「ネイか」
「キャオ、上昇だ」
ネイ
「そうはさせん!」
ダバ
「いつまでもやられちゃいないんだよ!」
「ネイ・モーハン、マシンの差があるって事、分からせてやる」
ギャブレー
「乗ったのか?」
ダバ
「行くぞ、ネイ!」
「何?」
「うわぁぁっ!」
「よし、行くぞ!」
ネイ
「何、変わった?」
キャオ
「やったぜ!」
アム
「頼もしいお姿」
レッシィ
「どうやら、形勢逆転ってとこね」
ダバ
「大人しく下がるか、この一発を受けるか、どうするネイさん?」
ネイ
「元より命は捨てる覚悟だ。そんなもので下がれるか!」
ダバ
「撃つぞ!」
ギャブレー
「不味い、やられるぞ」
ネイ
「何?」
「うわぁぁっ!」
アントン
「ネイ様!」
ギャブレー
「バスター砲に突っ込んで行くとは、愚かな」
ネイ
「あのランチャーの前には、無力だというのか」
ギャブレー
「勝負あった。お下がりなさい、ネイ殿」
ネイ
「下がれぬ、ギワザ様の為に……!」
ギャブレー
「無駄に命を捨てるは犬死というもの……ここで死んでもギワザ様の為にはなりません」
ネイ
「た、確かに、今は無理に動いても何にもならん」
「この借り、必ず返すぞ、ダバ・マイロード」
ダバ
「ネイ・モーハン、何が残ったんだ?」
ギャブレー
「マーク・ツー、ダバをやるのは私だ」
セムージュ
「ダバ・マイロード、噂通りの男だが、先程は礼も言わずに失礼しました」
「私は、セムージュ・シャト。これからは同じ志を持つ仲間として、行動を共にしたい」
キャオ
「ちょっとちょっと、困るよそんなの」
「幾らターナでも、こんなに収容出来ないよ?」
セムージュ
「いや、ターナに乗るのは数名で構わん。後の人員とメカは独自に行動を取る」
「それがいつもの我々のやり方だ」
ダバ
「分かりました。反乱軍組織としての活躍に敬意を評します、セムージュ・シャトさん」
セムージュ
「いや、こちらこそ宜しく」
「ターナはいい戦艦に仕立てられそうです」