第31話 キャッチ・ウォー

前回のあらすじ
一つの記憶は人の中で絶えず増幅を続け、色取り取りの意味を与えていく。
それに支配されるのが人の悲しい性なのだろうか。
そんな想いを、マシンは一瞬足りとも忘れさせてくれる。
ダバも遂に、反乱軍の一つを率いる立場になった。
その瞬間からダバは、その反乱軍の人々の命を支配する事になる。
運命という言葉がダバを過る。
ギャブレー
「ギワザ殿は?」
正規軍
「自室に居られます」
ギャブレー
「そうか。ネイ殿も御一緒か?」
正規軍
「はい」
ギャブレー
「ギワザめ……呼び付けてまで、ネイとの仲を見せ付けたいのか……」
ギワザ
「体の具合でも悪いのか、ギャブレー?」
ギャブレー
「いえ、健康には至って自信があります」
ギワザ
「それにしては、この所の無気力、どうしたんだ? 昨日の戦闘には出遅れたな」
ギャブレー
「はっ……船の整備中であった為です」
ギワザ
「らしくもない言い訳だな。全ての艦で整備は必要だ」
ネイ
「よく見てみろ、己の顔を、目を」
「目が腐っているだろうが」
「己の手柄を得る為に作戦を無視し、勝手に動く……!」
ギャブレー
「私は遊撃隊です。やるべき事はやっています」
ギワザ
「そうは思えんが」
ギャブレー
「戦いは時の運であります」
ギワザ
「よく言う。埋め合わせは次期作戦の戦闘で存分に見せて貰おう」
ギャブレー
「戦闘……?」
ギワザ
「左様。我が軍の命運を託そうと言うのだ、不服かな?」
ギャブレー
「いえ、ギワザ殿の為ならば、不服なぞ……」
ネイ
「やる気を見せねば、私がお前を斬ります。ギワザ様の獅子身中の虫になりかねんお前だからな」
ギャブレー
「肝に銘じて」
ネイ
「ギャブレー、君は本当に人を好いた事があるのか?」
ギャブレー
「人を、好く……?」
ネイ
「お前には、そういう一徹さがないのだよ」
反乱軍
「みんな、ダバさん達が来てくれたぞ」
 〃
「ダバが……?」
 〃
「みんな、持ち場を離れるな。慌てなくても直ぐにここに到着する」
 〃
「どいたどいた! これが落ち着いてられますかって!」
キャオ
「ひゃぁ、大歓迎だなこりゃ。可愛い子ちゃんも居るじゃないの」
ダバ
「こんな工場を手に入れてたなんて」
セムージュ
「このトライデトアルは、各地で反乱軍が精力的に戦っているのです」
「しかも、今までの戦い方とは違います」
「ダバ君はそのきっかけを作ってくれた。貴方と一緒なら勝てるかもしれない」
ダバ
「負けるかもしれませんよ?」
セムージュ
「いいじゃないですか、それでも」
「ゲリラ戦を総合した戦力としてぶつけていく……それをやりたかった」
「その為のきっかけが欲しかったのです」
キャオ
「ヒャ〜、すげぇな」
「何とまあ……かっぱらったり拾ったりして造ったにしては、まぁ、おぉ……」
セムージュ
「ここでは、トライデトアル中の正規軍の動きをチェックしております」
「紹介しよう。これが最年少のイッカだ」
イッカ
「あ、ダバさんですね。すげ、本物だ」
セムージュ
「こらこら、イッカ」
キャオ
「オッホン」
イッカ
「あ、キャオさんですね」
キャオ
「そっ、ミラウー・キャオさん!」
イッカ
「キャオさん、軍の手配データに金と女に弱いってあったけど、本当?」
キャオ
「アラッ……」
反乱軍
「ダバさん、教えてください。ダバさんは数々の戦いに生き残ってこられました」
ダバ
「運が良かったんだ」
反乱軍
「運だけでありましょうか?」
ダバ
「いや、運だけでは生き延びるのが精一杯だろう」
「その時々の状況を見抜いてから、それに対応させて自分の瞬発力をどれだけ高められるか」
反乱軍
「瞬発力……?」
ダバ
「そう。冷静な瞬発力があれば、危機は切り抜けられます」
キャオ
「分かったか、若者?」
反乱軍
「はい、ダバさん!」
