第2話 ザブングルはもらったよ

前回のあらすじ
惑星ゾラと呼ばれている地球。しかし人々は、ゾラという名前を忘れて久しい。
荒野に点在する小さな町が、僅かに人々の乾きを癒してくれる。
ジロン
「んっ……」
エルチ
「あらあら、呑気なものね。まだ寝てるの?」
「ちょっとあんた、ジロンとか言ったわね?」
「もう……いい度胸しているわ」
「でも、どこまで本物か……」
ジロン
「あっ……!」
エルチ
「ん?」
ジロン
「あぅっ、うぅっ……」
エルチ
「気が付いたの? わざわざ心配して来てやったのよ? 朝の挨拶ぐらいしたらどうなの?」
ジロン
「んっ……ぎゃぁぁっ!」
「うぅっ、うぅっ……」
エルチ
「ふふっ……。まるで動物ね」
ジロン
「くそぉぉっ!」
キャリング
「これがリストだ。手早く頼むぞ」
ホーラ
「へい。大物は3機のホバー・ノズルですな。ザイラーの」
キャリング
「おはよう、エルチ」
エルチ
「バザーで渡した物を取り返す相談?」
キャリング
「三日間の間に取り戻すのなら、何て事はない。これも商売上手の秘訣じゃよ」
「ザイラーには二日前に渡してある。今日しかないぞ」
「ここで食っていかんのか?」
エルチ
「下品なのよね」
ホーラ
「じゃ、あっしも人手を集めますんで」
キャリング
「……温いな」
ジロン
「むぐっ……。もうないのか?」
エルチ
「私みたいな文化人だから、一口でも差し入れてやったのよ? さ、立って。出してあげるわ」
ジロン
「いいのかい?」
エルチ
「何、勿体つけて……。お立ち……あっ!」
ジロン
「うっ……!」
エルチ
「忘れてもらっては困るわ。私、ナイフは使えるのよ? えぇ、ジロン?」
ジロン
「へへっ、ごめん……」
エルチ
「えぇいっ!」
ジロン
「あぁっ、ぐっ……! くそぉっ!」
エルチ
「おあいこだよ。さ、付いといで!」
ミレー
「あら、お嬢さん。いいお天気で」
エルチ
「おはよう、マダム・ミレー」
「ザイラーさん」
ザイラー
「やあ、これはお嬢さん」
エルチ
「もう荷造り? 気が早いのね」
ザイラー
「あんたの親父さんから、せっかく高性能のホバー・ノズルを手に入れたんだ」
「早く帰って、ウォーカー・マシンに取り付けなきゃな」
エルチ
「それもそっか」
ザイラー
「この次のバザーまでには、ブルー・ストーンを3倍掘って新型のウォーカー・マシンを手に入れるぜ」
エルチ
「そうなると、人手が要るわね。あの子雇わない?」
ザイラー
「あの餓鬼か?」
エルチ
「今は右手を痛めてるけど、使えるわよ」
ザイラー
「知り合いか?」
エルチ
「友達なの」
「ジロン」
ザイラー
「ロックマンの経験は?」
ジロン
「大分やっている。ウォーカー・マシンも扱えるよ」
エルチ
「保証するわ」
ザイラー
「ロックマンの子か?」
ジロン
「そうだ。親父は『鉄の腕』と言われていた」
ザイラー
「鉄の腕……名前は聞いた事がある。鉄の腕も子供を作ったのか」
ジロン
「いけないか?」
ザイラー
「いや。そりゃいい」
「ふんっ!」
ジロン
「むっ……あぁっ!」
ザイラー
「ははっ……右手が使えりゃ、パンチは返せたと言うんだろ? しかし違うな、坊や」
ジロン
「坊やじゃない! ジロンだ!」
ザイラー
「お前の親父なら、パンチを避ける時にあんまり体を動かさずに避けるんだ。坊やの動きは無駄が多いって事だよ」
ジロン
「親父を知ってるのか?」
ザイラー
「一昔前のブレーカーなら、みんな知っている」
ミレー
