乗り場はどこだ?
―神崎ハルミ歌集『観覧車日和』を読んで―
十谷あとり
◇ほ・さん宛の封筒には
イタリアの絵の記念切手が貼られていたそうですが
わたし宛のは何と、正岡子規。
「うひゃっ」と思わず声が出ました。(深い意味はありません。苦笑)
記念切手好きなのでうれしかったです。
◇私家版歌集を手にするのは初めてですが
この、製本の作業というのが
大変そうで案外わくわくして楽しかったのではと想像します。
◇ひとつ気になったのは6ページ。
・遠雷のごろごろごろにゃん夕立ちに濡れつつ僕ら猫語を話す
・夕立が真昼の町を打ち据えるその後はじまる間違いさがし
同じページに「夕立ち」「夕立」が混在するのは如何なものかと。
◇神崎ハルミさんはいつも
淡く、やわらかく歌おうと心がけているように感じられます。
表記も、あえてひらがなに開くものが多いですね。
それから、結構「歌の歌詞」っぽい表現もよく出てきます。
16ページの
・きみの影はりついている交差点ふりかえらずに歩いていこう
ですとか、33ページ
・この島は雲が忘れた影だからもう君のこと離しはしない
というところで特にそう感じました。
先日(2003.2.25)荻原裕幸さんが日記で
天野慶さんの歌を評して「文体の無香性」ということばを使っておられましたが
ハルミさんのお歌にも、その気はあるかもしれない、とわたしは思います。
◇では好きな7首。
・「あっ、虹」とさけんで空をゆびさせばそれを合図に消えそうなひと
・境内の夜店でぼくはびしょ濡れのことばをひとつポイですくった
・脱ぎかけのTシャツ越しにみる夕日きみの優しさたとえてみれば
・おんぼろでホコリまみれの扇風機きみこそ全てを領った詩人だ
・尖端パッ恐怖症の〈パッ〉神様へ〈パッ〉向けてみんなで〈パッ〉さすアンブレラ〈パッ〉
・もうぼくをさがさないでね風船をくれたピエロについていくから
・「ねえ、Jesus あたしのイチゴあげようか」(13度目の聖夜の誘惑)
たしかランドセルからリコーダーがはみ出している・・・
というお歌があったように思うのですが
あれは歌集にはおさめられなかったのですね。
(*転載者注 ・ランドセルから顔をだすリコーダーほどの勇気を僕にください)
◇神崎ハルミさんの詩の世界には軽々と巡る赤い観覧車があって
ハルミさんの短歌を読む人はそこで心地よいひとときを過ごすことができます。
ところが、どんくさいわたしは、すぐそこに見えている観覧車の
乗り場になかなかたどり着くことができません。
わたしは古い感覚の人間なので
神崎ハルミさんの歌のよい読み手ではないのかもしれません。
また、折々、お歌を拝読しながら
乗り場を探して歩き回りたいと思います。
これからも、お身体を大切に、
ご健詠をお祈り申し上げます。
2003.3.9