キャオ
「可愛くねぇな……俺はキャオだよ?」
反乱軍
「はい!」
キャオ
「ふふっ、いいお返事」
ロンペ
「ね、キャオ。これだけの基地があちこちにあるなら、ポセイダル倒すのも楽じゃないな?」
キャオ
「何だ? それじゃずっと勝てっこないと思ってる訳?」
ロンペ
「そりゃそうだろ? キャオみたいのばっかじゃ」
キャオ
「てめぇ、何だと?」
アム
「お疲れ様、お食事よ」
キャオ
「どうしたアム、しおらしいじゃないの」
「キャンキャンしてなきゃ、アムらしくないぜ?」
アム
「ん、ちょっとね……緊張してるの」
「あんな大勢の人に慕われてるダバの事を私ったら、独り占めしたいとかってさ。そんな事しか考えなくて」
キャオ
「何言ってんの? 戦争やってりゃ気持ち真っ暗よ?」
「そんな時にアムの声を聞けりゃ、スッとするんだぜ?」
「お前さんはそれでいいの」
アム
「うん、有難うキャオ。優しいのね」
キャオ
「そうなのよ、どう? 今からでも俺に惚れ直したら? 大事にしますよ?」
アム
「そうね、またにするわ」
キャオ
「やっぱり」
アム
「ご飯よ」
ダバ
「ああ、有難う」
アム
「ダバ……」
ダバ
「何?」
アム
「あはっ、ははっ……じゃね」
「ガンバガンバ、頑張る」
反乱軍
「ダバさん、ギワザの艦に侵入した同志から通信が」
ダバ
「何?」
「何て無茶な事をさせてるんだ」
イッカ
「現在ギワザの護衛艦は、二隻のみだそうです」
「このトライデトアルで降下する予定だという事です」
ダバ
「何故行かせたんです。敵の防御システムの恐ろしさを知らないのか?」
「スパイは生きて帰ってこれないぞ!」
セムージュ
「彼は勝利の日を夢見て、進んでスパイを買って出たんです」
ダバ
「この基地の秘密を知る為に、どんな酷い目に遭うか……」
イッカ
「どんな目に遭おうと、口を割るような男じゃありません」
ダバ
「そんな事を心配してるんじゃない」
「むざむざ生贄を出して戦うというのでは、意味がないんだ」
「セムージュさん。情報は貴重だが、スパイはやめましょう」
セムージュ
「ああ……確かにスパイは生贄だ。ヤーマン族のように……」
ダバ
「しかし今は……」
マサン
「あっ……!」
ギャブレー
「今、何をしていた?」
マサン
「は、はい。これはギャブレー様」
ギャブレー
「誰と通信をしていた?」
マサン
「喋りますから、手を緩めてください」
ギャブレー
「さあ言え!」
マサン
「クワサン様が……」
ギャブレー
「何? 貴様、クワサン・オリビーの工作員なのか?」
マサン
「ご必要とあらば、いつでも連絡を取ります」
ギャブレー
「行け。今の話、聞かなかった事にする」
ギャブレー
「急げ、ハッシャ」
ハッシャ
「へ、へぇ、どうしたんで?」
ギャブレー
「迂闊な口を聞くな」
「クワサンのスパイが潜り込んでいるとは……ポセイダルは、ギワザさえ信じていないのか?」
「ハッチ、開け!」
マサン
「うわっ、うぅっ……!」
ネイ
「どうだ、白状したか?」
正規軍
「それが……」
ネイ
「殺さん程度にもっと痛め付けろ」
正規軍
「はっ!」
マサン
「うぅっ……!」
ネイ
「ええい、生温い! 本当にクワサンの手の者なのか? 言え!」
「吐くなら今の内だぞ。命まで取ろうとは思わん」
「クワサンの名前をどこで聞いた?」
マサン
「し、知らん……!」
ネイ
「貴様……!」
「気が付いたら、改めて尋問をする」
正規軍
「はっ!」
ネイ
「反乱軍がクワサンの名前を知っているとは……」
「クワサン・オリビーが、ギャブレーに手を回すという事もあります」
ギワザ
「ふむ、そうだな。奴は手柄を独り占めにしたがる」
ネイ
「はい。今は独力でトライデトアルを平定する事が肝要かと」
ギワザ
「それが一番ポセイダル様の意思に沿うやり方か」
ネイ
