第21話 惚れて、惚れられて

前回のあらすじ
あらゆる支配を、イノセントという特権階級に押さえられている、惑星ゾラ。
しかし人々は、それを何の不思議もなく受け止めていた。
ラグ・ウラロがアイアン・ギアーを飛び出して、初めて出会った優しい大男、アコン・アカグ。
しかしアコンは、ホーラの雇われブレーカー。
アイアン・ギアーを打ち倒し、いつかホーラを出し抜くと頑張るアコンの男伊達。
ラグはぞっこん参りますが、頑張る相手がアイアン・ギアーのエルチにジロン。
穏やかならぬラグですが、純情アコンに心も散りに乱れたままで、新たな一夜が始まります。
カラス
「確かに、アイアン・ギアーはこっちに向かっておる……」
「で? ワシにどうしろと言うのだ?」
ホーラ
「キャリングが死んだ跡を継いだのは、エルチと餓鬼共だ。奴らの仕入れルートと、バザーは欲しくないのか?」
カラス
「そりゃその内には戴くさ。しかしな、この辺りは俺がバザーを開いてる所だ」
「俺の信用を落とすような騒ぎを起こされちゃ、女房や弟が黙っちゃいねぇぜ」
ホーラ
「分かったよ。その二人に相談しなけりゃ、協力出来ないというのだな?」
カラス
「悪かったな、手伝えなくてよ」
アコン
「一々挨拶する事はないでしょうに」
ホーラ
「カラス・カラスはあれで力のある男なんだ。ところで、ラグ・ウラロはまだお前の船に居るのか?」
「可愛いだろ、女ってさ」
アコン
「関係ないでしょ。あいつは役に立ちそうだから置いてるだけで」
ホーラ
「ふふっ、気を付けな。あの女はアイアン・ギアーに居たんだぜ」
アコン
「分かってるさ。俺なりに気は遣っているつもりだ」
アコン
(回想)「いつかはホーラを追い出して、俺が代わりにイノセントと直接関係を持つ」
ラグ
(回想)「頑張ってね」
アコン
(回想)「いいか、見てろ?」
ラグ
(回想)「あっ……」
アコン
(回想)「あっ、すまない……いつもの調子でやっちまったよ」
アコン
「へへっ……」
ホーラ
「ん? ふふっ……」
ホーラ、アコン
「イーヤラシッ!」
ジロン
「どけ」
チル
「あ、食べられんのに」
ブルメ
「やっぱり、助っ人が増えたんじゃないか?」
ジロン
「結構やっちゃったもんな、夕方にさ」
「……勝った!」
ブルメ
「え?」
ジロン
「なっ」
ブルメ
「あっ、キッタネ!」
「本当にここに居るのか?」
ジロン
「自信はないんだけど、見たような気がするんだよ」
ブルメ
「ははっ、ラグの奴、ホーラのブレーカーにでも惚れたかな?」
ジロン
「馬鹿だなぁ。事情を知らずに居るって事もあるじゃない」
チル
「ラグ、行っちゃうの?」
ブルメ
「心配すんなって、大丈夫大丈夫。いいか、ここで待ってろ」
ラグ
「あっ、あちっ……あらぁ、お汁がみんな出ちゃってる。あ〜あ、料理なんて柄じゃないんだよね」
「あ?」
ジロン
「あっ……」
ブルメ
「こんな光景信じられる?」
ジロン
「信じられない。悪い夢みたい」
ラグ
「何しに来たの?」
ブルメ
「お迎えだよ」
ジロン
「捜したんだぜ?」
ラグ
「嘘!」
ジロン
「嘘なもんか。こんな船に乗ってるなんて、知らなかったから……」
ラグ
「捜す気なんてなかった癖に」
ブルメ
「な〜に言ってんの。賄いさんに雇われたのか?」
ラグ
「そうじゃありません! ここが好きで居るの」
ブルメ
「え?」
ジロン
「アイアン・ギアーはどうすんだよ。みんなは」
ラグ
「私はね、もう子供の付き合いは飽き飽きしたの」
ジロン
「ラグ……」
ブルメ
「俺達が子供だってのか?」
ラグ
「はい。恋の味ね、そういうものが大人の世界にはあるのよ」
ジロン
「お、おい……ラグ……狐にも憑かれたんじゃないのか? 河鹿かな?」
ラグ
「馬鹿! そんなんじゃない!」
「イーッ!」
ジロン
「イテェッ! ……夢じゃない」
雇われ
「何だ……わっ!」
チル
「ラグ居なかったの? ジロン、ブルメ」
ブルメ
「うっせぇな、居なかったよ」
チル
「じゃ、早く帰ろう。こんなとこ居たら危ないよ」
ジロン
「そうするしかないか、ブルメ」
ブルメ
「そうだな、しゃあないか」
ジロン
「あっ!」
