第5話 3人そろってシャクの種

前回のあらすじ
惑星ゾラと言われている地球。しかし人々は、ゾラという名前を忘れて久しい。
ジロン・アモスは父の仇を狙って一週間。人に笑われようが馬鹿にされようが、仇討ちをやめようとはしなかった。
そんな中、エルチの父親が同じ運び屋グロッキーに殺された。
ジロンやラグは、そんなエルチにふっと同じ辛さを感じるのだった。
ジロン
「ちっ……」
「どうだった?」
ラグ
「なぁ〜んもなし。撒かれたと思えないんだけどねぇ」
ジロン
「蜥蜴一匹見付からない」
ブルメ
「見付けたよ」
ジロン
「え?」
「よーし、晩飯にするか……んっ!」
「んんっ……、わぁぁっ!」
一同
「ははっ……」
チル
「ラグぅ、グロッキー一家、諦めたんじゃないのぉ?」
ラグ
「そんな相手じゃないよ。キャリングの縄張りを手に入れるのが奴らの狙いなんだから」
チル
「ふむ」
ダイク
「となると、今の内に朝飯食いたいな」
チル
「うん、お腹ぺこぺこ!」
ダイク、チル
「……ん?」
ジロン
「アイアン・ギアーだ!」
ラグ
「グロッキー一家が裏をかいたんだよ」
「あれ?」
ジロン
「敵はどこだぁー?」
雇われ
「はぁ?」
ジロン
「敵だよ、敵はどこだ?」
雇われ
「敵? いやいや……」
「撃てぇーっ!」
ジロン
「んっ……敵も居ないのに、何故撃つんだぁ?」
雇われ
「弔砲も兼ねてテストですよ」
ジロン
「弔砲? 何それ」
雇われ
「葬式の景気付けでしょ?」
チル
「うわぁ、でっかい穴ぼこ!」
ダイク
「大蜥蜴の蒸焼き作るのか?」
プロポピエフ
「しぃ……」
ラグ
「いつグロッキー一家が攻撃してくるかって時に、何してんの?」
ホーラ
「文化的人間なら、葬式は丁重にやるもんだ」
「宜しいですか?」
エルチ
「やってください」
「さよなら、パパ……」
ジロン
「へぇ、文化的か……」
ラグ
「これが芸術なのね?」
ジロン
「だな」
ホーラ
「ボス……後の事は、及ばずながらこのキッド・ホーラが付いています」
「お嬢さんの事も大丈夫です。安心して逝ってください」
「よし、土を掛けろ」
プロポピエフ
「ちょっとお待ちを」
ホーラ
「何だ?」
プロポピエフ
「遠い母なる星では、お葬式にはお祈りが付き物……ご存知でしたか?」
ホーラ
「いや」
プロポピエフ
「どなたか、ご存知の方は?」
エルチ
「後はパパが好きなようにしましょ」
プロポピエフ
「では……」
ローズ
「行くわよぉ」
チル
「うわぁ、凄いやぁ」
プロポピエフ
「さぁ、皆さんも手拍子宜しく」
「は〜い、とんとんとん……」
ジロン
「ん?」
「気のせいかな?」
ティンプ
「ふんっ……運び屋のボスの葬式か。まるでイノセントの物真似じゃねぇか」
「風、か……。奴ら、仇討ちに出掛けてくる前に、グロッキーに螺子を巻いておくか」
「おっとと……」
「はぁっ! ……あっ!」
雇われ
「手勢を集めているなぁ。昨日の倍かぁ」
「うわっ!」
 〃
「カーゴ一家か!」
 〃
「戦闘態勢を取れ!」
グロッキー
「ウォーカー・マシン、急げ! 左舷だ!」
ティンプ
「待て待て、俺だ。早まるな」
「アイアン・ギアーの鼠を始末した所だが、追っ付け来るだろうよ」
グロッキー
「待っちゃいねぇよ。こっちから出てってもいいんでぇ。向こうの戦力はどうなんだ?」
ティンプ
「ブレーカーも僅かだ。骨のありそうなのは、キッド・ホーラ一人……と見たがな」
グロッキー
「いや、あんたの言い草をモロに信じて、ひでぇ目に遭ったんでぇ……。本当かな?」
ティンプ
「キャリングの縄張りが欲しいんだろ?」
グロッキー
「あぁ」
ティンプ
「だから手勢を集めたんだろ?」
グロッキー
「うん」
ティンプ
「これだけ居れば勝てるって信じてんだろ?」
