U 奥深く側頭葉へ
デジャ・ヴュとおててつないで路地をゆく 中古カメラのレンズの記憶
金色の魔法の粉をまきちらしレトリーバーが駈ける八月
北校舎 幽霊便所 記憶とはふいに顕(た)ちくる残り香のよう
海をゆく鳥の気分さ夕立の水たまりの上ブランコ漕げば
あの夏の日のひまわりをとじこめた絵を閉じ込めた夏のミュージアム
ノルウェイの森の緑を彷徨(さまよ)って赤いつばさを失くしたふたり
わたくしを呼ぶ声がした 見上げれば白いタオルがただ揺れていた
「メイストーム、メイストーム」と風見鶏おまえも惚(ほう)けてそこにいるのか
雨あがりの青空うつす水たまり干上がるように失ったもの
「奥深く側頭葉へ」「みつけなきゃ」埃まみれのLove will keep us alive.
砂浜を駈けてころがる潮風の結晶でしたあの日のふたり
真っ青な舌(べろ)をみせあい笑ってたアイス・キャンデー溶けるのわすれ
みず滾(たぎ)り十指の先に渦巻けるあなたは僕のゆいいつの海
砂浜をあるくあなたの足跡がわたしの海をまたひとつうむ
青空にくっつく雲をあじさいになって見るよなくちづけがほしい
燃えさかる炎みる目で盆の海みているふたり言葉をさがす
トルソーにくちづけされた表情できみは石膏(ギプス)の冷たさをして
てのひらが幼き耳となりゆきてきみの鼓動をひたむきにきく
ひたぶるにセント・エルモの青い火は胸処(むなど)を照らし嵐を待てり
ここまでは波はとどかず砂浜は荒れた心のひだひだのまま
夕立ちで薄めたような Coors(クアーズ)で乾杯をしてサヨナラをした
牧師さまのお鼻の汗が光っててきれいな日曜 あすから僕は…
容赦なき夏のひかりを通さない葉脈まとう 鈍色(にびいろ)の日々
ブレーキを踏みつつくだる坂道のキーキーきりんどこまでみえる?
シンボルの天使微笑む製菓場はチョコレート色に街を染めゆく
ふるさとの空き地に今も立っている俺の透明ランナー、さらば
店じまいセールの <赤井毛糸店> 赤い毛糸ははじめからない
きみの影はりついている交差点ふりかえらずに歩いていこう
ずっしりと六時を告げた古時計、百年前のあなたに出逢う
ふるえつつふるひぐらしのこえを積みふるさと離れゆく夜行バス
フィクションの少女稚拙な歌声で永遠(とわ)にくり返す「愛をください」
イヤホーンはずせば雨がわたくしを包んでくれていたことを知る
なんとまあ、つつましい雨やわらかな隙間だらけのみちのくの雨
まるまって聴いている音 にわか雨 遠雷 耳鳴り 心臓の音
そのむかし蚊柱にパンチくらわした拳が熱くかたく疼く夜
うわばみに飲み込まれてるぼくの絵を描いておくれ、Le Petit Prince
びびびぶぶずずずぐぐぐずだだだびぶぜぜぜどどどどにじがないてる
泣きながらきみが黄色に塗る獏が夢を抜け出し夏をぺろりん
架空(フィクション)の町Zihuatanejoの海あおくすべての者の希望をすすぐ
あぁたぁらぁしぃいあぁさがきぃたぁラジオ体操するほどの朝がぼくに、も?