第12話 謎また謎のイノセント

前回のあらすじ
惑星ゾラと言われている地球。しかし人々は、ゾラという名前を忘れて久しい。
ジロン・アモスは、両親の仇ティンプ・シャローンを追いに追う。
ゴースト・タウンも砂漠も何のその、所構わず追い掛けますが、追い掛けっこにも限度があります。
ティンプの仕掛けたリモコン・ガバメントの攻撃に、遂にティンプを取り逃がし、
ジロンが目にしたものはイノセントの上納ポイントの一つ、Pポイントでした。
ジロン
「あれがP上納ポイントだな。まさかティンプの奴、あそこに入ったんじゃないだろうな」
「ん? 運び屋でないと、聖域へ入るのは厄介なようだな」
「アイアン・ギアーで潜り込むしかないか」
コトセット
「ブルー・ストーン、重量チェック終わり。異常なし」
エルチ
「不良品チェックは?」
コトセット
「済んでます」
チル
「ねえねえ、イノセントの上納ポイントってどんなとこ?」
エルチ
「そうね、天国のような所よ」
雇われ
「もしもし、もしもし、B3からビッグマン機関本部へ。アイアン・ギアー発見。上納ポイントへ直進中」
 〃
「よーし、すぐ戻れ」
 〃
「了解しました……おっとっと!」
ビッグマン
「ふむ、やはり経済コースか。ならば待ち伏せ地点は死の谷だな」
幹部
「了解。全速前進!」
雇われ
「はい!」
ブルメ
「あ〜、終わった終わった」
ラグ
「あれ?」
ブルメ
「何だ?」
ラグ
「何のおまじないだい?」
チル
「イノセントのご挨拶なんだってよ」
ブルメ
「俺はまた、蝿のダンスかと思ったぜ」
ラグ、ブルメ
「ははっ……!」
エルチ
「あんた達には、何も分かっていないのよ!」
ラグ
「上納ポイントとかイノセントの聖域なんて、全然関係なかったもん」
エルチ
「そんな事、自慢にならないわよ」
ラグ
「そうかい」
エルチ
「イノセントの人達は、清潔で礼儀正しく、上品で最高の文化的生活をしてるわ」
ブルメ
「だからって俺達がそんな事やってみろよ」
ダイク
「肩は凝るし、飯は食えなくなる」
チル
「どんなとこに住んでんの?」
エルチ
「ドームの中にはプールがあって、庭には花が咲いて、緑の樹が一杯なの」
ダイク
「でもさ、そん中ではドンパチ出来ないんだろ?」
ブルメ
「お〜やだやだ」
エルチ
「貴方達も少しはイノセントを見倣うといいわ」
ラグ
「そんなの、生きてんのか死んでんのか分かんないじゃないか」
エルチ
「野蛮人!」
ラグ
「そんなのがいいなら、あんたがイノセントの仲間に入ればいいのよ!」
ブルメ
「運び屋イノセントか、ははっ……!」
エルチ
「運び屋は私の仕事よ!」
チル
「わっ、気味わりぃ……」
エルチ
「死の谷よ。ここを抜けると近道なの」
「まだやってる……いい加減にやめさせてよ」
ローズ
「1・2・3・4、はいはい……あっ!」
エルチ
「何?」
ブルメ
「ウォーカー・マシンの群れだ」
ダイク
「どこのだ?」
ラグ
「みんな、戦闘配置に付きな!」
エルチ
「全員、戦闘配置に付けーっ! 聖域に弾が入らないようにね」
「あら、大丈夫?」
コトセット
「天誅! どけぇーっ!」
ファットマン
「あっ……!」
コトセット
「全速力で突破するぞ!」
エルチ
「よし、コトセット任せる! アイアン・ギアーを無事、上納ポイントへ!」
コトセット
「はっ! 行くぞ!」
ローズ
「あんた! あんた!」
ラグ
「モタモタするんじゃないよ!」
ブルメ
「野郎、くそっ、この……あぁっ!」
ルル・ミミ・キキ
「キャーッ!」
ラグ
「あっ……!」
エルチ
「左よ左、撃って撃って!」
ラグ
「大砲、何してんの?」
プロポピエフ
「近すぎて撃てませんよ!」
ローズ
「あんたはいいから!」
ブルメ
「うわっ……!」
雇われ
「どうした?」
 〃
「足が戻らなね……わっ!」
ブルメ
「この野郎、この野郎!」
雇われ
「この野郎!」
ブルメ
「うわっ、わっ、わっ……!」
エルチ
「あれで本気で戦ってるつもりなの? ラグ達は……!」
「うぅっ……ええい!」
「はっ……!」
ダイク
「こうなりゃ、主人公メカが出なくちゃ」
チル
「話にならないんだわさ」
ダイク
「あれ? どうした?」
チル
