第36話 忍びこみ大作戦
- 前回のあらすじ
- 支配階級イノセントと、支配される者シビリアン……
- その間にも、時代の流れともいうべき変化が起きようとしていた。
- 如何ともし難いエルチへの想い断ち切れず、ファットマンは走ります。
- そんな我儘許さぬと、カタカム・ズシム強面で、アイアン・ギアーの指揮を執る。
- ところが、実戦やるとなりゃ猪突猛進・無我夢中。面倒見るのは結局ジロンのギャリアとラグのザブングル。
- それでもやると突っ張るカタカム。
- 呆れ果てたるジロン・アモスは、アイアン・ギアーを捨てまして、エルチ求めて走ります。
- エルチ
- 「前へ、進め!」
- ビラム
- 「……で、幾ら欲しいんだ?」
- キャローン
- 「一人頭30万ありゃ、ウォーカー・マシンだけでやってみせるさ。アイアン・ギアーの一隻ぐらい」
- アル
- 「そうそう。オイッチニやるより早いよ」
- レスリー
- 「私達にもあの剣が欲しいしね」
- ビラム
- 「あれは唯の飾りだ」
- ルトフ
- 「嘘。偉そうなのみんな付けてるじゃない」
- ジロン
- 「お前、そういう気があるの?」
- 「エルチのか?」
- 「エルチが被ったら、きっとよく似合うぞ」
- 「おいファットマン、お前の勘だとHポイントはどっちの方だ?」
- 「あ、新しい服も持ってきてやったのか」
- 「気が利くなファットマンは。エルチの好きな色だろ? 喜ぶぞ、エルチ」
- 「おっ……」
- 「わっ、イテテッ……!」
- 「ファットマン!」
- 「ファットマン、早く乗れ!」
- 「大丈夫か?」
- 「くそぉー、こんな所で待ち伏せか!」
- ブレーカー
- 「隠れても無駄よ」
- ジロン
- 「迂闊だった。手持ちの武器が何もない」
- 「ファットマン、機銃を使え!」
- ブレーカー
- 「ギャッ!」
- 〃
- 「わっ、助っ人だ!」
- ジロン
- 「ファットマン、見た事あるか? あのランド・シップ」
- ブレーカー
- 「逃げろ! やられてもいい程の金は貰っちゃいねぇや!」
- ジロン
- 「行っちまうのか? おい、ちょっと待ってくれ!」
- 「俺はアイアン・ギアーのジロン・アモスだ。助けてもらった礼を言いたい。止まってくれ」
- 「お礼を言いたいだけだってのに、どういうの?」
- 「おい、止まれ」
- 「ブリッジに居るんだろ? 顔ぐらい出したらどうなの?」
- 「ブルメ……ブルメじゃないか!」
- ブルメ
- 「元気らしいな。結構じゃないの」
- ジロン
- 「ブルメ、何やってんだ? こんなとこで」
- 「そうか、この船で働いてんのか。結局こんなとこでウロウロしてたって訳。ははっ」
- ブルメ
- 「ウロウロはないだろ? じゃ、気が済んだよな?」
- 「おい、出発するぞ!」
- ジロン
- 「おい待てよ、ちょっと」
- 「まだ船長に礼を言っていない」
- ブルメ
- 「ジロンの気持ちだけでいいよ」
- ジロン
- 「そうは行かないよ」
- ブルメ
- 「気にするなって。行ってくれ」
- ジロン
- 「会わせてくれって言ってんだ」
- ブルメ
- 「気にする事ないって」
- ジロン
- 「会わせてくれたっていいだろ?」
- ブルメ
- 「俺がその船長だよ、この船の」
- ジロン
- 「はぁ?」
- ブルメ
- 「な、分かったろ? だからもう行ってくれ」
- ジロン
- 「本当かよ。少し会わない内に、随分羽振りが良くなったじゃないか」
- 「へぇ……」
- ブルメ
- 「色々あってな。しょうがなかったのさ」
- ジロン
- 「何が仕様がなかったのかしらないけど、これだけのランド・シップを手に入れたんだから、大したもんさ」
- ブルメ
- 「あっ……」
- ジロン
- 「へぇ、小型なりによく出来てるじゃないか」
- ブルメ
- 「あぁ」
- ジロン
- 「いいもん食ってるな」
- ブルメ
- 「まぁな」
- ジロン
- 「キチンと片付いてるしさ」
- ブルメ
- 「サンキュー」
- ジロン
- 「ベッドもフカフカ」
- ブルメ
- 「そうね」
- ジロン
- 「どこへ行くんだ? これから」
- ブルメ
- 「さてね」
- ジロン
- 「良かったら、手を貸してくれないか?」
- ブルメ
- 「その気はないね」
- ジロン
- 「イノセントのHポイントを探してるんだ。ここからだったらどっちの方角だ?」