グロッキー
「うん」
ティンプ
「大丈夫よ。今度のあんたなら」
グロッキー
「ふふっ……奴の言う通りだ」
チル
「ラグ、こんなのだったらさ、毎日お葬式だといいねぇ」
「ね?」
ブルメ
「だな」
チル
「ははっ……!」
エルチ
「パーティというのは、文明の高度の表れなのよ?」
ホーラ
「お嬢さん、出動します」
エルチ
「どこへ?」
ホーラ
「仇討ちだって、三日以内にやらなければなりません」
エルチ
「仇討ち? 何で? 私はどこかの海辺で、文化の為の仕事をするつもりなのよ?」
ホーラ
「えっ……」
ジロン
「ほ、本当かよ?」
ホーラ
「こっちがその気でも、グロッキーはアイアン・ギアーを叩く時だと思ってます」
エルチ
「運び屋の手形があればいいわ」
ホーラ
「グロッキーを叩かなきゃ、海辺へなんて行けませんぜ? 運び屋の権利を渡してください」
エルチ
「私はどうなるの?」
ホーラ
「私がお嬢さんと結婚します」
エルチ
「何ですってぇ?」
ホーラ
「ボスのOKも取ってあります」
一同
「へぇ……」
ホーラ
「今この場で結婚すれば、私にとってもボスは義理の親父……仇も討てるし、運び屋の権利も……」
エルチ
「何、寝言言ってんの?」
ホーラ
「うっ!」
エルチ
「いつまでも野蛮な事してるから、この地球は文化というものが育たないのよ」
ホーラ
「強い者が勝つ……それが掟だ! ボスも我々も、そうやって今日までやってきたんだ!」
エルチ
「そんな事だからいつまで経っても、コンピュータ・コアやホバー・ノズルなんかをイノセントから買わなきゃならないのよ」
ラグ
「ふっ、だからって私達に造れるってもんじゃないさ」
ホーラ
「ふふっ、イノセントはイノセントだ。俺達が、ははっ……!」
一同
「あっ……!」
ホーラ
「動くな! エルチの命はないぞ?」
エルチ
「ホーラ、何の真似なの?」
ホーラ
「グロッキー一家は俺が叩く。その代わり、ボスの運び屋の手形を渡してもらおう」
エルチ
「手形は誰にも渡すつもりはないわ」
ホーラ
「今日からは、キッド・ホーラが一家のボスだ!」
エルチ
「ホーラ……!」
ホーラ
「お嬢さん顔はよしな。俺がボスだ」
ルル・ミミ・キキ
「や〜んっ!」
ジロン
「たぁっ!」
ホーラ
「うっ、うぅっ……!」
ジロン
「てぇいっ!」
ホーラ
「小僧……!」
ジロン
「えぇいっ!」
ホーラ
「小僧、んっ……!」
ジロン
「あっ!」
チル
「あっ、ずる〜い!」
ホーラ
「いやぁぁっ!」
ジロン
「とぉっ、ふっ!」
一同
「ジロン!」
ホーラ
「すばしっこい野郎だ、このっ!」
「こいつ!」
ジロン
「んっ、たぁっ!」
ホーラ
「うぉっ、たぁっ、こいつめ!」
ジロン
「うわぁっ、落ちる! おっ、あぁっ……」
ホーラ
「ふんっ……」
ジロン
「んんっ……」
ホーラ
「ふんっ、この野郎……!」
「うわぁぁっ、ぁっ……!」
ジロン
「うわっ!」
「こいつ!」
エルチ
「ジロン、ザブングルだよ!」
ジロン
「よし!」
ホーラ
「ひよっこ共の勝手にはさせん!」
ジロン
「くそぉっ……!」
ブルメ
「あぁ、やばいよ!」
チル
「あーっ、ジローン」
ラグ
「あいつ、武器を持ってないよ」
ジロン
「あんたは人を自分の気分に従わせようとしすぎるんだ! 俺達は生きたいように生きる!」
ホーラ
「うわぁぁっ!」
ラグ
「ジロン!」
ジロン
「くそぉーっ!」
一同
「あっ……!」
ホーラ
「くっ……。ま、待て、撃つな! 負けだ!」
ジロン
「男が言う台詞かよ!」
ホーラ
「キッド・ホーラともあろうものが、こ、こんなにも無様に……」
「うぅっ、あんなひよっこ共に……」
「うっ……!」
エルチ
「ホーラは出ていったわ。他にこのアイアン・ギアーを出ていきたい人は、今の内に出ていっていいわ」
