第50話 みんな 走れ!

前回のあらすじ
イノセントの中で独裁を目論む男カシム・キングと、その一党との最後の決戦に臨みます。
ソルトとアイアン・ギアーとザブングルとギャリア達……さて、最終回よ。
ジロン
「攻撃は三つに分かれる。まずラグのアイアン・ギアーは、左翼の艦隊を狙う」
ラグ
「あいよ。ポイントごと踏み潰してやるよ」
ジロン
「ビリンとマリア達ソルト隊は、側面から援護だ」
ビリン、マリア
「了解」
ジロン
「残りのウォーカー・マシンは、俺と一緒に正面から攻撃だ」
メディック
「ちょっと待った」
ジロン
「何だい、メディックさん?」
メディック
「Xポイントの中には、カシムに付いてないイノセントだって居る筈だ。皆殺しは良くないぞ」
ダイク
「確かにな。罪のない者まで傷付けるのは気が進まん」
ラグ
「へぇ〜」
ダイク
「わはっ、我ながら気障!」
ティンプ
「あの兄ちゃんめ、いつの間にあれだけの数を揃えやがったんだ」
ギロ
「艦長、戦闘配置完了しました」
ティンプ
「武器弾薬の補給は?」
ギロ
「それが意外に渋くて……」
ティンプ
「けっ、ビラムの奴め」
ティンプ
「ビラム執政官! 俺達を防弾チョッキ代わりにしようってのに、補給をケチるとはどういうこった!」
ビラム
「ふん、キッド・ホーラとの連携作戦に失敗しておいて、今更何を言う」
ティンプ
「俺の責任じゃねぇ!」
ビラム
「アイアン・ギアーを潰したら、ミサイルをやる」
ジロン
「え、え〜と……」
一同
「よっ!」
ジロン
「え〜、俺はジロン・アモス。シビリアンだ」
「イノセントが全部悪いとは思っちゃいない。アーサーさんから教えてもらったからね」
「俺達と戦いたくない者は脱出しろ。ドクター・マネの医療グループには、生体強化の為の技術がある筈だ」
「それさえ受ければ、ドームの外でも暮らしていけるんだろ?」
ホーラ
「ジロンめ、格好付けやがって。あれは俺がやりたかったんだ」
ビラム
「馬鹿めが……何様のつもりだ?」
カシム
「ビラム、黙らせろ! 反撃しろ!」
ジロン
「ふぅ、話通じたかなぁ?」
ラグ
「通じた通じた」
「ほら」
チル
「うわ〜、空飛ぶ機械が一杯」
ジロン
「へぇ、カシムに従いたくないのがあんなに居るのか」
一同
「あっ!」
コトセット
「仲間を撃ち落とすのか!」
ラグ
「カシムめ、何て奴なの?」
ジロン
「総攻撃を掛ける!」
ラグ
「反撃だよ!」
マリア
「ソルト隊、銃を持って! カシムを倒せば恐れる物はないわ!」
ジロン
「前進だ!」
「いいな、エルチ?」
エルチ
「いいわよ、ジロン!」
「全ての悪の源カシム・キングは、私の手で倒してみせるわ」
ビリン
「やられるか!」
「くっ!」
ジロン
「エルチ、俺はダッガー隊をやる! 付いてくるか?」
エルチ
「どうぞ、ジロン!」
ジロン
「よーし!」
エルチ
「私も!」
ティンプ
「もっと引き付けてから撃て! 後ろには回り込めないんだからな!」
ギロ
「ドラン、上空から迎え撃て!」
ジロン
「数を出せばいいってもんじゃないの!」
敵ブレーカー
「わぁぁっ!」
ジロン
「エルチ!」
「まだ無理だろ? 下がっていろ!」
エルチ
「私はイノセントの人形じゃないわ! 戦える!」
「言ったでしょ、私はエルチ・カーゴだって……!」
「お分かり、ジロン?」
ジロン
「了解!」
「ならば!」
ダイク
「このっ!」
ローズ
「何でもいいからもっと撃ちな!」
ミミ・ルル・キキ
「は〜い!」
ホーラ
「何でこんな時に出て行けねぇんだ!」
ティンプ
「ええい、右からも来やがったか」
「ボヤボヤするな! 右翼部隊を狙え!」
仲間の男
「ぐわっ!」
 〃
「うぉぉっ!」
ビリン
「左翼、突入します」
「アイアン・ギアー、ギブロスを引き摺りだしてください」
ラグ
「了解」
「コトセット、前進!」
コトセット
「了解!」
ティンプ
「雑魚はいい! ウォーカー・マシンに気を付けろ!」
「ビラムにアイアン・ギアーを叩けって言え!」
ギロ
「ミサイル発射してください、どうぞ!」
