第4話 なんて掟を破るのさ

前回のあらすじ
惑星ゾラと言われている地球。しかし人々は、ゾラという名前を忘れて久しい。
ジロン・アモスは、新式ウォーカー・マシンをキャリング・カーゴの手から奪い、三日間の逃避行に移った。
三日間逃げ切れば自分の物となってしまう。それがこの地球の掟なのだ。
コトセット
「ホーラ! 応答しろ、ホーラ!」
キャリング
「どけ、ワシがやる」
コトセット
「貴方にゃ出来ませんよぉ」
「ホーラ! ホーラ!」
キャリング
「やらせろ」
コトセット
「文句は砂嵐に言ってくださいよ。砂嵐にぃ」
キャリング
「残ったブレーカーはどうした?」
コトセット
「残ってる訳ないでしょ、全くもう」
キャリング
「そうかい、そうかい」
キャリング
「(?)が……ったく、豚の餌になっちまえ」
コトセット
「あんな子供にザブングルを取られちまうなんて……ふんっ、旦那も先がないぜ全く」
ローズ
「1・2・3、2・2・3……」
キャリング
「手を貸せ」
ローズ
「あら、旦那さん」
プロポピエフ
「ご機嫌宜しゅう」
キャリング
「宜しくない。全員、出撃の用意!」
ルル・ミミ・キキ
「出撃用意ぃ?」
プロポピエフ、ローズ
「出撃ぃ?」
ルル・ミミ・キキ
「キャーッ!」
キャリング
「そうだ。左がシフト・レバーだ」
ローズ
「踊り以外、私達……」
キャリング
「お前達も早く乗れ!」
プロポピエフ
「旦那ぁ、この子達にやらせるのは無理ですよぉ」
キャリング
「右足のペダルがクラッチだ」
ローズ
「クラッチぃ?」
キャリング
「ウォーカー・マシンは赤ん坊だって……。えぇいっ、乗れぇ!」
ルル・ミミ・キキ
「イヤ〜ンッ!」
「いやっ、いやぁ〜ん」
キャリング
「弄ってりゃ分かるようになる。行けぃ!」
ルル・ミミ・キキ
「メカに強けりゃ、踊り子なんかやってないわぁ」
キャリング
「今から強くなれ!」
ルル・ミミ・キキ
「イーッ!」
キャリング
「おっ、おっ……イーッ!」
「ホーラ!」
キャリング
「おめおめ帰ってきたのか? お前は、お前は」
ホーラ
「ですがね旦那、小僧を追い詰めるいい手を見付けてきたんですぜ?」
キャリング
「いい手? ん、確かなのか?」
ホーラ
「はい」
エルチ
「駄目だ。ジロン、ラグ、どっかで休まない?」
ブルメ
「ほら見ろ。何だってあんなお嬢さんを連れてくるんだよ?」
ラグ
「助けてくれたんだからね、文句言えないだろ?」
ブルメ
「自分でメカの整備も出来ない癖に、運転する事はないだろ?」
キャリング
「ははっ……。な、何だ? そのザブングルに乗っとる小僧が、一週間以上も前の男を仇だって狙ってるのか?」
ホーラ
「その仇といわれる男が、東に向かってますんで……」
キャリング
「分かった分かった。しかしその小僧、変じゃないのか?」
ダイク
「その丸い部品を取ってくれたっていいだろう。そいつを」
エルチ
「直してくれるって言ったんでしょ? 自分でおやんなさいよ。だらしないわね」
ダイク
「何だと? 俺は、お前の使用人じゃないんだぜ」
ブルメ
「運び屋の娘なんてこんなもんさ」
ラグ
「早く済ませておいで。お腹空いてんだろ?」
ダイク
「ちっ……」
ブルメ
「食べちゃうぜ?」
エルチ
「あんたは誰を追い掛けてんの?」
ラグ
「そうだよぉ、こんな嵐の中だってのにさぁ」
ジロン
「俺のお袋と親父の仇さ」
チル
「仇ぃ?」
ジロン
「あぁ」
ラグ
「でも、おかしいじゃないか。この三日間、ジロンは私達と一緒だったろ?」
ジロン
「殺されたのは……一週間前だ」
ラグ
「一週間?」
ラグ、ブルメ
「ははっ……!」
エルチ