「ダイク?」
ラグ
「ビッグマンの船が来るんだよ、ダイク!」
ダイク
「マシンに言ってくれ!」
ラグ
「動け!」
ダイク
「わぁぁっ……!」
「掛かった!」
チル
「変形してんの?」
ダイク
「してる筈だ」
「今日はツイてねぇや」
ラグ
「ダイク、後ろ!」
ダイク
「え? うぉっ、わっ……!」
チル
「ダイク〜!」
ダイク
「ジロンの奴、こんな時に……!」
チル
「早く!」
ダイク
「やってるよ!」
ビッグマン
「これで袋の鼠だ。二号艦を奴らの背後に回らせて、退路を断て」
コトセット
「うわっ!」
エルチ
「挟み撃ちに遭ったみたいよ。後ろからも来る」
コトセット
「流石、ビッグマンと云われる男だ」
エルチ
「何故なの? それ程の男が……うっ!」
コトセット
「第一エンジン被弾! 機能停止!」
エルチ
「ジロン、帰ってきて。どこに行ったのよ……」
雇われ
「うわぁっ!」
チル
「ダイク、ライフル取ってこなくちゃ」
ダイク
「うん、分かってるんだが……」
ブルメ
「ええい、ジロンの馬鹿! どこ行ったんだよ?」
「わっ!」
ビッグマン
「ふふっ、ま、ワシが本気になればこんなものさね。掟を破るものはな」
雇われ
「へへっ、ちょろいちょろい。本当にこんな仕事でお手当くれるの? ビッグマン」
「うわっ、あっ……!」
ラグ
「ジロン!」
エルチ
「ジロン!」
ルル・ミミ・キキ
「帰ってきた! わ〜い!」
チル
「待ってたよ、ジロン!」
ブルメ
「あの馬鹿、何やってたんだ」
ダイク
「あいつ、帰ってきたか」
ジロン
「潰されたくなかったら撃て!」
雇われ
「うわっ、わっ……!」
エルチ
「コトセット、ジロンがやってくれてるの。強行突破よ」
コトセット
「動かないエンジンが動く訳ないでしょ……あっ、やってみましょ素早く」
エルチ
「うっ……」
ビッグマン
「新手はウォーカー・マシンたかが一機だ。さっさと片付けろ!」
ラグ
「ジロンを援護して!」
雇われ
「うぅっ……!」
ビッグマン
「距離を取れ、後退しろ!」
「よーし、撃ち続けろ」
雇われ
「聖域に近付きすぎてます!」
ビッグマン
「何?」
「撃ち方やめ! これ以上、聖域の近くで戦うのは危険だ。イノセントが来る」
エルチ
「上納ポイントにあんなに近く……撃ち方やめ! 撃ち方やめ! 全員、撃ち方やめ!」
「撃つのやめんのよ! いい加減にして!」
ジロン
「上納ポイントに近付きすぎたのか?」
ダイク
「へぇ、あれが聖域なのか」
チル
「聖域?」
ブルメ
「一発や二発は聖域の中に入ったんじゃないの?」
ラグ
「そのくらいなら大丈夫じゃない?」
エルチ
「冗談言わないで! イノセントは、ビッグマンでも逃げ出すぐらいなのよ? お仕置きあっても知らないから!」
「着地させて」
コトセット
「はいはい」
ジロン
「わわっ、わっ……!」
ルル・ミミ・キキ
「きゃ〜っ!」
エルチ
「イノセントの警戒ラインよ。浮上させて!」
コトセット
「は、はっ……」
エルチ
「上納ポイントP137、応答願います。こちらは運び屋エルチ・カーゴです。応答願います」
職員
「エルチ・カーゴ、手形の記号番号を申告せよ」
エルチ
「M73106、キャリング・カーゴの手形代行者です」
職員
「コンピュータが確認した。ブルー・ストーンを運んできたか?」
エルチ
「はい。上納させていただきに参りました」
職員
「進入路は2、ゲートは14だ」
エルチ
「ありがとう」
チル
「わぁ、これが天国の入口なの?」
エルチ
「そうよ」
音声
「M73106入港、船主の以来があれば……」
エルチ
「ここでブルー・ストーンを、金やブレーカーの欲しがってるものと取り替えるのよ」
ジロン
「こんな所でバザーか?」
エルチ
「ビジネスは奥のオフィスでやるの」
一同
「わっ……!」
エルチ
「静かに。これは聖域に入る儀式なのよ」
一同
「げほっ、げほっ……わっ!」
エルチ
「この扉が、本当の天国への扉よ」
ジロン
「まさかな……こんな所にティンプが入れる訳ない……」
一同
「わっ……!」
チル
「へぇ、これがイノセントの町?」
エルチ
「違う違う、ここは私達の入れる所でしかないわ」
ジロン
