第16話 哀歌かなしく

前回のあらすじ
あらゆる支配を、イノセントという特権階級に押さえられている、惑星ゾラ。
しかし人々は、それを何の不思議もなく受け止めていた。
ジロン・アモスは、イノセントのお尋ね者となりまして、仕掛ける男はキッド・ホーラ。
マッド・シーに逃げ込めば、半人半魚のハナワン族の攻撃に、悪戦苦闘のアイアン・ギアー。
慣れない泥海、素早いハナワン、手換え足換え襲い掛かる不気味さに、アイアン・ギアーは苛立ちます。
プロポピエフ
「ジロン」
ジロン
「んんっ……!」
プロポピエフ
「ジロン、何荒れてるの? どうしたっていうの?」
ジロン
「こんな泥の海の真ん中で、ホーラやハナワンに追い回されるのも、俺がイノセントのドームの中で暴れたからだ」
プロポピエフ
「や、そりゃ違うよ。ホーラはエルチお嬢さんが狙いなんだし、ハナワンは……」
「ん? ハナワンは何故、アイアン・ギアーを襲うのでしょう?」
ジロン
「俺のせいさ!」
プロポピエフ
「重たい、重たい……ジ、ジロン……!」
ジロン
「だから俺は、この船を降りる!」
プロポピエフ
「ジ、ジロン、やめなさい……!」
ジロン
「あばよ……」
エルチ
「うぅっ……」
ルル
「二日酔いの頭痛って苦しいんだよね」
ローズ
「私がお止めしたのに、飲めないのを無理されるから……」
ルル
「塩水作ろうか?」
エルチ
「いいのよ、放っといて」
ルル
「あら、どうして?」
エルチ
「自業自得なんだから。うぅっ……」
ローズ
「色んな事があるんだよね、人間、生きてると」
「あら、あんた。何か用なのかい?」
プロポピエフ
「あぁいや、さっきな、ジロンの様子がちょっと……」
「あ、大丈夫ですか? お嬢さん」
エルチ
「ジロンがどうかしたの?」
プロポピエフ
「いや〜、どこに行ったかな〜と思ってみようかな〜と思って……。ははっ、捜してみますから」
ジロン
「わっ……ん?」
「くっ……!」
エルチ
「コトセット」
コトセット
「ん?」
エルチ
「ジロン、知らない?」
コトセット
「知りませんね。奴のお陰で、アイアン・ギアーは毎日、修理修理の連続だ」
「商売出来ないと、我々はおまんまの食い上げですよ?」
エルチ
「あんまり怒鳴らないでよ。ジロンはどこ?」
コトセット
「頭陀袋を持って出て行くのを見ましたけれどね」
エルチ
「頭陀袋を持って? どこに行ったの?」
コトセット
「知りませんよ」
ジロン
「ここが、あんた達の……わっ!」
「こら! その銃、とんがってんだから押し付けるな! 気を付けろ!」
ハナワン族
「すまん。足なら痛くなかろう」
ジロン
「わぁぁっ、くっ……!」
「おっ……?」
「俺をどうする気だ?」
「人質にしようっていうなら、お門違いだ。アイアン・ギアーは俺なんか相手にしないぜ」
「あそこに居るのが嫌になって出て行くつもりだったんだから」
ムーナ
「私は、争いとは関係ありません」
ジロン
「何で?」
ムーナ
「私の名はムーナ・タット。部下達に手荒な事をさせてしまいました。許してください」
ジロン
「下手に出たって駄目だよ。俺はもう、アイアン・ギアーとは関係ないんだ」
ムーナ
「ですから、私は争いの事ではなく、お尋ねしたい事があるのです」
「私達ハナワン族の聖地がどこにあるのか、お聞きしたいのです」
ジロン
「ハナワンの聖地? 何の事だい?」
ムーナ
「ハナワンの一族にはハナワンの生まれた聖地があって」
「そこに戻れば、再び太陽の下で暮らす事が出来るという言い伝えがあるのです」
「この度の争いも、貴方がたが聖地の事を知っているから起こった事なのです。教えてください」
ジロン
「言い伝えだの聖地だのって、俺にはさっぱりだな」
「放せよ」
ムーナ
「本当に知らないのですか?」
ジロン
「この顔が、嘘を吐いている顔に見えるか?」
ムーナ
「私達には視力というものが殆どありません」
