<春村蓬さんからの感想メール>


『観覧車日和』ゆっくりと拝見しました。
もともと読む、詠む、両方とも遅いもので、
今頃感想をお送りする失礼をお許しください。
元日に戴いてからこの一月は持ち歩いて、
電車の中や、お気に入りの喫茶店で繰り返し読むのが楽しみでした。
とてもちょうどよいのです。持ち歩くのに。
沢山いい歌がありましたが、特に私の好きなのをあげさせてください。


「あっ、虹」とさけんで空をゆびさせばそれを合図に消えそうなひと

これは直筆で書いていただきまして、ありがとうございました。
「ひと」の平仮名表記は、私好きです。


脱ぎかけのTシャツ越しにみる夕日きみの優しさたとえてみれば

たしか『短歌WAVE』で選歌されていましたね。
荻原さんの評のように、やってみたくなります。

薄明の音のない街、秋の風吹いたらあかん吹いたらあかん

私はずっと東京なので方言にあこがれがあります。使うことが出来ません。

既視感がしずかに街に降りつもり世界は影を失ってゆく

これとてもよく分かります。うん、うん、と頷きたくなります。

金色の魔法の粉をまきちらしレトリーバーが駆ける八月

これはすごい比喩だと思いました。まさにこの感じですね、この犬は。
粉というと蝶々と行きたくなりますが、レトリバーの毛並みの発見ですね。

海をゆく鳥の気分さ夕立の水たまりの上ブランコ漕げば

若々しく爽やか。

わたくしを呼ぶ声がした 見上げれば白いタオルがただ揺れていた

この「白いタオル」が読み手に様々なとらえ方を許して不思議な感覚です。

砂浜をあるくあなたの足跡がわたしの海をまたひとつうむ

ベスト3に入る好きな歌です!

ふるさとの空き地に今も立っている俺の透明ランナー、さらば

方言と同じく、ふるさとも私にとってはネックなんです。
どうしても白々しいか照れてしまうかのどちらか。
ふるさとの歌は秀歌が多いので、読んでは羨ましくなりますね。

イヤホーンはずせば雨がわたくしを包んでくれていたことを知る

懐かしい! この歌角川で私と並んでいたのですよね。
自分の歌はすっかり忘れてしまいましたが。。
イヤホーンから聞こえる曲、それから雨音、両方が聞こえてくるようでした。
深読みかもしれませんが、外へ自分のこころを開いたときに、
ふと何かに包まれていた自分を発見したのかとも思いました。やさしい雨です。

釣り糸を垂れる水面(みなも)の静けさがパチンコ店にあるということ

あの騒音の中の静けさ・・・芭蕉の「蝉」と同じでしょうか。

××(ダメダメ)と神様空に描けますか 飛行機雲は一直線に

じつはこの歌驚きました。
神崎さんと同じ空を見たようです。

一瞬でテロップ、テロップ、テロ、テロ、テロ、世界とつながり世界と離る
天空に浮く青林檎朽ちゆくか街にレノンの<イマジン>流る
人類に不適な笑みでみのもんた似の神が問う「ファイナル・アンサー?」

この三首、好き嫌いがわかれそうな気がしますが、
私はいい切り口だと思い、好きです。

「あっ、虹」とさけんで空をゆびさせばそれを合図に消えそうな街

「街」 バージョンがでてきてびっくり。やはり「ひと」のほうが好きかな。。

ゴンドラのひとつひとつに星を入れまわしてあげる大観覧車

観覧車シリーズの歌のなかで好きなものですが、
一点だけ「あげる」がふたつの意味にとれてしまうのが
残念なような気がします。私の読みが悪いのかもしれません。

天然の言葉を発しつづけたい僕がなめてる虹のドロップ

結句がいいですね。

くたくたに煮えた白菜、啄木は好きだったかな 僕は好きだよ

この感覚も面白いなと思いました。
くたくたに煮えた白菜ってまさに啄木。
思わず笑ってしまってごめんなさい。
渡辺松男さんもこんな面白い世界がありますね。
 
まだまだちゃんと読めていないかもしれませんが、
今はこんなふうに読ませていただきました。拙い感想ですみません。
神崎さんの歌はまだまだ変身しそうですね。
これからのご活躍、楽しみにしております。
素敵な歌集をありがとうございました。


                              (2003.1.28.)