<aoionoさんからの感想メール>
こんにちわ。
歌の感想、かいてみました。
もっと整理したかったのですが、
寝ていないので無理みたいです。
ごめんなさい。
また折をみてふれさせていただきます。
★
全体から受けた第一印象は、
とても冷静な歌集だということであり、
良い意味においても物足りなさにおいても、
この点が絡んでいました。
具体的には、技巧的(?)短歌における
立体的なバランス感覚を良き部分として、
また、シンプルな歌の生命力(=思い込み)の
弱さ(流しすぎゆえとおもわれる)を、
ちょっと物足りない部分として捉えました。
良いと思った歌をいくつかを上げてみます。
遠雷のごろごろごろにゃん夕立に濡れつつ僕ら猫語を話す
境内の夜店でぼくはびしょ濡れのことばをひとつポイですくった
ブレーキを踏みつつくだる坂道のキーキーきりんどこまでみえる?
約束の地(Promised Land)、ボブ・バックランド、ドナルドの揺れるお尻は疲れています
フーコーの振子揺れつつ孵卵器のなかで地球はあわれ常吠(とこぼ)ゆ
くたくたに煮えた白菜、啄木は好きだったかな 俺は好きだよ
…あと載っていなかったですけれど、
原人でのキノコ雲やGENESISの歌
溶き卵落下(フタ!フタ!)カウントダウン蓋をあけ、たらキノコ雲
<I> のなきDNAにきみの <I> を
「HEY SIS!」
はじめよう創世記(GENE/SIS)を
も視覚的技巧が新鮮なリズムにまで発展していて、
歌に生命を与えているとおもいます。
人に似ていず、それでいてメジャーな個性にまで
高められていると言えば言いすぎでしょうか?
でも私、ハルミさんはその路線がいちばん強いと感じています。
物足りなかった歌については、
歌のなかに胸にひっかかる単語が盛り込まれておらず、
また57577の分割方法が単純だったときにそう感じたようです。
これも例をあげます。
燃えさかる炎みる目で盆の海みているふたり言葉をさがす
ずっしりと六時を告げた古時計、百年前のあなたに出逢う
風に舞う散りし桜のはなびらよ君の居場所はどこにある
などです。
★
つぎに、連作・連群についてです。
構成は「間違いさがし」と「虹のドロップ」がとても良いとおもいました。
歌のかたちのバランスまで考えてならべられているのが、よく伝わってきました。
他の章は、ハルミさんがおっしゃるとおり「群作」の雰囲気が強いですね。
それらも十分雰囲気が計算されていてよみやすく感じましたが、
「間違いさがし」や「虹のドロップ」と比較したとき、
ハルミさんの資質がいかにストーリーを求めているか、
ということを考えさせられました。
自分の存在を問う瞬間、内にこもり鏡をふかく覗き込むのか、それとも
おもわず外へ出て雑踏のふかきへ飛び込むのかの違い、について考えたというか…。
前者は箴言歌タイプで、象徴的な世界を恃みにする資質だとおもいます。
そして後者は冒険歌タイプ、世界の外へ外へ出ようとする一首の力を、
なだれのように重ねて、より広い場所へ人をみちびく資質をもつとおもいます。
ハルミさんの歌は、私には冒険をもとめているように感じられます。
それゆえ連群では、一首ずつみればいいなあとおもう歌たちが、
それぞれのストーリーを発揮したそうにしていて、
となりあった歌のストーリーの予感と押しあいをしてしまい、
ちょっと居心地が悪そうな印象を受けました。
うん、わたしにはみえたの(笑)
なんというか、さらに付け加えれば、
世界の外へ出たい情熱と容易にはすすまない冷静さ、
そんなふたつが、物語の入り口でベクトルを取り合いしているような
きゅうくつさもあるかなっておもいました。
ですからどうぞ連作をお書きになってください。
「間違いさがし」「虹のドロップ」を読んでいても、
きっと連作の方が素敵になるとおもいます。
★
最後にさらりとしているなかで最高だとおもう歌を。
綿菓子になんども舌を突き刺した世界が溶ける感触のなか
脱ぎかけのTシャツ越しに見る夕日きみの優しさたとえてみれば
ふるえつつふるひぐらしの声を積みふるさと離れゆく夜行バス
一葉の落ち葉湖底へしずみゆくはやさで来たる真冬の寡黙
舞いあがるいちょうの黄(きい)が星になる都会の空もぼくもだまし絵
なないろのなにいろだったら胸の奥ふかくふかくに刺さるのだろう
熱く、この歌だけにあてはまる真理があり、一首でものがたりをも
完結させている、すてきな歌だとおもいました。
(2003.1.27.)