ジロン
「え?」
ラグ
「いつでもすぐに動けるように、持てるだけの武器を身近に隠しておくこと。いいわね?」
ブルメ
「ははっ、遂にアイアン・ギアーを乗っ取るか」
ダイク
「いつがいいかね?」
ラグ
「ハナワンの奴らは、きっとまた攻撃してくる……その時だね」
ダイク
「エルチとファットマンを叩き出しゃ、こっちのもんだ」
ブルメ
「そっ、コトセットは大丈夫だ。あいつはどっちにも付く奴だからな」
チル
「ジロン兄ちゃん、どうすんの?」
ラグ
「ふんっ、頭に血が上りゃイノセントでも敵にしようって奴を、面倒見れるかい」
チル
「本当にいいのか? ラグは〜」
ラグ
「ふんっ、こっちから誘う気はないね」
チル
「あっ、そうかいね」
ラグ
「チル……!」
ダイク
「他の乗組員はどうするんだ?」
ラグ
「コトセットに口説いてもらうさ」
ダイク
「ジロンがエルチに付くって事もあるな」
ラグ
「ザブングルに近付けさせなきゃいいのさ。私がちょっと、こうやって……ねぇ、ジロン?」
ブルメ
「へぇ〜」
ラグ
「よってきた所を……!」
ブルメ
「むっ……!」
ラグ
「こうしてやる」
ブルメ
「ひひっ、そりゃいいや」
ラグ
「……隠れて」
エルチ
「誰か居るの? ジロン?」
ラグ
「……ふっ、お幸せな方。エルチお嬢ちゃま」
ゲンナ
「キッド・ホーラは、イノセントという大親分からハナワンの聖地を記した本が」
「あのアイアン・ギアーにあると聞いたというのだ」
「ホーラは、数々のアクア・シップとアクア・カヌーをくれた。我々自らの力で聖地を知れという教えだ」
「昨日の戦いで、我々は戦う事に慣れた」
「もうホーラの手などは要らん。我々は戦い、ハナワンの聖地へ向かう旅へ出ようではないか」
「そして、明日からは太陽の下で、かつてのハナワンのように栄光の暮らしを手に入れるのだ!」
ハナワン族
「おーっ、おーっ!」
ゲンナ
「立ち上がるのだ!」
ハナワン族
「おーっ!」
ゲンナ
「お前達は何故、武器を持たん?」
ハナワン族
「戦いに出た者の半分が死んだ」
 〃
「これ以上、犠牲を出すのはいけない……うっ!」
ゲンナ
「天と地の大異変が起こる前に」
「我々ハナワンの祖先は、聖地にあって偉大な人の導きによって生き長らえる事が出来たのだ」
「その聖地に戻れば、ハナワンはかつて大地に栄えた生命を手に入れる事が出来る」
「その為には、この呪わしい泥の海を脱して……」
「ホーラ様か」
ホーラ
「イノセントからの助けを受けて手に入れた武器を、この穴蔵の湿気で腐らせてしまうのか?」
ゲンナ
「ハナワンの名誉に賭け、勝利を手に入れます」
ハナワン族
「私は嫌だ! 殺し合いはもう御免だ……わっ!」
ホーラ
「ふふっ、裏切り・脱走は許さんぞ。この私とイノセントの名に賭けてな」
「大体お前達の持ってるその武器は、半値以下で譲ってやったもんだろうが。しっかりしてもらわにゃね」
ゲンナ
「……ムーナが?」
ムーナ
「では、貴方の言うのが本当なら、あのホーラという男は……」
ジロン
「イノセントの仕掛け人なんだ。いつもいつも、地上に争いを起こさせる為のね」
ムーナ
「貴方がたが、ハナワンの聖地を記した本を持っているというのも嘘なんですか?」
ジロン
「信じないのは勝手だけどね」
ムーナ
「窮屈な思いをさせてすみません」
ジロン
「分かってくれりゃいいのさ。物分かりのいい人と会えて良かった」
ゲンナ
「私は物分かりが悪い方でね」
ムーナ
「ゲンナ……!」
ゲンナ
「お前をこのまま返す訳にはいかん」
チル
「ラグ〜、こっちこっち〜」
ラグ
「え? どうしたのさ?」
「あっ、それジロンの……」
チル
「うん、ここに置きっぱなしになってたんだよ」
ゲンナ
「ムーナの顔を立ててやるのだ。そうでなければ、ハナワンの掟の決闘で貴様を始末するなどという事はしない」
ホーラ
「おやおや、ジロンが潜り込んでいたとはな」
