第11話 追いかけて、追いかけて

前回のあらすじ
惑星ゾラと言われている地球。しかし人々は、ゾラという名前を忘れて久しい。
ジロン・アモスは、アイアン・ギアーに乗り込んだティンプとマダム・ギャブレット達と接近戦を演じます。
その挙句の果てにジロンは、ティンプとギャブレットの醜い内輪揉めを見せられます。
マダム・ギャブレット、疫病神のティンプ死ねよと一人マシンに乗り込んで、髪振り乱し攻め込むものの、
女一人の細腕だけでティンプ・シャローンは倒せません。返り討ち悲し、ギャブレット・ギャブレイでした。
ティンプ
「ふん、流離いのガンマンじゃあるまいし……たまったもんじゃねぇな」
「んっ……全くざまぁないね」
「今時、三日の掟を無視して復讐に取り付かれた餓鬼がいるってのが……あぁっ!」
ジロン
「ん? ガバメント……。間違いない」
「遂に見付けた。奴が並の腕じゃないって事はよく分かってるさ」
「けどさ、俺だって並の腕じゃないって事を思い知らせてやるぞ」
ティンプ
「ん? おっ……」
「あの野郎、ここまでしつこいってのはおかしいぜ」
「あっ……!」
「こんな時に限ってリモコンは効かねぇ、何は出来ねえでよぉ」
ジロン
「わっ……!」
ティンプ
「何だぁ? 届かねぇじゃねえか、このポンコツめ」
「道理で安かった訳だ。バーゲン品じゃやっぱり、火薬まで安物だって事だ。ふんっ」
ジロン
「んっ……?」
ティンプ
「どれ……」
「ふっ、あばよ兄ちゃん」
「んっ、このこの! ええい、くそっ! オンボロリモコンめ」
「あれ? どこへ行った、小僧は……」
「あぁっ……!」
ジロン
「貰ったぁーっ!」
ティンプ
「くっ……!」
ジロン
「逃がすかぁ!」
エルチ
「コトセット……これ以上のスピードは出ないの?」
コトセット
「吹き上がりが悪いんです。無理して、エンジンを駄目にしていいんですか?」
「速度を落とさせます」
エルチ
「そんな事したらクビにするから!」
コトセット
「させられるものならしてご覧なさい」
「15キロ減速!」
エルチ
「駄目! 15キロ加速!」
コトセット
「減速だ!」
エルチ
「スピードは上げるの! 艦長は私よ?」
コトセット
「私はメカニック・マンですよ?」
エルチ
「砲台! ザブングルはまだ見えないの?」
ブルメ
「俺の目は人一倍見えるんだぜ?」
エルチ
「下らない自慢してないで、見落としたらクビにするわよ!」
ブルメ
「あれ? 俺、雇われた覚えないけど?」
エルチ
「ワーッ!」
コトセット
「エンジンを見張ってろ! 危なくなったら逃げ出せ!」
エルチ
「コトセット、ジロンを捜すんだからスピード落としちゃ駄目!」
ラグ
「ヒステリーね、エルチ」
チル
「ヒステリー?」
ラグ
「ジロンの事が心配なのさ」
チル
「だったら、あたいだってヒステリーだよ……あっ!」
ラグ
「あぁっ……!」
「チルは、ジロンが戻ってくると思うかい?」
チル
「え?」
ラグ
「仇討ち、仇討ち……そんなに大事なのかね?」
チル
「ジロンは負けないよ。あたいのお兄ちゃんになってくれたんだもん」
ラグ
「復讐が済んだら、ジロン一人でどこかへ行っちゃうんじゃないかね……」
チル
「そんな事ないや!」
ラグ
「そうだね、ははっ……。馬鹿だね、私。さっ、引き上げてやるよ」
チル
「そっか、ラグもエルチと同じか。ししっ……」
ラグ
「私はヒステリーじゃないよ! 自分で上がってきな!」
チル
「ケチ!」
