第30話 アワー・マスター

前回のあらすじ
一つの記憶は人の中で絶えず増幅を続け、色取り取りの意味を与えて行く。
それに支配されるのが、人の悲しい性なのだろうか。
そんな想いをマシンは一瞬足りとも忘れさせてくれる。
反乱軍
「ダバって奴、本当に一人でスヴェートに突っ込んだのか?」
 〃
「ああ、ポセイダルの像が破壊された写真は見た事ある」
 〃
「ポセイダルが怖いなんてのは、奴等の宣伝だったのさ」
アム
「ダバとセムージュは?」
キャオ
「何の用だよ」
アム
「何で余所者の兵隊が、ターナの食料持ってくのよ?」
キャオ
「またか……下手すりゃその内、この船、乗っ取られちまうぜ」
アム
「セムージュの監督不行届なのよ」
「ちょっと、何やってんの? 煩わしい」
キャオ
「もっとシャキッとしてくんないと、新参兵に示しが付かないぜ」
アム
「そうよ。それでなくても、私達の持ち場を狙ってんだから」
アロン
「自分達の事だけを考えてりゃいいんだよ」
アム
「どうしたの、アロン・ジェムラ?」
アロン
「何ともないのか? レッシィさんが出て行っちまったというのに」
アム
「あれ〜、惚れてたの?」
アロン
「そういう訳じゃ……」
キャオ
「レッシィの分は、お前が穴埋めすんの」
アロン
「あんた達は、そんなに冷たい人間だったのか?」
キャオ
「う、何ぃ?」
「あれ?」
反乱軍
「見ろ、反乱軍にはあんな戦艦もあるぞ」
 〃
「わ、凄い……これなら正規軍じゃないか」
セムージュ
「ニコマコス、元気か?」
ニコマコス
「セムージュ、遅れて済まなかった」
セムージュ
「いや、来てくれて嬉しいよ」
ニコマコス
「噂のダバ君は?」
セムージュ
「すぐに引き合わせる。取り敢えずは休んでくれ」
ニコマコス
「すまん、飯がまだなんだ」
セムージュ
「食堂は、左のプレハブだ」
ニコマコス
「分かった」
セムージュ
「いい男が来た」
ダバ
「また、お仲間ですか?」
セムージュ
「この勢いなら、ギワザの艦隊を受けて立てるだけの布陣は直ぐに出来る」
ダバ
「まだ船が足りません」
リリス
「そう、足りない」
セムージュ
「ははっ、今の男は、戦艦を近くのクレーターに隠して、ここに来てくれたのですよ」
ダバ
「ほう、よくも……」
セムージュ
「大型トランス・ポーターの改造艦ですがね、使えます」
ダバ
「しかし……」
セムージュ
「ペンタゴナに轟かせ始めた君の名を使えば、仲間は集まってきます」
ダバ
「僕が親の仇討ちのつもりで動いていてもですか?」
セムージュ
「その事が、結果的にペンタゴナを救うのならば、構わんよ」
ダバ
「それではいつか若い兵士は、僕らの元を離れていきます」
セムージュ
「それが分かってるんならば大丈夫だ」
ダバ
「それでは、仲間に対しての裏切りになりませんか?」
セムージュ
「君の良心の問題ではあるが、体制には関係がない。それは私が取り繕う」
ダバ
「でもセムージュさん、それでは誤魔化しでしょう」
セムージュ
「今の君は反乱軍の象徴だ。我侭はやめたまえ」
ダバ
「象徴……?」
リリス
「あの人、ダバを利用するだけのつもりだよ」
アム
「ダバ」
「アロンはヒスだし、食料だって……」
ダバ
「レッシィが、何を言おうとしていたか分かった」
アム
「え?」
ダバ
「俺自身がもっとハッキリと決断をしないと、危険なんだ」
正規軍
「サージェ・オーパスよりポッド接近」
ネイ
「ネイ・モーハン参りました」
ギワザ
「入れ」
ネイ
「申し訳御座いません、作戦を十分にこなす事が出来ず……」
ギワザ
「お前の顔が見たくなったのだ。楽にしろ」
ネイ
「申し開きしようが御座いません」
ギワザ
「ネイ」
「艦内の盗聴システムを調べさせた今、それをやれば、ポセイダルに益々疑われる」
「ここは私自ら、トライデトアル攻撃の指揮をするように見せ掛ける」
「……ネイ、愛しているのだ」
ネイ
