第25話 捨て身と捨て身の大戦闘

前回のあらすじ
あらゆる支配を、イノセントという特権階級に押さえられている、惑星ゾラ。
しかし人々は、それを何の不思議もなく受け止めていた。
弟ガリーをやられたカラス・カラス。遂に、戦い好きの女房グレタの助けを借りて、擂鉢谷の大決戦。
色んな陰謀巡らせて、罠に嵌めたは良かったが、始めよければ終わり良し
……という訳にはいかない、アイアン・ギアーとザブングルのしぶとさよ。
プライド傷付けられたグレタ・カラスは一人泣き。
それを知らないカラスは、女房死んだと逃げ回り、ようやく擂鉢谷を逃げ切って夕日に向かって走ります。
そして、何日目かの時移り……。
カラス
「もっとスピードは出んのか。こんなこっちゃ、どこの上納ポイントにも着けんぞ」
雇われ
「旦那……こいつは、スクラップ寸前の中古を値切って買った奴ですぜ? こ、これ以上は……」
カラス
「やかましい。急げと言ったら急ぐのだ!」
雇われ
「りょ、了解!」
「全速前進だ! エンジンが焼き切れても構わんぞ!」
雇われ
「お、おい、待てよ!」
カラス
「行けぇっ、行けぇーっ!」
「急げ、急げぇっ!」
「と、止めろ! 警報レーザーに引っ掛かる! 総攻撃を食うぞ!」
雇われ
「停止、停止! 何でもいいから止めろ!」
カラス
「と、止めろぉっ……!」
エルチ
「修理にどのくらい時間が掛かるの?」
コトセット
「もっと強く締めろ!」
ガルロ
「締めてるよ……わっ!」
エルチ
「後どのくらいで修理が終わるかって聞いてるのよ。全く、いつまでこんな所に居るつもりなの?」
コトセット
「私だって、こんな所で野垂れ死になんて真っ平ですよ!」
「だが、部品が集まらなきゃ手の打ちようが……わっ!」
エルチ
「超一級のメカマンなんでしょ? 頼りにしてるわよ?」
ファットマン
「シシッ……」
コトセット
「……女に、女にぃ……!」
ジロン
「どうだ? 使えそうな物はあったか?」
ダイク
「どのエンジンも駄目だな。ちょっと派手にやり過ぎたな」
ジロン
「手加減出来るような戦いじゃなかったんだ。仕方ないさ」
チル
「なるたけ使える部品探さないと、コトセットがヒステリーになるよ」
ダイク
「参ったな……」
ブルメ
「ヘ〜イ、どうだ? 何かあったかい?」
ジロン
「駄目だ、碌なものはない」
ダイク
「燃料くらいだな」
ブルメ
「これだけ派手にやったんだ。使える部品なんか、ありやしないよ」
ラグ
「あんた達、そんなとこで油売ってると、エルチの雷が落ちるよ」
「ジロン、カラスのランド・シップの中は探したのかい?」
ジロン
「いや、まだだ」
雇われ
「旦那、本当に大丈夫なんでしょうね? ブルー・ストーンどころか、ビタ一文ないんですよ?」
カラス
「ワシの取引実績は高く評価されとるんだ。ランド・シップの一隻ぐらい、イノセントはいつでも貸してくれるさ」
雇われ
「それにしても遅いですねぇ」
カラス
「今に来る」
雇われ
「来ました!」
カラス
「来たか!」
「確かに、運び屋専門のガード・マンだ」
警備兵
「上申は聞いた、カラス・カラス。確認ナンバーを言え」
カラス
「B121164、カラス・カラスだ」
警備兵
「ブルー・ストーンは持ってきたな?」
カラス
「勿論」
警備兵
「艦型が登録ナンバーと異なる」
カラス
「ビエル執政官がこちらにお出でと聞いてやってきた。執政官に取り次いでくれればいい」
ジロン
「ないな……みんな焼けちゃってさ」
「わっ、わっ……!」
ラグ
「ジロン! ね、見て? このミサイル・ランチャー使えそうだよ」
ジロン
「そいつはいい……わっ!」
ラグ
「ジロン! 大丈夫、ジロン? ジロン!」
「ジロン、どうしたの? こんな事くらいで……」
ジロン
「心配した?」
ラグ
「あっ、こいつ〜!」
ジロン
「わっ、こいつ〜!」
ラグ
「ははっ!」
ジロン
「チョイッと」
ラグ
「何よ、待て〜!」
エルチ
「あんた達、何ふざけてんのよ!」
「ラグ、ジロンにちょっかいばっか出してないで、やる事したら?」
ラグ
「分かってるよ」
ジロン
「やってられないよ、もう」
「よっ、あれ……?」
雇われ
「おい、見た事もねぇランド・シップだぜ?」
 〃
「でけぇな」
 〃