ゲンナ
「有り難く思え!」
ジロン
「うっ、くっ……!」
ムーナ
「あぁっ……!」
ジロン
「こなくそ!」
ゲンナ
「とぁっ!」
ムーナ
「ジロン……!」
ジロン
「うぅっ……!」
ムーナ
「ゲンナ、やめて!」
エルチ
「あぁ、頭に響く……静かにしてよ!」
「何?」
ラグ
「ゴムボートの中に、ジロンの袋が残ってたんだよ」
チル
「ジロン、ハナワンに捕まったかもしんない」
エルチ
「まっさかぁ」
ラグ
「ジロンを人質に攻めてくるわ、ハナワン族」
エルチ
「ははっ! 助けに行けば、動けないアイアン・ギアーを襲われる……」
「コトセット、貴方の仕事が遅いからよ」
コトセット
「全員で修理やってるでしょ! こう戦闘が続くのがいけないんです!」
「ぎゃぁぁっ!」
ゲンナ
「くっ、うっ……!」
ジロン
「この、あぁっ……!」
ホーラ
「へっ、いつまでもやるんだな」
「鬼の居ぬ間の何とやら。こちらの準備を急がせて、何としてもアイアン・ギアーとエルチを物にしてみせる」
ジロン
「このっ、くっ……!」
ムーナ
「もうやめて! 殺し合いはやめてください! もう嫌です!」
ゲンナ
「掟を破れば統制が乱れる! どけ!」
ムーナ
「お願い! お願いだから、ゲンナ……!」
ゲンナ
「俺は一族の長だぞ! あまり逆らうなら、お前といえども……!」
ジロン
「ええい!」
ゲンナ
「むっ……!」
ムーナ
「あっ……!」
「私は大丈夫! ジロン、そのままお逃げなさい!」
ジロン
「あぁ!」
ゲンナ
「おのれ……!」
「逃がすな! 掟の決闘を途中で投げ出した男だ!」
ジロン
「んんっ……!」
ハナワン族
「ムーナ様……」
ムーナ
「大丈夫、大した事はありません」
ジロン
「はぁっ、はぁっ……!」
「んんっ……!」
ゲンナ
「戻れ! 降りるんだ!」
ジロン
「食らえ!」
ハナワン族
「わぁぁっ……!」
ゲンナ
「ジロン……!」
ジロン
「はぁっ、はぁっ……!」
ハナワン族
「港に入れるな!」
ゲンナ
「撃て、撃てっ! 奴を殺せ!」
ホーラ
「ん? アクア・カヌー?」
ハナワン族
「反対側から追い込むんだ!」
 〃
「よく狙え、逃がすな!」
ホーラ
「ちっ、ジロンを逃がしたのか」
「おいゲラバ、ホバー・ボートの調子はどうなのだ」
ゲラバ
「どうも新品てのは、調子が出なくていけねぇや」
ホーラ
「急げ。ハナワンの連中を、いつまでも当てにする訳にはいかんようだ」
ゲラバ
「だから整備してんでしょうが」
ホーラ
「壊すんじゃねぇぞ。すぐにここを出る」
ゲラバ
「直してんですよ?」
ホーラ
「ゲラバ、上がってこい。出るぞ」
ゲンナ
「追え! 何としてでも捕まえるのだ!」
「奴を人質として、アイアン・ギアーを脅かす為にも……」
「ん、ホーラ様! この無様なハナワン、必ず再興させる為に、お力を……!」
ホーラ
「ははっ、調子いいじゃないか、ゲラバ!」
ゲラバ
「そりゃもう」
ラグ
「やれやれ、この船から降ろさないっていうの?」
ブルメ
「もう少し頭痛が続いてればよかったのに……」
エルチ
「脱走は認めないわ」
ラグ
「出来る?」
「や、やっぱ……相変わらず文化的ではないのね」
「でもさ、勘違いしないで。私達は戦力となる子を捜しに行くだけなの」
ブルメ
「ジロンが居た方がいいでしょ?」
エルチ
「本当だね?」
ブルメ
「僕、エルチさんのナイフで串刺しになるの、嫌だもん」
チル
「あたいも」
ムーナ
「お願いですゲンナ、ホーラという人の事は聞かないでください」
ゲンナ
「男同士の信義というものがある。それに私は、ホーラから武器を安く買えた恩もある」
ムーナ
「それがホーラのやり方なのです」
ゲンナ
「女には分からん事だ」
ムーナ
「ホーラは別の世界の人です」
ゲンナ
「ハナワンは、元々地上に棲むべき栄光の民だった」
ムーナ
「昔の貴方は好きだったわ。何故そんなに……猛々しくなってしまったのです」
