第20話 アコンは伊達男か?

前回のあらすじ
あらゆる支配を、イノセントという特権階級に押さえられている、惑星ゾラ。
しかし人々は、それを何の不思議もなく受け止めていた。
ジロン・アモスは、キッド・ホーラの誘いに乗って、あっと言う間の泥まみれ。
これでジロンは終わりだと、ホーラにっこり踵を返し、エル・ドラドに焼き討ち仕掛け、エル・コンドルと対します。
土地を守り血を守る、その心意気は感ずれど、所詮ホーラに敵いません。
哀れコンドル宙に舞い、エルチ悲しく泣き崩れる。ジロン、優しく慰める。ラグは面白かろう筈もない。
ラグ
「ふぅっ、やっぱり付けている」
「執拗いね。何者なの?」
「味方じゃなきゃ、敵か」
雇われ
「へへっ、逃げろ逃げろ」
アコン
「おらおら、右15度。いいな? ジャングルへ入る前に追い付くぞ」
雇われ
「了解」
ゼム
「アコン・アカグともあろう男が、あんな逸れ鳥に夢中になるなんて、分からねぇな」
アコン
「退屈凌ぎにからかったのは、ゼム、お前の方が先だぜ」
ゼム
「へへっ……」
アコン
「あっ! あの馬鹿……」
ラグ
「あぁっ……!」
「あっ、うっ……!」
アコン
「おい、出て来い。無闇に森に入っちまうと危ねぇぞ。お〜い!」
ラグ
「はぁっ、はぁっ……」
「あっ! 嫌だ嫌だ……あっ!」
「あっ、こいつ……!」
「体が痺れる。ひ、蛭のせいなの?」
「くそっ、うぅっ……」
エルチ
(回想)「うぅっ……!」
ラグ
(回想)「ジロン……エルチ……」
ジロン
(回想)「泣いて気が済むのならどっさり泣くんだな、エルチ」
ラグ
「あんなベタベタする光景を、見なくて済む所へ行きたかっただけなんだ。それだけだってのに……」
ジロン
「ラグのホバギーがなくなっているって?」
チル
「ここに置いてあったんだ、ずうっとね」
ジロン
「参ったな。何で居なくなっちまったんだ?」
ブルメ
「どうした?」
ジロン
「ラグが船出したんだって」
ブルメ
「またかい。今度はラグね。出たり入ったり、ウチの女共は忙しいこったね」
エルチ
「アイアン・ギアーを止めろですって?」
ジロン
「ラグがホバギーで抜け出したんだ」
エルチ
「そう、仕方がないわね」
ブルメ
「放っておけないだろ?」
エルチ
「どうしろって言うの?」
チル
「捜さなくっちゃ。仲間じゃないのさ」
ブルメ
「俺達みんながラグを捜しに出ちゃったら、あんた、自分が困るからグズグズ言うんでしょ?」
エルチ
「いけないの?」
ブルメ
「いけないね」
ジロン
「俺は行くぜ」
エルチ
「ザブングルは使わないで」
ジロン
「何でだよ」
エルチ
「こんな大事な時に自分勝手に飛び出すような人は、クルーじゃないって事よ。私は艦長として認めないわ」
チル
「冷たいじゃないのかさ」
ジロン
「チル」
「よっ、わぁっ……!」
エルチ
「ふんっ!」
ジロン
「チル!」
チル
「あたいだって……あたいだって、こんな船とはオサラバだわさ!」
「バイオニーック!」
ジロン
「チル!」
チル
「放せ! あたいだって船出するんだ! 拾ってくれたラグに恩があるんだ! ジロンなら分かんだろ、放してよ!」
ジロン
「恩だって言ったな? チル、お前……それは、掟を破る始まりじゃないか」
チル
「放せ! 放せ!」
「あっ……」
コトセット
「一時間で戻らんと出発するぞ。いいな?」
チル
「たったの一時間ぽっち? ケチ!」
ジロン
「心配すんな」
チル
「きっとだよ、ジロン!」
ラグ
「あっ、私……あっ?」
アコン
「動くなよ。もう少し我慢して入ってなくちゃいけねぇよ」
「森蛭の毒を抜くのに、少しぐらいの熱さがなんだ。一生効かない体になってもいいのかよ」
ラグ
「あ、あんたは……どなたさん?」
アコン
「ああ、アコン・アカグってもんだ」
ラグ
「キャッ……!」
アコン
「あぁっ!」
ラグ
「あっ、イヤ……」
アコン
「ん? 見せもんじゃないんだ。引っ込んでいろって言ったろ」