ティンプ
「んんっ……何で俺が穴掘りをしなきゃなんねぇんだ?」
「ふぅっ……。しかし、こんな所に地雷原があるとは……小僧め、これでお終いだ。穴掘りも無駄にはなるまい」
ジロン
「奴の足跡か」
ティンプ
「来たな?」
ジロン
「オアシスに居たか」
「わっ……地雷だ! んんっ……!」
ティンプ
「小僧だけを倒せばいいとなれば、ふふっ……」
ジロン
「よーし、行くぞぉ!」
「また隠れたな? んっ……!」
「ガバメント!」
「ティンプ! くそっ……」
ティンプ
「動くな!」
ジロン
「うっ……!」
ティンプ
「この勝負、俺の勝ちだな。え、兄ちゃん?」
ジロン
「えいっ!」
ティンプ
「ちっ!」
「あっ……!」
ジロン
「この、このっ……!」
ティンプ
「あぁっ……!」
ジロン
「くそっ、この……ちょっと動きが悪いんじゃないの?」
ティンプ
「人のウォーカー・マシンに逃げ込むなんて、どういう神経だ?」
「照準か……行けっ!」
「あの小僧、銃に変な癖つけやがったな? 照準が合ってない!」
ジロン
「無駄弾使いやがって! 見てろ、こっちだって……!」
「あ? 壊れてる?」
ティンプ
「これじゃ使い物になりゃしねぇじゃねえか」
ジロン
「捨てるな! 俺の銃だぞ!」
ティンプ
「小僧! 無駄に燃料使うな!」
ジロン
「俺のマシンだぞ! もっと丁寧に使え!」
ティンプ
「畜生!」
「うぉぉっ!」
ジロン
「てやぁぁっ!」
ティンプ
「人のマシン、勝手に使うな!」
ジロン
「そっちこそ、俺のマシンを……わっ!」
ティンプ
「へっ!」
ジロン
「あっ……これじゃ乗れない!」
「わぁぁっ、わっ、わっ……!」
「占めた!」
ティンプ
「えぇいっ……!」
ジロン
「逃げた?」
エルチ
「待って! 行くんなら私が行くわ」
ラグ
「エルチは船を離れちゃ駄目よ」
エルチ
「艦長の言う事が聞けないの?」
ラグ
「首にするならいつでもどうぞ。私はジロンを放っておけないのよ」
ダイク
「俺もだ。あんたのヒステリーで鼓膜が破れそうだからね」
エルチ
「何ですって?」
チル
「早く行こう?」
ビッグマン
「どのくらい掛かる?」
修理屋
「それがその、同じパーツがあるかどうか……。取り寄せるとなると、値段も高くなりますしね」
ビッグマン
「俺の目を節穴と思っとるのか。あれは何だ?」
修理屋
「え?」
「申し訳ございません。つい気が付きませんで……流石、お目が早い」
ビッグマン
「埃を被った中古を高く売るつもりか? 半値しか払わん」
修理屋
「そ、そんな……決して下心があった訳では……」
ビッグマン
「もう一つ。いい医者を紹介してもらおう」
修理屋
「いい医者?」
ビッグマン
「怪我人だ。急いでくれ」
修理屋
「あぁ、はい。確か流れもんの何とかいう……」
「そうだ、メディック。酒場で管を巻いてる筈です。腕の方は……あっ、お大事に」
「……狸め、儲け損なったわい」
ジロン
「あの町は確か、石油の中継所……補給させると面倒な事になるぞ。ティンプめ」
「はぁっ、はぁっ……いい所に逃げ込んでくれたぜ。流石ティンプだって訳かい」
「撃ってこない……弾がないのか? 居ないのか?」
「俺なら、あのタンクを使うな」
「よーし、やってみるか」
メディック
「てやんでぃ! 人を無理矢理連れてきて、治療しろだと?」
「ぶっ!」
雇われ
「野郎……!」
メディック
「殴ったら、金輪際診てやらんぞ?」
「ひひっ……」
雇われ
