第29話 クロス・ポイント

前回のあらすじ
一つの記憶は人の中で絶えず増幅を続け、色取り取りの意味を与えて行く。
それに支配されるのが、人の悲しい性なのだろうか。
そんな想いをマシンは一瞬足りとも忘れさせてくれる。
正規軍
「Lポイント第五エリアには反乱軍の動きはない」
「これより第六へ回る」
 〃
「見えないな」
「もう時間だ。引き上げて、コーヒー・タイムにするか」
 〃
「ラジャー」
セムージュ
「ダバ君、どうだ?」
ダバ
「今、レーダーからは消えたようです」
セムージュ
「ご苦労様。降りてきてくれないか」
ダバ
「はい」
「ご老人、本当に良い隠れ場所を教えて頂いて……」
老人
「いや……ポセイダルは、税金は高いわ、若い奴を村から引っ張って行くわで、いい事はないんだ」
「協力するのが当たり前さね」
セムージュ
「ダバ君、トライデトアルではこのような方々が増えているんだよ」
「君の反ポセイダルの行動に勇気付けられている」
ダバ
「そんな……」
老人
「いや、本当に立派じゃ」
「あんたが一人ガストガルに乗り込んだ武勇伝は、ここまで聞こえてますじゃ」
ダバ
「有難う御座います」
老人
「貴方には、かつて星々に居た貴族達の、気品と力強さを感じる」
ダバ
「俺はそんなんじゃ……」
老人
「はは、頼りにしておる」
ダバ
「はい」
キャオ
「ん、何とこの……」
アム
「お先」
「あん、もう」
キャオ
「お先」
「誰だ、もうこの……!」
アム
「や〜い」
キャオ
「やめろ」
アム
「あん、もう」
キャオ
「どうしたの、隠しても同じじゃない?」
レッシィ
「あんた達、何やってんの?」
アロン
「ん?」
レッシィ
「メッシュは一人で整備やってて、あんた達は水浴び? 正規軍を舐め過ぎちゃいけないでしょ?」
アム
「たまには一息入れる必要あるのよ」
「入ったら? さっぱりするわよ」
レッシィ
「さっきのバッシュを見たでしょ? 末端の部隊だって戦力は……」
ロンペ
「でも、見付からなかったけど?」
キャオ
「苛々取るには、パッと着てるもの脱いでさ」
「いい加減に、ヒスをやめたら?」
レッシィ
「A級ヘビー・メタルが出てくるって事が、どういう意味持ってるか分かんないんだから」
「セムージュ……」
「変ね」
セムージュ
「流石、いい銃を送ってくれる」
「伝言は?」
老人
「いえ」
反乱軍
「フロッサーを持ってきます」
セムージュ
「流石アマンダラさんだ」
レッシィ
「アマンダラ……」
レッシィ
「良くて?」
ダバ
「ああ、どうぞ」
レッシィ
「……知っていた?」
ダバ
「何を?」
レッシィ
「セムージュがアマンダラから、武器の調達受けていたの」
ダバ
「証拠を掴んだのか?」
レッシィ
「確実な証拠ではないけど」
ダバ
「有り得る事さ」
レッシィ
「どうしたの、ダバ?」
ダバ
「何が?」
レッシィ
「元気ないから」
ダバ
「いつの間にか、祭り上げられようとして、困っているのさ」
レッシィ
「何言ってるの」
「本音は、ヤーマン族の再興を賭けてるんでしょ?」
「それを気取られないように、必死で馬鹿をやってきた癖に」
ダバ
「そうだろうか」
ギャブレー
「居ない訳がない」
「出動準備も急がせろ」
ドモ
「ヤケに荒れてるな」
バラ
「最近は戦果がないもんな」
ギャブレー
「全く……碌な部下も居ないのか、この船には」
「ん? 何だ?」
パメラ
「パメラです。作戦参謀、お話が御座います。私の室まで御足労願えませんか?」
ギャブレー
「上官に来いというのか?」
パメラ
「申し訳御座いません」
ギャブレー
「どうした、パメラ?」
パメラ
「我侭を申して申し訳ありません」
「どうぞ、いいお水が手に入りましたので」
ギャブレー
「うむ」
「誠に結構だ。御呼ばれした甲斐があった」
パメラ
「ま、有難う御座います」