ビラム
「何だと?」
「まだ仕留められんのか!」
「ミサイル!」
兵士
「はっ!」
ラグ
「ミサイルだよ!」
コトセット
「どっから来るか分かんないのに、避けんの?」
敵ブレーカー
「ありゃ!」
 〃
「俺達味方よ?」
 〃
「ぎゃぁぁっ!」
ティンプ
「うわっ!」
ブルメ
「ははっ、相変わらず当てになんないミサイル使ってさ」
エルチ
「ジロン、突入のチャンスよ!」
ジロン
「よーし来た!」
ティンプ
「ビラム、どこまで俺達の足を引っ張る気だ!」
「もう頼まん! 引っ込んでろ!」
ビラム
「それが雇い主に向かっていう言葉か!」
「下賤なブレーカーの分際で何をほざく!」
ティンプ
「何ぃ?」
カシム
「ビラム、連中は防御線を突破したぞ。何とかせんか!」
ビラム
「あんたこそ何もしてないなら、銃ぐらい持ったらどうです!」
カシム
「それが上司に対する口の利き方か!」
ティンプ
「だからさビラム、戦争はプロに任せてすっこんでな」
ビラム
「イノセントが生き残るかどうかの瀬戸際だ。お前達だけに任せておけるか!」
カシム
「ええい狼狽えるな、見苦しい! たかがシビリアン共の寄せ集めではないか!」
ビラム
「彼らをここまで増長させた責任を棚に置いて」
カシム
「貴様のような役立たずを信じたワシが間違いだったと分かったよ」
ティンプ
「この場に及んで責任の擦り合いかよ」
ビラム
「貴様は戦えば……わっ!」
ジロン
「このまま砲撃を続けて前進だ! 弾をケチるなよ!」
ティンプ
「野郎、そう簡単に行くかよ」
「ありったけの弾、ぶち込んでやれ」
ギロ
「へぇ!」
ティンプ
「ウォーカー・マシンもな」
「へっ、その上で適当な頃見計らってトンズラするぜ」
ブルメ
「これ以上進めねぇぞ! どうするリーダー?」
ジロン
「敵も必死だ。無理に突っ込めば犠牲が大きくなるだけだ」
「チル、ラグに連絡しろ! もっと援護を厚くしてくれって!」
チル
「オッケー!」
「ラグ、助けてよ〜!」
ホーラ
「ええい、いい所なのに何故出られねぇんだ!」
ゲラバ
「ハックション!」
ラグ
「分かったよ、チル」
「コトセット、やってみせな。アイアン・ギアーの必殺戦法」
コトセット
「そんなのあったっけ?」
ラグ
「普通こういうのには必ずあるんだよ。どーんて奴がさ」
コトセット
「あぁ、あれかなぁ……?」
「変形完了!」
ラグ
「よし、最大パワーでウルトラ・ジャンプだ」
コトセット
「出来ると思うの?」
ラグ
「だから、ね……?」
コトセット
「ははっ、漫画だからね!」
ラグ、コトセット
「ははっ、飛んだぁ! 飛んだじゃないかぁ!」
ティンプ
「ふふっ、奴らの足が止まったぜ」
「よーし、まずジロンのウォーカー・マシンから」
「あっ……!」
「な、何と」
ギロ
「どうしました、ボス?」
「ぎゃぁぁっ!」
ティンプ
「あれがアイアン・ギアーだとぉ? 馬鹿な……!」
「じょ、冗談じゃねぇ」
「おい、後退だ。ドームの中へ避難しろ」
ギロ
「駄目ですよ、ポイントも我々を閉め出してます」
ラグ
「よっしゃ、アイアン・ギアー飛べぇ! Xポイントを踏んづけろぉ!」
カシム
「アイアン・ギアーか……!」
ビラム
「ありゃもう、駄目そ……」
ティンプ
「くそぉ……!」
「持ち場を離れるな! 徹底抗戦だ!」
ギロ
「逃げるんならアッシも……!」
ティンプ
「馬鹿モン、ブラッカリィで兄ちゃんをぶっ飛ばすんだ!」
ジロン
「アイアン・ギアーの開けてくれた突破口から、Xポイントに入る!」
エルチ
「了解!」
マリア
「ビリン、私から離れちゃ駄目よ!」
ビリン
「ん〜、よく言うよ、マリア!」
仲間の男
「遅れるなよぉ!」
チル
「ジロ〜ン、敵の奴らみんな逃げてくわさ!」
ジロン
「金で雇われた連中なんて、みんな最後はこうさ」
チル
「わ〜ジロン、エルチがぁ!」
ジロン
「ん?」
「エルチ、早いぞ! 焦るなと言ったろ!」
エルチ
「はっ、ティンプ……!」
ティンプ
「ご苦労だったな姉ちゃん、疲れたろ?」
エルチ
「ファットマン!」