- 「ブルメ」
- ブルメ
- 「そこでも手伝えって言うんだろ?」
- ジロン
- 「あぁ……ま、戦力は多いに越した事はないけど……」
- ビエル
- 「そうとも言えないな」
- ジロン
- 「ん?」
- ビエル
- 「Hポイントは、アイアン・ギアー一隻ぐらいでは……」
- ジロン
- 「あんたさん……」
- 「やっぱりあんたは……」
- ブルメ
- 「心配ないよ。ビエルさんは俺達の味方なんだ」
- ジロン
- 「味方?」
- ビエル
- 「ははっ。ドームを出てきた所を、ブルメに助けられてな」
- 「すまんが、あれを……」
- 「どうも外の空気は、我々の肌に合わん」
- 「あ、すまん」
- ジロン
- 「ビエルさん、Hポイントの攻め方を知ってんですか?」
- ビエル
- 「ん?」
- ジロン
- 「エルチ・カーゴを助け出したいんだ。力を貸してくれ」
- ビエル
- 「Hポイントか、厄介な所だ」
- 「お前は本当に行く気なのか?」
- ジロン
- 「勿論さ。その為にここまで来たんだ」
- ビエル
- 「何故それ程までして、エルチ・カーゴを助けたいのだ?」
- ジロン
- 「エルチは俺達の仲間だ。放っては置けない」
- ビエル
- 「仲間でなければどうする?」
- ジロン
- 「何言ってんの! エルチは仲間ですよ、ずっと」
- ビエル
- 「だが、もしエルチの身に何か起きていたら、どうするかね?」
- ジロン
- 「エルチがどうしたの?」
- ビエル
- 「いや、ビラム達がこれだけエルチ・カーゴに拘るからには、何かあるのではないかと思ってな」
- ジロン
- 「それでも、俺は助け出したいんだ」
- ビエル
- 「そうか……それでも助け出したいか……」
- 「……ビラムの事だ。あの後もエルチ・カーゴに深層催眠による洗脳をさせている筈だ」
- ジロン
- 「ビエルさん、力を貸してください」
- エルチ
- 「右翼部隊、左翼を援護して!」
- 「右へ進め!」
- ドワス
- 「来るぞ! 正面を固めろ!」
- キャローン
- 「お〜、張り切っちゃってさ。可愛いんだわ」
- ビエル
- 「茶化してる場合か。彼らには、何としてでも強くなって貰わねばならんのだ」
- 「同時にお前達は、作戦の立て方を覚えろ」
- ブルメの仲間
- 「この地区のソルトにも連絡は取れた」
- 〃
- 「分かった。30分後には、こちらも動く手筈を整えておけばいいのだな?」
- ビエル
- 「……例えエルチ・カーゴを取り戻しても、洗脳を解く訳には行くまい……」
- ブルメ
- 「どうだ?」
- ジロン
- 「ありそうだ。あったあった」
- ブルメ
- 「早く切れ、切れ」
- ジロン
- 「行くぞブルメ」
- ブルメ
- 「いいぞ」
- 職員
- 「ぐっ……!」
- ジロン
- 「お見事、ファットマン」
- 「どこだ、どこに捕まっている?」
- ブルメ
- 「もう始末されちまったなんて事はないだろうな?」
- ジロン
- 「よせよ、ファットマンが怒るぜ?」
- ブルメ
- 「見ろ、ジロン」
- エルチ
- 「さ、早く運んで……」
- ジロン
- 「弾薬庫だ。急げ!」
- エルチ
- 「はっ……!」
- ジロン
- 「静かにしてくれ」
- 「無事で良かった」
- ブルメ
- 「はぁ、もう始末されたかと思ったぜ」
- ジロン
- 「エルチ……」
- Dr.マネ
- (回想)「お前の敵はジロン・アモス……お前の敵はジロン・アモス……」
- エルチ
- (回想)「私に何をしようというの? どういうつもり?」
- (回想)「あぁっ……!」
- エルチ
- 「うぅっ……!」
- 「ジロン……」
- ジロン
- 「助けに来たんだ。ここから出よう」
- 「ファットマンの心尽くしさ。エルチの為に持ってきたんだ」
- エルチ
- 「ファットマン、後でね……」
- ブルメ
- 「へへっ、これだけ火薬がありゃ、こんなポイント訳無く吹っ飛ぶぜ」
- エルチ
- 「駄目よ。騒ぎを大きくするだけだわ」
- 「私が案内するわ、行きましょう。さぁ」
- ジロン
- 「驚いたな、ポイントの奥がこんなになってるとはな。何する所だ?」
- エルチ
- 「いいから急いで」
- ジロン
- 「おいエルチ、少しスピード落としてくれよ」
- ブルメ
- 「たまんねぇよ」