「上納ポイントだなんていうから、もっとでっかい倉庫みたいな所かと思ったんだけど……」
ラグ
「でもさ、どこの町って訳でもないわね」
エルチ
「でも、文化の薫り一杯って、こういう事を言うのよ?」
ブルメ
「話では分かるけどさ。何かこう、嘘っぽくない?」
エルチ
「何で? 何でもある所よ?」
「あれが取引をするオフィス・ビルでしょ。それからホテルに商店、あんた達の知らないもの一杯やってるわ」
ブルメ
「こんなぺらぺらが、一万ギャラント……」
ダイク
「こんなの着たってすぐ破れちまうぜ」
ジロン
「これだけ人が集まってりゃ、ティンプの居る可能性も……」
「あっ……!」
「何だ? あの無愛想な塀は……」
エルチ
「あれがイノセントの生活する所よ。奥に別のドームもあるけどね」
ジロン
「あっちへ入る道は?」
エルチ
「ないわ」
ジロン
「イノセントしか入れないって事か?」
「となれば、ティンプの奴はこの町の中に居るな……」
チル
「わぁ、見てみて! 水が吹き出してるよ」
エルチ
「あれは噴水っていうのよ」
チル
「わぁ、綺麗な水……」
ブルメ
「本当だ、飲めそうだぜ」
エルチ
「えぇ、遠慮なくどうぞ」
ダイク
「よーし!」
チル
「でもさ、後でばっちしお金取られるんじゃない?」
エルチ
「大丈夫、ここは貴方達のような人に文化を教える所だから」
チル
「本当? やほ〜いっ!」
エルチ
「見物は後にしてビジネスを片付けなきゃ。行くわよ」
ジロン
「人形みたいだな……」
「おっと」
エルチ
「後ろの椅子に座ってて」
ジロン
「あっ……!」
エルチ
「M73106号、エルチ・カーゴです」
「これが集めたブルー・ストーンの数量の書類、こちらが頂きたいコンピュータ・コアなどの荷受けリストです」
「チル」
チル
「ふふっ……」
ブルメ
「何だろうね? ここさ」
ダイク
「背中むずむずするな。ガード・マンはきっちり居るしよ」
チル
「ねぇね、ジロン、気味悪いよ」
ジロン
「あぁ、出ようか」
チル
「うん」
一同
「わっ……!」
職員
「ミス・エルチ」
エルチ
「はい」
職員
「本日の業務は終了しました。明日来てください」
エルチ
「承知致しました」
一同
「おっ……」
チル
「面白い!」
ラグ
「どうも好きになれないよ、こういう雰囲気……」
エルチ
「慣れれば楽なものよ」
ジロン
「しかし、イノセントのビジネスってのは随分と無愛想なもんだな」
エルチ
「合理的なのよ。それも文化的生活の一つね」
ブルメ
「あ〜食った食った。一つ、食後の散歩がてら見物でもすっか」
ダイク
「おう」
エルチ
「駄目よ」
ダイク
「え?」
エルチ
「夜間の外出は禁止されてるわ」
ジロン
「何でだよ?」
エルチ
「秩序を守る為よ」
ジロン
「ティンプは見掛けなかった。ひょっとしたら、あの向こうかな……明日はあっちを捜してやるか」
「あっ……どうなってんだここは?」
ジロン
「この向こうに入れたら……」
「意外に狭いんだな」
「あっ、ティンプ……ティンプだ!」
「わっ、わっ……!」
警備員
「居住区域に近付く事は禁止されている。タブーを犯した者は即座に射殺する」
ジロン
「勝手な事言ってさ! 何だい、イノセントってのは!」
ドワス
「ミス・エルチ」
エルチ
「はい」
ラグ
「あれが、ここのボスかい?」
エルチ
「あんなの下っ端よ」
チル
「散々待たせちゃってさ」
エルチ
「……何ですって?」
ラグ
「ん……?」
エルチ
「手形にミスがあるとは、どういう事でしょう?」
ドワス
「父親の死によって受け継いではいるが、ニ週間以内に最寄りのポイントで名義変更手続きをするのが決まり」
エルチ
「契約書は全部読んだけど、そんな事どこにも……」
ドワス
「契約義務に違反している。よって、上納は認めない」
ラグ
「そんな無茶な……!」
エルチ
「ラグ……」
ラグ
「手続きしようにも、荒野のど真ん中だったんだよ?」
ドワス
「礼儀を弁えておらんらしいな」
ラグ
「礼儀? 冗談じゃないよ! 私達がどんな思いをしてここまで来たと思ってんだい」
ドワス
「そのような事は関知しない」
ラグ
「あんた、血も涙もないのかい?」
ドワス
「執政官侮辱罪だ。逮捕しろ」
ラグ
