[ 幸福のチケット
木犀の香を纏うゆえ白猫(はくびょう)は雨降る闇に紛れはしない
フリーズの画面かたかたキー叩くように我行く人絶えし道
誰もいない雨の公園捨てられたハイヒールのごとすべり台たつ
「きょう雪が津軽海峡越えました」 雪女に似た予報士がいう
紅葉の実(げ)にうつくしきところだけ切り取るテレビ画面の愁思
原チャリに二人乗りした少年はガラスでできた瞳光らす
真夜中のコンビニは何処へつながっている地球の裏の明るさをして
木枯しにまっかになった両耳は音を拒んでいるうさぎの目
街じゅうの窓とじられて寝たふりの、滅び去るとはそういうことだ
舞いあがるいちょうの黄(きい)が星になる都会の空も僕もだまし絵
一葉の落ち葉湖底へしずみゆくはやさで来たる真冬の寡黙
凍原(ツンドラ)をゆくトナカイが地吹雪にみる幻の緑の草原
生贄のように恋人つめこんで聖夜に捧げる大観覧車
極月を駆ける終電 携帯電話(ケータイ)に首を縊りしサンタも揺れて
薔薇の香に麻痺した脳には吊革と天使の涙の区別はつかず
「バカバカ!」とメールがくれば「パカパカ」と即ヘンシンす 馬鹿な驢馬(ロバ)より
御老公にはどこでもドアを弥七にはタケコプターをぼくには愛を
頻繁にテレビ画面にあらわれて街に降り積む地震速報
CMは「明日(あした)があるさ」と缶コーヒー色の未来をあかるくうたう
曇るからメガネはずした目に豆腐ふうふうしてる君のくちびる
「ねえ、Jesus(ジーザス) あたしのイチゴあげようか」(13度目の聖夜の誘惑)
どしゃぶりの雨に溶けてもわかるようあなたの声をみずいろにぬる
くたくたに煮えた白菜、啄木は好きだったかな 俺は好きだよ
火の色のセロファン越しに見るここち雪けちらして日本海荒る
バプテスマ、灌頂(かんじょう)、沐浴(もくよく) 其(そ)の上(かみ)に火とたたかいし水の記憶よ
襟首を撫でゆく風に幾千の冷ゆるてのひら思う冬の日
受けとったポケット・ティッシュ幸福のチケットとして今日をはじめる
新芽食むようにグリーンのガムふふみ街を歩けばもう春はそこ
放物線描かぬ矢となりどこまでも飛べコハクチョウ湖面はみるな
列島を桜前線北上す わが無関心・無感動(ニル・アドミラリ)微か震わせ
さらさらをさよならと読みまちがうを春愁という 眩(まぶ)しき液晶
風に舞う散りし桜の花びらよ君の居場所はどこにある
精霊は五月の風にまぎれこみ少年の耳をくすぐりてゆく
ぼくたちの心根(こころね)がほらユダとなり藤房となり風に揺れてる
変換のされぬ <きしかん> はつ夏の既視感ゆるる液晶の波