「ははっ……! 聞いた、ダイク? こいつ、一週間も前の親殺しを捜してんだって」
ダイク
「え? おいおい、おめでたい奴だな。ははっ……」
ラグ
「やれやれ、一週間も前の仇討ちの手伝いをしてたっていう訳? ははっ……!」
エルチ
「ナイフとフォークはないの?」
ブルメ
「ないよ」
ラグ
「ダイク」
ブルメ
「三日の内にケリを付けられなかったお前が悪いんだ。逃げ切ったティンプの方が偉い」
ダイク
「それを追い掛けようってんだから、お前の方が悪党だな」
「……おっ」
ジロン
「何故悪いんだ?」
ダイク
「ん?」
ブルメ
「え? 本当に分かんねぇのか?」
ジロン
「親父とお袋が殺されたんだぞ?」
エルチ
「あんたって調子いいのね。片っぽじゃ三日間逃げ切ってザブングルを物にしようとして」
「片方じゃ一週間以上も昔の仇探し。おかしいじゃない?」
ジロン
「仇討ちを済ませたら、ザブングルは返す」
一同
「ははっ……!」
エルチ
「ならさ、その後どうするの?」
ブルメ
「ウォーカー・マシンがなけりゃ、ふふっ……」
ラグ
「ブレーカーにもロックマンにもなれないじゃないか。そうしたらどうして生きてくの? ははっ……!」
ダイク
「ふふっ、苦しかった……。お前の言ってる事はおかしいぜ。そんなの、後ろから撃たれたって文句は言えないな」
ラグ
「私はもう知らないよ」
エルチ
「いいブレーカーが見付かったと思ったのにね。ガッカリだわ」
チル
「おかしいよ?」
ジロン
「そうかい?」
チル
「うん」
ラグ
「そんなこっちゃ、日干しになっちゃうよ」
ジロン
「一人でやってみるさ」
雇われ
「キャプテン」
グロッキー
「名前は?」
ティンプ
「ティンプ」
グロッキー
「どっから来た?」
ティンプ
「西から」
グロッキー
「雇って欲しいのか?」
ティンプ
「ふっ、そんなケチな話ゃいい。ちっとばかりのガソリンと食い物をくれりゃな」
グロッキー
「ふっ、そっちの方がケチ臭いじゃないか。え?」
ティンプ
「ふふっ……。そうかい?」
「何の真似だい?」
グロッキー
「マントの下から手は出してなよ」
ティンプ
「お宅らグロッキー一家に、キャリング・カーゴの縄張りを進呈しようって話なんだぜ?」
「もう少し優しく扱ってもらいたいもんだな」
グロッキー
「ほう……ははっ……!」
一同
「ははっ……!」
グロッキー
「くそっ、動くな! 撃つな! 同士打ちになる!」
「うぉっ……!」
ティンプ
「俺のウォーカー・マシンに少しばかりのガソリンと、ちょっとした食料だ」
グロッキー
「へへっ、分かったよ。話に乗ろうじゃねぇか」
雇われ
「しかし、おやっさん……」
グロッキー
「遊びだと考えりゃ、悪くない」
雇われ
「でもよぉ……あっ!」
グロッキー
「同じ事を二度言わせんじゃねぇ!」
ティンプ
「ふふっ、気に入ったぜ。あんた、大物の運び屋になるな」
グロッキー
「そのつもりだ。手筈を教えてくれ」
ジロン
「し、しまった……地盤がこんなに緩いのぉ? あぁっ、くっ……!」
「はっ、見付けた! よーし!」
ホーラ
「ティンプを見付けたようです」
キャリング
「エルチは?」
ホーラ
「無線は回復してます。すぐに見付かりますよ」
キャリング
「おっ……な、な、な、何だ?」
「おっ、エルチかぁ」
「エルチ、聞こえるか? パパだよ、無事か?」
エルチ
「どこに居るの? パパ」
キャリング
「ホワイト・キャニオンの東側だ。ザブングルを取り戻しに行く所だ」
エルチ
「見付けたの?」
ホーラ
「ティンプだったのか……うん、うん」
「あの煙はティンプです」
キャリング
「小僧の仇が見付かったんだ。ザブングルは来る。煙が見えるだろ、キャニオンに」