「おい、こっちこっち! あれ、アイアン・ギアー・クラスだぜ」
カラス
「ほう、アイアン・ギアーは向こうにもある」
カラス
「ビエル執政官は、俺に会ってくれるんですかね? ビエル執政官の所に行くんだろ?」
「チッ……」
ホーラ
「……ん?」
「ふっ……」
ビエル
「するとランド・シップを一隻、ブルー・ストーンも金もなく貸してくれというのか」
カラス
「は、はい……。しかし、後で必ず相応の代金をお払い致します。つまり、その時までの……」
ビエル
「前借り、という訳か……」
カラス
「は、はい。そういう事で……」
ビエル
「今まで一度の前例もない事だと知って、頼むのか?」
カラス
「は、はっ……」
ビエル
「一度前例を許せば、二度、三度と同じ者が出てくる……認められんな」
カラス
「そこを何とか……この通りです。弟は殺され、女房までも……」
「そればかりか私まで丸裸にされて、男が立ちません」
「私がこうなったのも、戦力が余りに違いすぎた為……」
ビエル
「戦力……?」
カラス
「はい。(?)せめて、同じ規模のランド・シップがあれば、あんな小僧如きに背を向ける私ではありません」
ビエル
「ドックの新型ランド・シップの事か」
カラス
「い、いえ……」
ビエル
「……互角の戦力を与えて、ジロン達の実力を試すという手段もあるか……」
「良かろう。特別に許そう」
カラス
「え? ビエル様、貴方は神様です」
雇われ
「イヤッホーッ!」
カラス
「これだ、これだ! 上に上がれ!」
雇われ
「おう!」
カラス
「へへっ、これだったら負けはしねぇ」
「ブリッジへ行け」
「野郎共、よく聞け! これから弔い合戦に向かう!」
雇われ
「オォーッ!」
カラス
「ん、だからだ。この船の名前を、我が愛する妻グレタ……」
「そして最愛の弟ガリーから取って、グレタ・ガリーと名付ける事にする」
雇われ
「オォーッ!」
 〃
「うぅっ、ボ、ボス……!」
カラス
「グ、グレタ……ガリー……二人の恨みは必ず晴らしてやるぞ」
ローズ
「くそっ……」
「ん、船はオンボロになっちまったし、バザーよりドンパチの方が本業みたいなんだから……」
「ねぇあんた、そろそろ貸しを変える時期じゃないのかい?」
プロポピエフ
「そ、そりゃそうだけどさ……」
ラグ
「ジロン、弾を仕入れてきたよ」
ジロン
「へ〜、やるじゃないか、ラグ」
ラグ
「修理屋の裏に転がっていた奴を、タダ同然に叩いて持ってきたのさ」
ジロン
「マガジン付きの弾か」
エルチ
「手柄の押し売り?」
ラグ
「どういう意味よ、それ?」
エルチ
「まだまだ、これからの働きをたっぷり見せてもらってからでないと、安心出来ないって事」
ジロン
「エルチ、ラグの事はもう……」
ラグ
「一度落とした信用取り戻すには、時間が掛かるって訳ね」
エルチ
「それだけ分かってりゃ上等。ジロンも気を許さない事ね」
ジロン
「うん」
ラグ
「わっ、あ〜っ!」
ジロン
「よっ、お気を付けて」
「ん?」
「あっ! ありゃ、アイアン・ギアーだ!」
ラグ
「えっ?」
エルチ
「アイアン・ギアー?」
ジロン
「わ〜っ!」
「凄い射程距離だ!」
エルチ
「何、感心してんのよ? 一体誰が、アイアン・ギアーなんかで来るのさ?」
一同
「あっ、カラスだ!」
カラス
「ははっ……見たか、アイアン・ギアーの餓鬼共め」
「パターン破りのザブングルと言えども、同型艦が敵になって出てくるとは思うまい」
「女房の仇、弟の仇を討たせてもらうぜ。この新造艦グレタ・ガリーで、息の根止めてくれるわ」
コトセット
「え、新造艦だと?」
「同型艦なら勝ち目はないぞ。こっちは戦い疲れてるが、向こうは新品!」
チル
「アイアン・ギアーが来る! アイアン・ギアーが来る!」
ローズ
「あんた、どうすんの?」
プロポピエフ
「どうすんのって……どうしよう?」
ビエル
「何だ? ノックもせずに」
ドワス
「カラス・カラスにアイアン・ギアーを前貸ししたというのは本当でありますか、執政官?」
ビエル
「それ程、険悪になる事でもないと思うがな」
ドワス
「とんでもない事です! 他のポイントの執政官達に知れたら、どういう事になると思われます?」
ビエル
「私にもそれなりの考えがあってやった事だ。他の執政官を納得させる自信はある」