「先鋒をご命令ください、ギワザ殿」
ギワザ
「存分に戦ってくれ、ネイ」
ネイ
「はい!」
ギワザ
「……ポセイダルめ、これでは生殺しだ……」
正規軍
「ネイ様、スパイが死にました」
「迂闊でした。奴が舌を噛み切るとは……」
ネイ
「馬鹿め……真実を聞き出せなくなってしまった……」
ダバ
「発信素消滅……」
イッカ
「兄さん……!」
ダバ
「彼の兄さんが潜り込んでいたのか」
セムージュ
「はい。あれほど仲のいい兄弟は居りませんでした」
ダバ
「総員! 我々は今、希少なデータを手に入れている」
「一人の同志が命を懸けて手に入れた情報だ」
「ギワザ・ロワウが単独で大気圏に入る。当然防御は薄い。チャンスは逃したくない」
「総員、出撃用意だ!」
「死を懸けてこの情報を送ってくれたのは、イッカ・ハミルトンの兄、マサン・ハミルトンだ」
「ヘビー・メタルを扱える者、急いで集合! イッカ、君も行って兄さんの仇を取るんだ!」
反乱軍
「行こうぜ」
イッカ
「うん」
ネイ
「ギワザ艦隊の先鋒は私がやる。ギャブレー如きに任せる訳にはいかん」
「大気圏、突入用意」
「警戒を怠るな。ノイズの向こうに敵が居るかもしれんのだ」
ギワザ
「しかし、ダバ・マイロードの居る所が、常に攻撃のポイントというのは気に入らん」
「奴は私を惹くのか?」
ギャブレー
「ギワザがネイを先鋒に立てて、トライデトアルへ降りただと? 何故だ」
イレーネ
「存じません。私は十三人衆では御座いませんので」
ギャブレー
「ギワザは態々私を呼び付けて、先鋒を命じたのだぞ」
イレーネ
「左様で御座いますか」
ギャブレー
「イレーネ」
イレーネ
「はい」
ギャブレー
「多少は袖摺り合わせた仲だ。冷たくはないか?」
イレーネ
「あぁ、スレンダー・スカラの進路、如何致しましょう」
ギャブレー
「誂うな」
「このまま待機だ!」
イッカ
「実戦は初めてでも、兄が守ってくれます。頑張ります」
ダバ
「そんなに甘いもんじゃない。死んだ人は忘れろ」
イッカ
「わ、分かってます。やってみせます」
「では」
アム
「何、呆けてんの?」
ダバ
「い、いや……」
「ちょっとね……迂闊な自分に腹を立ててるところさ」
「感情に任せて出撃命令を出したけど、皆、俺一人で守り切れるかと思ってね」
アム
「大丈夫よ、ダバならきっと上手くやれるよ」
ダバ
「平和なら、遊びたい盛りの連中ばかりなんだ」
アム
「ダバ……私達、ずっと一緒よね?」
ダバ
「明日の事の約束は出来ないな」
アム
「やだよそんなの……ずっと一緒に居たいよ」
ダバ
「しっかりして。アムは旗艦ターナのキャプテンなんだぞ?」
アム
「分かってるから。今はじっとしてて。すぐ元気になるから」
「ね、ダバ……」
ダバ
「何だ?」
アム
「随分と緊張してるでしょ」
ダバ
「そりゃ……ちょっぴり怖いのさ」
アム
「首の辺り、大分汗臭いもんね」
「良かった」
ダバ
「何が?」
アム
「私と同じで」
キャオ
「何しっとりしちゃってるの、お二人さん」
「各艦総員に告ぐ。各ヘビー・メタル、出撃用意だ!」
キャオ
「キャプテン・シートは任せるぜ」
「俺はエルガイムで出る」
アム
「ラジャー!」
アム
「戦闘態勢宜しく。アロン、ロンペ、マルシェ」
キャオ
「ドッキング・センサー!」
「一度言ってみたかったのよね」
「ダバ、先発隊の指揮は頼む」
ダバ
「ラジャー!」
「イッカ、俺から離れるな」
イッカ
「ラジャー」
ダバ
「各機、三機編隊を組む。いいな?」
「戦力は向こうの方が上だ。旗艦だけを狙う」
「イッカ、遅れるなよ」
イッカ
「はい、そのつもりです」
ダバ
「イッカ、掴まれ」
イッカ
「ラジャー」
アム
「ヘビー・メタルの編隊が……」
「ダバ、冷静に……上手にやってね」
ダバ
「セムージュに乗せられたにしろ何にしろ、これが俺の運命なら……」