「ほれ、ビッグマンからの金だ。とにかく怪我人続出、仕事にも何にもならんのだ。やってやってくれ」
メディック
「こっちも要るな」
雇われ
「はいよ」
ラグ
「ジロン……これだけ捜して居ないっていうのは……」
「これっきりアイアン・ギアーに戻らないって訳じゃないんだろうにさ」
チル
「ザブングルもジロンも見えないね?」
ダイク
「『仇は見付かった』なんて叫んで、飛び出したまんまだもんな」
「おっ……?」
チル
「落ちるの?」
ダイク
「大丈夫、滑空してるんだ。もう一丁!」
「あ? あれは、ビッグマンのランド・シップ……」
チル
「どれどれ? あぁ、面白い格好!」
ダイク
「くっ……こんなんじゃ、ウォーカー・マシンの方がずっといいぜ」
「こんな近くにビッグマンが居るとなれば、アイアン・ギアーを方向転換させないと不味い事になるぞ」
ジロン
「うっ……!」
ティンプ
「奴もお終いか。ん……?」
ジロン
「はは〜ん、戴き!」
「あっ……!」
ティンプ
「ふんっ、喋ってる暇があるからこうなるのさ。一気にケリを付けてやるぜ」
ラグ
「どうしたの?」
ダイク
「ビッグマンのランド・シップだ。すぐそこの山の向こうに居る」
ラグ
「何だって? ビッグマンのランド・シップ? まさか、見付かっちゃいないだろうね?」
ダイク
「こっちは、サッと降りちゃったからさ。大丈夫」
ラグ
「信じられないね。ほう、あれ何さ?」
ダイク
「ん?」
チル
「ん?」
ダイク
「おっ……ビッグマンの先発隊だ。ラグ!」
ラグ
「ドジだって事が分かりゃいいのさ! 場合によっては、ザブングルにドッキングして逃げるよ!」
雇われ
「ビッグマン……!」
ビッグマン
「アイアン・ギアーが来ん限り気にするな。このデラバスに近付けなければよい」
雇われ
「しかし……!」
ビッグマン
「ちと気になる事があるのだ。それを調べるのが先だ」
雇われ
「イタァーッ!」
メディック
「消毒しただけでも有難いと思え」
雇われ
「あ、ビッグマン……」
ビッグマン
「戦いの後、ティンプを見掛けた者は居らんか?」
雇われ
「へい、そういやあれっきし見ませんね」
メディック
「ひょっとするとあんた方、キャリング・カーゴのルートで戦ったんじゃないのかな?」
ビッグマン
「医者風情、物は聞いておらん」
メディック
「ザブングルに乗っている子供の事を知っとるのか? 親の仇だといって、ティンプをもうニ、三週間も追い続けてる」
ビッグマン
「三日限りの掟を守れない子供が居る……そんな奴居るなど、聞いた事がない」
メディック
「ワシもだ」
ビッグマン
「そんな奴は後ろから撃たれても文句は言えんのだ」
「その子供を倒す為に、ティンプはワシを唆してアイアン・ギアーを攻撃させたというのか」
メディック
「だろ?」
ビッグマン
「なら、何故ティンプは消えたのだ?」
メディック
「子供一人の為にあんたを動かしたのを悪いと思ったんだろ」
ビッグマン
「掟を破る奴を倒す為になら、ワシは出る。そうではないのだ、ティンプは」
メディック
「ん?」
ビッグマン
「イノセントは自分達が儲ける為に、運び屋に武器を売ってお互いを戦わせるという噂、どうやら本当に思えてきた」
メディック
「馬鹿な……イノセントは、生きる為、必要な物を提供してくれる偉大な存在だよ」
ビッグマン
「お前もインテリだろう。もっと深く考えろ。ティンプはイノセントの仕掛け人なのだ」
メディック