ギャブレー
「何の冗談だ?」
パメラ
「冗談なんて……男性を私の部屋にお招き致しましたのに」
ギャブレー
「ん、こそばゆい」
パメラ
「チョロい……」
ギャブレー
「誰に頼まれた、こやつ……?」
「用がなければ、私はこれで帰らせて貰おう」
「ん、中々のファッシネイト……い、いかん」
「パメラ、余り上官を馬鹿にするものではない。この処分は……」
パメラ
「そんな……私は、ギャブ様の事をお慕いしておりました」
ギャブレー
「ギャ、ギャブ様……お慕い……?」
「たまには寛ぐのもいいか」
パメラ
「はい」
セムージュ
「どうだろう、ダバ君?」
ダバ
「移動の方法が問題ですがね」
メッシュ
「A級ヘビー・メタルで偵察をしているという事は、油断出来ませんよ」
セムージュ
「奴らは何を、しゃかりきになっているのだ。本当の目的はどうも分からん」
ダバ
「ええ、俺達のマーク・ツーか、それとも……」
アム
「何よ」
「あんね、新参者に何でそんな事が言えるのよ」
キャオ
「お前に小パイが出来るってのか?」
反乱軍
「俺だって、元は民間貨物船のナビゲーターだったんだ。ターナの小パイぐらい……」
アム
「出来るっていうの?」
反乱軍
「あんたよりは自信があるね」
レッシィ
「いい加減に……」
リリス
「あ、あれお酒よ。レッシィお酒飲んでた」
ダバ
「え?」
キャオ
「生意気言って……!」
レッシィ
「やめなさい! いつまでそんな事やってるのよ!」
アム
「ターナの事分かってない癖に、小パイやらせろっていうのよ、この人?」
レッシィ
「寄せ集めの男達にちょっと言われたからって、騒がないの」
反乱軍
「何が寄せ集めだって?」
 〃
「言ってくれるね。あんた、どれ程のもんだっての?」
レッシィ
「民間人がナマ言うんじゃないよ。大した事も出来ない癖して」
アム
「あんた酔ってんの? 十三人衆の地を出して……」
反乱軍
「十三人衆?」
 〃
「あ、あの女が……?」
 〃
「十三人衆だってのか?」
 〃
「とんでもないのが居たな」
アム
「ほれ、みんな不安がってる」
キャオ
「だから水浴びして、苛々解消しておけって言ったでしょ」
レッシィ
「私はヒスじゃないよ」
キャオ
「臭……物凄くクサッ!」
レッシィ
「あんた達もね、私の事、十三人衆だったって馬鹿にするんだったらね」
ダバ
「レッシィ、やめろ。みんなを挑発する気か?」
レッシィ
「あんたがもっとリーダーらしくしたら、みんながもっとシャンとしたのよ」
アム
「ダバに何言うのよ、あんた?」
レッシィ
「やったね」
アム
「それがどうした」
レッシィ
「これで終わり? こんなんで私が居なくなったらどうすんの? ダバを支えられるの?」
アム
「え?」
レッシィ
「ふっ、喧嘩も満足に私に勝てないの?」
ダバ
「やめないか、二人共」
アム
「ダバ」
ダバ
「酔いを覚ますんだ、レッシィ」
「どうしたレッシィ、君らしくないぞ」
レッシィ
「ダバ……寄らないで」
「もう子供の喧嘩みたいな戦争ごっこに付き合ってらんないのよ」
「こんな事じゃステラと同じよ。それでもいいっていうの?」
ダバ
「レッシィ……」
レッシィ
「私達の戦いが成功した事があって? いつも逃げる事しか出来ないじゃない」
アム
「戦力の違いよ。それにしてはよくやってきたわ」
キャオ
「出て行きたかったら、出て行ったっていいんだぜ?」
レッシィ
「ふん、出て行くわ」
キャオ
「お前なんか居なくなったって、ちゃんとやっていけら!」
アム
「この軍人上がり!」
ダバ
「レッシィ、どうしたんだ……?」
ネイ
「こちらネイ・モーハン、乗船許可願います」
正規軍
「識別ナンバー確認、ハッチより展望室へ」
ネイ
「了解」
ギワザ
「待たせたな、ネイ」
「報告書は読ませてもらった。確かにギャブレーの行動には問題がある」