「ギワザ様、私は何を……?」
ギワザ
「お前の情熱のままに私を愛してくれ」
ネイ
「私は焦ってみえるか?」
アントン
「はっ……?」
ネイ
「いや、いい」
パメラ
「ギャブレット様」
ギャブレー
「何だ?」
パメラ
「反逆者ガウ・ハ・レッシィが、ダバのグループを追い出されたようです」
ギャブレー
「本当か?」
「追い払われた……あのレッシィが……」
レッシィ
『ギャブレット様、お会いしたい……』
ギャブレー
「ふふっ……」
パメラ
「ギャブ様?」
ギャブレー
「もし事実なら、味方に加えたいな……元は十三人衆、戦力になる」
パメラ
「はい」
イレーネ
「ギワザ様からだと?」
スカラ隊
「はい、旗艦からの直接出動要請です」
イレーネ
「どこへ行ったのだ、あの大将は……」
「ギワザ様には、直ぐに参上すると伝えろ」
スカラ隊
「はい」
ギャブレー
「船は整備中だ」
イレーネ
「作戦参謀……」
ギャブレー
「船の整備が終わり次第、駆け付けると伝えろ」
イレーネ
「はっ、しかし……」
ギャブレー
「動けんでは、作戦は出来ん」
アム
「何〜?」
キャオ
「何だと、この……!」
ダバ
「やめろ」
キャオ
「だって……!」
反乱軍
「これだけ居るんだ!」
 〃
「こっちから仕掛けりゃ、必ず勝つって!」
キャオ
「無理だって!」
ダバ
「キャオ!」
キャオ
「まだ、それ程の実力はないって言ってるだろうが」
反乱軍
「くっ、こいつ……!」
セムージュ
「キャオ君、セイバーはいかん!」
キャオ
「なら、ダバの言う通り……!」
セムージュ
「仲間同士で争っている場合か」
「お前達もだ。作戦の議論を種にして、喧嘩などしておったら……」
「これは……!」
「ダバ君、このセイバー、どこで手に入れたのかね?」
ダバ
「父から譲り受けたものです」
セムージュ
「ヤーマンの……」
「話は終わりだ、行くぞ!」
反乱軍
「見掛け倒しだぜ」
アム
「何よ!」
キャオ
「セムージュめ!」
リリス
「ダバ、悔しくないの?」
ダバ
「キャオ、アム、何で悔しがる?」
アム
「え?」
キャオ
「だってよ」
ダバ
「ステラさんも焦って死んだ。その為にもっと多くの人達が死んで行った」
「悔しかったと思うよ。何の為に生まれてきたか分からないじゃないか」
「ああいう戦い方だけはやめようよ、な?」
アム
「そりゃ……」
キャオ
「みんな、志半ばで死んじまったもんな」
ダバ
「それを二度と繰り返さない為には、慎重にもなるさ」
リリス
「ダバ……」
ダバ
「動く時は、必勝でなきゃならないんだ」
パメラ
「ギャブレット様」
「またネイ・モーハン様から、出撃せよとの命令です」
ギャブレー
「またか……」
「ん?」
ネイ
「ギャブレー、協力を拒む理由は何だ?」
ギャブレー
「拒むなど、とんでもない……私は万全の態勢で出動したいだけです」
ネイ
「ふん、賢しいな……その顔、ノイズが酷くとも分かっているよ、私にはな」
ギャブレー
「ネイ殿」
「俺の全てを見抜いてるつもりで……」
パメラ
「今、クワサン・オリビー様が、十三人衆の切り崩しに動いてるとの噂があります」
ギャブレー
「クワサン・オリビー?」
パメラ
「はい。それでギワザ様は、反乱分子掃討を急いでおられるのです」
ギャブレー
「ギワザ様御自身がか?」
パメラ
「はい」
ギャブレー
「妙だな……たかが小隊長の分際で、私より情報に詳しいとはな」
パメラ
「はっ……!」
ギャブレー
「そういう事だ。お前、ネイ殿のスパイだ」
パメラ
「ち、違います。今は、今は心から、ギャブレット様を……」
ギャブレー
「この所、やけに女にモテるようになったな」
「女難の相でも出ているのかな?」
パメラ
「あっ、ギャブレット様……!」
「あぁ、ギャブ様……!」
ギャブレー
「待っていろよレッシィ、愛しのギャブレット様が、必ず捜し出してやるぞ」
「いざ行かん、レッシィの元へ!」