「じゃあザイラーさん、お先に失礼するよ。元気でね」
ザイラー
「マダム・ミレーもな。次のバザーで会おう」
ミレー
「あいよ」
ザイラー
「女手一つでよくやる」
「よし、行くぞぉ!」
ザイラー
「発射しておけ!」
雇われ
「へい、弾はたっぷりあります!」
ジロン
「用心深いんだな」
雇われ
「いざって時に弾が出なくちゃしょうがねぇだろう」
ザイラー
「マダム・ミレーのウォーカー・マシンだ」
「面白くないコースだな。マダム・ミレー」
雇われ
「他の奴に盗られる前に、我々で盗っちゃいますか? ミレーのホバー・ノズル」
ザイラー
「だったら、マダムごと取っちゃうよ」
雇われ
「ふふっ……」
ザイラー
「ワーッ!」
ホラー
「ホバー・ノズルとコンピュータ・コアだけでいい。次の獲物が来る。急げ!」
雇われ
「マダム・ミレーがやられたんじゃないんですか?」
ザイラー
「らしいな。あのコースだって考えようによっちゃ安全だったのにな」
「こんなにバザーの近くで襲うとは、臭いな」
雇われ
「どういうこってす?」
ザイラー
「キャリングだよ。奴の雇ったブレーカーにやらせてんじゃないのか?」
雇われ
「まさか。俺達のホバー・ノズルは、キャリングから交換した物ですぜ?」
ザイラー
「キャリングってのはそういう奴だ。そうでなきゃ、あんな新型のランド・シップをイノセントから買える訳がないだろう」
キャリング
「バザーの連中が見てるんだ。このアイアン・ギアーの性能を見せるチャンスだというのに」
コトセット
「イノセントから買って、変形は一度しかやっとらんのです。一度で上手く動けば技術者なんて要りませんよ」
キャリング
「それをやってみせるのがお前の仕事だろ」
コトセット
「やるぞ!」
キャリング
「あっ……」
荒くれ
「ランド・シップをウォーカー・マシンにしようっていうのかぁ?」
 〃
「やりすぎじゃねぇのか? ははっ……」
雇われ
「うわぁぁっ!」
ジロン
「うわぁぁっ!」
ザイラー
「鉄の腕の息子が、敵を前に逃げるのか?」
ジロン
「こっちにはこっちの都合があるんだ。自分の都合で物を言うな」
「わっ、くっ……」
「わぁぁっ……!」
「くっ……!」
ザイラー
「二台も……。このっ!」
ジロン
「うわぁぁっ!」
「あぁっ……!」
ザイラー
「うっ、うわぁぁっ!」
ジロン
「ザイラー!」
「えぇいっ!」
「ん、でか物だ!」
「うわぁぁっ、くっ……!」
「わっ……」
「うわぁぁっ、とっとっ……!」
「わぁぁっ、くっ……」
「よっと、よっと……」
「ふ〜……あっ、ぐぐっ……!」
エルチ
「安定してるじゃない?」
「お手並みは見させてもらったわ、ジロン。狸寝入りはおよしなさいよ」
ジロン
「お見通しなんだな? エルチ・カーゴさん」
「ザイラーを襲わせたのも、あんたなのか?」
エルチ
「まさか。私は商売なんかやらないわ。パパよ」
ジロン
「それを知っていて、俺をザイラーに引き渡した。青いウォーカー・マシンを盗もうとしたからか?」
エルチ
「そんなケチ臭い事じゃないわ」
ジロン
「じゃあ、何だよ?」
エルチ
「何でしょうね? 私にも分からないわ。ま、ウチのホーラの攻撃を切り抜けて、生き残った事に感心はしているのよ?」
ジロン
「こっちは命懸けだったんだぞ? 冗談はやめてくれ!」
エルチ
「私だって冗談ごとじゃないわ!」
ジロン
「何、怒ってんだ……。そっちが怒る事ないだろうに」
「そっちが……うっ、くっ……!」
「そっちがその気ならば、あの青いウォーカー・マシンは必ず手に入れてみせるからな」
