第31話 女の心をあやつれば

前回のあらすじ
支配階級イノセントと、支配される者シビリアン……
その間にも、時代の流れともいうべき変化が起きようとしていた。
カタカム・ズシムに惚れる気配のラグ・ウラロなど放っといて、ジロン、ブルメ、ダイクと揃い、エルチ捜して突っ走る。
さて、ここぞとばかり待ち受けますは、悪名高きティンプ・シャローン。
イノセントの壁となり、昔の仕掛け人とはちと違い、手強い相手となってます。
その上、ザブングルとギャリアの危機一髪を救うのは、何と、ソルトのカタカム・ズシムとアイアン・ギアー。
雰囲気、どうもいけません。
Dr.マネ
「ははっ……!」
エルチ
「あぁっ……!」
Dr.マネ
「戦いなさい、戦うのよ……それしか助かる方法はありません……!」
エルチ
「あぁっ、あぁっ……!」
Dr.マネ
「さあ、恐れずに討ちましょう……討つのです……!」
エルチ
「あぁっ……!」
エルチ
「はっ……」
Dr.マネ
「気が付いたようね」
エルチ
「私、いつの間に……」
Dr.マネ
「大分、悪い夢にうなされてたようですけれど……どうです、ご気分は?」
エルチ
「ちょっと頭痛がするようだけど……有難う、ドクター・マネ」
Dr.マネ
「いいえ。部屋にお帰りなさい」
エルチ
「はい」
アーサー
「Jポイントのビラム・キィか」
ビラム
「はっ!」
アーサー
「ビエルと君の間に、確執があったのは残念である」
ビラム
「申し訳ありません、アーサー・ランク」
アーサー
「世代替わりが近いらしいという報告については、心から嬉しく思う」
「ビラム執政官、君はどう見ているのか?」
ビラム
「私はビエルとは違って、我々イノセントの存続について不安を抱くのです」
アーサー
「我々の存続がどうしたと?」
ビラム
「アーサー・ランク、貴方は私の上申書をご覧になられたのですか?」
アーサー
「勿論だ。強い人間が現れて嬉しく思っている。会ってみたいものだ」
ビラム
「しかし、アーサー様……!」
ダイク
「これが、カタカムの言ってるソルトの連中か」
ブルメ
「結構居るじゃないか。こりゃ戦力になる訳だ。カタカムが頑張るの、分かるね」
チル
「いい男だからかな?」
ジロン
「男は顔じゃない! 数でもない!」
ダイク
「全く」
ブルメ
「ようジロン、お前、まさかソルトの連中に手を貸そうってんじゃないんだろ?」
ジロン
「当たり前だ。ラグが帰ってきたらどうするか決めるよ」
ブルメ
「なあ、いい加減にエルチエルチってのやめてさ、暖い所に戻ろうぜ?」
ジロン
「プッ!」
ブルメ
「野郎、やりやがったな!」
チル
「……男にもヒステリーってあんのね?」
ダイク
「シリアスだからね」
チル
「アタイの台詞取んな!」
カタカム
「このランド・シップは、我々ソルトの戦力として働き始めている事は、諸君らの知っての通りだ!」
「これが巨大なウォーカー・マシンとなって、イノセントのドームを攻撃する姿を、思い起こしてみたまえ!」
「我々が勝利する日は、目前にあると思えるのだ!」
「ソルトの諸君! 我々の時代が来るのは、もう目前なのだ!」
「武器を取れ!」
ラグ
「あはっ……!」
ブルメ
「どうだ、ジロンめ!」
ジロン
「執拗いぞ、この、ブルメ……!」
チル
「いい加減にしたら? それ以上酷くなったらモテないよ?」
コトセット
「ジ・ロ・ン〜ッ!」
ジロン
「外さなくたって聞こえるよ!」
コトセット
「これからも本気で、アイツらと手を組んで行く気なのか?」
ジロン
「エルチを助けるまでは、仕方がないだろ?」
コトセット
「尻の毛を抜かれるぜ?」
ビラム
「要するに私の結論は」
「シビリアンの台頭に対し、それを導き得る叡智と力を我々が持たなければならないという事です」
アーサー
「それはその通りだ。お前もそれに努めてくれている」
ビラム
「はい。しかし我々は、これ以上シビリアンに物を与えるべきではないかと」
アーサー