- エルチ
- 「グズグズしてると見付かってしまうわ」
- ブルメ
- 「わっ! こんなの捨てちまえよ、そんなもん。捨てろ!」
- ジロン
- 「ん、エルチ……エルチ?」
- ブルメ
- 「エルチ」
- ジロン
- 「どこに行ったんだ?」
- ブルメ
- 「よう。こんな時、隠れんぼはやめようぜ」
- 「どうする、ジロン?」
- ジロン
- 「思ったより深そうだ。迂闊に動けないな」
- 「ん?」
- 「わっ……!」
- 「伏せろ!」
- ブルメ
- 「どうなってんだ、一体?」
- ジロン
- 「こっちが聞きたいよ」
- 「とにかくここには居られない。行くぞ!」
- ブルメ
- 「おう!」
- 「でもさ、一体どこ行くの? 右も左も分からないのにさ」
- ジロン
- 「走ればいつか、いい手も見付かる」
- ブルメ
- 「信じれば救われる」
- ジロン
- 「そう!」
- ビラム
- 「ジロン……あいつが何故ここに?」
- キャローン
- 「ふふっ。どうビラム、35出すなら手伝ってやるよ?」
- ジロン
- 「わっ!」
- 「そう簡単に蜂の巣にされてたまるか!」
- ブルメ
- 「一体、エルチはどこ行ったんだよ?」
- ジロン
- 「ファットマン、早く」
- 「あ、やめろ! そんなの投げても無駄だ!」
- ブルメ
- 「頭いい!」
- ジロン、ブルメ
- 「ははっ……わっ!」
- ブレーカー
- 「わぁぁっ!」
- ジロン
- 「え、まさか冗談やる訳?」
- ブレーカー
- 「待て!」
- ブルメ
- 「あんまりマジに追っ掛けるなよ」
- ジロン
- 「やめたら? うわっ……!」
- ブレーカー
- 「うわぁぁっ!」
- ジロン
- 「わっ、わっ……!」
- 「あっ!」
- ブレーカー
- 「ここまでだ、諦めな」
- 「わっ!」
- ジロン
- 「エルチか」
- 「あっ……!」
- ビエル
- 「ブルメ、ジロン、こちらだ!」
- ブルメ
- 「ビエル、体はいいのかい?」
- ジロン
- 「ビエルさん、エルチを捜さないと……」
- ビエル
- 「放っておいても何れ会える。まず急いで脱出する事だ」
- ジロン
- 「どうしてさ?」
- 「あっ……」
- 「くそっ」
- ブルメ
- 「何てこった」
- ファットマン
- 「エ、エルチ……!」
- ジロン
- 「何? エルチだって?」
- 「エルチ……!」
- ビエル
- 「やめろ、出るな」
- エルチ
- 「撃て!」
- ジロン
- 「わっ!」
- ブルメ
- 「ファットマン!」
- ジロン
- 「戻れ、ファットマン!」
- 「やめろエルチ、何て事するんだ! お前の為にファットマンが持ってきたんだぞ!」
- ビエル
- 「無駄だ。彼女はもう、昔のエルチ・カーゴではないんだ」
- ジロン
- 「どういう事だ?」
- ビエル
- 「この場は一先ず下がれ。それしかない」
- ジロン
- 「下がれ、ファットマン!」
- エルチ
- 「数を撃てばいいってもんじゃないのよ。訓練通り、よく狙って撃て!」
- 「逃げた! 追え、一人たりとも逃がすな!」
- ジロン
- 「ビエルさん、あのエルチの変わり方は何なんだ? どうしちゃったんだよ?」
- ビエル
- 「エルチ・カーゴの意識は、君達と戦うように変えられてしまったのだ」
- ジロン
- 「え? そんな事、出来るの?」
- ブルメ
- 「何でそんな事をするんだ?」
- ビエル
- 「君達のような優秀なシビリアンをコントロールする為だ」
- ジロン
- 「優秀なのか? 俺達」
- ブルメ
- 「さあね」
- ジロン
- 「ビエルさん、説明してくれよ」
- ビエル
- 「我々イノセントより、強くなられては困るからだ」
- ブルメ
- 「俺達が?」
- ビエル
- 「そうだ。君達が支配者になるかもしれぬと恐れを抱くものが、イノセントの中に居るのだ」
- ブルメ
- 「あたー、冗談みたい」
- ジロン
- 「ね」
- ビエル
- 「いいか。この星の遥か大昔の出来事なのだが、大異変があったんだ」
- 「このゾラに栄えていた文明が、その大異変によって全て破壊されて」
- 「極少数の人々が月とか近くの星へ逃げていった」
- ブルメ
- 「月って、あの空にある月へ?」
- ビエル
- 「そうだ」
- 「君達には信じられんだろうが、かつての人類はそれだけの文明を築いていたのだよ」