ネイ
「少々自己の力を過信しているようです」
ギワザ
「奴に遊撃隊として戦力を与え過ぎたかもしれんな」
ネイ
「はい」
「しかし宜しいので御座いますか? ギワザ司令自ら、トライデトアルまでいらっしゃって」
ギワザ
「分からんのだよ、ポセイダル様の考えが……メッセージ、お前も聞いたであろう?」
ネイ
「はい」
ギワザ
「ポセイダル様のやり方は私が一番よく知っているつもりだ。何かが変わり始めている」
「私も、十三人衆としての地位は守っておきたい」
「その為には具体的な戦果を挙げておきたい。場合によっては……」
ネイ
「トライデトアルを占拠する……」
ギワザ
「ネイ、そのような事を考えただけで、貴様を私は抹殺するぞ!」
ネイ
「じょ、冗談です。申し訳ありません」
ギワザ
「微かな心も、いつか反ポセイダルに繋がる……」
「それを監視するのが我々十三人衆だ」
ネイ
「はっ!」
ギワザ
「……艦などというもの、盗聴器があるか知れんのだ」
ネイ
「は、はい、ギワザ様……」
ギワザ
「……何か?」
正規軍
「ダバ・マイロードとその一味を、Kポイントで発見しました」
ギワザ
「正確なデータをネイの艦へ送れ」
正規軍
「はっ!」
ギワザ
「ネイ、ギャブレーの方は?」
ネイ
「パメラを使って足止めをしております」
ギワザ
「よし。では、反乱分子の掃討へ」
ネイ
「はっ!」
ギワザ
「ふふっ、トライデトアルを占拠か……」
反乱軍
「メイン・エンジンから、油が流れてるぞ」
 〃
「脱出命令が出たのに、油の流出は止まらんのか?」
キャオ
「接続部分がひん曲がってるんだよ」
反乱軍
「何とか……わっ!」
アム
「本当に出て行く気?」
レッシィ
「出て行けって言ったのは、そっちでしょ?」
アム
「何を企んでんの? 私は出て行きませんからね」
レッシィ
「そんな事もあったっけ。今度は本気よ、安心なさい」
アム
「嘘! 貴方がそう簡単にダバから離れるとは思えないわ」
レッシィ
「私はいつまでも、アムみたいに乙女チックではないわ」
アム
「何それ?」
レッシィ
「優柔不断のダバに、怖い思いをしてまで気を寄せる気はないのよ」
アム
「怖くなったなんて、信じると思うの?」
レッシィ
「負けると分かっている戦いはしたくないの」
アム
「今更そんな事が理由になる訳ないでしょ?」
「軍を抜けた時から、そんな事、分かっている事でしょ?」
レッシィ
「今のままじゃ、ポセイダルには勝てやしない事、アムだって分かってるでしょ?」
「私は死にたくないの。分かって?」
「ダバに怪我させないのよ」
ダバ
「本気か?」
レッシィ
「冗談は出来ない質なの」
「ダバ……」
ダバ
「俺だって少しは本気になってる」
レッシィ
「分かってるわ。だから出て行くのよ」
ダバ
「レッシィ……」
レッシィ
「そんな時にあんな子と一緒じゃ、命がもたないでしょ?」
アム
「悪かったわね」
「……敵?」
セムージュ
「数は?」
反乱軍
「ヘビー・メタル隊のようです」
セムージュ
「近くか?」
反乱軍
「確認しています。北北西第三エリアです」
セムージュ
「間はあるな」
「全員、戦闘態勢!」
反乱軍
「出撃だ、急げ! 出撃!」
ダバ
「ビュイ、セットOK、センサー360度全開」
メッシュ
「ダバ! バスター・ランチャーはセットが終わっていない!」
ダバ
「出るぞ!」
セムージュ
「ダバ君、裏には入れたくない。ターナが出るまで何とか時間を稼いでくれ」
ダバ
「了解。各機、敵を分散させる」
「ん?」
ネイ
「全機散開して、脱出路を塞げ」
正規軍
「了解」
ダバ
「空中での機動力は、こっちが上だ!」
ネイ
「速い!」
ダバ
「ネイめ、うわっ!」
「来た!」
「何と!」
「もってくれよ……来た!」
ネイ
「ぬぅっ、逃がさん!」
ダバ
「わぁぁっ!」