アコン
「あ、あの子供達は何だ?」
「アイアン・ギアーのクルーじゃないか」
ジロン
「ハンドルを押さえているだけでいい」
チル
「分かってんよ」
ジロン
「あぁっ!」
チル
「わぁぁっ!」
ジロン
「スピード緩めろ、チル!」
チル
「あぁ〜……!」
ジロン
「な、何だ、回れ右だ!」
「い、痛い……!」
ブルメ
「よーし、そのまま突っ走れ、チル!」
ジロン
「もっと高度を取れ! 高く走るんだよ、チル!」
アコン
「あ、まだ起きてたのか?」
ラグ
「お帰り」
アコン
「今、怪しげな子供を追っかけて、ヘッド・ライトをやられちまった」
ラグ
「知ってるわ。私の昔の仲間よ」
アコン
「やっぱり……」
ラグ
「ああ」
アコン
「逃げ足の早い連中だな」
ラグ
「そりゃそうさ、私が追い返してやったからね」
アコン
「ん? 追い返した? 仲間なのにか?」
ラグ
「だってさ、あいつら尻が青くてさ、はっきりしないんだもの。それに比べりゃ、あんたは望みがあるだろ?」
アコン
「へへっ、そりゃあな。こんなせこいランド・シップに、いつまでも乗っている気はないもんな」
「ホーラの旦那にへいへい言ってるのも今だけよ。今度こそアイアン・ギアーを叩いて……」
「ラグお前、アイアン・ギアーの仲間を裏切ったのか?」
ラグ
「え、何でさ?」
アコン
「追い返しただろう」
ラグ
「冗談じゃないよ。裏切るも裏切らないもないよ。元々、あそこのクルーだった訳じゃないんだもん」
アコン
「ん?」
ラグ
「何だよ、本当だよ」
アコン
「そうか。よーし、やるぞ俺は! お前の為ならよ、いつかは世界一のブレーカーになって見せるぜ」
エルチ
「ははっ……あのラグが、ホーラの雇われブレーカーに惚れたって訳?」
「ちょっといい加減過ぎない? 給料だってちゃんと払ってんでしょ?」
コトセット
「こいつらが来てから、騒動続きで商売になっちゃいません。払える訳ないでしょ」
エルチ
「でも、食事はさせてるわ」
ダイク
「ラグ、飯の支度してたんだって?」
ジロン
「あ、チル寝たのか?」
ダイク
「二人で行って連れ戻せないってのは、どういう訳なんだ?」
ブルメ
「俺達が子供なんだってよ」
コトセット
「そりゃ言えますな。ラグさんには食い足らんのでしょう」
ブルメ
「じゃあ、コトセットは何なんだよ? 機械が恋人で、女を相手に出来ないんだろ?」
コトセット
「そりゃそうです。機械は私の言う事よ〜く聞きますから」
「艦長、先に休ませてもらいます」
エルチ
「駄目! 朝までには、カラスのバザーに行くんだから」
コトセット
「私だって人間ですよ? 夜ぐらい好きにします」
エルチ
「みんな勝手だわ! こんな事じゃ、アイアン・ギアーは滅茶滅茶よ!」
ダイク
「人の事、あんまり言えないと思うんだけどなぁ」
エルチ
「私は、艦長の重責に押し潰されそうになったから……でも、ラグは違うわ! 自分勝手なだけよ!」
ジロン
「そうかな?」
ホーラ
「起きろ、アコン。起きろ」
「アコン!」
アコン
「お、ホーラの旦那」
ホーラ
「チャンスだぞ。アイアン・ギアーは、東の荒地で夜明かしするようだ」
アコン
「はっ……?」
ホーラ
「分からんのか。この隙に連中のザブングルを盗み出し、カラスの親父を叩くのだ」
アコン
「カラス・カラスを叩く?」
ホーラ
「ザブングルでカラスを襲えば、カラスはアイアン・ギアーの仕業と思う。そうすればこっちのものだ」
アコン
「しかし、ザブングルを盗むなんて、簡単に出来やしないですぜ?」
ホーラ
「何の為にラグを置いとくんだ?」
アコン
「あぁ、成る程」
ホーラ
「そのくらいやって貰わなきゃ、俺はあの女を信じねぇな」
ラグ
「信じさせてやるよ」
ホーラ
「えっ?」
ラグ
「だけどね、あんたに信じてもらう為じゃない。アコンだよ。アコンの為だけよ」
ホーラ
「ふふっ、そりゃどっちでもいい。作戦通りになるからな。やってくれるか?」
ラグ
「やりますよ!」
コトセット
「わっ! 何だ?」
「格納庫か?」
ジロン
「何だ?」
ブルメ
「え?」
ダイク
「どうした?」
ジロン
「あ〜っ!」
ダイク
「ザブングル……!」