「成る程……お前は、シビリアンとの新しい関わり合い方を見付け出せると言うのだな?」
ビラム
「はい」
アーサー
「しかし……シビリアンに厳しすぎるのは良くないな、執政官」
ビラム
「はい、アーサー・ランク」
「カシム様……」
カシム
「ふふっ……」
ティンプ
「ふふっ、執政官直々のお出迎えかね」
ビラム
「ビエルの行方を知っているか?」
ティンプ
「いや。何ですかい?」
ビラム
「いつの間にか出て行った」
ティンプ
「ふふっ、やっぱり……」
ビラム
「奴の時代は終わりを告げた。どうだ? 私を裏切らないと約束出来るか?」
ティンプ
「旦那の言ってる事は分かるつもりですよ。けど、何かいい事がないとね」
ビラム
「イノセントに新しい時代が来る。ジロンとかアイアン・ギアーも終わりにしたい」
「その為に私は、彼らに対してそれ相応の策を取るつもりでいる」
「協力出来るか?」
ティンプ
「エルチをくださんなら、よござんすよ」
ビラム
「分かった。もう暫く我慢するのなら、エルチはお前にくれてやる」
ティンプ
「ヒヒッ……で、俺は何をやればいいんですかい?」
カタカム
「イノセントの技術を我々の手に入れれば、それは血の潮となって」
「このゾラの大地に恵みをもたらし、我々は豊かになれるのだ!」
コトセット
「……どこがいいのかね、あんな奴のさ」
チル
「ね、こっち来るよ?」
ジロン
「何だろ?」
ダイク
「何するつもりだろ?」
チル
「上がってくるんじゃない?」
コトセット
「まさか」
チル
「……あんまし格好良くないわさ」
ダイク
「だな」
カタカム
「やあ諸君、お待たせ」
コトセット
「かなり調子のいい奴だな」
ジロン
「やあ」
カタカム
「君達、喜びたまえ。今日からこのランド・シップを、我がソルトの旗艦とする事に決めた」
ジロン
「旗艦? 何だそりゃ?」
カタカム
「旗艦だ。分からんのか、ジロン君」
ジロン
「ああ」
カタカム
「見たまえ。旗を付けた船の事だ」
ジロン
「旗か、成る程。今まで付けた事なかった」
カタカム
「だから、これから旗艦にすればいい訳だ」
ジロン
「そりゃいい」
コトセット
「うん、格好は付く」
カタカム
「結構」
「では今後、諸君らと私達ソルトは共に手を取り合って、打倒イノセントの戦いを遂行しようではないか!」
ラグ
「流石パワー! リーダーっぽい!」
カタカム
「っぽくはない。私はリーダーだ」
ラグ
「そうそう!」
カタカム
「では、早速案内して貰おうか」
ラグ
「はい! は〜い!」
コトセット
「ふ〜ん、偉そうなのね、あれ」
チル
「あんまし格好良くないね」
カタカム
「凄い、これが大砲か」
「ラグ、撃ってみせてくれ」
「兄弟よ! いよいよ戦いの時が来た! このランド・シップがある限り、踏み止まっている事は許されない!」
「いざ前進だ!」
Dr.マネ
「どうかしら、エルチ・カーゴ?」
エルチ
「有難う、もう頭痛はしません」
Dr.マネ
「結構です」
アナウンス
「警備兵、戦闘配置に就け。Jポイント・エリアに侵入者の群れ。アイアン・ギアーも介在」
Dr.マネ
「失礼」
アナウンス
「警備兵、戦闘配置に就け。Jポイント・エリアに侵入者の群れ」
エルチ
「あっ……!」
「もう!」
カタカム
「一気に落とせ!」
「進め、進めぇーっ!」
ジロン
「進め進め、か……」
「あっ」
ラグ
「カタカム、こっちにお乗りよ」
カタカム
「案ずるな。ラグ、お前が居てくれるだけで心強い」
ラグ
「あはっ、ははっ……!」
ジロン
「あ〜、本気で仕掛けちゃったよ、上納ポイントに……」
ダイク
「素人ばかりなのにな」
ブルメ
「参ったな……」
チル
「こんなんじゃ、アイアン・ギアー壊されちゃうよ」
コトセット
「手伝え! 手伝うんだよ、みんな!」
カタカム
「拡がって進め! ポイントへ真っ直ぐ進めばいいんだ!」
ラグ
「ははっ、ちょろいちょろい! カタカム、早く〜!」
エルチ
「あぁっ……!」
コトセット