ドワス
「しかし何故よりによって、出来たばかりのランド・シップをお渡しになったのです!」
ビエル
「ドワス! 我々イノセントの目的はなんだ?」
ドワス
「はっ……この惑星ゾラに適応する人の改造です」
ビエル
「その為に、我々は数々の生体実験をやってきた。その一つだよ。これも実験だ」
「アイアン・ギアーの連中は、我々の求めている生体と見えるが、本当にそうなのかどうかはまだ分からんのだ」
「カラスにアイアン・ギアーと同じ戦力を与えて、試す必要がある」
ドワス
「危険です! 何よりも、シビリアンのコントロール・システムを壊す事は、体制の問題として……」
ビエル
「体制だと? 貴様は誰からそんな言葉を教えてもらったのだ!」
「我々は目的の為に、取り敢えずシビリアンを監視しているだけだ。二度と私の前で……!」
ドワス
「うっ!」
ビエル
「二度と私の前で、その言葉を口にするな!」
ドワス
「はっ……申し訳ありません」
ビワス
「ジロン達は研究資料なのだ。マークを忘れるな」
ドワス
「はっ!」
ホーラ
「ビエル執政官」
ビエル
「ホーラか……」
ホーラ
「カラスに、ランド・シップを貸したのですか?」
ビエル
「今から戦況を見に行く」
ホーラ
「私も同行させてください」
ビエル
「人目に付かずにドームを出たい」
ホーラ
「お任せを」
エルチ、コトセット
「うぅっ……!」
ジロン
「わ〜っ!」
エルチ
「どこ狙って撃ってるのよ? こちらの弾は届いてないじゃないの!」
ブルメ
「遠過ぎるんだよ!」
エルチ
「向こうの弾は飛んでくるわよ?」
ダイク
「型が同じでも性能が違うんだ、性能が!」
コトセット
「だったら腕でカバーしろ!」
エルチ
「あんたも作戦を考えたら?」
ラグ
「エルチ、前進させるのよ、前進! そうすれば、相打ちにはなるわ!」
エルチ
「あんたの指図は受けないわ!」
「コトセット、前進よ!」
コトセット
「無理です。まだ、ホバー・ノズルの修理がちゃんと終わってないんですよ?」
チル
「わっ、ウォーカー・マシンも出てきたよ!」
ジロン
「ウォーカー・マシンはこっちでやる。いいかラグ?」
ラグ
「分かってるよ。ここは私の家だからね、壊させやしないよ」
「さ、行くよ!」
ジロン
「ラ、ラグ……!」
雇われ
「動きませんね、奴ら」
カラス
「動かないんじゃない、動けないんだ」
「思ったよりアイアン・ギアーのダメージは大きいぞ。一気に叩き潰すチャンスだ」
ジロン
「そんなポンコツで相手をしようっていうの?」
雇われ
「やかましい!」
ジロン
「じゃ、遠慮なく!」
「あっ、弾がない!」
雇われ
「そっちも似たようなもんじゃないか!」
ラグ
「ジロン、後ろ!」
ジロン
「わっ……!」
カラス
「おっ……!」
ジロン
「カラス・カラスか! こんなランド・シップを、どこで手に入れたんだ!」
「わっ!」
カラス
「後退だ! 全速後退しろ!」
ラグ
「ジロン! アイアン・ギアーにガバメントが取り付いたわ!」
ジロン
「何をやってたんだ、ラグは……!」
エルチ
「ジロン、早く来て……あっ!」
雇われ
「ははっ……死ね! ガリーとグレタのようにな!」
エルチ
「何を〜!」
ラグ
「こいつ〜!」
「もう一丁!」
カラス
「あの青い奴を叩き潰さにゃ駄目だ。おい、こっちもウォーカー・マシンに変型するんだ」
雇われ
「ウォ、ウォーカー・マシンに? ま、まだ変型テストもやってないんですよ?」
カラス
「これがテストだ! 上手く行くと信じれば、上手く行く!」
雇われ
「へ、へい!」
エルチ
「コトセット、逃げるわ」
コトセット
「え? いいじゃないですか、丁度いい」
エルチ
「冗談じゃないわ。やっつけるのなら今よ? 敵のウォーカー・マシンの少ない時にやっちゃいたいの」
コトセット
「機関室へ行ってきます!」
エルチ
「そうしないと、三日経っても追い掛けてきそうな気がするわ」
ブルメ
「このっ、このっ、落ちろ……!」
「わっ!」
「オマケだ!」
チル
「わっ、向こうが変型始めたよ」
エルチ
「え?」
ジロン
「あっ……!」
チル
「何か変だよ?」
エルチ
「コトセット、こっちも変形して」
コトセット
「今の状態じゃ無理ですね」