ネイ
「ギワザ様の為に、死んで貰う!」
ダバ
「何?」
ネイ
「誰が?」
セムージュ
「使わせて貰ってる、ダバ君」
ダバ
「助かる、セムージュ」
「なら!」
ネイ
「A級2機は辛いか。ならば」
ダバ
「か、数が……!」
セムージュ
「しまった!」
ネイ
「ダバ・マイロード君」
ダバ
「動かない……」
ネイ
「ギワザ様の為に、落とす!」
「何だ?」
ダバ
「レッシィ!」
アム
「ダバ、動かないで」
ダバ
「え?」
ネイ
「まだ新手が?」
アム
「オージェよ。オージェだけでいい、狙うのよ」
ロンペ
「イェッサー!」
ネイ
「この腕では下がるしかないのか」
「ヘッケラー、カモフラージュを掛ける! バスター・ランチャー、レベル6!」
ヘッケラー
「ラジャー!」
アム
「撃ち方やめ! 相打ちを避けるんだ!」
ロンペ
「はっ!」
ダバ
「下がったようだな」
「レッシィ、有難う。君は僕達にとって必要な……」
「レッシィ」
「行ってしまったのか、本当に……」
「サヨナラは言わないでおく」
ギャブレー
「ネイ殿、何故一言声を掛けて頂けなかったのですか?」
ネイ
「お前はパトロールを望んでいたのだろ? 女と遊んでいたという噂も聞いたが?」
ギャブレー
「私が? ……告げ口ですか?」
「ん?」
「ネイ殿の残した後始末ぐらい、させて頂きましょう」
ネイ
「好きにしろ」
ギャブレー
「はっ!」
「ハイラル、フロイド、燻り出すぞ」
レッシィ
「ネイの部隊とは離れたか。ここまで来れば、後は何とか……」
「何とか……」
「どうすればいいの、ねぇ、ダバ……」
「はっ、ぁっ……!」
「ここではダーゲットになるだけ」
「抜けた……あっ!」
ギャブレー
「逃がさんよ!」
レッシィ
「うぅっ……!」
ギャブレー
「赤いディザード、ガウ・ハ・レッシィか……捕虜という手もある」
「うっ……!」
「何?」
レッシィ
「ホエール?」
ギャブレー
「ど、どこから沸いたんだ? この船は……!」
「引き上げる! ギラッピィ!」
レッシィ
「助かった……」
レッシィ
「貴方に聞きたい事があります、アマンダラ・カマンダラ」
エイマン
「助けられた礼を言うのが先だろ?」
レッシィ
「貴方は何故、反乱軍に手を貸すのです? ステラといいセムージュといい」
エイマン
「下がりなさい」
アマンダラ
「……まるで家出同然の荷物としか思えんが? ターナから来たのはダバ君の指示かね?」
レッシィ
「何故そう考えるのです? 私にも意思があります」
アマンダラ
「ほう」
レッシィ
「あの船では、ポセイダル軍とはまともに戦えません」
アマンダラ
「いい判断だな」
「しかし、トライデトアルの反乱軍は、ターナを旗艦に従っている」
レッシィ
「はい」
アマンダラ
「それで君は、これからの当てはあるのかね?」
レッシィ
「いえ、正規軍に潜り込んで、船の一隻も手に入れようかと」
アマンダラ
「ふふっ、流石、十三人衆らしい。気に入ったよ、ガウ・ハ・レッシィ」
レッシィ
「お世辞でも有難う御座います」
アマンダラ
「いや、お世辞ではない」
セムージュ
「目的地はスギサン・バレー」
アロン
「こちらに向かってくるものが」
キャオ
「何?」
「ディザード……レッシィのだ」
「アロン、降りろ」
キャオ
「何もない。こっちに来るように、オート・プログラミングしてあっただけだ」
アム
「大切なディザードをこんなにして、何のつもり、レッシィは?」
キャオ
「がっかりするなよ、ダバ。レッシィの代わりにセムージュ達味方が増えたんだ」
ダバ
「甘いよ、キャオ」
キャオ
「え?」
ダバ
「そういうピラピラ変わる気分が、レッシィには嫌われたんだよ」
キャオ
「そ、そうかな……」
アム
「何でさ」
ダバ
「戦いは、正念場に入ってるからね」
アム
「そんな事……分かってるわよ」