第30話 頭にきたらおしまいよ

前回のあらすじ
支配階級イノセントと、支配される者シビリアン……
その間にも、時代の流れともいうべき変化が起きようとしていた。
エルチをビエルに攫われたキッド・ホーラは、頭に血が上り、ジロンの助けを借りに参ります。
ところがイノセント、次なる手段を打ちまして、ジロン・アモスの足止め算段。
そして現れ出てたるは、何と、死んだ筈だよティンプ・シャローン。
頭にカッと血が上り、猪突猛進・我武者羅ジロン。
ところがティンプ、昔の俺と違うのよと圧倒的に強かった。
ジロン
「おいブルメ、まだかよ?」
ブルメ
「手が悴んでんだよ」
「お〜い、行くぞ! そらっ!」
ジロン
「よーしっ!」
ブルメ
「しっかり結べよ!」
ダイク
「コラ! お前達、遊んでんじゃないの! 雪掻き、雪掻き!」
「ん? お〜い、ジロン! もっと引っ張れ! 右が下がってる!」
ジロン
「右? どれどれ……わわっ!」
ラグ
「あ〜、これじゃ前が見えないじゃないさ……もう!」
チル
「あ〜、ちべた〜い! 早く閉めてよ〜!」
ラグ
「煩いわね、みんな寒いの!」
「頭だけでもカモフラージュしようってけど、これじゃこっちまでカモフラージュされちゃう」
「何とかしてよ、ジロン」
ジロン
「あのね! 外はもっと寒いんだぞ?」
ブルメ
「あ〜、寒……手がちぎれそう」
チル
「ギャリアかザブングルでやれば良かったのにさ〜」
コトセット
「そんな事で、ガソリンの無駄遣いが出来ますか!」
ラグ
「ねえ、寒いのやだよ。引き返そうよ」
ジロン
「エルチを諦めろってのか?」
ラグ
「得な事なんて何もないじゃないか」
「手形なくたって、ソルトとかってのと組めばガソリン手に入るんだしさ」
ジロン
「冗談じゃないよ。ラグだって見たろ? ティンプをさ」
「アイツが生きてたなんて、俺……こんなに虚仮にされたの、生まれて初めてなんだよ」
ラグ
「あのね、もういい加減そういうの嫌になったんだよ、アタシャ……」
ダイク
「もう遅いな」
ラグ
「何で?」
ダイク
「前の戦いで見たろ。ティンプはもう一匹狼じゃない。組織的になってきているんだ」
ブルメ
「アイアン・ギアーはマークされてるんだよ。だからソルトの連中は、自分達の体勢を整えるって出てったんだろ?」
ラグ
「コリンズとかって連中の事? 連中も分かんないんだよね……」
プロポピエフ
「はい、1・2・3・4、2……ほれ、もっと足上げて!」
ルル
「何も、こんな寒い時にやんなくたってぇ」
プロポピエフ
「あったまる為にはこれが一番なの。はい、1・2・3……わっ!」
チル
「わっ……!」
ジロン
「あっ」
ラグ
「雪が落ちてくる!」
ブルメ
「爆撃か?」
コトセット
「こっちに来るんじゃないのか?」
「左エンジン停止! 急速旋回!」
ラグ
「あっ、ぶつかる!」
コトセット
「わっ、わっ……!」
一同
「わ〜っ!」
ローズ
「あんた〜!」
カタカム
「久し振りに大きな獲物だ。ランド・シップごと戴くぞ!」
ジロン
「ん、何か来る。戦闘用意だ!」
チル
「わ〜、色んなんが来てるわさ」
ラグ
「どいて。大した数じゃないようだけど」
「コトセット、何してんの? エンジン全開よ!」
コトセット
「やってます! ほれ!」
ジロン
「敵だ!」
ブルメ
「援護してくれ!」
ダイク
「頼む!」
チル
「あ〜っ、ジローン!」
ジロン
「あっ、チル! ドッキング出来ないじゃないか!」
チル
「やったぁ、ジロン! ウォーカー・ギャリア!」
ジロン
「あ〜、動きが取れん! ラグ、うんと助けを出してくれ!」
ブルメ
「このっ、捷いチビが! 当たれ当たれ!」
ミミ
「ヨイショ!」
ローズ
「撃て!」
ラグ
「あっ! 手が空いたら滅茶滅茶にやってやるから!」
「ジロン!」