「って……わぁぁっ、ぁっ……!」
「見ていろぉぉっ!」
ラグ
「あの中にある、青いウォーカー・マシンを手に入れるのよ」
ダイク
「分かった。マーレ、ハイヤー、偵察に行ってこい」
マーレ、ハイヤー
「おう!」
ダイク
「バザーは完全に終わったのにな。ははっ、メディックの奴、金を取らずに出発するぜ」
「ブレーカー達のウォーカー・マシンは、みんな出払ってるみたいだな。やるんなら今かな? ラグ」
ラグ
「焦るこたないよ。偵察を待ってからにするさ」
ブルメ
「なぁ、あのランド・シップさ、ウォーカー・マシンになるっての本当なの?」
ラグ
「らしいよ。100メートルを超えるんだってさ」
ブルメ
「ははっ……!」
ダイク
「だけどよ。キャリングってイノセントに取り入って、あの新式のランド・シップを手に入れたって事だぜ?」
チル
「100メートルのウォーカー・マシンが動くの?」
ダイク
「イノセントの考えたもんだからな。動くさ」
ラグ
「動かないみたいだよ?」
ブルメ
「そうそう。動くんならとっくに次のバザーに向かって移動してるもんな」
ラグ
「また一ヶ月寂しくなるね。この辺りさ……」
ジロン
「あった!」
「それっ、よっ……!」
「おっ……」
「歩くよりはマシか」
「よっ! わぁぁっ……!」
「ぐぬぬっ、こんなバイク!」
「よっ! ぁっ……!」
「くぅっ、それっ、ぁっ……」
「ぬぅっ、わぁぁっ……」
「何としてでもぉぉっ!」
「それっ、わぁっ……」
ラグ
「ブレーカー達は出払ってるんだね?」
ハイヤー
「青いウォーカー・マシンを整備するメカニック・マンは居るけどな」
チル
「青いの二台あるよ? あの車がウォーカー・マシンになるんだろ?」
ラグ
「二台戴いちゃうかい? ダイク」
ダイク
「ちょっと図々しすぎるんじゃない?」
ラグ
「ははっ……!」
ブルメ
「笑い事じゃないぜ、ラグ。キャリングの鼻を明かせるんだったら二台共戴くんだ。サンドラットの面子に賭けてな」
ラグ
「そりゃそうさ。出来るかい?」
ブルメ
「出来るさ。だけどよ、ジロンとかいう馬の骨の為なら、一台だって盗るの嫌だぜ?」
ラグ
「何故さ?」
ブルメ
「俺達にそんな義理はないからよ」
ラグ
「ふっ、あいつはいい相棒になるんだよ」
「それに、ウォーカー・マシンを手に入れられれば、サンドラットの戦力になる。ジロンとは関係ないよ」
ブルメ
「ならいいけどよ」
「わっ……!」
キャリング
「変形せんぞ? コトセット」
コトセット
「そう簡単に行く訳ないでしょ」
キャリング
「何故だ?」
コトセット
「関節のギア・ブロックのテストです。変形はさせません」
「第一、ブリッジじゃザブングルの整備中でしょう。今変形させたら、みんな落っこっちまいますよ」
ラグ
「動くな!」
ジロン
「おぉっとっと……」
「ん?」
「ザイラーを襲った連中が戻ってきた」
エルチ
「ジロンが来たの?」
プロポピエフ
「あっ、お嬢様……」
エルチ
「だから、アイアン・ギアーに乗る支度をしておけばいいのよ。私が練習に付き合うわ」
ジロン
「ラグ達、サンドラットの連中だな?」
「ふ〜っ……ん?」
コトセット
「このザブングルで踏み潰せ!」
雇われ
「リモコンのコードを切られちまって、しゃがませられんのです……うっ!」
コトセット
「クレーンを使ってパイロットを乗り込ませろ!」
ジロン
「車の方を狙ってんだな? ラグ」
コトセット
「銃一つ持ってこんのか?」
ジロン
「え?」
コトセット