「全くあいつら、礼儀知らずでもう……すまねぇ」
ラグ
「これじゃ、出らんないよ……」
アコン
「あぁ、はい、これ」
「もういいか?」
ラグ
「えぇ」
アコン
「ほら見ろ、まだ毒が残ってんぜ」
ラグ
「ああ、何すんだよ? 歩けるよ」
アコン
「まだ毒が抜け切ってない! 体を動かすな!」
「無線の前には誰か付いてろよ。ゼムは居るか?」
ゼム
「あいよ」
アコン
「この子のホバギーを拾ってきてやんな」
ゼム
「へいへい」
アコン
「これでいいな?」
ラグ
「すまないね、アコン……」
ブルメ
「晩飯の煙かな?」
ダイク
「人が居る事には間違いないな」
「ランド・シップだ」
ブルメ
「バッファロー・タイプの」
「妙な所に隠れているな、あのランド・シップ」
ダイク
「ホーラに雇われた連中じゃないのかな」
ブルメ
「あり得る」
雇われ
「ケッ、たまんねぇな、あのはしゃぎようはよ」
ゼム
「ボス、何やってんです? こんな所で」
アコン
「テメェには関係がないだろ。さっさと飯を食っちまえ」
ゼム
「あのアマっ子はどうしたんです?」
アコン
「テメェには関係ねえだろ! 俺が面倒見ているから、気にすんな! さっさと飯を食っちまえ!」
ブルメ
「低地の南回りは燃料節約コースになるんだけど、ホーラの待ち伏せは間違いなしってとこね」
ジロン
「だから、船は北回りで俺は南に行く」
エルチ
「何で別行動を取るの?」
ブルメ
「ラグだって、南回りで俺達が行くと思っている。船出したってのも、コースを前もって調べる為かもしれないんだ」
エルチ
「あいつがこの船の事をそんなに大事に思ってるの?」
ジロン
「思っているよ。無傷で自分の物にして、ホーラに売り付けるつもりだから」
エルチ
「えっ……?」
ジロン
「明日の朝、ジャングルの西側で合流しよう。じゃっ……」
エルチ
「ご勝手に!」
「本当なの? 今、ジロンの言った事……」
ブルメ
「知らね。ラグって素っ頓狂でよ」
ダイク
「俺達に分からんくらい頭がいいから」
ブルメ、ダイク
「ねっ」
チル
「ジローン、頼むわさ!」
アコン
「ああんもう、こんな事ならよう、女の服くらい手に入れておくんだった。こんなんだったら……いいのねぇ」
「ん?」
ラグ
「ん……?」
アコン
「イテッ……」
「ふぅ、可愛いなぁ……」
ラグ
「……ふふっ、馬鹿みたい。でも、悪い男じゃなさそうね」
ゼム
「一体、どういう風の吹き回しですかね?」
アコン
「あ?」
ゼム
「そ、そんな……」
アコン
「あ、いいのか体は?」
ラグ
「痺れはなくなったよ。大丈夫さ」
アコン
「さぁさ、座って。病み上がりだ。ほらほら、無理しちゃいけねぇ」
ゼム
「へへっ、分かったっすよ」
アコン
「顔色、大分良くなったな。もう心配は要らねぇ」
ラグ
「で、今の音、何の音なのさ?」
アコン
「あぁ、ハモニカか。昔、発破で吹っ飛んだ親父の形見なんだ」
ラグ
「綺麗な音が出るんだね」
アコン
「いやぁ、オンボロさ。それにオラァ、あんまり上手くないから……」
ラグ
「ううん、とっても上手だったよ」
アコン
「あぁ、そうか」
ラグ
「ふふっ……」
アコン
「あの……熱くないか?」
ラグ
「ううん、丁度いいわ」
アコン
「そ、そうか。あ、あの、あんた、どっかの一家かい?」
ラグ
「ううん、一人ぼっち……行く当てもないんだ」
アコン
「あのあの、じゃなかったらその、良かったらここに居ないかな?」
ラグ
「もう厄介になってるじゃない」
アコン
「あぁ、そうだったな。ははっ……熱いな」
ホーラ
「アコン・アカグ、応答せよ。アコン・アカグ」
アコン
「こちら、アコン・アカグ。どうぞ」
ホーラ
「ホーラ様と言え」
アコン
「失礼しました、ホーラ様」
ラグ
「キッド・ホーラの手下だったの……」
雇われ
「朝までB砲塔付けられないってどういう事だよ?」
 〃
「ホーラに言ってやれ、ホーラに」
ホーラ