「私はグロッキーと事を構えるつもりはないんだから」
「居てくれるのなら、整備をやってちょうだい」
「貴方達は人形芝居の練習よ」
ジロン
「エルチ、あんたが仇討ちをやめたいって言ったって、グロッキー一家には分からないぜ?」
ラグ
「そうよ。こっちが手薄と知ったら、噛み付いてくるんじゃない?」
エルチ
「貴方達に任せるわ」
ラグ
「わ、私達がぁ?」
エルチ
「ここに居る気ならね」
ルル・ミミ・キキ
「宜しくお願いしま〜っす」
ブルメ
「……『しま〜っす』か。気楽なお嬢さん達だぜ」
ラグ
「食事の心配はしなくて済むって訳……」
ジロン
「俺は抜けるぜ」
ラグ
「何故?」
ジロン
「俺には行く所がある」
ブルメ
「ティンプとかって男を探すのかよ?」
ジロン
「あぁ。エルチが親父の仇討ちをしないのは勝手だけど」
「はっ!」
ラグ
「ジロン」
ジロン
「俺は、親父の仇を討つまでは諦めないぜ」
ラグ
「一週間も前の事を気にするなんて、おかしいわよ」
ジロン
「俺はまともだ!」
ラグ
「ベーッ。ふん、そんな事に拘ってたらすぐに干やがっちゃうんだから」
雇われ
「来た!」
グロッキー
「なっ、なな、何?」
ティンプ
「やっとお出ましか」
グロッキー
「どこだ? 青い奴か? 俺に貸せ!」
「各砲座、一発で仕留めろ! 撃てぇぇっ!」
「どうした?」
「ん? 攻撃やめろ!」
グロッキー
「ふむ、エルチって娘が仇討ちをやめたっていうのか? へへっ、いいニュースだ」
ティンプ
「そうかな? 大方、あの青いウォーカー・マシンに叩き出されてきたんだろ」
ホーラ
「違う! ちょっと油断しただけだ」
「グロッキーさん、今すぐ俺を雇ってくれ」
グロッキー
「うちは、使い物にならんブレーカーを雇っておくほど余裕はない」
ホーラ
「グロッキーさん……!」
グロッキー
「別口を当たりな。こいつは情報量だ」
ホーラ
「ちっ……」
一同
「ははっ……!」
ティンプ
「戦いたくない連中が新式のアイアン・ギアーを持っていても宝の持ち腐れだな」
グロッキー
「こっちから先制攻撃のチャンスだ」
ティンプ
「あんたがあのアイアン・ギアーを手に入れれば、文字通りボスの中のボス……」
グロッキー
「へへっ、ティンプさん、あんたはものがよく見える人だな」
「ん?」
ティンプ
「んんっ……うふふっ」
ジロン
「こいつ、ティンプに似てるな。ぐぬっ、どこ行ったー!」
「むぐっ、むぐっ……ざまぁ見ろ」
ティンプ
「グロッキーめ、取り囲む気か。このままじゃアイアン・ギアーは10分ともつまい。やむを得まい」
「起きろぉっ!」
チル
「うはっ……!」
ラグ
「いたっ……!」
チル
「いたぁ、何なん? せっかく夢見てたのにぃ。ふぁっ……」
ラグ
「チル! 早く着替えな」
「ぐずぐずしてると、永遠にお眠りになっちゃうよ」
グロッキー
「誰だ? 抜け駆けしやがったのは! 作戦を忘れたか?」
「ええい、やっちまえぃ!」
コトセット
「敵襲! 敵襲! 係員、配置に就け!」
エルチ
「そこは邪魔よ!」
ブルメ
「配置に就けったって、どうするんだ……あぁっ!」
ジロン
「ふぁっ……」
「はっ?」
グロッキー
「後40秒撃ち込め! その間にウォーカー・マシンが、アイアン・ギアーに接近して……」
雇われ
「ははっ……!」
プロポピエフ
「ひぇぇっ!」
ティンプ
「野郎、まだ早いぜ」
雇われ
「あれ? ティンプさんか。人が悪いぜ」
ティンプ
「手伝わしてもらうぜ」
雇われ
「わっ、わぁぁっ!」
ティンプ
「俺としちゃ、両方が再起不能になって欲しいのさ。悪く思うなよ」
ラグ
「こいつ、こいつ……ねぇ、弾が出ないよ」
ダイク
「えぇ?」
ラグ、ダイク
「わっ……!」
ダイク