「来るぞ! いいか、撃つんだ!」
「ジロンは何やってんの! ギャリアを早く出せ! チルと……うっ!」
ジロン
「やだなぁ……」
チル
「ジロン、アタイ置いてくの? ケチッ!」
ティンプ
「ふふっ、ビエルと違ってビラムなら、約束守ってくれそうだ」
「ここで点数稼いで補給をしてもらえば、俺は最強だ。頑張ろう」
「モグラ共を徹底的に叩き潰せ!」
ジロン
「ライフル忘れた! 持ってきてくれ!」
「ラグの奴、どこまで行ったんだ?」
ブルメ
「お前ら、本気でやってんのかよ?」
ダイク
「待て! 無駄弾使うんじゃない! 相手の動きを見ろ!」
プロポピエフ
「弾を運ぶだけじゃない! 撃つんだ、撃つんだ! 主砲(?)もあるでしょうによ!」
コトセット
「プロポピエフ! 上納ポイントを叩くんだ!」
プロポピエフ
「へ? 上納ポイントを直接攻撃するの?」
コトセット
「一度やるも二度やるも同じでしょ。敵の出所を叩くのが一番簡単なの!」
ティンプ
「あっ、何だ?」
「アイアン・ギアーめ、上納ポイントを叩こうってのか」
「てめぇら、雑魚はいい! モグラはいいから、アイアン・ギアーの大砲を黙らせろ!」
ローズ
「こいつ!」
エルチ
「あぁっ、うぅっ……!」
ダイク
「一丁上がり!」
「あれ? ……エルチ!」
「やっぱりエルチか」
「エルチ、イノセントの所から逃げ出してきたのか」
エルチ
「ダイク、ど、どこなの?」
ダイク
「何言ってんだ? 目の前に居るだろうが」
エルチ
「目の前に居るの? 煙幕を張ってるんじゃないの? 真っ暗よ、周りが……」
ダイク
「エルチ、目が見えないのか? おい、エルチ……!」
エルチ
「ダ、ダイク、本当に煙幕を張っていないの?」
ダイク
「目を見せろ」
エルチ
「あっ……!」
ダイク
「あぁ、心配ない。火薬が入っただけだ。早く洗えば大丈夫だよ」
「ほれ、乗った乗った!」
ソルト・メンバー
「にゃろぉっ!」
ブレーカー
「わぁぁっ!」
Dr.マネ
「お断りしてある筈です、まだ治療段階だと。それ程の成果は期待出来ません」
Dr.マネ
(回想)「さあ、あの男を殺すのよ」
(回想)「貴方の敵は、ジロン・アモスです」
ブルメ
「ダイク、逃げ帰るのかよ?」
ダイク
「後ろ見てくれ、後ろ後ろ!」
ブルメ
「エルチじゃないか。イヤッホー、これで暖かい所へ行けるぞぉ!」
エルチ
「ブルメ、ブルメなの?」
ビラム
「ソルトの連中め……!」
Dr.マネ
「エルチを出すのが早過ぎたのですよ。まだまだ無理なのです。エルチを回収してください」
「私は、避難の用意をします」
ビラム
「執政官に命令するのか!」
Dr.マネ
「洗脳の責任者は私です」
ビラム
「ティンプは、何でギブロスを出さなかったのか?」
部下
「補給中であります。後5分程で完了です」
ビラム
「レーザーは?」
部下
「電源が切られてしまって、その……」
ビラム
「無人機のブランを出せ!」
カタカム
「こんなに上納ポイントに近付いたなんて、革命的な事だ。イノセントも、もうじきお仕舞いだ」
ラグ
「ふふっ、見掛けより可愛いのね。このくらいの事で大喜びなんてさ」
カタカム
「後ろのホバー・トラック、もっと前に出ろ!」
ジロン
「ええいっ!」
「ティンプだって居るんだろ? どこに居るんだ……わっ!」
「呼べば答えるお調子モンが!」
「チル、バズーカの弾が切れた! あ〜そっか、乗せてなかったんだ」
「わっ、来る……!」
ティンプ
「わぁっ……!」
カタカム
「この調子で突撃だ! 見ろ、目的地は目の前だ!」
ビラム
「ギブロスはティンプに渡せ! 各スタッフは、ここから後退させろ!」
「ビエルが甘いのだ。シビリアンがこうなるという事は、コントロールの仕方を根本的に変えねばならんという事なのだ」
ローズ
「いいのかい、あんた……?」
プロポピエフ
「あぁ、もう大丈夫だろう」
「まだ痛みますかな?」
エルチ
「有難う、もういいわ」
ローズ
