<小林悦子さんからの感想メール>


雨模様の夕方、神崎さんから届いた封筒の封を開けました。
歌集を手に取り「ああ、これが」と、思わずにっこりしてしまいました。
とてもシンプルで丁寧に作られていて、
神崎さんの歌にとても合っていると思ったから。
それに、手作りの良さがにじみでています。

この歌集は神崎さん自身があとがきで述べているように
まさに<群作>作品集だと思いました。
ストーリーを追わず、読者に一首一首を
味わってもらおうとするかのように感じられました。
最初から最後までとても意気込みを感じる歌集です。

「観覧車日和」 タイトルであり、
神崎さんの気持ちをうつした「観覧車」の歌が
この歌集にはちりばめられています。
そして「虹」「雨」の歌も多い。また、

海をゆく鳥の気分さ夕立の水たまりの上ブランコ漕げば
わたくしを呼ぶ声がした 見上げれば白いタオルがただ揺れていた
吾眼餓闇真下 ビニール傘を棄つ。この手でなにを(あ、雪?)掴まん


など、なんて「空」につながる歌が多いのでしょう。
この「空」をキーワードにして読んでみると
「雨(雨上がり)」か「晴れ」の「空」がほとんどのように思いました。
これは神崎さんのプラス思考の表れではないでしょうか?
それに「僕」「きみ」など自分や相手の入った歌も多いですね。
相手がいる(いた)ということで
世界からの隔絶感みたいなものがないように思われます。
これらのキーワードから、
自分が違和を感じながらも「いま、ここ」に存在しているということ。
「いま、ここ」から、遠くへ、遠くの誰かへと想いを伝えようとしていること。
このようなことを感じました。
一冊を通して感じるやさしさの理由も
このあたりにあるのではないでしょうか。
また、一首一首に線の細さやゆらぎ感がなく、
そのことが読後感の良さにつながっていると思いました。

最後に私の惹かれた歌、5首です。

「あっ、虹」とさけんで空をゆびさせばそれを合図に消えそうなひと
綿菓子になんども舌を突き刺した世界が溶ける感触のなか
てのひらが幼き耳となりゆきてきみの鼓動をひたむきにきく
ふるえつつふるひぐらしのこえを積みふるさと離れゆく夜行バス
舞いあがるいちょうの黄が星になる都会の空も僕もだまし絵

感想を書くということで私にとって良い刺激になりました。
どうもありがとうございました。

                                                            (2003.2.7.)