「貴様をパトロールとして雇ったんだぞ。それが碌に動きもせんから、アイアン・ギアーを見逃すんだよ」
「連中は既に北に回るルートに入ったんだ。待ち伏せを勘付かれたんだろ? え、アコン?」
アコン
「そんな事はないよ」
ホーラ
「貴様はそのまま南回りで西へ出て、待ち伏せろ」
アコン
「了解」
ホーラ
「ゲラバ、修理はどうなってる?」
ゲラバ
「みんな怒ってるぜ? 大砲が何故イノセントから届かんのかってよ」
ホーラ
「注文は出してんだ」
アコン
「全員起きろ。バッファロー発進するぞ。目を覚ませ」
「ホーラの奴め、見ていろよ。いつまでもてめぇの言いなりになるもんか」
ラグ
「アイアン・ギアーは北回りのコースを取った。アイアン・ギアーは、私を捨てた……」
アコン
「どうした?」
ラグ
「え? いえ。ふふっ、凄い剣幕ね」
アコン
「キッド・ホーラか。ブレーカー上がりの癖に、イノセントと繋がったらしいんだ。そんでよ、でっかい面してるだけさ」
ラグ
「あんたのボスでしょ?」
アコン
「今だけ。いいか、見てな?」
「あっ、いや……すまない。ついつい、いつもの調子になっちまってよ。痛くなかったか、え?」
ラグ
「ううん」
アコン
「そうか、そりゃ良かった。飯食わしてやるよ。来いよ」
ラグ
「うん」
「ジロンなんかと大違い。ルンルン♪」
ジロン
「うわっ!」
「移動したの、少し前か。それにしてもラグの奴、こんな時に何してるんだ?」
アコン
「11時の方向の、林の上に陣取るぞ」
ゼム
「了解」
ラグ
「アコン、おはよう。どう? 敵は来たの?」
アコン
「もうじき来るんじゃないの?」
「おっ、来たぞ。総員配置に就け!」
「お、敵も止める場所は知ってるな。砲撃は少し待て。先にウォーカー・マシンで不意を突く」
ラグ
「いよいよ、ドンパチって訳ね」
アコン
「部屋に居ろよ」
ラグ
「退屈よ。見物させてもらうわ」
アコン
「あぁ、じゃあそこから出るなよ」
ラグ
「有難う。頑張ってね」
アコン
「あぁ、見てろって」
「おぉーっ!」
ラグ
「あはっ、ははっ……」
アコン
「カワイコちゃん、危ない事をしちゃ駄目だぞ」
エルチ
「ジロン、応答せよ。ジロン」
コトセット
「何か用ですか?」
エルチ
「ジロンが合流したら、次の町へ行くわ」
コトセット
「カラス・カラスのバザーですか?」
エルチ
「えぇ、一度は昔仲間だったから、何とか話し合いで参加出来るでしょ」
コトセット
「先乗りは?」
エルチ
「ジロンが戻り次第、行かせるわ。だから、必用のリストを作って頂戴。命令よ」
コトセット
「了解!」
ラグ
「無線が入ってる」
「はい、こちらバッファロー」
ホーラ
「バッファロー? アコンは居ないのか?」
ラグ
「アコンは、アイアン・ギアーの攻撃に向かったわ」
ホーラ
「貴様、誰だ? 女が居るのか?」
ラグ
「あんた、ホーラ?」
ゼム
「ホーラ様! アイアン・ギアーは目の前ですんで、アコンが出ました」
ホーラ
「よし、俺達もアイアン・ギアーを捉まえたぞ。反対から攻める。アコンにもやらせろ」
ゼム
「はっ、ホーラ様!」
アコン
「ふふん、カワイコちゃん、見てて頂戴ね」
コトセット
「敵襲! 全員、戦闘配置に就け!」
エルチ
「そこに立つなって言ってるでしょ!」
ブルメ
「あぁっ、騒ぐなって大砲が……あぁっ!」
ゲラバ
「ホーラ、俺のガラパゴスはまだ動けん。修理中だ」
ホーラ
「何でもいい。せっかくアコンが足止めをしているんだぞ」
ジロン
「あそこは、約束の場所辺りじゃないか」
ラグ
「アイアン・ギアーの動きが遅い……何やってんの? 不味いわ、このままじゃ」
ジロン
「何? 挟み撃ち?」
ラグ
「あっ……」
ジロン
「どうなってるんだ?」
エルチ
「ラグなんか放っといて早く来て。危ないのよ」
ジロン
「分かった分かった、分かったよ」
ラグ
「うぅ、ジロンめ……!」
ジロン
「……本当、ラグの馬鹿! どこ行ったんだ?」
プロポピエフ
「早く早く……あぁっ!」