「お嬢様、まだ寝てらした方が……」
エルチ
「今、戦闘中なんでしょ? みんなが戦わなくっちゃ……!」
ローズ
「お嬢様……」
エルチ
「うぅっ……!」
エルチ
(回想)「あぁっ……! やめて、助けて! 怖いよ、助けて……!」
Dr.マネ
(回想)「戦いなさい、エルチ! 貴方の敵は、目の前のコイツなのよ!」
チル
「エルチ! やっぱりエルチだ、どうしたの? いつ、いつ戻ってきたのかさ……あっ!」
「うっさいよ〜!」
「ふふっ、やり〜!」
「あれ?」
「エルチ、戦ってくれんのね? 頑張ってね〜!」
コトセット
「あっ、お嬢さんだ!」
「何、ポーズ取ってんだ!」
ハイヤ
「ん、エルチだ! 一人でどこ行くんだよ?」
ジロン
「ん、エルチ! エルチ、待ってろ〜!」
「どうした? いつ逃げて来られたんだ?」
「ど、どうしちゃったのさ、エルチ……わっ!」
「どうしてさ? どうしたんだよ?」
「い、今、俺を狙って……撃ったのかい、エルチ……?」
「ヘヘッ、嘘だよね、エルチ? エルチがそんな事する訳ないもんな」
「わっ!」
エルチ
「あっ……!」
ジロン
「エルチ、大丈夫か?」
「痛くなかったか、エルチ?」
エルチ
「畜生!」
ジロン
「本当かよ……エルチ、俺に向かって畜生なんてさ……エルチ、本当かよ?」
エルチ
「生かしておくものか! お前みたいな男を生かしておけるか! 消してやる!」
ジロン
「エ、エルチ……!」
エルチ
「あんたみたいな恐ろしい男、生かしておくものか! あんたみたいな恐ろしい男……!」
ジロン
「くそぉ、一体どうなってるんだ?」
「どうしたんだ、エルチ?」
「わっ、エルチ!」
ブルメ
「この忙しい時に、何遊んでんだ、ジロン!」
ジロン
「遊んでる訳じゃない! エルチがおかしいんだ!」
Dr.マネ
「貴方の敵は、ジロン・アモス……!」
エルチ
「ジロン・アモス……!」
ジロン
「はい」
「エ、エルチ……! 待て、話せば分かる! 文化的に行こうよ!」
「ンッ……」
エルチ
「うっ、うぅっ……!」
ジロン
「エルチ! ごめんよ、エルチ。他にやり方を思い付かなかったから……」
エルチ
「ジ、ジロン……私は何を……ここは……あぁっ!」
ジロン
「エルチ!」
ハイヤ
「どうしたんだ、ジロン?」
ジロン
「エルチの様子が変なんだ、見ていてくれ!」
カタカム
「よーし、一気にドームに入り込め! 歴史的なソルトの勝利が今ここに示される!」
ジロン
「全く、こいつに乗るのに手間掛かるんだよな。昔は楽だったんだけど」
ハイヤ
「エルチ、どうしたんだよ?」
「あぁっ……!」
ティンプ
「ふふっ、Jポイントが落ちるのも時間の問題だ。ギブロス、打ち合わせの場所へ退避しろ」
アーサー
「ビラム、Jポイントの……ん?」
「ビラムはどうした? 見掛けぬ顔だが、誰だお前は?」
ジロン
「俺は、ジロン・アモスだ!」
アーサー
「お前がジロン・アモスか。そうか、お前が報告書の中にあったアイアン・ギアーのクルーか」
「前から一度、会いたいと思っていた」
ジロン
「あんたは?」
アーサー
「私か? 私の名はアーサー・ランク……イノセントのリーダーだ」
ジロン
「イノセントのリーダー? 一番偉い人なのか?」
アーサー
「時にジロン・アモス……」
ジロン
「カタカム」
カタカム
「今のは誰だ?」
ジロン
「何か話したがってたな。何で消えちゃったんだ?」
カタカム
「今の攻撃で、あっちこっちで漏電起こしてんだ。分かるもんか」
「今、映っていたのは誰なんだよ?」
ジロン
「アーサー・ランクとか言ってた。俺と話したがってたんだ」
カタカム
「アーサー・ランク……」
ラグ
「ジロン! エルチがアイアン・ギアーに戻ってたんだって?」
ジロン
「ああ、ハイヤに任せてきたんだけど……」
ラグ
「また、ティンプにエルチを連れて行かれちまったってさ」
ジロン
「何?」
「貴様……!」
ハイヤ
「ヒッ! 悪い、ジロン……!」
ジロン
「どうすんだよ!」