エルチ
「了解、煙は見付けたわ」
ラグ
「じゃあ、あの煙なの?」
ダイク
「間違いなく、キャリングのアイアン・ギアーの無線だ」
ブルメ
「あれがティンプとかって奴の狼煙なら、あの馬鹿、行くぜ?」
ラグ
「だろうね……。この辺りに居るのっていったら、ああいう流れ者しか居ないしさ」
「碌に弾もない癖に、何が仇討ちだ」
チル
「パワーあったもんね、あのウォーカー・マシン」
ダイク
「そうだな。ティンプとかって奴のウォーカー・マシンは、ザブングルより新式じゃないのか?」
ブルメ
「あぁ。臭いよな、あの男さ」
ラグ
「唯の流れ者とは思えないね」
「んっ!」
ブルメ
「あっ、ラグ! やめとけよ!」
「んっ……うわっ!」
「ダイク!」
ジロン
「アイアン・ギアーが来る前に倒せばいいんだろ? そうしたらザブングルは返してやるよ」
「居たぁっ!」
ティンプ
「ふっ……」
グロッキー
「合図だ。キャリングが来るぜ?」
「発進させろぉ!」
ジロン
「くっ……ふう、気付かれたかな? あんな近くに居るなんて思わなかった」
「あれ?」
「不味い、引っ掛かったのか」
「待っていたんじゃないのか? 出てこい! 正々堂々と勝負しろぉ!」
「……はっ!」
「くっ、んっ……!」
「んっ、卑怯だぞティンプ……!」
ティンプ
「卑怯なのはそっちだろうが、小僧!」
「仇を討つんなら三日以内だ。それで俺を始末出来なかったのは、貴様がへぼだからだろうが」
ジロン
「言わせておけばーっ!」
「よっ! それっ! んっ……!」
「逃がすかぁ!」
「わぁぁっ……うっ、おっ……!」
「おぉっ……?」
「よっ! んっ……!」
「よっ! うっ、くくっ……!」
ティンプ
「速い! あれがウォーカー・マシンの動きか?」
ジロン
「違うぞ?」
「ランド・シップだ。どこのだ? 何の用だ? 無関係?」
「奴も素早いな……。どうする? 仕掛ける以外ないのか? 不味いな……」
「男は度胸ーっ!」
「登れーっ、登れーっ……ん?」
「んっ……エルチの親父が雇ってるブレーカーか」
「はっ……!」
キャリング
「ティンプとかいう流れ者! 青いウォーカー・マシン、ザブングルはワシの物だ。お前さんの都合で壊させる訳にはいかん!」
ティンプ
「了解だ。しかし、この小僧はいつまでも俺を追っ掛ける。ケリは付けたいな」
キャリング
「ザブングルの小僧、ティンプとかいう男は逃げられんように私のブレーカーが見張っている」
「ザブングルから降りて決闘しろ。上手くいけば、仇が討てるぞ」
ジロン
「奴を先にウォーカー・マシンから降ろせ。そしたら俺も降りる」
キャリング
「聞いた通りだ。初対面のあんたには悪いが、マシンから降りてくれ」
ティンプ
「断ると言ったら?」
キャリング
「断れんだろう」
ティンプ
「分かったよ」
ジロン
「よっ」
ティンプ
「ふふっ……いいのかい? 小僧」
エルチ
「あっ、あれは……」
「ラグの奴、結局ジロンが気になるんだよ」
「行け、ザブングル!」
「あっ、あのランド・シップ、見た事あるけど……」
「アイアン・ギアー……。パパも来てるの?」
雇われ
「あ? お嬢さん?」
エルチ
「何してるの? パパはどういうつもりなの?」
雇われ
「もう一台のザブングルが見付かって……」
エルチ
「ジロン……」
ティンプ
「ふふっ……いいんだぜ、兄ちゃん。先に抜いてよ」
「俺は早撃ちにしてもちったぁ自信あるっての、知らなかったっての、可哀想だな。兄ちゃん」
「でもよ、こうなっちまったら兄ちゃんがやめたいったって無理だな。兄ちゃんだって男なんだ」
「大人、本気にさせちまったらもう駄目だ。兄ちゃんが背中見せたら撃つからよ。抜きなよ」
