Ⅰ 間違いさがし
遠雷のごろごろごろにゃん夕立ちに濡れつつ僕ら猫語を話す
くちぶえを僕の真似して吹く君の「夜空ノムコウ」（キスまでのきょり）
きゃらきゃっきゃっきゃっキャラメルのどをおちるまで君の笑顔よつつんでおくれ
夕立が真昼の町を打ち据えるその後はじまる間違いさがし
「あっ、虹」とさけんで空をゆびさせばそれを合図に消えそうなひと
パントマイムのつくった壁が夕焼けに赤く染まってふたりを映す
瘡蓋(かさぶた)を小指の爪で剥ぐように空落とさんと花火師の笑み
境内の夜店でぼくはびしょ濡れのことばをひとつポイですくった
綿菓子になんども舌を突き刺した世界が溶ける感触のなか
ポケットの小銭、もゆらと鳴る黄昏(こうこん)われは鬼火となりているかも
打ち上がる花火の暗いところだけ見ているような君の微笑み
脱ぎかけのＴシャツ越しにみる夕日きみの優しさたとえてみれば
滝をみて落ちるといわず流れると言いたるきみは魚族の末裔
幻の大河だったか動脈の太く浮きでた腕に目をやる
満月をゆずりゆずられ三日月はどっちがもらった 前世のふたり
風葬の裸体の儘(まま)でするキスはミトコンドリアの味、と聞こゆ
夏の果て花火師たちを閉じ込めた万華鏡売る夜店をさがす
色褪せたポロシャツの鰐（あっ、飲みこんだ）はちがつさんじゆういちにち、まる。
薄明の音のない街、秋の風吹いたらあかん吹いたらあかん
既視感がしずかに街に降りつもり世界は影を失ってゆく