- 「そして何十年かが過ぎて、また地球に……」
- 「このゾラに戻って、人々は、今までの体ではこの地球に住んでいけない事を知った」
- 「そこでこの惑星に合った体を生み出そうと、様々な生体実験を繰り返し始めた」
- 「その第一号がトラン・トラン……しかし、失敗だった」
- 「二番目がハナワン、そして三番目がシビリアン……」
- 「闘争本能を強め、あらゆる環境の中でも戦い、生き残っていけるようにした……それが君達なんだ」
- 「人類の新たな夢の実現だ」
- ジロン
- 「夢……?」
- ブルメ
- 「へぇ」
- ジロン
- 「お前も夢なんだぞ?」
- ブルメ
- 「そうかね?」
- ビエル
- 「ソルトの動きにしても、明らかにシビリアンが自立し始めた証拠だ」
- ジロン
- 「それを恐れるって、どうしてさ?」
- ブルメ
- 「イノセントの中にも、権力を欲しがる奴が居るって事かい?」
- ビエル
- 「そうだな。カシム・キングという名前は覚えておいた方がいい」
- ジロン
- 「悪い奴のボスって訳かい」
- ビエル
- 「それからもう一人、アーサー・ランクという方が居る」
- ジロン
- 「その人なら、前のポイントで会った事がある」
- ビエル
- 「そうか。ならば忘れぬ事だ。アーサー・ランクは、君達シビリアンの味方だ」
- 「ここが港だ。ここから外へ出られる」
- ジロン
- 「エルチは……エルチをこのまま放って行くのか?」
- ビエル
- 「助ける方法があるのか? 本気で君達を殺そうとしている彼女を」
- 「もう一度作戦を立てて出直すんだ」
- ジロン
- 「だったら、何の為にここに潜り込んだのか分からないじゃないか」
- ビエル
- 「あの船まで全力で走れ」
- ブレーカー
- 「居たぞ、こっちだ!」
- ジロン
- 「ビエル!」
- ビエル
- 「止まるな、走るんだ!」
- 「止まるな、走るんだ!」
- 「うっ、あっ……!」
- ジロン
- 「ビエルさん!」
- エルチ
- 「確実に包囲してやるんだ! 訓練通りにな!」
- ジロン
- 「ビエルさん」
- ビエル
- 「私の事はいい、早く行くんだ」
- ジロン
- 「やめてくれエルチ、やめろ!」
- ビエル
- 「無駄だ。彼女には聞こえない。もう元へ戻る事はないんだ」
- ジロン
- 「何で……」
- ビエル
- 「私が一番よく知っている。その洗脳計画を立てたのは、私なのだからな……」
- ジロン
- 「ビエルさん」
- ブルメ
- 「ビエルさん」
- エルチ
- 「ふふっ……さあみんな、観念しな!」
- ジロン
- 「エルチ……!」
- 「やめろ、ファットマン! もう昔のエルチじゃないんだ!」
- 「ファットマン!」
- 「分かんないのか、ファットマン?」
- 「エルチ、エルチ……!」
- アナウンス
- 「戦闘部隊は迎撃態勢に入れ! ソルトがポイントに接近!」
- ジロン
- 「今だ、ブルメ!」
- エルチ
- 「逃がすな!」
- ジロン
- 「ブルメ、急げ!」
- ジロン
- 「うぉぉっ!」
- 「どうだ!」
- エルチ
- 「怯むな、前進!」
- ジロン
- 「ブルメ、駄目だ! このままじゃこっちの被害が大きくなるだけだ!」
- 「ソルトの連中も後退させろ!」
- ブルメ
- 「イノセントめ、いつもと違うな」
- ビラム
- 「ははっ……見ろ。彼らは我々の新しい戦闘形態に間誤付いている」
- 「これは世界戦略に使えるな」
- キャローン
- 「どう? 私達に任せない? その役目」
- ビラム
- 「お前達に?」
- キャローン
- 「あんたの期待に十分答えてみせるよ」
- ビラム
- 「お前達は好きにやるがいい」
- キャローン
- 「本当かい?」
- ビラム
- 「あぁ」
- 「両面作戦でソルト達を締め上げるという寸法さ」
- ブルメ
- 「どうするよ? もう我武者羅にファイトするだけじゃ、奴らには勝てないぜ」
- 「見たろ? 奴らの戦い方を……あんなの初めてだよ」
- ジロン
- 「泣くなよファットマン。これでエルチを諦めた訳じゃないんだからさ」
- 「ソルトには、もっと戦力を集めてもらってやるしかないな」
- ブルメ
- 「ああ、カタカム好きになれないけどな」
- ジロン
- 「時代が変わってきたんだ、きっと……」