「何すんの? 放して!」
ドワス
「この者達のブルー・ストーンは没収処分にしたまえ」
チル
「ジローン」
ジロン
「お? おい、どうした、ビジネスは?」
チル
「それが、大変!」
ダイク
「エルチの手形にミスがあったとかで、ラグと捕まっちゃったんだ」
ジロン
「イノセントめ、何て奴らだ」
ブルメ
「あっ……」
チル
「あいつらだ!」
ジロン
「逃げろ!」
ダイク
「おう!」
警備員
「止まれ! 反逆罪で射殺する!」
ジロン
「訳も分からず殺されてたまるか!」
店員
「お? おいこら、何すんだ?」
ジロン
「ごめんよ!」
荒くれ
「おう、こっち来るぞ!」
一同
「やったぁ、ははっ……わっ!」
荒くれ
「おっ……」
チル
「ジロン、早く〜!」
ジロン
「えいっ!」
コトセット
「何だって?」
チル
「だってあいつら、汚いんだもん」
コトセット
「え、えらい事してくれたな」
ダイク
「俺達にだって問答無用で掛かってきたんだ」
ジロン
「捕まったら、反逆罪とやらで射殺だってさ」
コトセット
「じゃあ、お嬢さん達は……」
ジロン
「腕ずくで奪い返すしかないな」
コトセット
「そんな無茶な……馬鹿げてる」
ジロン
「無茶は向こうだぜ。あいつら、俺達を砂漠蜥蜴と同じくらいにしか思ってないんだ」
コトセット
「し、しかし……」
チル
「また来た!」
コトセット
「待ってくれ! 話がある! 話せば分かる……わっ!」
ジロン
「話は通じないぜ!」
コトセット
「やめろ、ジロン!」
ジロン
「どうせ殺されるんなら、俺は最後まで戦ってやる!」
コトセット
「落ち着け、ジロン!」
「うわっ!」
ジロン
「俺達はイノセントに飼われてる羊じゃないんだ! 奴らの勝手にされてたまるか!」
ドワス
「あいつは何をしようというのだ?」
エルチ
「やめてジロン、イノセントに逆らうなんて自殺行為よ」
ドワス
「その通り」
エルチ
「ジロン、私達を破滅させる気なの?」
ジロン
「どの道、破滅らしいぜ! だが簡単には行かん!」
ラグ
「そうだよジロン、死に花咲かせるんだ!」
ドワス
「な、何と。我々に歯向かうとは、信じられん……!」
ラグ
「一寸の虫にも五分の魂ってね」
ドワス
「あぁっ、また! 神よ……」
ジロン
「イノセントだか何だか知らんが、お高く止まるな!」
ダイク
「その調子!」
コトセット
「もう知らん……」
ジロン
「思い知ったか!」
ビエル
「待ちなさい、諸君」
一同
「あぁっ……」
ビエル
「私はこの上納ポイントの責任者、一級執政官ビエルだ。これだけ暴れれば気持ちも治まった筈だ。話を聞こう」
「さぁ、悪いようにはしないつもりだ」
ビエル
「これで手続きは完璧だ。部下のミスは心からお詫びする」
エルチ
「あぁ、有難うございます。ビエル様」
ビエル
「契約は認めよう。ただし、損害の最小限は弁償していただくが、宜しいかな?」
エルチ
「勿論です。乱暴は心からお詫び申し上げます」
ビエル
「いやいや、元気の良いお仲間を持って羨ましい」
「では、ミス・エルチ。これからも若い運び屋として頑張ってください」
エルチ
「あ、有難うございます。ビエル執政官」
ジロン
「あの……」
エルチ
「ジロン」
ジロン
「ティンプという男を知りませんか?」
エルチ
「ジロン……!」
ビエル
「知らんな」
ジロン
「ドームの居住区で確かに見たのだけれど……」
ビエル
「イノセントなのか?」
ジロン
「いや、イノセントの雇われブレーカー。争い事の仕掛け人だ」
ビエル
「ははっ……。そんな噂が流れているのか。ふふっ、知らんよ。精々、良い商売をするのだな」
ジロン
「あっ……!」
エルチ
「何で……何であんな馬鹿な事を、ビエル様に聞いたの?」
ジロン
「馬鹿な事じゃない! 俺にとってはな……」
ドワス
「宜しいのですか? 彼らをこのままにしておいて」
「ビエル執政」
ビエル
「構わん。掟を破る者達であってよいのだ」
ドワス
「しかし、それではこの世界の秩序が……」
ビエル
「いいのだ。ようやく世代が変わり始め、この地球に人が……」
「しかし、まだ少し早いのかもしれん。監視は強化する必要がある。いいな、ドワス?」
ドワス
「はっ!」