ジロン
「弾を入れて、弾を! すぐなくなる!」
「くそぉーっ!」
ブルメ
「くそっ、目まぐるしく動きやがって!」
ジロン
「急いでよ、ラグ!」
ラグ
「煩いわね、ゴチャゴチャ言うんだったら自分でやったらどう?」
「あっ!」
「終わったよ!」
ジロン
「よーしっ!」
「おっ……ナロッ!」
「ははっ……!」
カタカム
「うぉっ……くそっ!」
ジロン
「うぉっ……わ〜っ!」
ラグ
「あぁっ、こんの〜っ!」
カタカム
「よっこらしょっと」
ジロン
「後ろから撃たないのか?」
カタカム
「そんな卑怯な真似はせんよ」
ジロン
「ヘヘッ……ティンプの仲間にしては珍しいな」
カタカム
「何だと? あんなイノセントの手先の汚い奴と一緒にされてたまるか!」
ジロン
「何? 仲間じゃないのか?」
カタカム
「俺達は、ティンプのような奴と戦っているんだ」
「イノセントに手を貸すシビリアンほど、憎むべき相手はいない」
ジロン
「ちょっとちょっと、アンタ達ひょっとするとソルトかい?」
カタカム
「何だ? 何者だ、お前ら?」
ジロン
「手を放してよ、手……!」
「コリンズって難しい奴の仲間だろ?」
カタカム
「奴を知っているのか」
ジロン
「臭いが似てんだよね。尤も、トロンとは大違いだけどね」
カタカム
「トロンを知っている? アンタ、ジロン・アモスか?」
ジロン
「それがどうした? ……ハックション!」
カタカム
「俺はカタカム・ズシム。イノセントの天下を引っ繰り返そうとする組織、ソルトのこの辺りのボスって事になっている」
ジロン
「で、何で俺達の船を襲ったんだよ?」
カタカム
「トロン・ミランはいい戦士だった」
ジロン、ラグ
「え?」
ラグ
「話、違うね」
カタカム
「彼女が戦死したらしいという話を聞いて、我々も立ち上がる時だと考えたんだ」
「その最初の相手が、アンタ達だったんだ」
ラグ
「そのソルトの話は、コリンズとかいう奴から聞いたけど」
カタカム
「コリンズは、君達に同志になって欲しくて、ソルトの事を教えたのだ」
ラグ
「アンタら要するに、この船が欲しいだけだよね?」
カタカム
「我々人間は、元々何をしようと、どこへ行こうと全て自由だったんだ」
ラグ
「自由ってんなら、私達だって……」
カタカム
「それは違う。我々はずっとイノセントに管理されてきたんだ」
「その証拠に、ウォーカー・マシン一つ、イノセントの力なしには手に入らんだろう」
「とにかく、俺達は蜥蜴牧場の食用蜥蜴のように、イノセントに飼われるのは沢山だ。奴らを倒して自由を取り戻す」
ブルメ
「倒すったって、棒っきれじゃないぜ」
「ダイク、交替だ」
ダイク
「ああ」
ジロン
「俺達は取り敢えず、仲間のエルチを取り戻す事だけだ。ポイントJへ向かう」
カタカム
「そんな小さな心掛けでは、イノセントは倒せないぞ」
「知ってるか? イノセントの神、昇天する光を……」
ラグ
「ああ、あれは凄かったよ」
ブルメ
「俺達もぶったまげたぜ」
カタカム
「あの光の秘密を手に入れる事さえ出来れば、イノセントに勝てる筈だ」
ブルメ
「かもな。出来ればね」
カタカム
「だから、我々は手を組んで戦う必要があるんだよ」
ジロン
「イノセント全部をやっつけるって、アンタら言ってんだろ? やりゃいいじゃない」
「いつもこんなに降るのかい?」
カタカム
「ところで、ラグさん」
ラグ
「へ? や、やだ『さん』だって。ふふっ……」
ブルメ
「ヒヒッ、『さん』……!」
一同
「ははっ……!」
ファットマン
「ブフッ!」
ラグ
「アンタらまで笑う事ないじゃないのさ!」
カタカム
「君は、雪猪を食べた事あるかね?」
ラグ
「雪猪? ううん?」
カタカム
「よし、我々のアジトへご招待しよう。ティンプとやらもこの雪では動けん筈だ」
