V 夢想人鳥類(ペンギン)
ショーケースに並ぶ時計の文字盤の貌してひとは吊革もてり
金貸しが街ゆく人にくばりたる虹の絵のあるポケット・ティッシュ
人影を踏んでだれもが踏絵ふむ苦しみもなく雑踏をゆく
ガンジスの聖なる水をふふむごと真黒きコーラ飲みほす少年
釣糸を垂れる水面(みなも)の静けさがパチンコ店にあるということ
黙(もだ)しつつ青年が読む中華屋の油まみれの「少年ジャンプ」
<ジェイコブの梯子(はしご)> 修理人がリストラにあって育てる <ジャックの豆の木>
百房の葡萄はもがれ街中に黒き日傘の乙女はあふる
軟弱な罪を犯してやさしさは澄みわたりゆく みんな内緒さ
××(ダメダメ)と神さま空に描けますか 飛行機雲は一直線に
特等の金色の玉でるまでを回りつづける大観覧車
青年は神の摂理にまるくなるπ(パイ)の王国さがしさすらう
ケータイを持たぬ後藤を待ちながらぼうっとGOD(ゴッド)のことなどおもう
抱卵の姿勢のままに脱出を夢想しているペンギンの群れ
出会い系サイトにハマるマグダラのマリアはイエスに会えるだろうか
観覧車まわりつづける 天使にはなれるはずない僕らを乗せて
祝祭の和音鳴る鳴るケータイの着メロ闇に光りを生んで
新生児微笑 or 悪魔(サタン)のホホ、ホ… 大観覧車の明滅みあぐ
阿呆陀羅経(あほだらきょう)唱えて生きん鴉啼く都会の隅でミソヒトモジの
我がうたは耳と目を閉じ透明な壁に裂け目をさがすがごとし
おんぼろでホコリまみれの扇風機きみこそ全てを領(し)った詩人だ
熱帯夜、団扇しながら寝る我は日輪めざす片翼の鳥
空をとぶ陳腐な夢でいいんです ちちんぷいぷいねむらせてくれ
リリカルに離陸してゆく暁(あかとき)のジェット機真似て腕(かいな)をひろぐ
飛ぶ夢をみない人鳥類(ペンギン)わたくしは静かに卵あたためている