「ジロン、ファットマンが……!」
ジロン
「ティンプか」
ティンプ
「来たな! てめぇだけは何としても!」
ギロ
「ボス、ここは逃げた方が賢いですよ。数が多いや」
ティンプ
「うるせぇ、てめぇには男の面子ってもんがねぇのか!」
ギロ
「多分……」
ラグ
「ジロン、ティンプ……!」
「中央ドームの下を狙え! ザブングルを援護しろ!」
ティンプ
「やらせるかよぉ!」
ジロン
「あぁっ」
エルチ
「ええいっ!」
ティンプ
「らぁぁっ!」
エルチ
「私はまともよぉ!」
「ジロン、任せるよ! 私はカシムを追い詰める!」
ティンプ
「おらっ!」
ジロン
「あぁ〜っ!」
「このっ!」
ティンプ
「くっ!」
「待てぇ!」
ジロン
「このっ……!」
ティンプ
「小僧、今日こそは逃がさねぇ!」
ジロン
「ええいっ!」
ティンプ
「わぁぁっ!」
カシム
「ビラム、奴らはとうとうドーム内に侵入してきたぞ!」
「ビラム!」
「ビラム、どこへ行った!」
「お前達は向こうだ。執政官かカシムを見付けりゃいいんだ」
ビラム
「ソルトめ、遂に……」
「遂に……!」
「わぁぁっ!」
エルチ
「みぃーつけた!」
「ビラム! お礼はたっぷりさせてもらうから!」
ビラム
「や、やめろ。私はカシム・キングの命令通りに動いただけだ!」
カシム
「見苦しいぞ、ビラム!」
「お前の魂胆がようく分かった。エルチ共々始末してやる!」
エルチ
「カシム、どこ!」
カシム
「野蛮で下品なシビリアンと、身勝手なイノセント……丁度いいわ!」
エルチ
「狒々親父め!」
カシム
「死ねぃ!」
ビラム
「わぁぁっ!」
エルチ
「わぁぁっ!」
カシム
「ははっ! シビリアンめ、滅んでしまえ!」
エルチ
「あっ、大型のミサイルが……!」
ファットマン
「エルチ!」
ビラム
「うぅっ……!」
カシム
「あぁっ……!」
「な、何でワシに向かって落ちてくるんだぁっ!」
「わ、わぁぁっ!」
ビラム
「わぁぁっ!」
エルチ
「わっ、あっ……!」
「うぅっ……!」
ファットマン
「うぉぉっ!」
「エルチィィッ!」
ラグ
「ブルー・ストーンだよ、コトセット!」
コトセット
「Xポイントの中心をやっつけた証拠だ!」
ラグ
「全ソルト隊へ、Xポイントを乗っ取れ!」
「イテッ」
エルチ
「み、見えない」
「目が……」
「まだイノセントは居る筈だった」
「何も、これじゃ、これじゃ……!」
「あっ!」
「くそぉっ!」
「負けるかぁ!」
「こんな、こんな事ぐらいで……!」
「こんな事ぐらいで、エルチ・カーゴが負けてたまるかよ!」
ティンプ
「ふん、堪んなく好きなんだよね、そういうのさ」
エルチ
「何ぃ!」
「くっ!」
ティンプ
「そんなんで長生きすんのは可哀想だからよ、ひと思いにやったるぜ!」
エルチ
「ティンプ・シャローン、まだ居たのか!」
ギロ
「ねね、それも可哀想じゃないの」
ティンプ
「馬鹿言え! ここで手抜いたら、こっちが危ねぇんだよ!」
ジロン
「そうだな、ティンプ!」
ティンプ
「くそ、性懲りもなくちゃんと現れるんだな」
「しかし下手に動くと、可愛いエルチ嬢ちゃんが蜂の巣になるんだがな」
エルチ
「こ、このっ……!」
ジロン
「ティンプめ……!」
ティンプ
「そう熱くなるなって兄ちゃん。このお嬢ちゃんと引き換えに、アイアン・ギアーを頂いてずらかるだけよ」
ジロン
「本当にそれだけか?」
ティンプ
「おうよ。今更殺し合いをしたところで、一文の得にもなりゃしねぇからな」
エルチ
「ジロン駄目、甘い言葉に乗っちゃ。貴方の両親を虫けらのように殺した男よ?」
ティンプ
「うるせぇ、黙ってろ!」
「兄ちゃん、分かったろ? 大人しく道開けて背中向けな」
ジロン
「分かったよ……!」
エルチ
「ジロン!」
ティンプ
「もう一息だ!」
「うぁっ……!」
ビリン
「やらせるもんか!」
ブルメ
「ティンプ、最後だ!」
ティンプ
「野郎、時間稼ぎしやがって!」
ラグ
「イヤッホーッ!」
ティンプ
「くそっ!」
ジロン
「それで最後だ!」
チル
「行け〜!」