エルチ
「じゃあ後退よ、後退して」
コトセット
「前進が無理なのに、何で後退出来るんですか?」
チル
「動かなきゃやられちゃうよ!」
カラス
「肩の機銃を撃て! 上から狙えばこっちの勝ちだ!」
雇われ
「へ、へい!」
カラス
「青いのが来るぞ、急げ!」
「ん、どこへ行きやがった?」
ラグ
「んっ、駄目よ……パワーに差がありすぎる!」
ジロン
「くそぉーっ!」
「ラグ、逃げろ!」
ラグ
「ジロン、もたないよ早く!」
ジロン
「わっ、肩の関節が折れた! 流石、アイアン・ギアーのパワー!」
カラス
「やった、やったぞ! 遂に、巨大ウォーカー・マシンになった!」
エルチ
「わ、こうやって見るとデッカイ!」
チル
「アイアン・ギアーと同じ物なんよ? 驚かないの!」
ジロン
「冗談じゃないぜ、腕が使えずにこいつと戦うのかよ」
ラグ
「デカイだけじゃ勝負に勝てないよ!」
「こいつ、こいつ……!」
雇われ
「わっ……!」
ジロン
「ラグ!」
ラグ
「やっぱり、大きいけど何て事ないさ! 大男総身に知恵が回りかね……ってね!」
ホーラ
「どうやらカラスも、女房の仇が討てそうですな」
ビエル
「そうかな?」
ホーラ
「何故です? アイアン・ギアーは動けないのですよ?」
ビエル
「カラスの方が焦っているように見えるが……そうだったのだろ? 君が彼らと戦った時も」
ホーラ
「そりゃそうでしたが……」
「量的には、カラスの方が勝っています」
「それにイノセントは、アイアン・ギアー・タイプは、ランド・シップの中で最強だと言ってます。ありゃ嘘なんですか?」
ビエル
「嘘ではないが、今までにアイアン・ギアー同士で戦った事はあるのか?」
ホーラ
「そ、そういえば……」
エルチ
「左甲板に被弾! 消化班、早く火を消して!」
ミミ
「あ、あれ……ああんっ!」
ラグ
「くそぉーっ!」
雇われ
「わっ……!」
ラグ
「このまま踏み潰されたくなかったら、撃つんだ!」
カラス
「うわーっ!」
エルチ
「やったわ!」
チル
「凄い、ラグ!」
ビエル
「見たまえ。あれは知恵の強さなのだ、ホーラ君」
ホーラ
「知恵……?」
ジロン
「押せ、ラグ!」
ラグ
「ううっ……!」
カラス
「おぉっ……何をしてる! あいつらを踏み潰せ!」
雇われ
「駄目です! 足が動きません!」
ジロン
「こ、今度は膝の関節か……くそっ!」
エルチ
「その調子よ、ジロン!」
チル
「エンジンが掛かった!」
コトセット
「修理完了!」
エルチ
「偉い、コトセット!」
コトセット
「ははっ、さあ後退させますよ」
エルチ
「駄目、前進よ」
コトセット
「え?」
エルチ
「全速で敵ランド・シップに体当たりさせて!」
コトセット
「な、何ですって? せっかく修理したのに、また壊そうっていうんですか?」
エルチ
「誰が壊すって言った? 勝つ為よ!」
コトセット
「了解〜!」
ジロン
「アイアン・ギアーが動いた!」
ラグ
「突っ込む気ね、エルチらしいわ!」
ローズ
「ぶつかるよ!」
ルル・ミミ・キキ
「キャ〜ッ!」
カラス
「撃て、撃て、左舷撃てーっ!」
エルチ
「ん、やる〜! 構うなコトセット、突っ込め!」
「押さえてて!」
「行け〜っ!」
ジロン
「わ〜っ!」
ホーラ
「ま、まともなやり方じゃない。ありゃ、滅茶滅茶だ」
ビエル
「しかし力だよ。気力という人の力のせいかな」
ホーラ
「気力ね……」
ダイク
「それっ!」
ブルメ
「堪んねえな!」
「カラスの奴ら、どうなったのかな?」
エルチ
「たったこれだけの人数で戦ったのかしら?」
ダイク
「らしいな」
ジロン
「部下の補充をしなかったんだろうな」
「うっ……!」
カラス
「く、くそっ……!」
「この勝負、勝てると思った……」
ジロン
「丸裸で逃げたあんたが、よくこんなランド・シップを手に入れられたな」
カラス
「イノセントに前借りだよ」
エルチ
「え、前借り? そんな事ある訳ないでしょ?」
カラス
「俺だから出来た、そう思った……今思うと、俺はイノセントに……」
ジロン
「イノセントに? おい、何だ? 何を言おうとしたんだ? カラス、カラス……!」
ホーラ
「お仕舞いか……ビエルめ、こうなる事が始めから分かっていたというのか……」