第13話 あとは野となる大破壊

前回のあらすじ
惑星ゾラと言われている地球。しかし人々は、ゾラという名前を忘れて久しい。
ジロン・アモスは、ビッグマンの抵抗を跳ね除けまして、ようやく辿り着きます上納ポイント。
激しい守りを切り抜けて、ドームに見るは、優雅な暮らしと厳しい掟の別世界。
ビエル執政官の計らいで、騒動悶着ようやく終わり、アイアン・ギアーは出発しますPポイント。
そこに待つは、ビッグマン。
エルチ
「はぁ……遠ざかっていく聖域なぞは見たくはないわ」
「あぁ、ビエル執政官様……貴方様をただ、ただ一生の思い出としか出来ないのでしょうか?」
「いいえ、そんな事ありません。私、また近い日にきっとお目見えをして、私の熱い心の内を打ち明けましょう」
「はぁ……」
ジロン
「いい加減に目を覚ましたら?」
ブルメ
「これからもまた、ブルー・ストーンを集める稼業があるんだからさ」
エルチ
「あんた達は感謝の気持ちってものがないの? あれだけ迷惑を掛けたのに、ビエル様は許してくださったのよ?」
ラグ
「弁償はちゃんとしたけどね」
エルチ
「おまけに新しい武器まで貰って、有難いと思わないの?」
ダイク
「そりゃ思うよ」
エルチ
「私が許せないのはね、それだけじゃない」
「あれ程の文化の薫りに触れていながら、貴方達は少しも心を動かされなかったって事」
チル
「そりゃあたいだって、少しは感心したわい」
エルチ
「え?」
ダイク
「ま、食い物は確かにいけたよな」
ブルメ
「それに、トイレもだ」
ジロン
「水が流れるんだもんな。呆れちゃうよ」
ダイク
「そうそう、だから臭いが残らねぇの」
一同
「ははっ……!」
コトセット
「くくっ……!」
エルチ
「コトセットまで笑う事ないでしょ? 船を戻して!」
「もう沢山だわ、こんな野蛮人達と一緒なんて。私は一人でもイノセントのお仲間に入れてもらうわ」
コトセット
「それは無理だって事、お嬢さんは知ってるでしょう。ブルー・ストーンと手形がなけりゃ、あそこには入れないんだ」
エルチ
「ん、もう……!」
ラグ
「お〜嫌だ嫌だ。女は醜い」
チル
「そうなの?」
ラグ
「そうだろ?」
チル
「うん、シリアスね」
ジロン
「ふぁっ……」
ビッグマン
「連中は西回りのコースを取ろうというのか、新しいバザーを求めて……」
側近
「はい。やはりおやりになるんですか? 今のアイアン・ギアーを襲った所で……」
ビッグマン
「運び屋同士は昔から敵……ましてや、掟を破った子供は放置出来ん事は昨日も話した筈だ」
「それに、言うなればこれは宿命というものだ。くだらん事を言ってないで、準備に掛かれ!」
エルチ
「うぅっ……」
ローズ
「あんたはいいの!」
プロポピエフ
「あっ……」
ローズ
「お嬢様、泣かないで? 聖域はもう見えなくなりますよ。一目だけでもご覧になったら?」
エルチ
「うぅっ……」
ジロン
「野宿? 何でこんな所で、そんな馬鹿な事をやるんだよ」
エルチ
「ほら、天幕」
ジロン
「わっ……!」
「ここはピューマの巣らしいんだぜ? せっかくアイアン・ギアーがあるってのに……」
エルチ
「みんなの手袋、天幕」
ジロン
「わっ……何で風邪引くような事するの?」
エルチ
「これも」
ジロン
「わっ、わっ……!」
エルチ
「命令よ。機関員以外は全員野宿!」
ブルメ
「何でだよ? わざわざさ……」
エルチ
「あの聖域の近くで一夜を明かして、素晴らしい思い出を胸に深く刻み込むのよ」
ジロン
「胸に刻み込んで、何か得にでもなるの?」
エルチ
「おぉ、嫌だ嫌だ。そういうガサツなの大嫌い!」
ジロン
「僕もそういうの、大嫌い!」
チル
「たまの野宿もいいじゃ〜ん」
ダイク
「何で付き合うのさ、ラグ?」
ラグ
「取り敢えずやる事あるかい?」
ダイク
「ん、ないな」
ラグ
「だから付き合うのさ」
ローズ
「宜しいんじゃありません? お嬢様の気晴らしになるのならね」
ブルメ
「でもよ、こんな事ならサンドラットやってる方が面白いんじゃないの?」