ダバ
「セムージュさん達は?」
キャオ
「あいつら、出撃する気だぜ」
ダバ
「そんな……」
「ちょっとごめん」
セムージュ
「盛り上がった士気を下がらしては、集まってくれた同志に申し訳が立たん」
「敵が来る前にこちらから迎えに行く」
ダバ
「セムージュさん、焦りは禁物です。戻ってください」
セムージュ
「考えてばかりでは何も出来んのだ。ポセイダルに勝つには、まず行動しかない」
セムージュ
「出撃だ!」
「敵の姿を見付け出したら、隙を与えず攻撃だ」
「混乱を利用すれば、量の不利はカバー出来る」
反乱軍
「了解、量の不利は頭でカバーしましょう」
 〃
「ダバ・マイロードが支援してくれれば、付録ってね」
セムージュ
「一致団結すれば、必ず……」
ダバ
「何て事を……ターナをクロソにするつもりか?」
「今までの敵の動きを、全てチェックしろ」
「聞こえないのか? キャオ、敵の動きを再分析するんだ!」
キャオ
「やってるよ。返事をしないからって怒鳴るな」
アム
「リリス……」
ダバ
「敵の動きは今までとは違う。リトル・セイの二の舞だけはしたくない」
「ロンペ、ターナのエンジン始動だ」
ロンペ
「はい!」
ダバ
「ちょっと自信を付けるとこれだ。セムージュめ……」
ネイ
「先鋒隊は雲の下へ」
正規軍
「はっ、出ます!」
ニコマコス
「敵だ! 二機か……いや、三機か?」
セムージュ
「焦るな! 目標を見定めて動け! 数ぐらい読めないのか?」
ニコマコス
「あ、四機だ! たったの四機!」
ロンペ
「先鋒隊が敵と接触したぞ」
アム
「エンジン臨界」
ロンペ
「よし」
ダバ
「可笑しい……あの位置に主力は居ない筈だな」
キャオ
「ああ、ギャブレーだってこうは動かない」
ダバ
「そうか」
「間違いなく囮部隊だ。主力部隊を探せ」
キャオ
「ラジャー」
ダバ
「セムージュ隊、聞こえるか?」
アム
「ターナ、出ます」
ダバ
「囮に惑わされるな、どこかに主力が潜んでるぞ」
反乱軍
「ダバは、俺達の動きが、敵に読まれているとでもいうのか?」
ニコマコス
「構うな、我々はセムージュさんに従えばいい」
ダバ
「主力が見えるまで、迂闊に動くなよ」
アム、ロンペ
「ラジャー」
アム
「各戦隊へ、ダバに従って。旗艦はターナがやります」
反乱軍
「ダバに従えだって? 出遅れた船が何を言う?」
「臆病者と一緒に穴の中にすっこんでろっていうのか?」
「ヘビー・メタルが良ければ、誰にだってダバは出来るぜ!」
アム
「聞きなさい、この……!」
リリス
「無理よ、向こうで切っちゃったのよ?」
アム
「何故よ、もう!」
リリス
「アム……」
アム
「ダバは組織の事を考えてるのよ。でも、レッシィは違うわ」
リリス
「アム……」
アム
「私一人ぐらい、ダバとコンビを組んでダバを守ってみせる」
「ロンペ、後は任せたわよ」
ロンペ
「キャオ、アロン、マルシェ、ターナ総力戦だ」
キャオ
「分かってる」
ダバ
「スタンバイOKだ、キャオ」
キャオ
「了解」
アム
「エルガイム、アム出ます。ゲート開けて」
キャオ
「『アム出ます』ってお前、ディザードじゃないんだろ?」
アム
「頑張る。エルガイムで出るわ」
キャオ
「頑張る? あのな……」
「ま、どうせお前も止めたって聞きゃしないんだろ」
「いいか? ダバの足手纏いにはならないようにな?」
アム
「そんなつもりで出るんじゃないもん」
「行くよ」
リリス
「行け!」
アム
「気持ちいいわね、こういうの」
リリス
「顔が引き攣ってるよ、アム」
ダバ
「アムなのか?」
「エルガイムのパワー係数は高いぞ、出来るか?」
アム
「承知してるわ。レッシィぐらいには使って……見えた!」
セムージュ
「次はどこだ?」
ダバ
「セムージュさん」
セムージュ
「ダバ君、来たのか」
ダバ
「戦力を纏めて」
キャオ
「敵襲か?」
ネイ
「これで役者は揃った訳だな」