ジロン
「えいっ、んっ……!」
ティンプ
「うっ……!」
ラグ
「ジロン!」
ブルメ
「果たし合いか?」
チル
「ダイク、ジロンが……」
ダイク
「ティンプとかいう奴か。不味いぞ、カーゴ一家が勢揃いじゃないか」
エルチ
「あぁーっ!」
ホーラ
「ん? お嬢さん」
「辺りを警戒しろ!」
「何だ?」
ティンプ
「グロッキーめ、今頃……!」
ジロン
「んっ……!」
ティンプ
「んっ……!」
ホーラ
「あっ、お嬢さん、邪魔です。下がってください」
エルチ
「ザブングルの方がパワーはあるわ。ホーラこそ邪魔しないで」
「あぁーっ!」
「きゃぁーっ!」
ジロン
「あぁ、当たったぞぉ!」
キャリング
「どこのどいつだ? キャリング・カーゴと知っての攻撃か?」
グロッキー
「キャリング・カーゴ! 久しぶりだな」
「何を揉めているか知らんが、お前さんとこがこんな具合なら、お前さんの縄張りは俺が戴く事にした! 悪く思うなよ」
キャリング
「何だとぉ? うちは何一つ揉めてはおらん! ウォーカー・マシンが一台ちょっと、事故があっただけだ!」
グロッキー
「知ってるよ。小僧に盗まれてまだ取り返す事も出来んとはな。キャリングも落ち目だ」
キャリング
「落ちてはおらん!」
グロッキー
「じゃあ、俺が落としてやる!」
キャリング
「わぁぁっ!」
エルチ
「パパ!」
キャリング
「わぁぁっ……!」
エルチ
「パパ……うっ、うぅっ! パ、パパ……」
ホーラ
「だ、旦那が……!」
コトセット
「だ、旦那さん……!」
エルチ
「うっ、うぅっ……」
グロッキー
「ははっ……! キャリングさんよ、あんた正直で気に入ったぃ。ちゃんと落ちるとはな、ははっ……!」
「ティンプさんよ、礼言うぜ。こんなチャンスくれてよ。さぁ、みんなでやっちまえぃ!」
エルチ
「あいつら! 誰が泣いてられるかい!」
コトセット
「前方のランド・シップへ砲撃! 各ウォーカー・マシン、行けぇーっ!」
ホーラ
「うわぁぁっ!」
ジロン
「うぉぉーっ!」
ラグ
「えぇいっ!」
ブルメ
「やったろうじゃん!」
チル
「行っちゃえーっ!」
雇われ
「うわっ、あっ、あぁっ……!」
ホーラ
「冗談じゃないぜ、俺が跡目を継ぐカーゴの船をぶっ壊させはしない!」
ジロン
「こいつらーっ!」
グロッキー
「ええい、青いウォーカー・マシンだけを攻撃すればいい!」
ホーラ
「ちっ、こいつ……!」
「ヤクザ共が!」
エルチ
「落ちるものか!」
「あぁっ……!」
「あぁーっ!」
ジロン
「何てこった!」
「うぉぉーっ!」
「逃げるのか?」
ラグ
「ジローン」
ジロン
「くそぉ、ティンプをまた逃がしちゃったじゃないか」
ジロン
「グロッキーって何者なんだ?」
ラグ
「キャリング・カーゴと同じ、運び屋じゃないか」
ブルメ
「でも、ブレーカー上がりだからな」
ダイク
「大体よ、お前がティンプとかってのに拘らなきゃ、こうはならなかったんだ」
ブルメ
「そうよ。この世界じゃ拘りは三日限り……そうしなけりゃ生きてけねぇのよ」
ジロン
「そんな事ないよ。それは自分に正直じゃない」
「ティンプって奴があんな奴じゃなけりゃ、エルチの親父さんだってあんな目に遭わなくて済んだんだよ」
ラグ
「そうかい? あんたが巻き込んでいってるんじゃないの?」
「あんた、怖い子だね。誰も彼も巻き添えにしてくんだから」
ジロン
「俺は、自分の思うようにやりたいんだ」
ラグ
「この世界で……この地球でそんな事をやってる人間なんて、イノセントぐらいしか居ないよ。あんた変だよ」
エルチ
「私は……文化に一生を捧げたいのに……」
ジロン
「何故、拘っちゃいけないんだ……?」