ラグ
「馬鹿、運び屋の手形はエルチ名義になってるんだよ?」
「あの子が居なくなったら、アイアン・ギアーは取り上げられちゃうんだ。イノセントに……」
ブルメ
「何だ? どういう事だ?」
ラグ
「研究してんのさ」
ダイク
「何を?」
ラグ
「如何にアイアン・ギアーを手に入れるかをね」
ブルメ
「成る程、ははっ……」
ラグ
「だからガルロ達に機関員やらせてんだろうが」
ダイク
「そうか、そうか」
雇われ
「不味いぞ、マフラーが詰まっちまってる」
 〃
「もう少しでギャラバスだ」
 〃
「わっ……!」
操舵手
「ア、アイアン・ギアーが野営するらしいです」
ビッグマン
「何だと? バザーに向かわんのか?」
操舵手
「我が隊は先行しすぎたのです」
ビッグマン
「気になるな。向こうとてワシが狙っているのを知らぬ訳があるまい。何故だ? ワシを誘き出そうとでもいうのか」
「猪口才な……ならば、罠に嵌まってやろうではないか。我が持てる力を全て注ぎ込んでな」
エルチ
「あぁ、胸が痛むわ。あの山の向こうにビエル様がいらっしゃる」
チル
「ねぇ、エルチってどうなっちゃったの?」
ジロン
「我慢し切れなくなったのさ」
チル
「え?」
ジロン
「親父さんが死んで俺達と一緒になってから、エルチの夢は益々遠くなっちまった」
「あの聖域を見て、つっかえてたものが噴き出したんだろ?」
チル
「ふ〜ん、何故さ?」
ジロン
「青春だからさ。まぁ、三日もすれば忘れちゃうよ」
チル
「ふ〜ん、お休み」
エルチ
「ビエル様……エルチ・カーゴ、これから参ります」
「えーと、これと……」
ジロン
「みんな、起きろ!」
「エルチ……!」
ラグ
「アイアン・ギアーが……!」
「エルチね、あの子……」
ダイク
「どうする気だ?」
ジロン
「上納ポイントへ帰る気だ」
「エルチー! 帰せー、戻せー!」
「くそっ、何と……!」
エルチ
「ビエル様! 何としても、ビエル様の下に向かいます!」
コトセット
「うっ……ファットマン、起きるんだ! 何だ? 船が動いた?」
「んんっ……外から鍵が……」
「んっ……くっ、わっ……!」
エルチ
「今参ります、ビエル様!」
「ランド・シップ……ビッグマンの?」
ビッグマン
「よし、砲撃開始! 遠慮するな!」
エルチ
「あぁっ……!」
「ガルロ、マーレ、ハイヤ、砲撃手起きて! 敵よ! 敵が……あっ!」
コトセット
「くそっ! ファットマン、どけ!」
ファットマン
「わっ……!」
コトセット
「お嬢さん!」
エルチ
「ビッグマンよ! 早く!」
コトセット
「ジ、ジロン達は?」
エルチ
「置いてきたの」
コトセット
「えぇっ?」
「何で置いてきたんです?」
エルチ
「乗らなかったのよ!」
ジロン
「アイアン・ギアーが捕まったぞ!」
ブルメ
「放っとけ、放っとけ!」
ラグ
「ブルメ! そうはいかないんだよ!」
ローズ
「お前さん、わたしゃもう駄目だよ! あんた……」
プロポピエフ
「後ろを見てご覧よ、ラブリー・ローズ!」
ローズ
「え? あんた……!」
ジロン
「近いぞ」
コトセット
「前の山を盾に、ウォーカー・マシンに変形します」
エルチ
「甲板にトラッドが置いてあるわ」
コトセット
「しょうがないでしょ」
「ファットマン!」
ビッグマン
「恐れるな! 砲撃の手を緩めるな! 左右から回り込ませろ!」
エルチ
「左!」
コトセット
「うっ……!」
エルチ
「コトセット、駄目よ! 低くしなくちゃ……」
コトセット
「了解!」
ジロン
「ん? また船に戻るのか? よーし!」
「よーし、上がれるぞ!」
「俺はザブングルに乗る!」
ダイク
「おう!」
ラグ
「私もザブングルで出るよ!」
側近
「出ました、ザブングルです」
ビッグマン
「来たか。後半で戴きじゃ!」
ローズ
「あんた、あたしゃもう駄目だよ……」
「あっ!」
プロポピエフ
「あぁっ、ローズ、ラブリー・ローズ……ラブリー・ローズを食わせるものか!」