ティンプ
「これ以上餓鬼の相手はしてられねぇ!」
「このっ!」
ブルメ
「ぎゃっ!」
ティンプ
「兄ちゃん、今日はここまでだ。また会おう」
ラグ
「もう会える訳ないんだよ!」
ティンプ
「ホーラと違って、おらぁ不滅だぜ」
ダイク、ビリン
「ははっ、やったぁ!」
ホーラ
「くそぉ、一番いい所に出て行かれねぇじゃねえか!」
ゲラバ
「ハックション!」
ブルメ
「この、このっ!」
ギロ
「ボス、痛いよ助けて〜!」
ダイク
「お〜い。ジロン、ラグ、ブルメ、大丈夫か?」
エルチ
「ファットマン! ファットマンはどこ?」
マリア
「エルチ、もう頭は痛くないの?」
エルチ
「ファットマンを知らない?」
ジロン
「俺は見てない」
「ダイクは?」
ビリン
「ファットマンさんは……」
ジロン
「え?」
ダイク
「これが落ちてた」
ジロン
「ファットマンの……」
エルチ
「ねぇ、ファットマンはどうしたの? 居ないの?」
ジロン
「何……?」
ラグ
「エルチ……」
ビリン
「エルチさん……!」
ダイク
「どうしたんだ?」
マリア
「エルチさん」
ブルメ
「無事で良かったじゃない」
ダイク
「こ、これが見えないのか?」
ブルメ
「ファットマンのか?」
「見えない?」
「エルチ……!」
エルチ
「ファットマンの匂いがする……ファットマン……!」
「ファットマン、あぁっ……!」
ダイク
「どうした、チル?」
チル
「」
ダイク
「何言ってんだ?」
ブルメ
「お前も食えよ」
チル
「エルチが居ないって。ジロン捜しに行ったんだわさ」
ダイク
「エルチが居なくなった?」
チル
「うん」
ブルメ
「何でだよ?」
ラグ
「私達に迷惑掛けちゃいけないってさ、自分から気を利かせて出てったんだろ?」
ダイク
「あり得るな」
ブルメ
「エルチ、そういうとこあるもんな。責任感じてさ」
チル
「ラグ、いいの? 追っ掛けなくて」
ラグ
「いいんだよ。チルも何か食べなよ」
チル
「薄情モン! 人でなし! ジロンは一人で追っ掛けてったんよ!」
「わっ!」
ラグ
「チビはさっさと寝ちまえばいいんだよ!」
チル
「わぁぁんっ!」
ローズ
「チルちゃん、何泣いてんの?」
チル
「おばちゃーん!」
ローズ
「あ〜あ、よしよし」
ラグ
「チルの馬鹿……!」
エルチ
「みんなに迷惑を掛けて、これからもみんなの足手纏いになるなんて、私は嫌よ」
「もう誰にも会いたくない」
「あっ……」
「もうガス欠なの? そんな……」
「プラグかな?」
「あ〜ん、ジロ〜ン!」
ジロン
「あいよ」
エルチ
「はっ!」
「不味い……!」
「掛かれ」
ジロン
「エルチ、どうしたんだ? 一人で出てったりして」
エルチ
「せっかく決心出来たのに」
ジロン
「あ、何で逃げるんだ?」
「エルチ、俺だよ。お前のジロンが追い掛けてきたんだよ」
エルチ
「何一人勝手に決めてんの」
「止まれないわ。今止まったら二度と動けなくなる。ジロンの傍から」
「あっ、あぁぁっ!」
ジロン
「あ、エルチ!」
「落ちるなぁぁっ!」
エルチ
「ジロン・アモス、さよなら!」
ジロン
「エルチ!」
エルチ
「ジロン……」
ジロン
「エルチ!」
「見えないままで、一人で暮らすなんて無理だよ、エルチ」
「俺だって、エルチの手足と目の代わりくらい出来るぜ?」
エルチ
「でも私、みんなに迷惑掛けた」
ジロン
「お前は、俺が嫌いか?」
エルチ
「嫌いな訳ないでしょ」
ジロン
「アイアン・ギアーの連中やソルトの連中は?」
エルチ
「嫌いな訳ないじゃない!」
ジロン
「じゃあ決まりだ」
エルチ
「ラグが、ラグが可哀想よ」
ジロン
「ラグは強い子だ。死にゃしない」
「ん?」
チル
「ジロ〜ン!」
ジロン
「お〜い!」
チル
「ジロン、エルチ〜!」
一同
「ははっ……あっ?」
ファットマン
「エルチィィッ!」
ジロン
「あ、ファットマンだ! ファットマンだよ!」
エルチ
「ファットマーン!」
ジロン
「お?」
「ははっ、ははっ……!」
ラグ
「ははっ!」
ジロン
「こいつぅ、ははっ……!」