<なおひこさんからの感想メール>


どうして「観覧車」なんだろう・・・。
その答えは「あとがき」にありました。
大阪キタに聳え立つ真っ赤な大観覧車。
上阪した折何度か目にしたことがあります。
毒々しくペンキで厚塗りされたそれは、
確かに傷から滴る血で真っ赤に染まった孔雀のようにさえ見えます。
パクパクと口を開け人を呑みこみ吐き出しながら、
声にならない叫び声を大都会の真ん中で上げているのかもしれません。
聴こえますよ。じーっと耳を澄ませば都会に住む神崎さまの、
掴まえたいと、虹に向かって手を差し伸ばす声が・・・。                


綿菓子になんども舌を突き刺した世界が溶ける感触のなか

雲も綿菓子のように甘いんだろうか・・尖らせた舌を差し入れても何も
無かったように世界が溶けてゆく・・雲が消えてしまうみたいに・・・。


海をゆく鳥の気分さ夕立の水たまりの上ブランコ漕げば

ボクはね、思いっきりブランコを漕ぐんだ。水たまりの青空にボクの影が
ヒュンヒュン横切る。この解放感。ボクは今、鳥になったみたいだよ。


てのひらが幼き耳となりゆきてきみの鼓動をひたむきにきく

君の胸にそっと手をやると何だか切なくなってくる。とっきんとっきん。
それは遠い日、母さんに抱かれた頃を思い出す。今僕は雄となって君を
抱いている。なのに何故なんだろう・・この懐かしさは・・・。


ブレーキを踏みつつくだる坂道のキーキーきりんどこまでみえる?

キーキーとブレーキを踏むたびに僕の首は長ーく伸びる。
ははっ、最高の気分さ。過ぎゆく家の塀越しに、
猫までが怪訝な顔して覗いているよ。
ははっ、今僕はきりんみたいだろう?


シンボルの天使微笑む製菓場はチョコレート色に街を染めゆく

天使っていうと森永かなぁ。森永だとミルクキャラメル。
あの黄色いパッケージ。でもこの製菓場ではチョコレートを造っているらしい。
チョコレート色に夕陽が落ちる頃、甘くけだるいチョコレートの匂いがこの街を包んでいる。


泣きながらきみが黄色に塗る獏が夢を抜け出し夏をぺろりん

獏は夢を喰うんだ。泣いたりしてると君まで喰われちまうぞ。
ほら、ひまわり色に塗ったりなんかしたから、夏まで喰い始めたじゃないか。ぺろりんっ。


金貸しが街ゆく人にくばりたる虹の絵のあるポケット・ティッシュ

「虹のように明るい人生を。いっぱい買物をしましょう。
無かったらどんどん借りればいいんだよ。
使って使って使い捨てティッシュのような楽しさで。
お金なんて虹みたいにいつの間にか消えちまうんだから・・・」
にんまりと高利貸しは微笑んでいます。


阿呆陀羅経(あほだらきょう)唱えて生きん鴉啼く都会の隅でミソヒトモジの

ほんまに阿呆ですで。短歌に狂ったりして。。
たった三十一文字に何を命掛けたようなことを言ったりなんぞ・・・
たかが短歌、マバタキしたらもう忘れられてしまうくらいの一瞬の煌き。
歌。ああ・・・ほんまに私も阿呆ですわ。。。あほんだら。。あほんだら。。あほんだら。。。


飛ぶ夢をみない人鳥類(ペンギン)わたくしは静かに卵あたためている

ペンギンは滑稽ですよ。今にもコケそうにして歩く。
なのに蝶ネクタイに燕尾服まで着込んだりして。
えっ? 鳥って飛ぶもんですか? そんなこと考えたことも無かったなぁ・・。
私、卵をそっと温めているだけで幸せなんですから・・・。


魂を太古の海に捨ててきた水の器(うつわ)に空は遠くて
深海の虹の呼吸はぷきらきら月の光をぷきらきらきら
いのち湧く太古の海をみる目して言葉をすてる渚のふたり


魂はぷきらぷきらと漂っています。深海を、月明かりのなかを。
海は黙ってひろびろと心の彷徨いを受け止めてくれるのです。
海も人も同じ味がします。
地球から誕生したという太古の記憶を持っているからでしょうか・・・。


ママの手をにぎって見てたはじめての映画のような暗闇でした
影踏まれ「痛い」と言いし少女棲む小説をまた手にとりており


映画も小説も闇が濃いほど純粋さが際立ちます。
いつも自分の中に少年や少女が棲み影のような儚さで「痛い」と泣くことがあります。
助けて、ママ・・・助けにきてよ・・・ママ・・・。


どしゃぶりの雨に溶けてもわかるようあなたの声をみずいろにぬる
さらさらをさよならと読みまちがうを春愁という 眩(まぶ)しき液晶


あなたの声はすぐ分かる。何千人のなかにいたって。
雨の中でも液晶画面でも。あなたの声に色をつけたら、みずいろ。
さらさらと流れてしまいそうな声、水色。だからさよならって聴こえてしまうんだ。
ずっと聴かせてください。あなたの、みずいろの声・・・を。

神崎さま。響いたお歌について感じるままに書かせていただきました。
浮遊しているやさしい心を覗いたような、素敵な歌集でした。
私も歌うとき少し遠い世界にいるような気持ちになります。
これからもいいお歌を。ほんとうにありがとうございました。   

なおひこ