ゲンナ
「ホーラとの約束は守る」
ムーナ
「ゲンナ……」
ホーラ
「全部のウォーカー・マシンの数だけあるのだな?」
雇われ
「大丈夫です。十分間に合います」
ホーラ
「ハナワンが動き出したのか。我々も出るぞ」
ラグ
「一隻だけの訳ないわよ」
ダイク
「様子を見るか」
ブルメ
「どっちにしたって一隻ずつ片付けるんだろうが。やるぜ!」
「一発で仕留めてやる」
ラグ
「あれ? ジロンよ」
ブルメ
「ジロン?」
エルチ
「いいこと? 弾運び・銃撃、きちんとやるのよ。分かんない事はコトセットに聞いて」
「全員、戦闘配置に付け!」
プロポピエフ
「了解」
ローズ
「……この船に居るのも考え時じゃないかい? あんた」
エルチ
「何が考え時ですって?」
「急ぐの!」
「あんたも、アイアン・ギアーで大砲撃ちなさい」
ジロン
「出迎えご苦労! ハナワンが来るぞ。変形する」
ラグ
「な〜にがご苦労だ」
チル
「嬉しい、嬉しい!」
ラグ
「チル!」
ジロン
「しかし、一台のザブングルに5人も乗ってちゃ、戦力的に損じゃない?」
ラグ
「ロボットのパターンだろ?」
ジロン
「あっ、魚雷が……!」
「やっぱり、一杯来た……!」
ラグ
「急いで!」
ゲンナ
「ムーナを傷付けた奴、ハナワンの名誉に賭けても必ず討ってみせる」
一同
「わっ……!」
ジロン
「くそっ!」
ハナワン族
「うわっ!」
ラグ
「泥海の中じゃ不味いよ」
ジロン
「分かった分かった、陸に上がるよ。その間、石でも投げていてくれ」
「わぁぁっ!」
「ウ、ウォーカー・マシンが来る!」
ラグ
「え? 海の上を? どこ?」
ハナワン族
「わぁぁっ!」
ブルメ
「うわっ! ジ、ジロン、上にあがれ! 上に……!」
ダイク
「ザブングルは水中戦用のウォーカー・マシンじゃないんだ」
チル
「ジロン! 水が、泥が……ダイク〜!」
ジロン
「ホバー・ノズルが効くかな?」
ラグ
「効く? 効く?」
ジロン
「やってみるか!」
「パ、パワーが足りない!」
ゲラバ
「ザブングルがホバー・ボードに!」
ホーラ
「ゲンナはどうしたんだ? 攻撃させろ!」
一同
「わっ、わっ……!」
ジロン
「要するに、バランスの問題でしょ?」
ラグ
「そういう事……わっ!」
エルチ
「あぁっ……!」
ジロン
「エルチ、俺が代わる! 後退しろ!」
エルチ
「大丈夫よ! ラグにだって出来るんだから……あっ!」
ジロン
「代わるぞ、エルチ!」
ラグ
「エルチ……!」
エルチ
「う、うーん……」
ジロン
「ラグ、こっちの方頼む! 俺は海の方をやる!」
ラグ
「あいよ!」
ゲラバ
「カプリコは上がってこない」
ホーラ
「やむを得ん、このガラパゴス1機で、ザブングルを仕留めてみせる!」
ゲンナ
「ええい、何という様だ! 集中的に攻撃を掛けろ……わっ!」
ホーラ
「うっ! ザブングルめ……撃ちまくれ!」
ジロン
「ホーラ! 逃げるのか!」
ハナワン族
「うわぁっ!」
エルチ
「ジロン、いいの? ハナワンの連中が体当たりしてるじゃないの」
ジロン
「何?」
「魚雷のなくなった連中が、体当たりしようとしているんだ」
ムーナ
(回想)「私達は、戦いを望んではいないのです」
ジロン
「わっ……!」
ゲンナ
「覚えてろ、小僧! ハナワンの名誉の為にこのゲンナの名に賭けても、必ず次の攻撃で仕留めてみせる!」
ジロン
「ハナワン族……連中、ホーラに騙されているんじゃないのか?」
コトセット
「こりゃ来るな、また。今日中にアイアン・ギアーを何としても動けるようにする。貴様も手伝え」
「このっ!」
ファットマン
「あっ……!」
ジロン
「時を待つ気だ。奴ら総出で、必ず攻めてくる」
ムーナ
「男達は、どうして戦いで事を決めようとするのかしら」
「この陽の暖かさがハナワンの求めるものなら、心穏やかに一日を過ごせばいいものを……」