「これを使え」
ジロン
「どうも」
雇われ
「お、おい……」
ジロン
「車の方、持ってかれる!」
雇われ
「しかしよ……あっ!」
ジロン
「よっ! 何やってんだ?」
ラグ
「キーがないからさぁ」
ジロン
「こんな事やってたらやられちまう」
ラグ
「大丈夫だよ」
ジロン
「大丈夫なもんか。俺だって、キャリングのブレーカーに殺されそうになったんだ」
ラグ
「え?」
ジロン
「急いで。ブレーカーが来る」
ラグ
「んっ……。出るよ!」
ダイク
「引き上げるぞ!」
ジロン
「あぁぁっ……!」
エルチ
「きゃぁぁっ!」
「あいつ、とうとう……!」
ジロン
「くそぉぉっ!」
ラグ
「大丈夫なの?」
ジロン
「やるぞ!」
ラグ
「何?」
ジロン
「ブレーカーが来るんだ」
ラグ
「ハッチ開いてよ」
ジロン
「え?」
ラグ
「ザブングルの使うライフルを降ろさなくっちゃ」
ジロン
「おしっ!」
ラグ
「くっ……えいっ!」
ジロン
「手強いウォーカー・マシンが来る!」
ラグ
「くっ……!」
「プロメウス・タイプは、武器が一杯あるんだよ」
ジロン
「分かってるよ」
ホーラ
「キャリングの旦那の所から、ウォーカー・マシンを盗もうとはいい度胸だ」
「しかし、やるなら俺の居る時に正々堂々とやってもらいたかったな。え?」
ジロン
「んんっ……!」
ホーラ
「プロメウスよりいい動きをするとは、ご機嫌じゃないか」
「んっ……!」
ジロン
「わぁぁっ!」
ラグ
「言ったでしょ! 気を付けろって」
ジロン
「気を付けてんだよ、これでもね!」
ラグ
「へ〜っ!」
ジロン
「くっ……」
ラグ
「下がって!」
ホーラ
「こっちにも都合があってな。それ以上は壊さないが……」
ジロン、ラグ
「わぁぁっ!」
ホーラ
「コックピットだけは潰させてもらう!」
ジロン
「んんっ、はっ……」
「やったぁ!」
ラグ
「この隙にライフルを!」
ダイク
「ラグ、いつもの場所だな?」
ラグ
「捕まんじゃないよぉ!」
ジロン
「あ、当てんのはどうするんだぁ?」
ラグ
「撃てばいいのよ! 弾が教えてくれるわ」
ホーラ
「荷物を降ろした者は手を貸せ! 左へ回り込むんだ!」
雇われ
「分かった!」
ジロン
「こいつか! 照準が付けられる筈だ!」
ラグ
「無駄弾、撃ちすぎよ!」
ジロン
「だから研究してんだろ!」
「このスイッチか」
「スコープだ」
ホラー
「ぐわぁぁっ!」
ジロン
「やったぃ!」
ラグ
「よーし、よくやった! ジロン」
ジロン
「逃げ道を塞ぐつもりか」
ラグ
「真っ直ぐ突破だよ」
ホーラ
「足を爆破しても構わん。ザブングルの動きを止めろ!」
ジロン
「何としても突破して、三日間逃げ切ってみせるぞ!」
ラグ
「んっ、くっ……」
ジロン
「このままじゃやられちまう。数には敵わない!」
ラグ
「ロケット・ノズルあるけど、使ってみたら?」
ジロン
「え? 車の時にしか使えないんじゃないの?」
ラグ
「んっ、やってみないで何を言うかい!」
ジロン
「お、おい……」
ラグ
「えぇいっ!」
ホーラ
「おぉっ……!」
ジロン
「やったぁ!」
ラグ
「そーらみろ! よくやったジロン、上手上手」
ジロン
「むっ……!」
ラグ
「何だぁ?」
ジロン
「その言い方、気に入らないな。あんた、僕のお姉さん?」
ラグ
「馬鹿言え! ほら、追っ手が来るよ。だから言うのさ、上手にやってよねってさ」
ジロン
「分かったよ!」
ジロン、ラグ
「うわっ……」
ジロン
「いてぇ……」
ラグ
「くそっ……!」