ジロン
「俺のザブングルが!」
エルチ
「あぁっ、ザブングルが……!」
チル
「どうしたの? あぁっ、ザブングルがやられてる!」
ジロン
「ラグか?」
エルチ
「こんな事するの、ラグしか居ないわよ!」
コトセット
「ありゃぁっ……」
ジロン
「あっ……!」
ダイク
「あっ……!」
ブルメ
「え? ひっでえ!」
コトセット
「修理、急げ! せっかくのマシンが動かんというのは、技術者として不愉快だ!」
ジロン
「それだけじゃない。これじゃ、ホーラが来ても防ぎ切れない!」
コトセット
「あっ……そ、それもある!」
ブルメ
「そっちが大変なんだ!」
ジロン
「エルチとファットマンはブリッジに上がって、警戒態勢を敷いてくれ」
エルチ
「言われるまでもないわ。でも、誰がこんな事やらせたの? ホーラ?」
ジロン
「そんな事、分かる訳ないでしょ?」
「ブルメ、手伝わないのかよ?」
ブルメ
「コトセットが居るだろ?」
チル
「あたいも行く」
ジロン
「チル!」
ブルメ
「こっちだ」
チル
「わっ!」
ブルメ
「置いてくぞ」
ジロン
「こんな時に攻撃されたら、ひとたまりもないぞ」
「ここから入る訳ないだろ?」
チル
「ブルメ、もっと飛ばせないの?」
ブルメ
「しっかり掴まってろ。思いっ切り飛ばしてやるからよ」
チル
「うん」
アコン
「へへっ、ラグが居なけりゃよ、こうも簡単にザブングルは手に入らなかったぜ」
「ま、ホーラの作戦はせこくて気に入らねぇけどな」
ラグ
「戦いのドサクサの中でホーラを殺るって事も、ザブングルがあれば出来るものね」
アコン
「あ、そうか。確かにそうだな。意外と早く目的が果たせるかもしれん」
「よっ、こいつ本当にウォーカー・マシンになるのかよ?」
ラグ
「出来るよ。そっちのペダルを踏み込むと、オートマチックでドッキングしてくれるよ」
「ライフルを降ろしてくるわ」
「アコン、やってみな」
アコン
「おう」
「成る程。シートごとこっちへ来んのか」
ラグ
「アコン、バランスを取って」
アコン
「おう」
ラグ
「ダッカー・タイプより重いんだからね、アコン」
アコン
「分かった分かった」
雇われ
「敵だ! 撃て撃てぇっ!」
 〃
「撃つな、あれはアコンのだ。かっぱらって来たんだ」
アコン
「どうだ? ホーラの船は、カラスのバザーから離れたか?」
ゼム
「作戦通りです。後は、ザブングルが殴りこむだけですぜ」
アコン
「よしラグ、いいな? お前はここで待ってろ」
ラグ
「うん。期待しているよ、アコン」
アコン
「ふふっ……ん、頑張る頑張る」
ラグ
「アコン!」
ブルメ
「あっ」
チル
「何?」
ブルメ
「何か聞こえた」
「うわっ!」
ブルメ、チル
「うぅっ……!」
チル
「ブルメ、死んじゃったの? 来るよ、ウォーカー・マシンが!」
ブルメ、チル
「わっ……!」
チル
「放せ! 放せ!」
ブルメ
「くそっ、やっぱり貴様……!」
ホーラ
「こんな時間に散歩かね。ブルメ君、チルちゃん」
ブルメ
「やっぱりお前の差し金か! ザブングルをアコンにかっぱらわせたのは」
ホーラ
「アコンがザブングルを盗んだと? 何故、そんな事を思い付くのだ?」
ブルメ
「ラグだよ……わっ! ラグがアコンの所に居るのは知ってんだ。ラグを使えば出来る事だろう?」
ホーラ
「ブルメ君、男というものは武器など盗まず、正々堂々と戦うものだ。この私のように、な?」
ブルメ
「イノセントの後ろ盾がありゃ、俺だって出来るぜ……うっ!」
チル
「ブルメ!」
ホーラ
「アコンを懲らしめに行く。見ているがいい」
ブルメ
「てやんでい……わっ!」
ホーラ
「ダブル・スケール、微速前進だ!」
カラス
「ザブングルだと? 確かに青いウォーカー・マシンなのか?」
雇われ
「間違いありません。バザーに集まっているロックマン達を襲っているんです」
カラス
「アイアン・ギアーは?」
雇われ
「居ないようです」
カラス
「何故、エルチが俺のバザーを襲うんだ?」
アコン
「よーし、バザーの連中が起きてくれりゃ……」
「ビッキー、ドラム! カラスのランド・シップを狙え!」
雇われ
「了解!」