「あぁっ、ローズ……!」
ローズ
「あんた!」
「あんた、何してんだよ!」
ジロン
「出てきたな! ラグ、行くぞ!」
ビッグマン
「二台目も出てきたようだな。いいぞ」
ラグ
「ライフルかバズーカを頂戴!」
マーレ
「いいかい? ラグ、落とすよ!」
ラグ
「あっ、あぁっ……」
「よーし、こいつさえあれば……行けっ!」
ジロン
「ラグ、無茶するな! 前に出すぎるな!」
ラグ
「長距離で当たる大砲があるもんかい! 一撃必殺だよ!」
「でかいから強いって限らないんだよ!」
ビッグマン
「おぉっ……!」
「一発や二発でこのデラバスは沈みはせん! 進め!」
ラグ
「えぇっ、強い?」
ジロン
「ほーら見ろ! 敵を舐めちゃいけない!」
「ハイヤ、ガルロ達にスペア持ってこさせろ!」
ラグ
「命令してあるよ!」
ダイク
「エルチ! 座ってないで、大砲の一発でも撃ったらどうなんだ?」
エルチ
「私は艦長よ! 勝つ為の作戦を考えてんの!」
ダイク
「今は岩山で隠れている。もう一度ウォーカー・マシンにして、上から狙ってやろう!」
エルチ
「コトセット、変形出来るの?」
コトセット
「ヒューズが飛んで……やれてるならやれますよ」
エルチ
「よーし、再度変形開始! デラバス・ギャランに集中攻撃を掛ける!」
「プロポピエフ達は戻ったのね?」
コトセット
「はいはい! 右肩の機銃座に入ってます!」
マーレ
「よーく狙って撃たなくちゃしょうがないよ!」
ガルロ
「狙っているよ!」
マーレ
「ハイヤ、大丈夫かい?」
ハイヤ
「禄に練習してないからね。当たってくれない!」
「でも、こっちも向こうもよく当たらないもんだな。くそっ……!」
ジロン
「ラグ! 左のダブル・オール・タイプのブリッジを狙うんだ!」
「やったぜ、ベイビー!」
「ガルロか? スペアだ、スペア!」
エルチ
「あぁ、このままではやられてしまいます! ビエル様、どうしたら……?」
「そうだ! 新兵器があったのよ! ビエル様から私達だけに貰った、遅燃性高熱散榴弾砲!」
コトセット
「ポタン砲ですか? ありゃまだ整備中で……」
エルチ
「撃てればいいの! ブルメに言ってやらせなさい!」
ダイク
「奴は主砲に行かせている!」
エルチ
「ポタン砲に上げさせなさい、チル」
チル
「あ〜い」
「『ポタン砲で敵を撃滅せよ! 艦長の命令であ〜る!』」
ブルメ
「整備もしてないってのにさ、大丈夫なの……わっ!」
「くそっ、ビッグマンめ! イノセントから貰った新兵器、伊達じゃないぜ!」
「行けぇ、ポタン砲!」
ビッグマン
「うぅっ……!」
側近
「おっ……!」
ジロン
「何だ? あの火の玉は……」
エルチ
「やった! ポタン砲の威力、凄い! あぁ、感謝します。ビエル様……」
ビッグマン
「な、何だ? 今の武器は……」
側近
「我々と同じものです」
ビッグマン
「まさか……ポタン砲は、我々がビエル様に頂いた物だ……」
側近
「しかし、この威力は間違いありません」
ビッグマン
「だとすると……我が方もポタン砲を撃て!」
エルチ
「ポタン砲じゃないの!」
コトセット
「え?」
ダイク
「ビッグマンめ……ブルメ、撃ち返せ! 止めを刺すんだ!」
エルチ
「そ、そんな馬鹿な……ポタン砲は私にだけくれたって、ビエル様は言ったのよ?」
ブルメ
「ありゃ、煙幕? あれじゃ狙えないじゃないか」
「ダイク! アイアン・ギアーを前に出せ!」
コトセット
「俺がやる」
ジロン
「ブルメ、運んでやる。撃ってくれ!」
ブルメ
「ジロンか? 頼んだぜ!」
ジロン
「おう!」
側近
「ザブングルが突っ込んできます」
ビッグマン
「他の二隻はどうした?」
側近
「逃げちゃいました」
ビッグマン
「本当にザブングルが来るのか?」
側近
「はい」
ジロン
「撃てぇっ、ブルメ!」
ブルメ
「食らえ!」
「わっ、わぁぁっ!」
ジロン
「わぁぁっ!」
エルチ
「ビエル様が、嘘を吐いたというの? ビエル様が……」
ラグ