「どうです、ラグさん?」
ラグ
「は、はい。喜んで……!」
ブルメ
「ブーッ!」
Dr.マネ
「ああ、ミス・エルチ。ようこそ。さあ、お掛けなさいな」
エルチ
「有難う、ドクター・マネ」
Dr.マネ
「ドレスがよくお似合いよ。ここでの生活、如何? 満足かしら」
エルチ
「あ、あの、それは……?」
Dr.マネ
「これは夢の世界へ入る為のものよ。貴方は、イノセントの本当の文化に触れたいのでしょう?」
エルチ
「え、えぇ……」
Dr.マネ
「だったら、心の中もイノセントと同じようにならなければね」
エルチ
「ええ」
Dr.マネ
「私がお手伝いするわ。今までのシビリアンの生活から抜け出さなければね」
「ミス・エルチ、よーく見て……」
ジロン
「全くカタカムなんてヤワな奴、イチャイチャしちゃって……何が面白いんだろ?」
ブルメ
「一人でエルチを助けようなんて、格好良すぎるんじゃないの? ジロン」
ジロン
「ダイクにブルメか?」
ダイク
「ラグの奴がさ、あんな訳の分からないの引っ張り込んで、気色悪いんじゃないの?」
ブルメ
「Jポイントに行くっていうのなら、ティンプが待ち伏せてるっての考えられるんだぜ?」
ジロン
「覚悟の上さ……っていうより、一石二鳥だよ。エルチを助けられてティンプもやっつけられるんだからさ」
ブルメ、ダイク
「ははっ……」
ブルメ
「よく言うよ。ティンプに手玉に取られてんのにさ。チルも連れ出したのか?」
ジロン
「居る訳ないだろ? 夜中に一人で、敵の隙を突こうっていうんだから」
「付いてこい!」
エルチ
「あぁっ……!」
「ああ、やめて! みんな! お願い!」
「私に何をしようというの? 来ないで……怖いわ、怖い……!」
「あぁっ……!」
Dr.マネ
「大変な精神力と肉体ね。ビエル執政官の仰る通りかもしれない」
「シビリアンは、いよいよ完成し始めているようね」
「強心剤を50ミリ・グラム投与して。実験再開するわ」
研究員
「はっ!」
ダイク
「ティンプ達の野営地か」
ティンプ
「だろうな。こういった用心深さは普通のブレーカーじゃない」
ジロン
「よーし、ならばこっちから手を出した方が早いってもんだ」
カタカム
「寒くはないか? ラグさん」
「……寒くはないのか? ラグさん」
ラグ
「え? 大丈夫よ、カタカム」
カタカム
「そうか」
ラグ
「でもさ、アンタらおかしいな」
カタカム
「何故だ?」
ラグ
「アジトだなんて言うからさ、どんなに凄いものかと思えば……ただの修理工場じゃない」
「ウォーカー・マシンだって碌な物はないしさ」
カタカム
「時間さえ掛ければ人は集まる。いつか武器だって、もっともっと手に入れられる。人を集める事も戦いなのさ」
ラグ
「ちょっと慣れないな、私」
カタカム
「今に馴染ませてあげるよ、ラグさん」
ドワス
「ドクター・マネ、如何です?」
Dr.マネ
「深層催眠の施術は、本人の心の戦いです。彼女の味方だったものを敵だと思い込ませる為には、時間が必要です」
ビラム
「あまり時間はないんだがな。アイアン・ギアーの連中は、着々とJポイントに向かっていると聞いている」
ドワス
「迎撃態勢は万全です」
ビラム
「二度のミスは許されんぞ」
ドワス
「はっ、手を打ちます」
ビラム
「ドクター・マネ、エルチの洗脳作戦を急ぐように」
Dr.マネ
「はっ……」
ブルメ
「おーい、ジロン! 足を踏み外すなよ! ドカーンだぞ!」
ジロン
「分かってる。ティンプは、地雷を仕掛けるのが好きな奴だからな」
「わっ、わっ……!」
ブルメ
「どうした、ジロン? バランサーの調子が悪いのか?」
ジロン
「いや、雪が深いんだ。思ったよりな」
ブルメ
「気を付けてくれよ。鎖以外の所には、地雷があるかもしれないんだぞ?」
ジロン
「分かってるよ。行こう!」