「敵は負ける事なぞ考えずに進入するか」
正規軍
「通常飛行に移ります」
「レーダー・モニター復活。ヘビー・メタルの編隊キャッチ。識別信号は出しておりません」
ネイ
「来たか……偵察隊にしては数が多過ぎる」
「反乱軍め、よくも我が艦隊のコースを……!」
「さっきのスパイ、やはり反乱軍か」
「ヘビー・メタル隊、出撃せい!」
ダバ
「イッカ、目を瞑るなよ? 絶えず敵を見ているんだ」
イッカ
「は、はい! 行きます!」
ダバ
「キャオ、アシュラだ!」
キャオ
「何を……!」
「ダバ、構わず前進しろ! ヒヨっ子の面倒を見てやれ!」
ダバ
「頼むぞ」
「みんな、バラけるな! 固まれ! 陣形を崩すなよ!」
「前進!」
反乱軍
「やった!」
「あっ……!」
キャオ
「ダバ、何をしてる? 右翼が隙だらけだ!」
「あっ……!」
正規軍
「反逆者に生き残れる道はないんだよ!」
イッカ
「兄さんの仇を討たせてもらう!」
ダバ
「イッカ、撃て! 何をしている!」
イッカ
「手が、手が……動かないんです!」
正規軍
「このヘビー・メタル、何をボっとしてんだ?」
ダバ
「イッカ、戦場はこういう所だという覚悟は出来ていた筈だ」
イッカ
「で、でも、俺……!」
ダバ
「それじゃ死ぬぞ」
キャオ
「ダバ、バラバラじゃないの」
ネイ
「準備は出来たか?」
正規軍
「はっ!」
ネイ
「寄せ集めの軍隊に何という様か」
「ギワザ様、ご覧の通りです。私が出ます」
ギワザ
「正規軍の練度が低いという訳か、ネイ?」
ネイ
「残念ながら」
ダバ
「前方より敵! 総員!」
イッカ
「何だ? ダバさん、凄い敵が……!」
ダバ
「ネイ・モーハンか。どこへ行った?」
「うっ……!」
「各機、上に避けろよ!」
「ヘビー・メタルは構うな。ギワザを落とせばそれまでなんだ。突撃するぞ!」
イッカ
「うわっ!」
ダバ
「何?」
イッカ
「放せ……!」
ネイ
「グルーンの小手調べをさせて貰う!」
「マーク・ツー!」
ダバ
「新型め!」
ネイ
「うっ……!」
ダバ
「イッカ!」
イッカ
「ダバさん、撃てました!」
ダバ
「その調子だ、旗艦を叩くぞ」
イッカ
「はい!」
正規軍
「先方にヘビー・メタル侵入!」
 〃
「主砲開け!」
 〃
「退避運動!」
ギワザ
「兵達が脆過ぎるというのは何だ? ポセイダルの独裁の下に、己を鍛える事を忘れた輩だというのか?」
ダバ
「大型艦二隻……どちらが旗艦だ?」
ネイ
「マーク・ツー、何を狙う?」
ダバ
「臨界だ!」
ネイ
「撃った!」
「ギワザ様……!」
ギワザ
「敵艦の主砲か?」
ダバ
「イッカ、返事をしろ。生きているのか?」
「敵は……」
「イッカ!」
キャオ
「ダバ、五分五分だ。戦線維持がやっとだ」
ダバ
「主力艦は後退するようだ。戦線を集束させろ」
キャオ
「ラジャー!」
ダバ
「多少のダメージは与えたようだ」
「後退する!」
ネイ
「お恥ずかしゅう御座います」
ギワザ
「気にするな。時の運だ」
「ん?」
ネイ
「これしきの傷、明日には治してみせます。そして……」
ギワム
「力むなよ、ネイ。すぐに働いてもらえる機会を作る」
ネイ
「あ、有難う御座います」
ギワザ
「ネイ個人の戦いではない。反乱軍の意志は、ポセイダルの傘の下に生きる正規軍の兵達よりは力があるのだ」
ダバ
「救護班、頼む」
アム
「手配完了」
「イッカはそんなに重症なの?」
イッカ
「ダ、ダバさんが大袈裟なんです。掠り傷です」
ダバ
「酸欠気味なんだ。脳波を調べてくれ」
アム
「ラジャー」
「でも可笑しいわね。何でこんなに簡単に引き下がったの、ギワザは……」
ダバ
「偵察だな。ギワザは反乱軍の力を知らなかった筈だ。次は面倒な手を打ってくるさ」
アム
「面倒な手って?」
ダバ
「分かる訳ないでしょ」