「そうとしか考えられないじゃないか。エルチに確かに言ったんだろ? 新兵器のポタン砲をあげるって」
エルチ
「えぇ……」
ラグ
「でも、ビッグマンも持っていた……」
エルチ
「ジロン、調べてよ! ビッグマンが何故ポタン砲を持っていたのか……」
ジロン
「あっ……」
「みんな逃げちゃったらしいな」
ビッグマン
「そうらしい」
ジロン
「ビッグマンの手下にしては、さっぱりしたもんだね」
ビッグマン
「ふふっ……」
ジロン
「教えてくれ。今まで、何故俺達を付け狙ったんだ?」
ビッグマン
「お前達が掟を破った子供だったからだ」
「しかし……ポタン砲をお前達が持っている事や、ティンプとかいう男の事を考えたら……」
ジロン
「何だ?」
「しっかりしてくれよ。何が言いたいんだ?」
ビッグマン
「俺達は操られていたのかもしれんと思えてな」
ジロン
「何だって? 誰にだ?」
ビッグマン
「あいつら、イノセントに……」
ジロン
「……何でそんな事、イノセントがするんだよ。し、信じられ……」
ダイク
「ジロン! エルチが居なくなっちまった!」
ジロン
「アイアン・ギアーの中だろうが」
ダイク
「ラグが言うんじゃ、ビエルのとこに行ったんじゃないかって」
チル
「コトセットが怒ってる」
ジロン
「分かった、俺が捜してくる。みんなはアイアン・ギアーを守っていてくれ。ビッグマンの残党が来るかもしれんからな」
エルチ
「ビエル様が……イノセントのビエル様が私に嘘を吐くなんて、そんな事ある訳は……あっ!」
「ビエル様、私に嘘を吐くなんて……そんな事ない、ビエル様に限って……」
「文化人のビエル様が嘘なんて吐きませんよね?」
ジロン
「エルチ、もう聖域だぞ! 戻れ、戻るんだ!」
エルチ
「ビエル様ーっ!」
「はっ……きゃっ!」
ティンプ
「ふふっ……エルチはお前達に愛想を尽かしたようだな」
ジロン
「ティンプ! やっぱりドームの中に居たのか! イノセントは貴様を隠していた!」
ティンプ
「それが気に入らんと言われても困る。なぁ兄ちゃん、知ってるのかい?」
ジロン
「んっ……何を?」
ティンプ
「イノセントが第一警戒線から中へ、エルチ嬢ちゃんを入れた理由をさ」
ジロン
「知るもんか! 俺はイノセントじゃない! ジロン・アモスだ!」
ティンプ
「じゃあ教えてやろう。嬢ちゃんをこんがり丸焼きにする為に近付けさせてんだよ」
ジロン
「何だとぉ?」
ティンプ
「分かったかい、兄ちゃん。世の中にはどうしても一人や二人、敵わん相手が居るって事さ」
ジロン
「おうさ! それをあんたに教えてやるよ!」
ティンプ
「よく言うよ、この餓鬼!」
「あっ……!」
ジロン
「あっ……!」
エルチ
「開けてください! 私です、エルチ・カーゴです!」
「お願いです! お仲間に、お仲間に入れてください! ビエル様を愛して……!」
ドワス
「お前達は、ビジネス以外でここへ来てはならん」
エルチ
「後生です。ビエル様の話だけでも……」
ドワス
「これから光の昇天がある。余りに命令を効かぬと、命を落とすぞ?」
エルチ
「構いません。ここで死ねるのなら、本望です!」
ドワス
「よかろう」
エルチ
「光の昇天と言ったわ……」
ドワス
「下がらんのなら命はなくなる。いいのだな? エルチ・カーゴ」
エルチ
「さ、下がりません! ビエル様にお会い出来るまでは……」
「あっ……」
ジロン
「何だ? 何の光だ?」
「んっ……!」
エルチ
「放してよ、ジロン!」
ジロン
「分からないのか? 今の輝きはエルチを狙った光なんだぞ!」
エルチ
「そんな事ない! ビエル様は文化的な方なのよ?」
ジロン
「エルチ……んっ?」
ダイク
「あれは何の光だ?」
コトセット
「聖域の奥の山の方だ。あっ、光の昇天だ……!」
マーレ
「何の光?」
ハイヤ
「イノセントが守る光じゃないの?」
ガルロ
「光の昇天って奴じゃないのか?」
エルチ
「あっ……」
「光の昇天……イノセントの守る光、光の昇天……」
ジロン
「光の……。の、昇っていく……」