ティンプ
「ん? フフッ……兄ちゃんが来たかい」
ブレーカー
「ウォーカー・マシンを出しますか?」
ティンプ
「放っとけ。その内、向こうから罠に掛かってくれる。待ってりゃいい」
ブルメ
「わっ!」
ジロン
「ブルメ立て、敵だ! ティンプの手下だぞ!」
ブルメ
「おう!」
ダイク
「当たったぜ、ブルメ!」
ブルメ
「ヒヒッ、俺ザブングルで当てたの初めてじゃないの……わっ!」
ジロン
「おっ」
ブルメ
「わっ!」
ダイク
「ブルメ、何とかしろ!」
ブルメ、ダイク
「わっ、わっ……!」
ジロン
「ウルフ・タイプか」
ブルメ
「わっ! な、何だ?」
ダイク
「ミサイルじゃないのか?」
ジロン
「どうしよってんだよ、こんなモンで」
ブレーカー
「今だ、引っ張れ!」
 〃
「よーしっ!」
ジロン、ブルメ
「わぁぁーっ!」
ジロン
「わっ、惨めぇ!」
ブルメ、ダイク
「わぁぁっ、くっ……!」
ティンプ
「フフッ……よく来たな、兄ちゃん達」
「元気がいいのも結構だけどよ、一台二台で来るなんて、今の俺には敵じゃねぇな」
「これで、アイアン・ギアー潰しも楽になる。ははっ……」
ジロン
「こんな所で、犬死になんかするもんか!」
ティンプ
「雪遊びは楽しいかい? 集中砲火を浴びせろ! 二機共スクラップにしてやれ!」
「ははっ、そこまでだな! 撃って撃って、撃ちまくれ……わっ!」
「何?」
ラグ
「カタカム、敵は大型のランド・シップよ。深追いしないで。ジロン達を助け出すだけでいいのよ」
カタカム
「了解だ。朝っぱらからじゃ、人手が集められなかったからな」
ティンプ
「くそっ、奴らの足跡を辿ってきたのか」
「おい、ウォーカー・マシンはまだ戻ってこないのか?」
ブレーカー
「(?)に行った連中は、昼にならなきゃ戻ってきません」
ティンプ
「クッ……!」
カタカム
「四方から展開して敵を撹乱するだけでいい。怪我をするなよ」
ティンプ
「白蟻共に構うな! アイアン・ギアーを攻撃しろ!」
ジロン
「よっ、これで外れるのか? あれ、この〜っ!」
ブルメ
「え〜い、解けない、解けない!」
ダイク
「ブルメ、来る……来るぞ!」
ブルメ
「え〜い!」
ティンプ
「うぉっ……!」
ルル、ミミ
「キャ〜ッ!」
ブレーカー
「何だ何だ? 踊りやらねぇのか?」
ミミ
「オーレッ!」
ブレーカー
「わっ、スゲ……わっ!」
ラグ
「このままじゃやられちゃう。ウォーカー・マシンに変形して!」
コトセット
「おう、甲板の連中をどけてくれ」
ラグ
「みんな、砲塔に入って! 変形するわよ!」
ブレーカー
「ランド・シップがウォーカー・マシンになってる!」
ティンプ
「わっ! アイアン・ギアーめ、上から攻撃を掛けようっていうのか……わっ!」
ジロン
「ん? ラグ、ホッカムリ取れ! ホッカムリを……!」
ラグ
「あっ! コトセット、ホッカムリ取って!」
コトセット
「ああ!」
ビラム
「ようやく50%だと?」
Dr.マネ
「抵抗力は、これまでのどのケースよりも強く表れています」
ビラム
「並の人間ではないとでも言いたいのかね?」
Dr.マネ
「そうですね……ビエル執政官の報告通り、人類は我々の計画通りに変わりつつあります」
ビラム
「ビエルの言う事が実証された訳か……」
ラグ
「勝手なお先走りのお陰で、とんだ損害だわ」
カタカム
「だから、戦力は多い方がいいと思いませんか? ラグさん」
ラグ
「でもね……それとこれとは違うんだよね」
カタカム
「しかし、妥当イノセントという目的は同じでしょう?」
ラグ
「ジロンが言ってるだけさ。私達は……」
カタカム
「いや、大変優れた戦士ですよ、ラグさんは」
ラグ
「ふふっ……」
ジロン
「何が『ふふっ……』だい!」
「わわっ……あっ!」
カタカム
「あ〜っ!」