「そいつは不良なんだ。取り外せ」
「くそぉーっ……」
キキ
「不良なんて何さ……」
ルル
「ミミ、あんた変な弾なんか選ぶからよ?」
ダイク
「焼き付いていて駄目だ」
ミミ
「私のせいじゃないわよぉ?」
ダイク
「分かってる」
ラグ
「あちっ! あんた、どういう手の皮してんだぁ?」
ダイク
「下がるんだぁ!」
一同
「わぁぁっ!」
コトセット
「不良弾が二発か。弾薬ブローカーを変えなきゃいかんなぁ」
グロッキー
「あと一息だ。踏み潰せぃ!」
ラグ
「エルチ、このままでは文化どころではなくなるわよ?」
エルチ
「そうね、仕方がないわ。アイアン・ギアーは捨てましょうか」
ラグ
「えぇっ? 捨てたからって、グロッキー達は私達を生かしておいてくれませんよ?」
エルチ
「やってみなくちゃ分からないわ」
ラグ
「ブレーカーなんかに身を落としたら、文化も何もないでしょ」
エルチ
「野菜でも作って文化的になるわ」
ラグ
「ははっ……」
エルチ
「何よ?」
ラグ
「ね、あんたの神経はブレーカー向きに出来てんのよ」
エルチ
「んっ……」
ブルメ
「あれを見ろよ。ジロンが帰ってきたぜ」
エルチ、ラグ
「ジロンが?」
「あんっ……」
ジロン
「踏み潰す気か?」
「食らえぇっ!」
「格納庫を開け!」
ジロン
「うわっ! な、何だぁ?」
チル
「ジロン、遅いじゃない」
ラグ
「ジロン……」
ジロン
「こんだけ揃ってて、奴らに好き勝手させやがって……!」
エルチ
「だって、急に来たんで……」
ラグ
「何さ、好き勝手にティンプなんか追い掛けた癖に……」
ジロン
「やりようがあるだろ? 変形して巨大ウォーカー・マシンになれるのが、アイアン・ギアーのセールス・ポイントだろ?」
エルチ
「そっか! ウォーカー・マシンになって山の向こうのグロッキーを……」
コトセット
「やっております」
エルチ
「各砲台で敵を撃退するのよ!」
ラグ
「よっ! 女艦長!」
ティンプ
「おっ……アイアン・ギアーが変形する」
チル
「凄いや」
ダイク、チル
「うわっ……!」
ジロン
「わっ……」
「どうなってんだぁ?」
ブルメ
「ブルメ! 足を引っ込めるの忘れたろ?」
ブルメ
「ははっ、そうか。わりぃわりぃ」
エルチ
「しっかりしなさいよ、見掛けばっかりね」
ブルメ
「何が?」
エルチ
「格好いいのがさ」
雇われ
「あぁっ……あれがウォーカー・マシン?」
 〃
「うそぉっ……ひぃぃっ!」
雇われ
「ボス、ランド・ギャランが巨大ロボになっちゃったよぉ」
グロッキー
「何を寝惚けて……おっ? おぉっ……?」
「撃て、撃て、撃ちまくれぇーっ!」
ダイク
「やれぇっ! 殴り飛ばせぇっ!」
グロッキー
「退け! 退けぇーっ! い、急げぇーっ!」
ジロン
「撃てぇーっ、撃てぇーっ!」
ティンプ
「成る程な、物には使いようがあるという訳か」
「イノセントは、連中に新式のマシンを渡しすぎたかもしれんな」
チル
「わぁ〜い! 勝った、勝ったぁ!」
ジロン
「今日はこれまでだな。今からアイアン・ギアーで追い掛けても、グロッキーの止めを刺せる訳もないしな」
ブルメ
「あぁ、俺達ちっとばかり訓練不足ね」
エルチ
「これ以上、血を見るのは沢山よ」
ジロン
「それが、文化的なお言葉なのね?」
ブルメ
「ははっ……」
コトセット
「(?)の方の弾を無駄に使いすぎる」
それに助けに来るならもっと早く来る事。今夜みたいな事では戦いには勝ち続けられなーい」
ジロン
「おぉ……? でもさぁ、俺はティンプを……」
コトセット
「この点数分だけ給料から差し引いてください、艦長」
エルチ
「給料? な〜るほど」
ラグ
「えぇ?」
ダイク
「差し引く……?」
ブルメ
「おい、いつから給料取りになったんだ?」
ジロン
「知らない」