キャオ
「各砲座開け、後ろ、気を付けろよ!」
セムージュ
「後ろからか。船をUターンさせろ!」
ニコマコス
「後方を取られた!」
セムージュ
「ダバはこの事を読んでいた」
アム
「エルガイム、出ます」
ダバ
「アムはセムージュさん達の援護を。オージェはマーク・ツーでやる」
アム
「ラジャー」
ネイ
「所詮は改造ヘビー・メタル!」
ダバ
「こちらの練度も上がっている!」
セムージュ
「俺が目先の敵に惑わされるとは……いい仲間が来た事で自信を持ったのが……」
アントン
「パイロットが素人になったな」
アム
「冗談言わないでよ!」
アントン
「このコピーが!」
「こいつら……!」
セムージュ
「し、しまった……!」
アム
「セムージュさん!」
ダバ
「セムージュさん!」
セムージュ
「ダ、ダバ君……!」
ダバ
「ステラ同志のようには、なって欲しくないんです」
ネイ
「ダバ、お前のその甘さが、命取りになる!」
ダバ
「しかし、お前には俺は倒せない!」
セムージュ
「ダバ・マイロードか……あの紋章はやはり……」
「カモン家の幼い王子が、ポセイダルの手を逃れて生き延びているという噂を聞いた事がある……」
「彼がもしそうだとしたら、私は大変なリーダーを迎える事になる」
「あの方が仰っていた通りに……」
反乱軍
「セムージュさん、大丈夫ですか?」
「我々は、彼を誤解していたようですね」
セムージュ
「うむ、彼はいいリーダーになってくれる」
反乱軍
「は、はい!」
セムージュ
「行くぞ!」
ヘッケラー
「バスターを寄越せ」
「ヴィトン、一発で仕留める」
ロンペ
「バッシュが長い奴持ち出した!」
キャオ
「ロンペ、主砲急げ! 奴が撃つ前に仕留めろ!」
ロンペ
「アイッサー!」
マルシェ
「わっ、もう駄目だ!」
キャオ
「掠めただけ!」
ダバ
「いつものネイじゃない! このしつこさは!」
ネイ
「何としてもお前を倒さねばならん! ギワザ様の為に! ギワザ様の……!」
「何だと?」
ダバ
「突っ込むだけで勝てはしない!」
ネイ
「ええい、まだまだ!」
セムージュ
「ダバ君、済まなかった! 我々は君に従うぞ!」
反乱軍
「ダバさん」
ニコマコス
「今までの無礼、許してくれ」
ダバ
「有難う、皆さん」
ネイ
「雑兵共が……!」
「エネルギー漏れか? シールドのパワーが上がらん!」
アントン
「ネイ様!」
アム
「来る……えっ?」
アントン
「ネイ様、無理です! オージェの損傷が!」
ネイ
「ここで引き下がっては、ギワザ様に……!」
アントン
「焦りは禁物です! ネイ様御一人の命ではありません!」
ネイ
「ギ、ギワザ様……!」
ニコマコス
「逃がすものか!」
ダバ
「深追いはするな」
「ネイとて主力ではない。何より、今日の攻撃は可笑しい」
「引け!」
ネイ
「私は、ギワザ様に合わせる顔がない……」
ギャブレー
「ネイ殿、援軍に参りました」
ネイ
「ギャブレー! 貴様、よくも今頃抜け抜けと……!」
ギャブレー
「整備に事の外手間取りまして……」
ネイ
「覚えておくがいい、その減らず口」
「今に聞けなくしてやる!」
イレーネ
「ネイ様を本気で怒らせてしまいましたね、ギャブレー参謀! 私達は……!」
ギャブレー
「心配するな。お前達の面倒は、私が責任を持って見てやる」
イレーネ
「オー・マイ・ゴッド」
スカラ隊
「私達、不幸よ……」
ギャブレー
「くっ、あいつら……!」
「私にだって野心があるのだ。信じてくれ……!」
パメラ
「ギャブレット様、私は信じます」
キャオ
「行けよ、ダバ」
アム
「そうよ。率先してリーダーにならなきゃ、また繰り返しよ?」
ダバ
「それは分かってるんだけど……」
アム
「胸張って行きなさい」
リリス
「そうそう」
セムージュ
「ダバ君……」
ダバ
「やらなくちゃいけない時は来てると知ってはいるが、レッシィ……」
「打倒、ポセイダル!」