カラス
「発進急げ! バザーを守らんと、このカラスの名が笑い者になるぞ!」
アコン
「へへっ、これでカラスとアイアン・ギアーが仲違いすれば、俺にとってはチャンスという訳よ」
「ハッチが開かなきゃ、ウォーカー・マシンも出てこれまい」
荒くれ
「あ〜あ、早くやめてくれねぇかな」
 〃
「レートが高い運び屋なら、俺達にとっちゃ誰でも構わねぇもんな」
「うっ!」
 〃
「流れ弾に当たらなけりゃな」
「あっ、新手か。逃げた方が良さそうだな」
雇われ
「ホーラの奴が……!」
アコン
「ホ、ホーラ、どういうつもりだ? 俺を狙うとは……!」
ホーラ
「ふふっ、お前の役目は終わったよ。後はすっきり往生するんだな」
チル
「ザブングルを狙ってる」
ブルメ
「全く、ホーラらしいぜ」
雇われ
「そうすりゃバザーの連中は、アイアン・ギアーを敵にしてカラスとエルチも内輪揉め……へへっ」
チル
「ホーラさんって頭いい」
雇われ
「当ったりぃ」
ブルメ
「当ったりぃ!」
雇われ
「うっ!」
ブルメ
「俺は、ジロンに知らせる」
チル
「あたいは、ラグんとこに行く」
ブルメ
「何故?」
チル
「ラグが一緒じゃないの、変だよ」
ブルメ
「どうやって?」
チル
「あたいだって、ホバギーぐらい動かせらい」
雇われ
「こら、待ちやがれ……うっ!」
ラグ
「ジロン達がいけないんだよ。ちっとも私の事を思ってくれないから……私はアコンを好きになる」
「あっ……?」
チル
「わっ、やめてやめてよぉ」
ゼム
「子供だ! やめろ!」
チル
「あんた達の親分が、ホーラにやられてるよ。こんな所にのんびりしてていいの?」
ラグ
「何だって? 本当かい、それ」
チル
「本当……うわっ!」
ラグ
「チル!」
チル
「ラグ!」
ラグ
「本当なのかい?」
チル
「馬鹿! ラグの馬鹿!」
ラグ
「チル……」
チル
「何故、アイアン・ギアーを出て行っちゃうんさ? 何で帰ってくれないんさ?」
ラグ
「ば、馬鹿言わないでよ。私は敵のスパイをしているんだよ。だから帰らないんじゃないか」
チル
「スパイ?」
ラグ
「しっ! 本当に、ホーラがアコンを狙ってるんだね?」
チル
「うん」
ホーラ
「ウォーカー・マシンを前進させろ。長引かせちゃならねぇ」
雇われ
「わぁぁっ!」
アコン
「カブラ!」
「ホーラめ、俺をダシにしやがって……!」
カルダス
「姉ちゃん、そっちは危ねぇぞ」
ラグ
「アコン……!」
「させるかい!」
アコン
「ラグ! 来てくれたか!」
ラグ
「あっ、あぁっ……!」
「あっ! アコン、後ろから来るよ!」
「アコン!」
雇われ
「ふんっ、てめぇはもうお役御免よ!」
アコン
「舐めんなよ!」
「くそっ、この野郎!」
「わぁぁっ! とりゃぁぁっ!」
「てめぇらーっ!」
ホーラ
「何をやっているんだ、あのダッガーは」
ラグ
「アコン! 駄目だよ、アコン!」
アコン
「やられるか! やられるか! やられるかよ!」
ラグ
「アコン、後ろ!」
「あぁっ……!」
「あ、あぁっ……!」
「やり過ぎなんだよ、アコンは……」
「はっ……!」
ジロン
「わぁぁっ!」
ラグ
「ジロン! 来てくれたのね?」
ジロン
「ザブングルをかっぱらいやがって! 許さないぞ、ホーラ!」
カラス
「船を止めろ。エルチがホーラに仕掛けだしたようだな」
「女手一つでやって行こうとなれば、あのぐらいの気力は要るが……俺の縄張りでやるとはな」
「親父と同じだ。血は争えんな」
ホーラ
「撃て、撃て! 後退する! 弾幕を張れ!」
カルダス
「あいつのアイアン・ギアーか」
エルチ
「バザーの人は下がって! ダブル・スケールを追っ払うまではバザーを離れて!」
「どうなの? ホーラのウォーカー・マシンは」
コトセット
「整備でもしてるんでしょう。出て来ません」
ジロン
「逃がすか! 逃がすかよぉ!」
「邪魔するなってぇ!」
ラグ
「みんな、私の事なんか忘れてるんだ……うぅっ!」
カルダス
「アイアン・ギアーか。それに、向こうにカラス・カラスのグレタか……」
ラグ
「くそぉっ!」
ジロン
「ラグの奴……」
「ラグ〜!」
ラグ
「うっ、うぅっ……」