エルチ
「みんな何やってんの? 見てる訳にはいかないわ」
ダイク
「艦長が出撃する奴があるか!」
ファットマン
「ガッ……!」
エルチ
「ごめん!」
ハイヤ
「あら……」
雇われ
「わっ、わっ……!」
エルチ
「来たな! ハイヤ、ガルロ、ライフルライフル!」
アコン
「よし、あの青いのを、カワイコちゃんの土産に持っていけばいい訳だ」
エルチ
「こいつ!」
「あぁっ!」
ラグ
「あっ、ザブングルが……!」
「ふんっ、あの運転はエルチらしいけど、同情しないよ。あんたが生意気なんだよ」
「はっ……」
ジロン
「何だ?」
ラグ
「ジロンが間に合うの?」
チル
「ジロン、早く。ジロン」
ジロン
「今行く。煩い」
チル
「ジロン!」
ダイク
「急いでくれ、ジロン」
チル
「あぁっ……」
「ジロン、もう駄目なの……わっ!」
アコン
「へへっ、往生際が悪いぜ、青いの。観念するんだな!」
エルチ
「あっ……!」
アコン
「これも仕事だ!」
ジロン
「下がれ! ザブングルから下がるか降りるかしないと、コックピットを吹っ飛ばすぞ!」
アコン
「カワイコちゃんの為、そうは行くかい!」
「わっ!」
エルチ
「あっ、舐めんな!」
雇われ
「わっ!」
ジロン
「エルチ、大丈夫か?」
「ガルロ、ハイヤ、足を狙え!」
エルチ
「ジロンが来たら、こっちのものよ!」
アコン
「わぁぁっ!」
ジロン
「んっ!」
アコン
「ぐぁっ!」
ダイク
「ホーラの船だ。エルチとジロンを呼べ! アイアン・ギアーを変形させるぞ!」
コトセット
「ジロン、エルチ、戻れ! エルチ、ジロン!」
アコン
「うぅっ!」
ジロン、エルチ
「アイアン・ギアーをウォーカー・マシンに変形しろ!」
エルチ
「ファットマン、やれ!」
ダイク
「やってるよ!」
ホーラ
「アコンのバッファローの動きが見えんのはどういう事だ?」
ゲラバ
「ガラパゴスと同じで、修理中なんでしょ」
ホーラ
「ふんっ」
雇われ
「冗談じゃねぇよ」
 〃
「こんなでかいウォーカー・マシンがあるのかよ、話が違うぜ」
ゲラバ
「また変形しやがった」
ホーラ
「ウォーカー・マシンのブレーカーに伝えろ。でかくたってどうって事ないってな」
雇われ
「わぁぁっ!」
ホーラ
「あんな真似を……ここに居ちゃ不味いな」
「退却だ。出直すぞ、急げ」
エルチ
「ジロン、何をモタモタしてたの?」
ジロン
「ラグは居なかった。案外、一足先に町へ行ったのかもしれない」
エルチ
「ともかく、カラス・カラスに会うわ。その方が先よ」
ジロン
「あれは、俺の目の錯覚かな?」
「あのブリッジに居たの、ラグみたいだったけど……まさかな」
ラグ
「滲みる? アコン」
アコン
「し、滲みねぇ! しっかりヨードチンキを塗っといてくれ」
「うぅっ……!」
ラグ
「やっぱり滲みて痛いんでしょう?」
アコン
「ば、馬鹿言え。こ、こんな事ぐらいは……」
ラグ
「そう?」
アコン
「き、効くぅーっ!」
ラグ
「大丈夫?」
アコン
「大丈夫、大丈夫。アコン・アカグも男で御座る」
ラグ
「そう」
アコン
「ぐぅぅっ……! そ、外を見てくれないか? アイアン・ギアーはどうした?」
ラグ
「ん?」
「あっ……」
アコン
「どうした? まだ居るのか?」
ラグ
「あっ、ううん。西へ向かって出発した所よ」
アコン
「カラス・カラスのバザーに向かうつもりだな」
「まだチャンスはあるな。今日中に修理出来るウォーカー・マシンは直してと……」
ラグ
「まだ、やるつもりなのかい?」
アコン
「当たり前だろ。俺は男だって言った筈だぜ」
ラグ
「そうだったね」
アコン
「あぁ、綺麗だな」
ラグ
「え?」
アコン
「お前、名前なんてんだ? まだ聞いてなかったな」
ラグ
「ラ、ラグ・ウラロってんだ……」
アコン
「ラグ・ウラロ……へぇ、すげえ。いい名前だな。ラグ・ウラロ、か……」
ラグ
「あた〜……ラグ・ウラロ、どうなっちまうの? この先さ……」