「インテリだから深く考えないのさ。口は災いの素だからな」
ビッグマン
「何?」
ビッグマン
「あんた消されるぜ? イノセントに……」
ラグ
「ええい、当たれ当たれっ!」
チル
「ダイク!」
ダイク
「くそっ!」
ダイク、チル
「わわっ……!」
ラグ
「アフター・バーナーを掛けるんだよ! ザブングルになるよ!」
チル
「わっ、わっ……!」
ラグ
「このぉーっ!」
「あぁっ……!」
ダイク
「何やってんだ、ラグ! ザブングルになったら、このコックピットから出られないんだ!」
ビッグマン
「敵は1機なのだな?」
雇われ
「は、はい!」
ビッグマン
「深追いをするな」
雇われ
「な、何故ですか、ビッグマン?」
ビッグマン
「戦力を揃えて総攻撃だ。引き返せ」
雇われ
「了解!」
ビッグマン
「あぁっ……!」
ジロン
「んっ……?」
「うっ、弾が切れた……?」
「やってやろうじゃん!」
「居ない?」
「わっ、リモコンか! こいつ、こいつ……!」
「流石、凄いパワーだ! わぁぁっ……!」
「ティンプ、卑怯だぞ! それが大人のやる事か!」
「こっちは子供でも正々堂々とやってるんだ! 出てきて勝負しろ!」
ティンプ
「ふふっ、正直なのは人に好かれるがな、それじゃ世の中生きていけねぇんだよ!」
ジロン
「くそぉっ、と、飛び乗ってガバメントのスイッチを切りにいけば、その間に潰される……」
「アクセル外す訳にもいかない!」
ティンプ
「もっと面白い事を教えようか、兄ちゃん。そのガバメントには爆薬が仕掛けてあるんだよ。どうする?」
ジロン
「ば、爆薬? んんっ……やってくれ!」
ティンプ
「ふっ、小僧、罠に掛かったな! 爆薬を仕掛けたのはそっちのタンクだ!」
ジロン
「ティンプ! ティンプ……わっ!」
ティンプ
「ふふっ、石油の残ったタンクがまだあったのさ。それを思い付かなかった兄ちゃんが不幸なのよ」
エルチ
「ハートのエース、スペードのエース、ハートのエース、スペードの……」
「あぁっ、絶望……!」
ラグ
「あれあれ、艦長さんは気楽なものね」
エルチ
「気楽なものですか。あんた達が居ない間にビッグマンが襲ってきたらとか」
「上納ポイントPに近付いたっていうのに支度は出来てないだとか、憂鬱よ!」
ラグ
「ジロンは見付からない、ビッグマンは近くでブレーカーを集めている……」
「ふんっ、心配のアイアン・ギアーに戻れば、艦長はこうだしさ」
チル
「ヒステリー治ってないの?」
エルチ
「え? 私の事?」
チル
「恋煩いだって」
エルチ
「誰に?」
ラグ
「ジロンでしょ?」
エルチ
「誰があんなガサツなのに煩わなけりゃいけないのよ!」
ラグ
「さぁ誰でしょうかね? ジロンが恋焦がれているのは、ティンプさんなんですよ?」
エルチ
「あぁん、もう!」
ラグ
「お〜嫌だ嫌だ。女は醜い」
チル
「そうなの?」
ラグ
「そうだろ?」
チル
「うん、シリアスね」
ジロン
「こなくそぉっ! この熱さぐらい、何だってんだ!」
「親父とお袋を殺されて、黙っていられるかぁぁっ!」
「わぁぁっ!」
「もう一発……もう一発でいいんだ! ホバー・ノズルが……!」
「鉄の爪の息子が、こんな事ぐらいでくたばるか!」
「逃がすもんか! 地の果てまでも追い掛けてやる!」
「ん? あの先……あれは、あの緑は……」
「あれが上納ポイントか。イノセントと運び屋が出会えるPポイントか」
「ティンプもあそこを目指しているのか。アイアン・ギアーと同じに……」